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家族

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第三章


第三章

「武器持たへんままな」
「なあおっちゃん」
 ここで修一が修治に声をかけてきた。見れば彼は西瓜も食べず彼の横に座っていた。
「どうしたんや、いっちゃん」
「皆このまま死ぬんかな」
「それは」
 ここに甥、いや養子がいるのを忘れていた。自分の迂闊さに歯噛みした。
「そやったらな」
「何かあるんか?」
「お墓参り行かへん?」
 こう言ってきた。
「お父さん達のお墓に。どないやろ」
「お墓参りか」
 修治はそれを聞いて表情を変えた。暗く沈んだ顔から少し考える顔になった。
「そやな」
 肯定的な顔を見せてきた。
「ええかもな」
「じゃあ一緒に行く?」
「丁度お盆やしな」
 それが最大の理由の一つだった。だが理由はそれだけではなかった。
「それにあんた」
 それは恒子が言ってきた。
「お参りするのもええでっしゃろ」
「その通りや」
 修治は西瓜を食べながら頷く。兄夫婦の墓参りもあったのだ。
「いっちゃん、それでええか?」
「うん」
 修一としては断る理由は無かった。その言葉に頷く。
「僕はええで」
「よし。それやったら十四日や」
 日まで決められた。それもすぐにだった。
「その日でどや?」
「うちはそれでええわ」
 恒子はその日でよかった。彼女は何時でもよかったのだ。
「そうか。いっちゃんは」
「僕もや」
 彼は一人で毎日行っている。それで何時がいいなどと言う筈もなかった。彼にしては本当に自然のことでしかなかったからだ。
「その日でええわ」
「ほな決まりやな」
 修一の言葉で全てが決まった。
「行こうか。その日に」
「あいよ」
「じゃあ」
 こうして全てのことが決まった。三人は十四日にお墓参りをすることになった。そうしてその日が来たのだった。何時になく晴れ渡った朝だった。
「暑いな、今日も」
「そうやね」
 恒子は修治のその言葉に応えた。その後で修一を見る。
「あんたはどないや?」
「僕は別に」
 修治は特に表情を見せなかった。それに少し俯いていた。
「何もあらへんわ」
「そか。暑いの平気やねんな」
「大阪はもっと暑かったから」
 それが彼の言葉であった。
「これ位は大丈夫や」
「そうやろうな」
 修治は甥のその言葉を聞いて納得したように頷くのだった。
「大阪はもっと暑いからな」
「うん」
 感情の篭っていない声で頷く。
「そやから」
「平気やろうな。まあこの程度やったら」
「御飯は家帰ってからな」
 恒子が二人に言ってきた。
「歩いてすぐやし」
「ああ、それでええわ」
 修治はそれで不満がなかった。その証拠にすぐ頷いてきた。
「いっちゃんもそれでええやろ」
「僕も別に」
 やはり感情のない返事であった。
「それでええわ」
「そやな。ほな」
「行こうか」
 こうして三人でお墓参りに行くのだった。程なくして修一の家族の墓の前に来た。
「いっちゃん、お水」
「あいよ」
 恒子は墓の前に着くとすぐに修一に水を運ばせにやった。墓には井戸がありそこから水を汲むのである。昔はそうした井戸が多かった。
「やあうちはお花な」
「墓石はこれで拭いてな」
 修治は墓石を拭きはじめた。最初は空拭きで修一が水を汲んでくるとそれで濡らして拭いていく。それから三人で周りの草を抜いてあらためて墓石に水をかけた後でお花やお供えをして手を合わせるのであった。
「こうしてみるとすぐやな」
「ホンマやな」
 恒子は旦那の言葉に頷いた。
「すぐやけれど。それでも」
「悲しいわ」
「おらんようになったからなあ」
 今度は恒子が言う。やはり修一は何も言わない。
「兄ちゃん」
 修治は墓石に対して声をかけた。
「寂しいないか?ホンマに」
「いっちゃんはここにおるから」
 恒子も声をかける。
「元気にやってるからな」
「心配せんといてや」
『悪いけれどそうはいかんわ』
 だがここで不意に声がした。
「!?誰や」
「御前この声は」
『わしや』
 驚く恒子と修治にまた声がした。見れば修一はその声が誰のものかわかっているようであった。
 
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