ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第二十話
ラーヴェイ/千場の登場から、戦闘は圧倒的優勢に終わった。彼の保有する黄金のゴーレム型《ギア》、《イフリート》は、《聖巨兵》と呼ばれるゴーレムの最上位種に属する存在。その一撃は山をも崩すかと思われる大威力であった。
「くあっ!」
零が弾き飛ばされる。それを追いかける《イフリート》。破壊の一撃が、《彼》と比べれば人と犬ほどのサイズ差のある晶鬼の少年を吹き飛ばす。
『ディロロロロ……』
《イフリート》が歯車を回したような奇妙な唸り声を上げる。
「調子に乗るな、機械騎士風情がッ!!」
零はその二刀を構え、斬撃を繰り出す。しかし、それは《イフリート》の装甲にはじかれる。晶鬼の少年の顔に浮かぶのは、驚愕と焦り。
対するラーヴェイは、全く動じもしないその表情で、黄金の聖巨兵へと命令した。
「焼き払え、《イフリート》。……《ゴールド・スマイト》」
イフリートの腕が、光り輝く。そこから先に怒った現象を、セモンは視認できなかった。なぜならば、視界が一瞬にして純白に染まったからである。
次に視界に色が戻った時、そこには、ぼろぼろになった零がいた。両手の《冥刀》は輝きを失っている。はらり、と刀が、血色の桜と、透明な雪に姿を変えた。
「なんて、チート……」
誰かが呟いた。それはカズだったのか。リーリュウだったのか。ハクガだったのか。コクトだったのか。それとも、自分だったのか。
どさり、と音を立てて、零が倒れる。勝った。勝ったのだ。だが……何だろうか、この虚無感は。達成したはずの目標が、いとも簡単に達成できてしまったことに対する、なんというか、寂しさ……。
これをきっと、《強者》という者は常に感じて生きているのだ。自らの力に溺れる間もなく、誰も付いてこられないという悲しさ。
「……終わりか」
ラーヴェイが呟く。その横顔は、やはりどこか一抹の寂しさを感じさせた。
「あれが……大焔神の力ですか……。並みの六門神をはるかに超える実力をもち、《六王神》を除く最高レベルの六門神だという……」
ハクガが震える声をもらす。
「……どうした?」
「いや……」
ラーヴェイの問いかけに、コクトが答える。そのコクトも、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「……《冥刀》を、取りに行くんだろう」
ラーヴェイは呟くと、ついて来い、とセモン達を手招きした。
ぼろぼろになった零の肉体が、どぷん、と、闇にのまれるように消えていったのを、見た者はいなかった。
***
「うわぁ……」
「はぁ……」
カズとハクガが感嘆の声を上げる。セモンもまた、絶句していた。そこは、色とりどりの水晶だけでできた部屋だった。神聖な輝きを纏った水晶たちは、心臓が鼓動するようにどくん、どくん、と脈打っている。
その部屋の中央には、三本の剣が安置されていた。
一本は、氷とも水晶ともつかない素材でできた、両剣と呼ばれる、柄の両端から刃の伸びる刀。竜の咢のようにも見えるその剣は、ゆらゆらと冷気にも似た何かを纏っていた。
もう二本は、空洞のある岩石を鍛え上げた剣、という、同一の外見をしている。どこか翼のようにも見えるその剣は、うっすらと輝いていた。
「あれは……」
「この座標に封印されている《冥刀》、対剣《岩覇蒼炎》と両剣《雪牙律双》。零によって守護されていた《冥刀》だ。情報は発見されていたが、いまだ入手されていなかった剣だな。これで発見された《冥刀》は25本……事実上26本、か」
ラーヴェイが言う。彼はそのまま《冥刀》の安置されている台まで歩いていく。三本の剣の前で立ち止まったラーヴェイは、くるり、と振り向くと、リーリュウに向かって言った。
「《岩覇蒼炎》は、もともとシリューレがお前のために手にしようと思っていた剣だ。奴自身には《冥刀》は不要だったからな……。来い、リーリュウ」
「……はい」
リーリュウが、何かに導かれるように、ゆっくり、ゆっくり、と、対剣に向かって歩いていく。リーリュウが近づくごとに、《岩覇蒼炎》もまた、その揺らめく輝きを増していく。
