自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十一話
同盟軍本隊が出撃する前の話。ある同盟の士官が逮捕された。容疑は情報の改ざん。バーミリオン会戦後の通称ヤン艦隊の一部が本国に帰投せず、本隊から分離しそのまま補給基地に駐留するむねがその士官によって隠匿されていたと言うのである。これによって分離した艦隊が書類上になくなってしまった。場合によってはヤン提督の軍事物資の横領にもつながることになる。ヤン提督を不当に貶めようとする策略ではないかと疑われている。ただ士官の隠匿なのかヤン提督の横領なのか真実は謎に包まれている。
(注:シャーウッドの森のことです)
マル・アデッタ星域を出て、移動中の同盟軍主力艦隊は今後の予定を再確認するために会議を開いていた。
「マル・アデッタの陣地を放棄してしまわれて良かったのですか?」
やはりと言うべきか最初に話を進めるのはヤン艦隊の参謀長ムライだった。ちなみにヤンが艦隊司令と宇宙艦隊司令長官を兼任しているせいで宇宙艦隊総参謀長との区別がつけられていない。
ムライは一般的に疑問に思うことをヤンに聞き、その答えをその場全員に聞かせることでヤンの考えをいきわたらせるという目的をもっていたりする。
「マル・アデッタは難所ではありますが一度放棄すると、内部の衛星などの設備が破壊されてしまうでしょう。少々もったいないのでは?」
ヤンは素直に年上の部下に答えた。
「まあもったいないけれどしょうがないとしか言いようがない。あんまり長居すると皇帝ラインハルトは何か策を思いつくかもしれない。なによりもう目的は果たした」
「目的といいますと?」
「帝国軍の本隊をガンダルヴァ星域-惑星ウルヴァシーから引き離すこと」
ガンダルヴァ星域にある惑星にウルヴァシーと言うものがある。第一次ラグナロック作戦時に臨時の補給基地として帝国軍に占拠され、終戦後バーラトの和約により本格的な基地が作られている。わずかにすんでいた同盟の民間人もすでに転居しており今や完全に軍事用と化している。帝国軍が本国からの補給を用意せず、大軍を持って比較的素早く同盟領に侵攻できているのはこのウルヴァシーの基地が存在しているおかげで補給線を短くすることが出来るからである。
会議場中央のテーブルの上に三次元投影機が星図を写し出した。ここで言う星図とは大きさと距離が実際の空間と同じと言うわけではなく、ワープによる距離の短縮などを加味したものだ。地球では飛行機が飛ぶ地図とでも言うべきだろうか。
「今私達がいるのはここランテマリオ星域だ」
星図にフェーザーン、ハイネセン間の惑星が写し出される。
「マル・アデッタとランテマリオ星域間は6.5光年、偵察衛星によるとついさきほど帝国軍本隊がマル・アデッタに私達がいないことに気づいたようだ。次にランテマリオとガンダルヴァ星域間は2.4光年になる。帝国軍は今現在、私達を補足出来ていないのは間違いない」
「なるほど。確かに今からウルヴァシーには帝国軍本隊はおらず、決して少なくはありませんが惑星駐留艦隊司令官のシュタインメッツ提督の艦隊があるだけですな」
艦砲射撃の有効射程は条件によって10光秒にも達する。惑星軌道上からの砲撃は大気による減衰を含めても十分地表に届く。民間人の存在を気にする必要はない。
ウルヴァシーでの戦闘は終始同盟有利に進んだ。ウルヴァシー駐留艦隊は数の上で同盟軍の半分程度であり、また司令官の質においてもシュタインメッツ提督の能力が決して低いわけではないが同盟司令官のヤンには及ばなかった。
ウルヴァシーでの戦闘の後、同盟宇宙艦隊総旗艦リオ・グランデでヤンは自身の戦略の全容を明らかにした。
さすがに総旗艦ともなると旧式旗艦であるヒューベリオンではまずいと思ったのかヤンは乗艦を移している。
「言うまでもなく帝国の戦力は膨大です。5個艦隊いえイゼルローン方面を合わせれば6個艦隊ほど、それだけの戦力を叩いてもなお同盟の3倍ほどの戦力を保有していると見るべきでしょう」
「正直なところ帝国に勝つと言うビジョンが見えませんな。どういう策を持って対処するのかそろそろ説明してほしいところです」
部下たちの発言の後ヤンはいつものように星図をスクリーンに映し出し説明を開始する。星図には同盟領とフェザーン・イゼルローン両回廊さらには帝国領の半分ほどが映されている。
「帝国の本隊と真正面から戦っても勝ち目はない。だからと言って第一次ラグナロック作戦のように事実上の皇帝ラインハルトとの一騎打ちに持ち込もうとしてももはや乗ってはくれないだろう。だから今回はラインハルトを殺さず、本隊ともまともな戦いをしない戦略を採用した」
同盟艦隊の動きと帝国艦隊の動き、それと会戦を表すマークが表され星図の上に書き足される。
「バーラトの和約から期間が余りたっていないので同盟領に点在する補給基地を利用し今まで補給してきた。同盟領においては事実上補給線を無視した作戦が取れている」
星図にさらに同盟の補給基地が書き足される。
「今までは帝国艦隊の戦力を削ぐことを目標に行動してきた。帝国艦隊をが分散しているのを狙って撃破してきたので帝国は戦力の分散を最小限にとどめている。これによって最終目標の実行が可能になる」
会議場にいる皆がかたずをのんで見守る中ヤンがついに最終目標を口にした。
「最終目標はフェザーンだ」
後書き
動くシャーウッドの森って横領って書いてありました。
なので初めの部分はそれに整合性を持たせるための適当なねつ造設定です。
ページ上へ戻る