| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十話

 銀河帝国と自由惑星同盟ではその思想の違いから艦艇の性能に差異が出でている。
 帝国において艦艇の使用目的は反乱の鎮圧(自国領内部、同盟問わず)、帝国や貴族の権威を示す役割、平民への威圧である。
 同盟において艦艇は純粋に戦闘目的だ。対帝国戦だけを考え、効率化を極限まで進られている。
 同盟軍の艦艇を帝国軍と比較すると、艦の規模が小さくて防御力は劣るが、機動力は上回る。主砲の収束口径は小さいが砲門数は多いため、トータルの攻撃力は互角ないし上回る。そして、惑星表面への離着陸能力を持たない一方で、艦外にレーダーや通信アンテナといった電子戦装備を設置する場所を大きくとれるため、電子戦能力、さらに艦隊運用のソフトウェアは帝国軍艦艇に対して決定的に勝る(イゼルローン要塞攻略にたびたび優れている面が見られる)。そして同盟軍の艦艇はよく言って無駄のない、悪く言えば余裕がない設計思想のため戦闘継続能力が劣る。
 さらに艦種ごとに細かく分けることができるがそこはひとまず置いておく。今通常空間であまり関係がないこの情報を持ってくるのはこの危険地域での戦闘でおいては重要だからだ。
 同盟軍は、その小さいサイズと機動力、さらにすぐれた通信能力と各所に配置された通信衛星との連動を行い通常空間と遜色ない行動を可能とした。
 一方の帝国軍は自らの弱点をさらしだしていた。星間物質、恒星風、小惑星により通信は困難を極め、自らの大きなずうたいは行動を制限した。

 ほとんどの人が紙に書かれた迷路をやったことがあるだろう。一方遊園地などにある実際の迷路をやったことがある人は少ないはずだ。遊園地にある迷路は人の高さ以上の壁を用いて作られていている。やったことのある人ならわかるだろうが後者の難易度は前者に比べ比較にならないほど高い。そして今回においては同盟軍が前者であり帝国軍が後者である。しかもこの迷路は動くのである。
 同盟軍では通信・監視衛星と事前の調査によりあらゆる方向の情報を収集しさらに各艦でその情報をやり取りし計算、さらにその情報を単座戦闘艇(戦闘機みたいなもの)もその通信網に組み込まれた。それぞれ視界に移るものだけではなく数歩先の小惑星や敵艦を補足し行動を行った。
 一方の帝国軍は目の前の情報しかわからず、しかもそれは各艦一隻単位のものにすぎなかった。元から劣悪な通信状況は妨害電波によりさらに低下し陣形の維持すらままならなくなっている。
 ファーレンハイト艦隊はわずか一時間で壊滅した。交戦している艦隊数こそ限定されたが至近距離での戦闘は敵味方問わず中和磁場と装甲を容易に打ち破り戦闘が即座に終わったからだった。同盟軍の被害は500隻以下に留まった。
 ファーレンハイト艦隊の全滅を知らないクナップシュタイン艦隊は交戦を続けていたが4時間たっても同盟軍に変化はなく艦隊の7割を失った後、命令により撤退した。


 壊滅したファーレンハイト艦隊からなんとか本隊に帰還した艦船によって、現状危険宙域での戦闘行為はハードの面で不可能であると帝国軍は判断せざる負えなかった。
 打つ手がほぼなくなった帝国軍は突破口を開く案がないかどうか模索していた。こちらの補給線に負荷がかかるが、マル・アデッタを封鎖し同盟軍を干上がらせる。本国から指向性ゼッフル粒子発生装置を取り寄せる。幾つかの案が挙がったがどれもすぐに使える策ではない。
 帝国軍が手をこまねいているうちに同盟軍は嫌がらせのように攻撃をしてきた。当然のこのこと暗礁宙域から出て来たら圧倒的戦力からの集中砲火が待っているため、ランダムに(同盟から見たらある程度規則性がある)恒星風に乗り攻撃を仕掛けては再び暗礁宙域に離脱するというお互い被害が少なすぎるあまり意味がなさそうな攻撃である。
 ヤンは無意味にこの攻撃を繰り返しているのではない。万が一帝国の本陣が恒星風で分断されるようなら総攻撃を仕掛けるそぶりを見せるで帝国軍としても無下に扱うわけにも行かない。それ以上にヤンは圧倒的少数にかき乱されるという状況を帝国軍の将兵の強要することを目的にしていた。
 あまりに少ない敵にかき乱されるという精神上の苦痛は、冷静さを失わせる効果がある。かつて第六次イゼルローン要塞攻防戦でラインハルトが少数で多数を引きずり回すことで敵の冷静さをなくし同盟軍をトールハンマーの射程に引きずり込むことに成功している。それよりも気が長いがヤンはそれと同じようなことをしようとしている。士官が冷静でも一端の兵士は間違いなく平静さをなくしていた。何とか暗礁宙域へ追撃しようとするのをようやく静止しているのが現状である。

 結局協議が終わらないわずか3日後、帝国軍技術研究部は危険宙域での艦隊運動に必要なプログラミングを実用レベルまで作り上げ不利ながらも同盟軍と戦えるようになった。人材が払底している同盟で同様のことをしようと思ったらこの2倍かかってもおかしくはない。 

 危険宙域での艦隊運動が可能となった帝国軍はすぐさま作戦行動を起こした。回廊内を艦隊で進行しつつ、回廊外周部の危険宙域を確保する。数が同盟のおよそ3倍あるからこそできる贅沢な作戦だ。このような作戦を取られたら同盟軍は小細工を弄すことはできず危険宙域という効果が以前より望めない地理上の有利だけを頼りにせざる負えなくなる。そして地理上の有利だけでは同盟軍が勝利することはできない。
 いざ回廊に突撃した帝国軍を待ち受けていたのは同盟軍の激しい抵抗ではなくあっさり下がっていく同盟軍だった。お互い大した被害もなくそのまま回廊出口に出てしまった。
 回廊から出る瞬間、逆撃を警戒しつつ進んだ帝国軍を待ち構えていたのは、一目散に逃げているわずか数千隻の同盟の艦艇だった。
 
 

 
後書き
書き溜め終了 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