そして――――二刀が、リーリュウの腕に納まった。瞬間、剣に空いていた空洞から、真っ青な炎が噴き出す。まさしく《蒼炎》――――。
「……先生」
リーリュウが二刀をかき抱き、どさり、と膝をつく。ちいさな嗚咽の声が聞こえた気がしたが、誰もそれを追求することはない。
「次は《雪牙律双》なのだが……この剣は、セモンに使ってもらおう」
「え……?」
「この中で両剣の使用経験があるのはセモンだけだ。ALOでの戦い、見ていたぞ」
「あ、ああ……」
確かにセモンは、ALOでシャノン/陰斗の作ったバグ武器として両剣を使った覚えがある。まさか、あれを小波たちは見ていたのか――――良く考えれば、あの時シャノンのハッキングを妨害したのはレクトプログレスに雇われたボルボロだったはずだ。
「来い、セモン」
「……ああ」
セモンは、その半透明に透き通った、一対の刃を持つ刀に近づいていく。その瞬間――――なにかが、語りかけてくる感覚がした。
それは、言葉にはならない何か。けれど、決して、ただの音ではない何か。錯覚ではない。幻聴でもない。たしかに、聞こえる。その心を我に差し出せ。代わりに力を与えてやる、と、目の前の《冥刀》がささやく。
この声に身を任せてしまえば、何もかもが終わる、という安心感が、セモンを包む。身を任せてしまいたい、という感情もうかぶ。だが――――
『こころしなさい。《冥刀》の力に飲み込まれないように』
ハクアの声が、その感情をせき止める。そうだ。俺は何のために《冥刀》を求めた?この世界の秘密を知るためだ。何のためだ?レプリカを完成させて、小波の実験を終わらせるためだ。何のためだ?日本に帰るためだ。何のためだ?もう一度、秋也に、陰斗に、刹那に、ゲイザーに、キリトに、みんなに、そして、琥珀に会うためだ。
――――俺が俺じゃなくなったら、どうなるだろうか。
――――決まってる。琥珀が悲しむ。彼女をもう、これ以上泣かせるわけにはいかない。
――――だから俺は、お前に身を任せるんじゃなくて、お前の力を借りるだけにするよ。
――――この世界の秘密を知るために。
「……俺に力を貸してくれ、《雪牙律双》」
中央にある、半透明のそのグリップを握る。瞬間、パキィン!というサウンドと共に、周囲が凍り付いた。コクトの《凍》のそれに良く似た、エクストラ効果――――。
だが、分かる。セモンには、なぜだかわかる。この力は、自分の思い次第で変えられる、という事実が。
セモンは念じてみる。凍てつく風よ、熱風となれ、と。瞬間、刀の刀身を、真っ赤な炎が蓋った。
「うお!?」
思わず手を離しかける。すると、炎は消え、再び凍てつく風が刀身を包み始めた。
「……なるほど。やはりセモンの《本質》に反応するか……。いいだろう。セモン、ハクガ、カズ、リーリュウ、そしてコクト。お前たちに、小波からの指示を伝える。これよりお前たちは、《白亜宮》へと乗り込む」
「ちょっと待て!!何故だ!?」
叫んだのはコクトだ。それは、一度あの狂気の場に踏み込んだものだからこその恐れ。恐怖を感じない様に、どれだけ心を強く持っても、本能が、魂が、恐れる。そんな異質な王城に踏み込んだもののの感情。
「……『清文が、この世界を知る時が来た』……という小波の言葉だ。セモン、お前は真実を見る権利を得た。ゆけ、六門の中心へ。俺も案内しよう」
***
「ついに来るか、勇者たちよ。面白い……くふふふふ……くはははははっ!!」
真っ白な宮殿の、真黒な部屋で、真っ白な少年が笑う。嗤う。
「行け、エリューラ、オウエン、フェーレイ。彼らに、最も弱い、『最悪の絶望』を味あわせてあげるんだ」
後書き
はいどうも~、Askaでーす。
刹「何故に前と同じように漫才風に出てくるんですか……」
知らん。入りやすいんだよこれ。と、言うわけで一瞬でゲームエンドを引き起こしてくれやがりましたラーヴェイさん。次回はこのチート男がさらなるチートと激突(?)する話です。コラボ編共々お楽しみに~
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