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八条学園怪異譚

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第五十八話 地下迷宮その十二

「面白おかしい噂がのう」
「ううん、余裕ですね」
「慣れてるんですね」
「戦前から言われておった、いや明治の後半からじゃったな」
 相当な昔であることは言うまでもない。
「仙人だの何だのとな」
「その時からですか」
「博士って有名人だったんですね」
「実際に仙術も魔術も学んでおるしのう」
 こちらも明治の頃からだというのだ。
「開国されるまでは西洋の文献は手に入りにくく集めるのに苦労したがな」
「?開国?」
「開国って確か」
 二人は開国という言葉から恐ろしいことを察した。
「幕末よね」
「その頃にもう文献をどうとかって」
「博士ってまさか」
「本当に」
「いやいや、言葉のあやじゃ」
 ここでまた真実を隠した博士だった。嘘は言わないにしても。
「気にせんでくれ」
「そうですか、じゃあ」
「そうしますね」
「少なくともわしはそうした噂は楽しんでおる」
 気にしているのではなく、というのだ。
「そうしておるからな」
「だからですか」
「何を言われても」
「楽しんでおる、ただセクハラや研究を誤魔化したり横領等はしておらぬからな」
 悪事は働いていないというのだ。
「人体実験もな」
「いや、それは当然ですよ」
「人体実験って」
 二人はとりわけそこに突っ込みを入れた。
「幾ら何でも」
「マッドサイエンティストじゃないんですから」
「それだけはやったら駄目ですよ」
「そうですよ」
「だからしてはおらん」
 安心していいと返す博士だった。
「一度もな。ただな」
「ただってまさか」
「何かあるんですか」
「漢方医学は経験じゃからな」
 それでだというのだ。
「色々なものを試すからのう」
「あの、じゃあ」
「これまでの中で」
「例えば水銀じゃ」
 言うまでもなく身体の中に入れれば猛毒となる。
「あれも経験で危険だとわかったのじゃ」
「最初はそう思われていなかったからですか」
「お薬にしてたんですね」
「それも不老長寿のな」
 薬の中でも考えられる限り最高のものに思われていたのだ、猛毒であるがそう考えられて使われていた時代もあったのだ。
「始皇帝もそれで飲んでいた」
「それで死んだんですね」
「水銀中毒で」
 ここに過労もあったという、始皇帝は毎日激務の中にあった。政を他の者、宰相にさえ任せる気にならず己に権限を集中させた為だ。
「始皇帝が不老不死を願ったのは有名ですけれど」
「それが仇になったんですね」
「そうじゃ」
 まさにその為にだというのだ。
「他にも唐の太宗もじゃ」
「ああ、教科書に出てました」
「凄い名君だったんですよね」
「実質唐を作ったっていう」
「小説の主人公にもなってましたよね、確か」
「隋唐演義じゃな」
 太宗が主人公の小説と聞いてだ、博士はこの作品だと言った。
「あれは太宗だけが主人公ではないがな」
「やっぱり主人公の一人なんですね」
「太宗が」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。 
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