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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第十九話

 がしゃぁぁぁっ!!

 大音響が響き渡る。リーリュウのアビリティによって作られた水晶の鉄巨兵(クリスタル・ゴーレム)が、二本の《冥刀》によって破壊されたのだ。となりでコクトが顔を引きつらせる。

「……何……だと……」
「な、なにが……?」
「あのゴーレムは、リーリュウが使役できる中で最高峰のレベルを持っている。それが、一瞬で真っ二つにされるなどと……」

 ゴーレムの残骸が崩れ去っていくその向こうで、リーリュウがガクリと片膝をつく。ゴーレムを操っていた魔力が逆流したのだ。

「――――つまらないな。六門神ですら、この刀達に抗しえない……。やはりすべては、父上がフリューゲルを殺した時に終わっていた、か……」

 零が《東血桜(あずまちざくら)》《西肌雪(にしきはだゆき)》をゆっくりと下ろしながら、呟いた。その中には聞きなれない名前もあったが、それを問うている場合ではないと考える。

「……セモン、耳を貸せ」

 コクトがセモンを引き寄せる。猛烈な既視感。セモンは記憶を探り、アインクラッド時代にゲイザーがよくこうやって作戦を教えてくれたことを思い出す。そうだ。コクトはゲイザーによく似ているのだ。

「俺が全力で隙を作るから、《東血桜》と《西肌雪》の属性を変えろ」
「は……?」
「あれの属性は《切断》だ。それを何とかして、ほんの一瞬でいい。変えるんだ。そうすれば、カズのダメージは一時的に消滅するはずだ。あと少し耐えれば、何とかなる――――」

 それは、何か解決策があるような口ぶり、とセモンが言う前に、コクトは「いいな」と言い、刀を抜き放っていってしまった。

「……《朧水晶》の零」
「……お前のその刀……《人工神器(ギア)》という奴だな。纏う雰囲気が《冥刀》によく似ているぞ」
「似ているどころか、そのものの設定だからな。……行くぞ。止めてみろ」

 コクトが《冥刀・(イテツキ)》を構える。ぱき、ぱき、と音が鳴り、周囲の温度が下がり始める
。そしてそれに合わせて、コクトが叫ぶ。

「はらりはらりとまゐおりる、そははるよぶあはゆきぞ――――《冥刀・(イテツキ)》、《解放(アンバイト)》!」

 零の唱えたそれとよく似た祝詞(のりと)が、コクトのもつ刀の本来の力を解き放つ。周囲の大気が、一斉に凍る。《凍》からは鋭いつらら状の刃が伸び、刀よりは大剣を彷彿とさせる外見へと変貌した。

「ほぅ。《解放》を使うところまでは辿り着いているのか……なるほど。お前とはいい勝負が出来そうだな。来い、六門神」

 零が《東血桜》《西肌雪》の二刀を構える。それに合わせて、コクトも《凍》を構えた。

「舞い散るは赤き血の桜――――《星斬流(ほしきりりゅう)剣術(けんじゅつ)・四の型十六番――――”月見夜血桜(つきみよちざくら)”》」

 揺らり、と掲げられた《東血桜》が、恐ろしい速度で振り下ろされる。大気がひび割れ、雷の様な音が鳴り響く。

「ちりちりゐてつく、そはふゆのひのあはゆきぞ――――”冬牙雪爪(とうがせっそう)”ッ!!」

 コクトの《凍》が、それに迫る速度で閃く。一閃。二閃。まるで氷の獣が、その咢をとじた様な輝きが飛び散る。《東血桜》の血色の刀身が、《凍》の氷の刃とぶつかり合い、《魔力切り》を発動させる。《凍》の氷の刃は、少しずつ、しかし確実に破壊されていく。

「(……いまだ!)」

 セモンはイメージを練る。

 この世界では、六門魔術や武器などを使用するときに、ある程度イメージ力を媒体にして行動することができる。人工的な夢、とでもいうべき存在である、《ジ・アリス》及び《ドリーム・トランスレーター》のシステムが関連しているのだろうが、詳細はこの際流すことにする。

