不老不死の暴君
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第五十話 弟子と師
神殿の一室に二人の男が椅子に腰をおろして向かい合っていた。
「なぁ」
ヴァンは躊躇いがちにセアに声をかける。
セアとは1年近い付き合いがあるが我を忘れて激怒するところを見たことがなかった。
怒っているセアは普段なら冷たく暗い声で凄まじい笑顔を浮かべていることが殆どだ。
しかし先程レイスウォールに対して憎悪を露わにしているセアはまるで別人のようにヴァンは思えたのだ。
「なんだ、馬鹿弟子?」
セアはどこか疲れたような声でそう返す。
「あのさ・・・セアはアーシェのことが嫌いなのか?」
「・・・嫌いかどうかと言われたら嫌いだな」
セアははっきりとそう言った。
「やっぱりレスウォールの血を引いてるからか?」
「それもあるにはあるが、それ以上にあの王女様の君主としての自覚のなさが嫌いだ」
「君主としての自覚?」
ヴァンは首を傾げる。
物知りのダラン爺からヴァンは色々教わってはいるが興味のない政治の話はちゃんと聞いたことがなかった。
そんなヴァンは君主としての自覚のなさというのを理解できなかった。
ヴァンは義務だの誇りだの言ってるアーシェは王家の人間としての自覚があるとは思っている。
そのことを察していたのかセアはため息をつく。
「いいか、君主というのは私情を国の安寧より優先することなどあってはいけない」
「え?」
「あいつが本当に国の安寧を望んでいたなら自分の身を材料にアルケイディア帝国に譲歩させ、ある程度の実権を持ってダルマスカを帝国の属国としてでも独立させるべきだった」
「そんなのダルマスカが認めるわけないだろ!!」
ヴァンはそう叫んだ。
少なくとも帝国による2年間のダルマスカ統治を経験したヴァンにとっては絶対に受け入れられることではなかった。
「そうかな?ヴェインが執政官に就任してからというものラバナスタでのヴェインの評判はいいものだ」
「・・・そうなのか?」
「ああ、現にカイツもヴェインに傾きかけてたからな」
「カイツが!?」
ヴァンは驚いた。
何故ならヴァンがリーダーを務めている空賊予備軍に参加している孤児達は全員反帝国だ。
その空賊予備軍であるカイツが帝国のヴェインを信じ始めているとは信じられなかった。
「なにを驚いてるんだ?お前だってラーサーと仲がいいじゃないか」
「・・・だけどさ」
「お前はヴェインが就任してからあちこち飛び回ってるから知らないだろうが、ヴェインが就任してから帝国兵の横暴が減った。それに身分差による差別はほぼなくなった」
「でも受け入れられるのか?帝国を憎んでいる人がたくさんいるのに?」
「それだけで受け入れられないならとっくに二大帝国は内部崩壊をおこしてないとおかしいんだがな」
「え?」
「あのな、ロザリアもアルケイディアも侵略国家だぞ?ようはダルマスカのように他国を滅ぼしてきたんだ」
「それは知ってるよ」
ヴァンはなにを当たり前のことをという風にセアを見ている。
セアは自分の馬鹿弟子の頭にため息をついた。
「じゃあもっと分かりやすく言おう。アエルゴ地方の住民がいまだにアルケイディアに逆らっているって聞いたことあるのか?」
「え?アエルゴってアルケイディアの領土じゃ?」
「ああ、アエルゴって国を昔にアルケイディアが滅ぼして自国の領土にした土地だ」
今から170年ほど前にアエルゴはアルケイディアに滅ぼされた歴史がある。
当時は今のダルマスカのような状況だった。
が、いまは元々別の国だったという歴史が残るだけである。
「ヴァン、お前はどうか知らないが多くの人間は危険より安全を選ぶ。侵略者が圧政を敷くならば武器をとるのはやぶさかではないがそうでないならば大抵は憎悪を胸に秘めつつ侵略者の支配を受け入れてしまう」
「・・・」
「お前が帝国を嫌っていたのはレックスを殺されたのもあるだろうがそれ以上に占領後の帝国の理不尽に耐えれなかったからじゃないか?」
「・・・言われてみればそうなのかも」
「そういうものだ。だが王女様はその辺がわかっていない」
「え?」
「大切なことは自治独立よりもその理不尽を止める事だ。だがヴェインによってそれは改善されたといのに王女様は歩み寄ろうとしなかった」
「でもヴェインを信じられなかったんだろ」
自分の父を謀殺してダルマスカを滅ぼしたヴェインをアーシェが信じるわけがない。
ヴァンはそう思っていたから迷わずそう言った。
するとセアはどこか悟ったような様子で言う。
「国を滅ぼされたのだから当たり前といえば当たり前だ。だからこそ現実をみることができたウォースラは国の為に王女様を裏切って帝国と交渉したんだろう」
「・・・」
「まぁあくまでこれは俺の持論だ。もし納得できないなら自分で答えを出せばいい」
暗そうな顔をしているヴァンにセアは優しくそう言った。
そしてセアは椅子から立って布団に転がり込む。
(アルケイディアの神都襲撃はそうとう反感を買ったはずだ)
セアは今回の襲撃の狙いについて考える。
(敬虔なキルティア教信者は数が少ないとはいえ、上流階級に属する者が殆ど。ヴェインがそれを理解していないとは思えん)
ベルガのあの言動からこの襲撃の命令を出したのはヴェインだとセアは当たりをつけていた。
(となると破魔石の力を使えば反論を抑えられると思っているのか?)
そこまで考え、首を振る。
少し有能な者ならばそう思うかもしれない。
しかしヴェインは【戦争の天才】と称される軍才の持ち主で、並外れた政治手腕を兼ね備えている。
(ってことは人造破魔石が量産する計画でもあるのか?)
あれが量産され一般兵にまで支給されるようになれば本当に勝ち目がない。
ただ・・・
(幾ら巨大なアルケイディアとはいえ財源は有限だ。たかが2年程度でその段階に届いているとは考えにくい)
国家の収入と支出は半固定されている。
インフラの整備とか軍人や政治家への給金など。
ということは穏健派のグラミスが統治していた今までは研究予算は通常通りで行われたはず。
幾らかヴェインからの援助があったとしても2倍になるなんてことはないだろう。
(となると・・・・・・駄目だ幾ら考えても答えがでん)
セアは考えるのをやめると眠気に襲われ寝た。
隣でヴァンがセアのいびきを聞いて寝るの早すぎと呟いた。
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