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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その七

「絵が独特なだけで」
「他はですか」
「何の問題もないんですね」
「そうなのよ、何故か絵だけはなのよ」
 それはどうしてもだというのだ、彼女の場合は。
「書道もお茶もお華も免許皆伝なのにね」
「というか何げにハイスペックですね、小林先輩」
「外見はモデル並だし」
「そうそう、背も高いしね」
 小柄な茉莉也の言葉だけに余計に説得力があった。
「性格も大和撫子で」
「ちょっとハイテンションな時ありますけれどね」
「基本はいい人ですよね」
「性格もね、大和撫子なのよ」
 そちらもだというのだ、そうした話をしてだった。 
 三人で共に大学の時計塔のところまで行く、やがて三人の前に西洋の時計塔、黒い西洋の趣きがある巨塔が闇夜の中から出て来た。そしてその時計塔を見てだった。
 愛実と聖花は顔を見合わせてだ、こう話した。
「じゃあね」
「うん、今からね」
「行こうね、二人で」
「そうしようね」
「行って来てね」
 茉莉也はその二人に後ろから微笑んで声をかけた。
「今から」
「はい、行って来ます」
「泉に」
「時計塔の中には今は誰もいないから」
 番の役目をする日下部達もだというのだ。
「あんた達だけになるわ」
「それで終わったら」
「その時は」
「おめでとうと言ってあげるわ」
 微笑みを優しくさせての言葉だった。
「その時はね」
「じゃあお願いします」
「その言葉を」
「ええ、楽しみにしててね」
「セクハラだけは勘弁して欲しいですけれど」
「それだけは」
「えっ、スキンシップは当然でしょ」
 二人にそう言われてだ、茉莉也は少し驚いた顔になって返した。
「女の子同士の」
「そこでセクハラとは言われないんですね」
「強いですね、やっぱり」
「そこでそう返されるのが」
「人間強くないとね」
 茉莉也は二人に悪びれずあっけらかんとして返した。
「生きていけないわよ」
「先輩の場合タフ過ぎますよ」
「トライアスロンもやっておられますし」
 肉体的だけでなく精神的にもだ、茉莉也は強いというのだ。
「頑丈ですね、本当に」
「肝臓も強いですし」
「肝臓が強いのはいいことよ」
 酒を思いきり飲める、だからだというのだ。
「まあ私の肝臓は冗談抜きでうわばみさん並だけれどね。博士にも言われたわ」
「うわばみさん並って」
「人間離れしてますよ」
「何かね、ずっと妖怪さんや幽霊さん達と一緒にいて」
 それこそ生まれた頃からだ、茉莉也と彼等の縁は深いのだ。
「私も変わったかもね」
「妖怪化とかですか」
「そうなったんですか」
「そうみたいね」
 自分でこう言うのだった。
「特に内蔵がね」
「それでお酒もなんですね」
「鯨みたいに飲んでも平気なんですね」
「ザルになったのよ」
 つまり幾らでも飲めるというのだ。
「有り難いことに」
「ううん、本当に妖怪化してるとか」
「そうなったとかですか」
「かなり糖尿病になりにくい体質とも言われたわ」
 その博士にだというのだ。 
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