八条学園怪異譚
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第五十八話 地下迷宮その十三
「隋の煬帝から唐の玄宗までじゃ」
「それで太宗も出て来てですか」
「主人公の一人として活躍するんですね」
「そうなのじゃ、しかしその名君もじゃ」
「水銀を飲んでいてですか」
「死んだんですね」
「そう言われておる。そうしたことから水銀が毒だとわかったのじゃ」
そうした犠牲を出してだ。
「不老不死の丹薬を飲んで死んでは本末転倒じゃしな」
「本末転倒もいいところですね、確かに」
「それで死んだら」
二人もこのことはよくわかった、二人共食べものを扱う家の娘なので口の中に入れるものについては敏感だからだ。
「洒落にならないですよ」
「身体にいいものじゃないと」
「そうしたことも経験じゃ」
長年のそれでわかるというのだ。
「医学も経験が大きいのじゃよ」
「じゃあそこで、ですか」
「実験めいたことも」
「実際にあるしのう」
実験もだというのだ。
「麻酔の話でも実験があったからのう」
「あっ、自分の奥さんがでしたね」
「それで失明したんですよね」
「あと天然痘もじゃ」
ジェンナーの話も出る、天然痘の薬を見つけたことで知られる医師だ。
「牛痘の話を聞いてから子供に牛痘を入れてみたがな」
「それも経験からですか」
「実験だったんですね」
「そうじゃ」
それに他ならなかったというのだ、ジェンナーに関しても。
「その結果天然痘についても対策が見つかったのじゃ」
「そうだったんですね」
「天然痘も」
「医学の発展には必ず実験がありじゃ」
人体実験もその中に含まれる、当然ながら。
「そして犠牲も多かったのじゃよ」
「そう思うと怖いですね」
「陰があるんですね」
「医学は諸刃の剣じゃよ」
博士は医学博士即ち医師でもある、だからこそこの言葉は相当な重みがある。その道の人間であるだけに。
「使い方を間違えればな」
「本当にマッドサイエンティストになるんですね」
「そちらに」
「そうじゃ、実際にそうした輩もおった」
有名な人物としてはナチス=ドイツの医師ヨセフ=メンゲレであろうか。この人物は様々な人体実験をしたことで知られておる。
「非道なことにな」
「非道も非道ですね」
「人間じゃないですね」
「うむ、人の心をなくせば人でなくなる」
この考えからするとだというのだ。
「だからマッドサイエンティストはな」
「人じゃないんですね」
「人の心をなくしているから」
「そうなる」
つまりメンゲレの様な輩は人間ではなくなるのだ。妖怪や幽霊は人の心があるが故に人であるがそうした輩はだ。
「そこが難しいがのう」
「人間の心ですね」
「それがあるかどうかなんですね」
「その通りじゃ、牧村君もな」
博士は自分の左隣で自転車に乗っている彼を見た。
「人間じゃからな」
「だが俺はだ」
その牧村の言葉だ、顔は正面にある。
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