こんなチートでもありですかい?そうですかい。
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第34話。変人とシキ。
side 遠野志貴
「いつか俺もお前も、バケモノになるのさ」
夢を見ている。記憶に覚えのない少年時代の記憶。
「本物の・・バケモノにな――――」
誰だかわからない少年は語る。
バケモノ。それななんだろうか?人智を超えた力を持つモノ?
いや違う。それは意志を無くし、自分を制御出来なくなったもののことであろう。
晋吾は言っていた。『殺すコト』とは『意志を潰すコト』だと。つまりバケモノになるとは、自らに潜むナニカに殺されることだ。
殺されてバケモノになる。ではそのあとは――?
バケモノの手足とされたアイツ―――。・・・・魂をあるべき場所に返す。
バケモノ――救世主――――殺人鬼―――――アポストロス
ああそうか。俺のすべきことは――――――
「志貴様。・・・・志貴様。」
「ん・・あっ・・・・」
目覚めも共にと差し込むのは日差しとアノ線。
日光の心地よさと線から伝わる不快感がなんとも言えない、いつもの朝だ。
「おはよう。翡翠。」
「おはようございます志貴様。」
慌ててメガネをかけ、翡翠に挨拶をする。
着替えて時計を見る。8時過ぎ、もう秋葉も学校に行っている時間だ。
「遅いお目覚めですね。兄さん」
「秋葉?学校は?」
「本日は遠野家の用事で10時から予定があります。ですので学校は休みです。」
「・・そっか。大変だな。」
「遠野家の当主として当然の務めです。」
そう言う秋葉に、ひどく感心する。俺とそう歳も変わらないのに、立派に当主として務めている。
「・・秋葉。」
「なんでしょうか?」
「ありがとう。」
「なっ・・なんですかいきなりっ」
「いや、頑張ってる秋葉に、どうしてもお礼を言いたくってさ」
そう言って、志貴は感謝を情を目一杯込めて笑顔を見せた。
感謝を告げただけなのに、なぜか真っ赤になって無言になってしまう秋葉に疑問を抱きながら朝食を済ませる。
「・・そういえば志貴様、これを晋吾様から預かっています。」
「晋吾から!?」
「はい、連絡先だそうです。体調が優れたら連絡してほしいとのことです。」
朝食後、翡翠から渡された紙には携帯の電話番号が書かれていた。早速家の電話から連絡する。
『ハイ、もしもし』
「あ、志貴だけど・・・・」
『おっ、シッキー元気になったかー。よかったわー』
「ごめんな。一緒に動けなくて」
『気にすんなや。今日は行けるかい?』
「ああ、大丈夫だ。待ち合わせはいつもと同じかな?」
『そやで。ほな、待ってるでー』
ガチャリと通話が切れる音。まだ話したいことがあったのに・・・・
ん?何を?何を話したかったんだ俺は?
―――――オレにアイツをコロサセロ―――――
ビクンッと体が跳ねる
「志貴さま?」
急に体を震わす志貴に心配そうな表情を向ける翡翠。
「大丈夫だよ。・・・・大丈夫」
そう・・志貴は翡翠に言いながら自分に言い聞かせた。
夜の街を歩く。
と、言っても街はまだ、帰宅中の人々で溢れていた。
しかし、この街には人にまぎれて闇が潜んでいる。
志貴が公園に向かう途中、裏路地で死者の気配を感じた。なぜかはわからない。
全身が叫んでいる。ここにいると。そして・・・・コロセと。
慌てて晋吾がくれたカードを探す。
ニヤリと口端が釣りあがる。路地裏にはいりこみ
「変身」
言葉を紡ぐと共に溢れ出す死者達。さらに口端が釣りあがる。
―――――コロセ―――――
脳が言葉を発するかのように幻覚しながら志貴は死者を殺す。
一番太い線を示してくれるゴーグル。かつて裸眼で、ネロ・カオスの獣を切った時のような強い痛みを感じさせない。
―――――コロセ―――――
頭の中はコロセと命じているが、志貴は殺している感覚はない。
これぞ救い。意志を無くし、殺されていながら生かされ続けるバケモノを救う。
タリナイ・・・・タリナイ。
粗方の死者を屠った志貴はフラフラと街を歩き始める。
タリナイ・・・・タリナイ・・・・スクイガ・・―――――コロセ―――――・・スクイガ・・
呼応するように付けたままのゴーグルが起動し、視界にマップを表示させる。
「神社・・・・」
フラフラとしながら、赤く表示された神社に向かう。
鳥居を超えたそこには、視界を埋めつくさんばかりの死者で溢れていた。
志貴のすることは、ただ線をなぞるだけ。
それだけで死者を『救う』。バケモノをコロセ。バケモノに救いを・・・・
脳裏に浮かぶ記憶にない少年時代の記憶。
殺したくない、殺したくないのに。俺はアイツを・・・・
『頼むよ。ナナヤ・・・・』
バケモノになったら頼む、とアイツは言った。救いを・・頼むと・・・・
でも、殺したくなかった。なのに・・・・俺は・・・・
「俺は・・・・」
声を出すと、深い闇の中にいたような心が戻ってくる。
正気に戻ると目の前は血の海と化していた。赤・紅・朱
―――――コロセ―――――
これ以上何を・・『救え』と言うのだろう。・・・・動くものなんて何も。
なくはなかった
「・・・・秋・・葉?」
目に映ったのは妹。秋葉。どうしてここに?
