不老不死の暴君
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第五十一話 帝都への道筋
帝国軍の襲撃のあった翌朝。
神都には昨日の惨劇を強調するかのように雨が降り注いでいた。
敬虔なキルティア教徒達は跪いて祈っている。
キルティア教会のトップであるアナスタシス大僧正が殺された為だ。
その死を悼んでいるのだ。
更に神殿の周りにチラホラ黒い煙があがっているのが見えた。
どうやらまだ避難民達のテントは燃えているようだ。
「これからどうするんだ?」
ヴァンは元気がなさそうにそう言う。
流石に目の前の光景でいつも通りの能天気さは発揮できなようだ。
「帝都に行く」
バルフレアはヴァンの問いにそう返した。
「それで帝都アルケイディスへはどのように?」
アーシェがヴァンに続けて質問する。
「ロザリアの侵攻に備えて、 帝国は国境の守りを固めているはず。 空からは無理でしょうね」
「当然、海にも帝国水軍が網を張ってる」
フランの説明をバルフレアが補足する。
「ってわけで空賊らしくもないが歩きだ。サリカ樹林のあたりで本国領に入る」
バルフレアは地図を出してナブラディア地方とアルケイディア帝国本国領の境目に広がるサリカ樹林を指差す。
「いくつか道はあるが、ナルビナを通って北上するのが手っ取り早い」
「サリカ樹林を越えたらハンターたちの集まるキャンプがあるわ。ここまでいけば軍の警戒もゆるくなるでしょう」
フランがサリカ樹林の東にあるフォーン海岸を指差す。
「って言ってもまだ相当長いけどな」
バルフレアが首を小さく横に振りながらそう言った。
確かにフォーン海岸から帝都アルケイディスまで結構な距離がある。
「そもそもここから陸路で行くとなるとここに来る時通ったルートを逆走してラバナスタに戻らなくてはならないから――強行軍でも最短で数ヶ月はかかるんじゃないか?」
セアは面倒くさそうにそう言った。
「確かにその間にアルケイディアとロザリアの戦争が起こってる可能性もあるな」
「いや、その可能性は低い」
「なぜだ?」
自分の考えをすぐさま否定したセアに顔を向けてバッシュが理由を求める。
「まずアルケイディアはヴェインが政変を起こしたばかりで国内を纏めなくてはならないからだ、おまけに俺がここに来ていたジャッジマスターを一人殺してる」
「それはそうだがロザリアが仕掛ける可能性もあるだろう?」
「ロザリアは年中内部対立状態だ。アルシドならその対立を煽って最低でも数ヶ月は持ちこたえるだろう」
セアの言うとおり確かに今の状況では両国とも戦争できる状態ではない。
アルシドがちゃんと働いていればの話だが。
「うわっ!」
話の難しさからか少し離れていたヴァンがなにかを見て驚きの声をあげた。
パンネロがいち早くそれに反応した。
「いったいどうしたのヴァ・・・キャーー!!」
パンネロがヴァンの目線の先を見たら、ヴァンと同じように声をあげる。
「なんなんだいったい?」
ヴァンの目線の先がちょうど建物の影になっていてよく見えず、近づいた。
そして固まった二人の目線の先を見る。
「これは・・・」
そこには痣だらけの薄い服しかつけていない男の死体があった。
骨も幾つか折れており、それが動いていた時の姿はとても想像できないありさまだった。
その損傷の激しさから死んだあとも攻撃をしつづけたことが容易に想像できた。
他の四人も眉をひそめて黙っている。
「これも帝国がしたのか?」
ヴァンが目線を動かさず震える声でそう言った。
「いや、これをしたのは避難民達だろ」
バルフレアがそう言った。
その言葉にヴァンがバルフレアの方に振り返る。
あまりにも予想外な答えだったからだ。
「な、なんで!?」
「こいつの着ている服に心当たりがある。ジャッジどもが鎧の下に着ている服だ」
「ああ、なるほど」
バルフレアの言葉を聞いてセアは首を縦に振って納得する。
その様子を見てますますヴァンは混乱する。
「なるほど!?なにがなるほどなんだよ!!?」
「あのな、こいつジャッジなのに鎧つけてないだろ」
「え、そうだけど・・・」
「避難民たちが金の足しになればと外して持っていったんだろう。その時にお礼にボコボコにしたってところだ」
セアの言葉にヴァンは首を傾げる。
「金の足しって・・・そんなに高いのかジャッジの鎧って?」
「ああ、いろんな国家が欲しがるだろうな。特にロザリアが欲しがりそうだな」
「なんで?」
「だってジャッジに変装してアルケイディアの部隊に紛れ込めるんだぞ。お前だって見たことあるだろ」
セアの言葉を聞いてヴァンはリヴァイアサンの時のことを思い出した。
あの時ウォースラはジャッジの格好をして自分達を救出したのだ。
「末端の兵なら自国で鎧を製造して紛れ込ませることもできるだろうがジャッジの鎧は特殊な製造方法で作られているそうで中々複製が難しいらしい。売るところに売れば高く売れるだろうさ」
セアの説明を聞いてヴァンも理解できた。
「だけどなんかさ・・・納得できないな」
「私も・・・」
ヴァンとパンネロは項垂れながらそう言った。
「納得する必要なんかない。ただこういうこともあるって知ってるだけでいい」
セアは二人を諭すようにそう言った。
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