『いいですか、セモンさん。あなたの《六門魔術》の本質は、《変遷》……《再構築》です。あなたは、何かに備えられた《属性》を大きく変貌させることができる。今はほんの一瞬、たとえば刀の《斬撃属性》を《打撃属性》だけに変貌させたり、火属性の攻撃を一部だけ水属性に変えたり、その程度のことしかできません。しかしいつかは、世界そのものを塗り替えるだけの《再構築》も可能になる。そして、《再構築》で大事なのは、どんな姿に《変遷》させるかというイメージです。いいですか。あなたがどのような未来を望んでいるのか。それが大切になってくるのです』

 ハクアが語った、セモンの六門魔術の《本質》。

 それは、別の世界でなら《心意》とか《事象上書き(オーバーライド)》などと呼ばれる現象に近かった。さすがに、現象自体を全て崩し、再構築するのは今のセモンには無理だ。だが、多少の属性を変化させることなら、可能である。

 そう――――たとえば、二本の《冥刀》を、一時的になんの力もないただの刀に変える、などとして。

「月見夜祭り、花吹雪――――《星斬流剣術・四の型十番――――”花依断御(はなよりだんご)”》」

 《西肌雪》が純白の閃光を放ち、《凍》を襲う。ガキィン!!という凄まじい音と共に、遂にその氷の刀身が砕けちる。同時に《凍》の《解放(アンバイト)》も解除され、刀身がもとの黒銀色の金属に戻る。

 そしてその瞬間。コクトが、こちらを一瞬見た。目が語る。――――いまだ、やれ、と。

 踏み出す。何をすればいいのかが、不思議と頭の中に浮かんでくる。零の持つ二本の刀を、手でつかむ。ざしゅっ、という不快な音と感触。両手から血があふれる。だがそれを無視し、セモンは自らの《六門魔術》、その詠唱(のりと)を唱える。

「変われよセカイ―――《瞬け変遷(ブリンクチェインジ・オブ・アトリビュート)》!!」

 自らの両手を起点として、何かが交換されていく気配。同時に、体内から何かを吸い出されていくような錯覚。恐らくこれが、MPを消費する時の、いわば《比喩的表現》なのだろう。

 がしゃん、と音を立てて、世界の何処かが切り変わった。同時に、目の前の二本の刀が、急速にその輝きを失っていく。鮮血を讃えた真紅の刀は、濁った血の色に。穢れなき純白の刀は、輝きをともさない白さに。

「なに……!?」

 零の表情が、初めて驚愕で歪んだ。

「くっ……」

 距離をとろうとする彼の背後を、しかし鋼の大剣が阻んで退路を塞ぐ。深紅のエフェクトライト。大剣用重斬撃ソードスキル《ドラグニティ・ブレイク》が、零の背を切り付ける。さらに、幾本もの光の矢が飛来し、零の体を穿っていく。

