戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~
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九章
三河武士
「おらぁ!串刺しになりやがれぇー!」
「はっはっはっ。そんな大振り、この綾那が喰らうはずがないのです!」
小夜叉が繰り出した槍を避けた少女が、その柄をガッシリと脇で抱え込んだ。
「ぐぁっ!?何だぁ!?抜けねぇぞっ!?」
「どけぃクソガキ!こいつはワシの得物じゃぁ!」
「はやー、次から次へと湧いて出るですねー!」
「ハッハーツ!あの一撃を止めるたぁ、なかなか良い腕してんじゃねーかぁ!」
「まだまだ。綾那はこんなもんじゃないのです!」
「いいぞいいぞ!活きが良くて、久し振りに血ぃが滾るわっ!」
「やれやれ。尾張に近いはずですのに、この辺りには喧嘩好きが多いです。何とも面白いのです!」
笑い顔さえ浮かべながら言い放った少女が桐琴の槍を片手でグイッと押し返した。
「な、何っ!?」
片手で小夜叉の槍を抱え込み、もう片方の手に持った己の槍で、桐琴の槍を防いでいる。尚且つ、押し返している。そんな事は、普通の子では出来ないな。こやつできる。俺は戦うのをやめてから、様子見だ。
「この平八郎、三河武士として、尾張のへっぽこに負ける訳にはいかんのですー!ふにゅーーっ!」
何だか抜けた声で二人の身体を槍ごと持ち上げた。
「何だぁっ!?」
「ちょ、離せやこらぁ!」
「どっ・・・・・・せいですっ!さぁ覚悟は良いです?殺ってやるです!」
「そこまでだ!!!!」
と言いながら桐琴の前に出てハリセン一発。
『パシィィィィィィィイインン』
いい音が出たな。この少女は頭をさすりながら言った。
「まだ敵がいるのです!」
「頭を冷ましな、松平の奴」
「あや?あなたは」
「俺の名は織斑一真。織田家中、通称一真隊の隊長で、松平へ使いに行ってくれた詩乃・・・・竹中半兵衛の上司だ」
「おお、一真様は今、そのようなお立場になっているのですか。あれ?という事はです?」
「そういう事だ。この二人も織田家中の武士だ」
「なるほどぉ。これはあれです?力試しとか腕試しとかいう、そういうものです?」
「そういうもんだ。実際俺も三河武士と戦ったけどまあまあとでも言っておこうか、けど君はまだまだ強くなりそうだけどな」
「ふむふむ。喧嘩狂いの大馬鹿者が、尾張にも居たのなら重畳至極な事です。三河は気性の荒い土地柄なのです。軟弱な尾張者に従う武士はいないですからな。こういう馬鹿が居ればこそ、一緒に戦う友として認められるですよ」
「あー、こいつらは弱小の尾張者じゃないんだ。美濃者だよ」
「そうだぜ!一真の言う通りオレら森一家は、美濃者が中心なんだよっ!弱っちい尾張者と一緒にすんな!」
「なるほどです。美濃の森と言えば、武名名高き、八幡太郎の末裔の家柄とかなのです。それなら少し納得なのです」
一人納得してるけど、コイツらはまあ勘違いだからしゃあない。俺もこいつらの実力を見たかったし。
「我が名は本多平八郎忠勝、通称、綾那というです。見知りおいて下さいです、一真様」
「ああ、こちらこそな」
何かテンションが上がった綾那。俺に会いたかったようだ。何故だ?と聞いたら。
「実はですね、一真様が田楽狭間で、綾那の目の前にご降臨なされたのです!」
「田楽狭間って、もしかしてあの時か?」
「そうです!三河衆は、田楽狭間では隅っこに追いやられていて、異変に気付くのが遅れたです。で、慌てて駆けつけた時に・・・・」
「俺が金色の玉になって落ちてきたと」
「です!雨が降る中、一真様が落ちてきた所だけ、お日様がブワーッて照らしてて・・・・話に聞く、阿弥陀様がご降臨されたのかと思ったのです!」
「まあ、俺は神仏の類だからな。そう思えると思うが」
「あの時の光景を、綾那は今でも夢に見るですよ!・・・・えへへ、そのようなお方とお会い出来て、恐悦至極なのです!」
尊敬だろうか、それとも憧れているのか少し困る。真っ直ぐでキラキラした瞳に見つめられている。
「まあ確かに、あの姿になると言われるけど、今は一人の人間だけど。あの姿になれば綾那の言う光は出るけど・・・・」
と俺が話してると、詩乃が来た。どうやら森親子との自己紹介をしていたけど。その後森親子は名乗ってたけど、綾那からキチガイと言う言葉が出るとはな。
「なあ詩乃。綾那の賞賛って、別に賞賛にもなってない気がするが」
森親子と綾那の会話を聞きながら、横にいる詩乃にこそこそと耳打ちをする。
「それをさらりと受け止めて、平然と返している小夜叉もなかなか大物ですね」
「確かにな。それに綾那の話し方は、適当に流していると思うのだが」
「ですが、どうやら森のお二人は、本多殿の事を気に入ったようですよ」
「まあ拳と拳で語ったみたいに、槍と槍で語ったんだろう。だからあんなに気に入られたのだと思う」
「そこまで分かるとは、一真様もキチガイの仲間入りですか?」
「違うよ。単に武人として分かるって事さ」
というか、そういう奴らをこの目でいくつか見た事あるからな。主に拳で語ろうか?みたいな感じで。
「で、松平家中は、久遠の上洛に手を貸してくれるのかな?」
「です!駿府屋形から独立した我らにとって、織田殿は大切な同盟者ですから!」
「ありがとう。久遠の代わりに礼を言っておく」
「どう致しましてです!・・・・ところで一真様ご一行はどうして長久手くんだりまで来たんです?」
「ああ、実は・・・・・・・」
とまあ俺達の経路を話した。この近くに鬼の巣があるから俺ら三人で潰しに行く予定だったと。そしたら行く途中に、詩乃率いる三河武士が見えたから力試しと言って、今に至ると。
「そうなのですか。気を付けていってらっしゃいませ。ですが、久遠様同様、一真様は我らの玉体でありますが、黒鮫隊もいるでしょうから安心します」
玉体・・・・大切な身体、という意味。ここでは大切な人、大切な存在、という事を指している。
「さてと俺達は行くか、桐琴に小夜叉」
「鬼の巣を見つけたから殺る。ただそれだけの事だ」
「そうそう!実戦経験が豊富な一真が居れば百人力よ」
と言ってから、俺は一応トレミーで周辺一帯に鬼の巣があるか調べてもらった。やはりあったが小さい巣だ。これはやりたい放題だな。いつもいつも小夜叉とどっちが早く鬼を殺せるかとかやってたし。
「ふむ。やはりこの辺りに鬼の巣があるのを確認したぞ。小夜叉」
「あるんなら、さっさと鬼の巣に殴り込もうぜ。殺りたくて殺りたくて、うずうずしてきたぜ!」
「応!やはりあったか。で、松平のガキ、貴様はどうする?」
何か唸っていた。で、少し待てと言われて歌夜という人物を呼んで来いとの事。歌夜とは誰だ?と聞いたら、綾那の親友で松平の親衛隊の一人で榊原小平太康政というらしい。頭がいいらしいから、さっきの話をもう一度しろとの事。面倒だがしゃあないな。それから、綾那に幾つかの質問をしてたら歌夜と呼ばれた少女が後方から現れた。
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