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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第十八話

「……剣を抜け、神器を求る者達よ」
「……?」

 《冥刀》を収めた《玄室》に辿り着いたとき、案内役を買って出た《晶鬼》の少年……零が、最初に言った言葉はそれだった。

 黒にも血色にも見える、不思議な色の、水晶の角をもった鬼族の少年は、その東洋人とも西洋人ともつかない鋭利な顔に、一切の表情を浮かべずに言った。遅まきながらに、セモンはこの少年がNPCであることを思い出し、なんと精巧な作りだろうか、と感嘆した。

 しかしその感嘆は、零には通じなかったように思える。

「繰り返す。剣を抜け。……番人を討ち果たせ」
「番人……」

 つまり彼は言っているのだ。番人(クエストフラグモンスター)を倒さねば、その討伐報酬たる《冥刀》は手に入らない、と。

 この辺りはネットゲームチックだよな、と思いつつ、セモンは装備した刀に手を掛ける。同じことを考えたのか、仲間たちも各々の武器を構えた。

「……いいだろう」

 零はそれを見渡すと、こくり、と頷いた。そして、両手を広げて歌うように唱える。

「来い、《東血桜(あずまちざくら)》、《西肌雪(にしきはだゆき)》」

 瞬間、血色の花弁と、透き通る淡雪が、零の両の手に集まった。それはだんだんと形をとり、二本の刀の姿になる。

 片方は、血色の柄、鍔、鞘を持った長刀だった。もう片方は、純白の柄、鍔、鞘をもった長刀。まるで合わせ鏡の様に、双子の様に、色さえ異ならなければ二本は全く同一の姿をしていた。夫婦剣とか、姉妹剣、といった言葉が頭に浮かぶ。

「――――『さくらの木の下には、屍体が埋まっているといふ』」

 零の口から、こぼれるようにその《呪詛》が紡がれる。それはどこかで聞いたことのある、古い古い小説の一幕。しかし零は、その後に続くべき呪詛を紡がない。代わりに、讃えるような全く異なる言葉を唱える。

「それでいて――――たまらなく、美しい。《冥刀・東血桜(あずまちざくら)》、《解放(アンバイト)》」

 ぱきり、と音がした。その音の出どころは、零の持つ赤い刀……《東血桜》だった。その鞘が、自動的に抜けていく!!

 輝きながら現れた刀身もまた、柄や鍔と同じように、鮮血の色に染まっていた。しかし刀身は、わずかばかりの金属質の輝きを纏っていた。だからわかるのだ。あれは血がこびりついているのではなく、血を吸ったのだ、と。

「……まずいぞ」

 隣で、コクトが呟くのが聞こえる。

「そうか……零という名前をどこかで聞いたと思っていたが……奴は、《朧水晶(おぼろすいしょう)》の零だ」
「《朧水晶》……?」
「そうだ。零は、《東血桜》と《西肌雪》を振るったと言われる伝説の《晶鬼》、《黒水晶》の四季の、実の孫だ。奴は血統的にも、実力的にも、あの二刀の正式な持ち主……そして、この洞窟の番人とは、恐らく奴本人のことだ」
「え……!?」

 零が、番人……!?ならば、なぜ彼は自分たちを此処へと導いたのだろうか。それは、直後に説明された。

「来い、神器を求る者達よ。汝らが血肉を我が刀へと吸わせんと、我は欲する。汝ら、我が刀の血肉となさん……だったか。どうした?六門神。来ないならば俺が行くぞ」

 急に口調が機械的な物から、砕けた者に変わった……その瞬間。零の姿が、ヴン、と音を立てて掻き消えた。

「!?」

 どこへ行った――――!?そうセモンが考える間もなく。

「がはっ!?」

 カズが悲鳴を上げる。いつの間にか、その背後には赤い刀を振りぬいた零が。カズの背中から、鮮血が噴き出る。加えて、よく見るとなにか半透明の、黄色いものが……

「しまった!魔力切り……」
「魔力切り?」
「そうだ。《東血桜》は、切り裂いた相手の魂を削る。六門神における魂は、魔力(MP)に直結する。故に、《六門魔術》が使えなくなる……。同時に、HPも継続的に切り裂かれる……まずいぞ。早急に《東血桜》の《解放》を止めなければ……」
 
 どさり、と倒れたカズの刀傷から、魂だというそのエネルギーが、血と共にびしゃり、びしゃり、と飛び散る。ハクガが治癒の魔術を掛けるが、なかなか傷口がふさがらない。

「くそっ……」

 コクトが、腰の鞘から《ギア》たる《冥刀・(イテツキ)》を抜き放つ。目には目を、歯には歯を、《冥刀》には《冥刀》を。

 こんなにあせったコクトさんを見るのは初めてだ、とセモンは心で呟きながら、刀を既定の位置に構える。非常に使い勝手のいいソードスキル、《猛閃》で、零に向かって突進攻撃を仕掛ける。しかし……。

