自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ
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第九話
前書き
評価をつけてくれている人ありがとうございます。
練習板だから評価つかないかと思ってたら、ある程度はついているので驚き。
ヤンは帝国軍主力艦隊130,000隻の内45.000隻を葬った戦略を立て実行し成功した。これはヤンにとって予定調和であり失敗するはずのない作業にすぎない。第一この戦略の要であった同盟軍の戦力を隠し帝国軍を騙すということは、自分の功績ではなく情報戦を勝ち抜いた軍諜報部、後方支援、そしてフェザーン商人を味方につけることに成功した政府がやったことでありその功績は彼らにこそ帰するものだと考えていた。ただその考えはヤン当人だけのものであり、他の者はヤンの戦略も高く評価していた。
本来帝国軍を同盟軍が可能な限り補給線を伸ばし迎撃する場合、有人惑星や航路の関係でランテマリオ星域で迎撃せざる負えないのだが、政府の尽力によって半ば防衛を本来よりはるかに自由度の高い戦略が立てられるようになった同盟軍はマル・アデッタ星域に布陣した。
マル・アデッタ星域は一言でいえば一応航行できる危険宙域である。民間船が通ることはほぼなく軍船ですらも避ける。星域名にもなっている恒星マル・アデッタはきわめて不安定で表面爆発を繰り返す。爆発で恒星風が吹き乱れ、それが通信をかき乱す。さらに恒星の周りには無数の小惑星が構成する小惑星帯とも言うべき空域が広がっており、小惑星は恒星風に乗りエネルギーとともに無秩序に動いている。
小惑星帯には外から恒星へ通じる一本の回廊がある。その長さ92万キロ、直径4万キロのトンネル状の空間に同盟軍がひそみ帝国軍の来襲を待ち受けている。ここまでが帝国軍がフェザーンを制圧した時得た情報だった。
防衛を放棄した戦術を立てることが可能になった。マル・アデッタの防衛設備の配置は会戦が予測された時点ではじまっていた。マル・アデッタはランテマリオ星域と比べると、戦略的価値は数段劣る。ランテマリオ星域はフェザーンと同盟首都ハイネセンを結んだ最短航路上にあるのに対し、そのランテマリオから6.5光年から離れておりマル・アデッタは無理に通る必要がない場所である。本来であればいくらマル・アデッタが難所でありそこに同盟軍が厳重な布陣をしようとも、第一次ラグナロック作戦であれば帝国軍は無視するか一軍をもってそれを押さえ込み本隊が同盟首都を押さえれば問題がない。しかし今の第二次ラグナロック作戦では政府のを補足出来ないためそうはいかない。いやそれ以前にヤンがラインハルトに手袋を投げたのにそれをラインハルトが避ける道理などない。政府どうこう以前にラインハルトはマル・アデッタに向かうだろう。
同盟軍はわざと帝国軍にマル・アデッタに集結していることを知らせた。そしてマル・アデッタ星域で同盟軍が待機しそこへ帝国軍が来る形で開戦が始まる。
回廊に侵入を開始したグリルパルツァー率いる帝国軍前衛艦隊はさっそく手荒い歓迎を受けていた。
グリルパルツァー・クナップシュタイン両艦隊は先の戦闘で戦力を減じていたがどの艦隊にも所属していない予備の兵力を補充され単純な艦艇数は元に戻っていた。同盟軍においてはすぐに補充する艦隊などないのに対し、帝国軍は本国から離れた地においてでも艦隊の補給を可能としていた。無論いくらでも補充できるわけではなく、グリルパルツァー・クナップシュタイン両艦隊に補充された一個艦隊分は確実に減っている。
「撃て!」
本来帝国軍と同盟軍の戦闘艦に射程の差はないに等しいのでお互い同時に発射の合図が下されるのがほとんどだったが今回は同盟側からのみ先に下された。
回廊内を進み奥に同盟軍を補足した帝国軍は、回廊外縁部に小惑星群に半ば埋没するように潜んでいた同盟軍によって奇襲を受けた。狭い回廊内で過度に密集していた帝国艦隊に向け同盟軍の火力は集中して浴びせられ爆発を連続させていた。むろん帝国軍もある程度の被害を覚悟の上であったが途中から恒星風にもあてられやむ負えず回廊内から後退した。
帝国軍の初撃を躱した同盟軍は特に何もなかった。
「帝国軍が後退しました。次はどうします?」
第十三艦隊参謀長ムライ中将が場を進行させるために若い上司に問いかけた。
「敵の一個艦隊が危険宙域を突破するようです」
通信士が衛星から得た情報を淡々と告げている。
「敵の動きは予定通りだね。だから予定通りに行動する」
その若い司令こと同盟軍第十三艦隊・第十五艦隊を率いる宇宙艦隊総司令長官ヤン・ウェンリー元帥はいつもと変わらない様子で言い切った。
同盟軍はマル・アデッタを戦場に選ぶ際下準備を行った。まず同盟建国から得られた二世紀以上のデータを分析しマル・アデッタの恒星風や小惑星などの行動をある程度パターン化した。
フェザーンなどは通商に通ることのないこの星域の詳しいデータなど持ち合わせていない。つまり同盟内の地理情報をフェザーン航路局からの情報に依存している帝国軍は同盟ほどマル・アデッタの情報を持っていない。
次に小惑星帯の奥深くに簡易的な補給基地を建設した。最悪の場合帝国軍はここから比較的近い惑星ウルヴァシーから補給を受け続け長期戦に持ち込まれる可能性も否定できないからだ。
最後に無数の小惑星のいたるところに通信衛星、監視衛星を潜ませていた。これにより小惑星帯に踏み入れた帝国軍はその行動を陣形、編成に至るまで即座に同盟軍に知られることになる。さきほどの一個艦隊を補足したのもそれらの衛星郡のおかげである。
グリルパルツァー艦隊による「様子見」を済ませた帝国軍は次の作戦に打って出た。回廊内に依然としてとどまっている同盟軍を追い出すために、星系外縁部に配置されていたファーレンハイト上級大将率いる艦隊が動員されることになった。
ファーレンハイト艦隊は回廊を通らず危険宙域を突破し回廊の背後に回ることによって同盟軍を挟撃することを試みた。同時にクナップシュタイン艦隊がグリルパスツァー艦隊と同様に回廊に侵入し陽動を試みる。
ファーレンハイト艦隊の動きは即座に同盟軍の知るところになった。陽動を目的とするクナップシュタイン艦隊の攻撃を、先ほどのグリルパルツァー艦隊と同じく同盟軍はあしらい、クナップシュタイン艦隊艦隊も陽動が目的のためあしらわれていた。
クナップシュタイン艦隊のあしらわれ方は先のグリルパルツァーと同様1時間20分で艦隊の3割を失う程度の速度で撃破されていた。文字通り身を費やしての戦闘だったが、ファーレンハイト艦隊の動きは同盟軍に筒抜けであり道化である。
ファーレンハイト艦隊が危険宙域を最大戦速で進み道中の中ほどに達したあたりで同盟軍と接触した。同盟軍側の完璧な奇襲であり最大戦速で移動していた帝国軍の陣形乱れは伸びきってその正面、側面、背後から同時に攻撃にさらされた。
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