「くあっ……」
「へへ。今まで出番無かったからな!!お返しだぜ!!」
「今まで暴れられなかった分、たっぷりと暴れさせていただきますよ」

 カズが、ハクガが、各々の武器を構えて零を迎え撃つ。

「……先生の敵を、やはりとらせてもらう」

 リーリュウが、双剣で零に斬りつける。しかし。

 零の表情は、さほど変化しない。

「……なるほどな。愛刀二振りが無効化されたときはどうするかと一瞬焦ったが……なんてことはない。時間が経てば、元に戻る」

 その言葉通り、しゅぅぅぅ、という気の抜けた音が鳴り、《東血桜》と《西肌雪》はもとの鮮やかな色を取り戻す。

「肌雪よ、咎人を切り裂け――――。血桜よ、咎人を貪れ――――」

 先ほどリーリュウの水晶の鉄巨兵(クリスタル・ゴーレム)を破壊した時とは比べ物にならないエネルギーが、二本の《冥刀》に集っていく。

 鮮血色の邪光と、純潔の白光がせめぎ合い――――
 
「《星斬流剣術・異の型一番―――”天切裂血金剛業(あまきりさきしはちのこんごうがごう)”》――――すべて咎人は、此処にその心斃るるがのみ」

 大気を斬り伏せて飛ぶ。フィールドオブジェクトが、木っ端みじんに吹き飛んでいく。

「うわわわわわ!?」

 カズがあわてて身をかがめる。そのすぐ頭上を、殺神の神威が飛びずさっていく。ハクガが光の矢を盾に変える。何枚も重ねていなければ、一瞬で消滅させられていただろう。リーリュウは巻き起こした鎌鼬で、攻撃の威力を何とか相殺する。

「むぅ!?」

 コクトは……なぜか優先的に耳をかばった。ちなみに直撃したのに体の方にダメージはない。

「なんでや!?」

 思わず叫ぶカズ。まさかこんなシリアスな場面でギャグシーンが見れるとは……。セモン感嘆。

「……六門神でも、この斬撃をまともに受ければ死滅する。お前たちが知る、以前の挑戦者もまた、この剣戟を受けて死んだ」
「……先生を、殺した技……」

 リーリュウが目を見開く。「え?師匠何で生きてんの!?」とはカズのコメント。

「あんなのに斬られたらひとたまりもないぞ……!?」

 セモンは思わずつぶやいてしまう。「ねぇ、何で師匠は無傷なの!?」SAO時代、ALO時代、どこを通しても、あれほど破壊力のある攻撃は見たことがなかった。何せ、フィールド一つが木っ端みじんになってしまうのだ。

 いつしか洞窟は一部が破壊され、空が見えるようになっていた。青空だ。かがやく太陽が、一点の曇りなく大地を照らし―――――

 ふと、その光が陰った。あれ、デジャヴ……?

「ふっ……やっと来たか」

 コクトが、どこぞの少年漫画のライバルキャラの様な不敵な笑みをとる。え?何?とセモンが混乱していると、ますます空を覆う影は大きくなり――――


 ズガァン!!という大音響と、凄まじい地響きを立てて、何か巨大な物体が落下してきた。

 物体は、全長三メートルほど。黄金の鎧に身を覆った、超巨大ゴーレムだった。セモンの背丈ほどもあるかという大きさの掌の上には、何物かが立っていた。

 鍛え上げられた褐色の肌。金色の髪に、真紅の目。鬼族のそれとはまた違った角を備えている。従えた巨大ゴーレムとよく似た金と真紅の鎧。炎を封じた様な色合いのマントをなびかせたその姿は、古代インドの戦の神(インドラ)を彷彿とさせた。

 着陸の余韻に浸るようにしばらく目を閉じていた乱入者は、カッ!!と目を開くと、あたりを睥睨して、堂々と言い放った。

「待たせたな、お前たち」

 と。

「……遅かったじゃないか。何を手間取っていたんだ?ラーヴェイ」
「うるさい、ウサ耳。こちらも初期出現エリアからここまで来るのにかなり時間がかかったんだ。勘を取り戻すことも必要だったしな……」

 ラーヴェイと呼ばれたその男は、ひょい、とセモンの方を見ると、にやり、と笑った。その笑い方に、セモンは見覚えがあった。

「よく頑張ったな、清文」
「あ……明兄……?」

 《ボルボロ》元第二席にして、《ジ・アリス・レプリカ》開拓チーム主席、千場明。

 そのアバターたる六門神、《大焔神》ラーヴェイの、降臨だった。 
 

 
後書き
 はいどうも~!Askaで~す!

刹「いきなり芸人の様に出てきて何のつもりですか作者」

 ひどいな!あとがきだよあとがき!
 というわけで、今回は師匠クラス最後の一人にして最強の一人、ラーヴェイさんの登場でした~。次回、いよいよ《冥刀》とご対面!!

刹「それではお楽しみに」
 
 またセリフとられた!? 
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