「……異界の《剣技》ごときで、俺を()()せると思っているのか?」

 セモンの一撃は、零の体に触れる前に掻き消えた。

「何……!?」
「それ故に――――たまらなく、はかない。《冥刀・西肌雪(にしきはだゆき)》、《解放》」

 しゃりぃぃぃん、と涼やかな音を立てて、純白の刀が抜かれる。それは、かすむような速さでセモンを打ち……あっけなく、その胴を切り裂いた。

「ガハァッ!?」

 生まれてから、初めて味わうほどの純粋な痛み――――視界がくらむ。かすむ。体中が冷たくなる。ただ、切り裂かれた部分だけが熱い。

「がはっ、ぐぅ、あっ……」
「……つまらないな……貴様らもこの程度か」
「……な、に……?」

 セモンは、零に目を向ける。二本の刀を構えた少年は、今、「貴様ら()」といった。つまり、かつて自分たち以外にも《冥刀》を手にしに来た者たちがいたというのだろうか……。

「……その口ぶりは、まるで俺達以前にも貴様と戦った六門神がいたような口ぶりだな」

 セモンと全く同じ疑問を口にしたのは、《(イテツキ)》を構えたコクトだった。零は彼の方を向くと、そう、といった。

「かつて、一人の六門神が、無謀にも俺を倒し、神器を手にしようとした。確か名は……《シリューレ》、といったか」
「何……!?」
「シリューレ、だと……」

 その名に反応したのは、コクトと、そしてリーリュウだった。なぜリーリュウが……と疑問に思って、すぐに思い出す。
 
 以前、コクトの話をカズに聞いたとき、リーリュウが自分の師匠のことを少しだけ話してくれたのだ。大分前に、《適合者》の資格をはく奪された、と……。

 彼(もしくは彼女)の名前は、たしかシリューレ、といったはずだ。第四階梯の六門魔術使い。

「貴様が……貴様が先生を殺したのか……?先生から資格をはく奪したのは、貴様だったのか……!?」

 リーリュウが、わなわなと身を震わせ、問う。しかし零は、全く表情を変えない。

「奴はただ、俺の目的に従って討滅されただけだ。六門神たる資格を失ったかどうかなど、俺の知ったところではない……どうした、風の六門神。復讐でもするのか?」
「……いや。先生はもう《適合者》の資格がなくてもいいとおっしゃっていた……だから、俺が復習をする必要はない。だが……」

 リーリュウは、虚空から美麗な笛を抜出し、叫んだ。

「先生の遺志を継ぐ必要が、俺にはあるッ!!――――大地よ、汝が()()の声を聞け!」

 リーリュウが笛を――――彼の《ギア》である、《暁を呼ぶ笛(エオス)》を吹き鳴らす。どこか哀切なメロディに導かれたかのように、洞窟を構成する岩やクリスタルが、ごと、ごと、と音を立てて、人の形を取り始める。零は、それを面白いものを見るような色を宿した、しかし表情は変わらない顔で、眺めていた。

 完成したのは、水晶と岩石でできた、全長二メートル超に迫る、巨大なゴーレム。

「――――行けッ、水晶の鉄巨兵(クリスタル・ゴーレム)!!」
『――――』

 リーリュウの命を受けて、ゴーレムが動き出す。ごごん、ごごん、という重厚なサウンドが、ゴーレムが踏み出すたびに響き、洞窟内を揺らす。

 しかし――――

「……所詮は、第二階位か……」

 零は、全くの無表情。その目にあった色は、もはや興味をなくした、と語っていた。

「肌雪よ、咎人を討て――――」

 零の左手がひらめく。そこに握られた《西肌雪(にしきはだゆき)》が、ぎらり、と剣呑な輝きを纏う。

「血桜よ、咎人を吸え――――」

 零の右手がひらめく。そこに握られた《東血桜(あずまちざくら)》が、ぞくり、と邪悪な光を放つ。

「《星斬流剣術(ほしきりりゅうけんじゅつ)()(かた)二番(にばん)――――”天舞散血翡翠業(あままいちるはちのひすいがごう)”》――――あまねく咎人は、此処にその身を散らすのみ」

 ゴッ!!

 悲鳴を上げ、もだえ苦しむ大気の声が聞こえた。 
 

 
後書き
 はいどうも~Askaで~す。チートなボスキャラにセモン君たち大ピンチ。しかしこれで驚いていたらこの先死んじゃうぞセモン君!

刹「あなたは何を考えてるんですか……まさかこの先チートボス乱舞とか言いませんよね」
 
 Yes。言いますけど何か?

刹「ダメですこの人何とかしないと」

 それでは次回もお楽しみに~

*オマケ*

 『神話剣』人気投票は、謎の粘りを見せてセモン君が優勝しました~。現在、新規イラストが扉絵になってるのでよろしくお願いします。 
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