体を妹のいる方向に向ける。
ナイフを―――――向ける。
・・・・?何をしている?―――――バケモノはコロセ―――――
止めろ・・何を考えている。―――――スクイヲ―――――
止めろ!―――――コロセ―――――
―――――コロセ―――――
「何しとんじゃコノボケェエエエエエエエエエエ!!」
「うわらばぁあ!!」
「兄さぁああああん」
薄れゆく意識の中、志貴が見たのは、怒りを篭めた拳を振るう晋吾と、絶叫する妹の顔であった。
SIDE OUT
約束の時間すぎても一向にシッキーが来ないので、アルに待ってもらって探していたら少女を襲ってた
せやからドついてやった。そしたらアミバ様になった。
「兄さん!?兄さん!!どうしてこんなことに・・・・」
妹さんだったらしい。なぜか睨まれてます。・・・・俺が殴ったからですねスイマセン。
ザッ・・
妹さんの目線が音がする方に移る。そこにはなんとロアがいた。
「ロアかい。ついているっちゃついてるの」
「・・・・秋葉。何故ここにいる。どうしてその紛い物に近づく、何故兄と呼ぶ?」
「そんなん兄ちゃんやからに決まっとろうに」
「・・・・」
無視された。なんか悲しい(´;ω;`)
「どけ、秋葉。殺された借りを返さなければなれないからな」
「・・・・違う。紛い物は貴方の方だわ。下がりなさい!貴方が兄さんを殺すというのなら、その前に私が貴方を殺します!」
気丈なお嬢ちゃんやなー。凛ちゃんに通ずるものがあるわ。
「それに、反転した者を消去するのは当主の義務ですから。でも、貴方は一族のものとすら違う。そんな者に兄さんを侮辱するなんて許せない」
なるほど、妹さんはロアの存在に何となく気づいているのか。
「騙されるな!俺がお前の兄だ!俺が遠野シキだ!!」
「黙りなさい。もう二度と兄さんを貴方に殺させはしない。私の兄さんは・・私の兄さんは貴方なんかじゃないんだから!!」
逆ギレしたのか、ロアは手を振るい稲妻を秋葉に走らせる。
晋吾は防ごうと前に出ようとするが、目の端で、剣――たしか名は黒鍵――を見た。
「きゃ!」
地面に突き刺さった黒鍵は結界を生じさせ、秋葉を守る。
「遠野秋葉さん!遠野君を連れてここを早く離れるんです!!あれが・・吸血鬼です!!」
口はやに告げるのはカソックを着たシエル。
「お、シエル。」
「晋吾様!?」
「なんか無視されてめっちゃ悲しいやけど、どうしたらええ?」
「ど・・どうしたらと申しられてもですねっ」
めっちゃ焦ってる。なんかカワええ。
気を取り直してバットを取り出し、魔力を張り巡らせる。
「さて、ロア・・・・ミハイル・ロア・バルダムヨォンだったか?終演の時間やで?」
「・・・・・・アポストロス。私を殺しに来たか。」
「殺す?表現が違うの、消しに来たんや。綺麗にのぉ!」
距離を詰める。ロアは稲妻を走らせる。弾く。
「くっ、理不尽めっ!!」
「お前に言われたくないわ!!」
ロアは跳躍し、社の屋根に飛び移る。晋吾もそれに続く。
両者は同時に着地し、着地と同時に晋吾は水月部への中段前蹴りを振るう。
「ぬおぉう!」
ドンッ!という鈍い音と共にロアは吹っ飛ぶ。しかし、ロアは空中で稲妻を振るう。
しかし、その稲妻は晋吾が得物をひと振りするだけで消え去る。
「効くかそんなヘナ電気!ピカチュウ連れてこいやぁああ!!」
「クッ!ならば!!」
ロアは空中で魔方陣を展開する。その数二つ。その幾何学的な模様はまさに大魔術。
「ちょっと嘘でしょ!?」
あまりにもの魔に秋葉は仰天する。
「そこまでやりますか!?」
さすがのシエルも吃驚。
「カハァアアアアアアアアアア」
当の晋吾は息吹を吐き、重心を低く、下段の構え。受ける気満々である。
「消え失せろ!」
二つの魔方陣が重なり、陣の中央から迸る雷光。それはまさに荷電粒子砲。
「セイヤァ!」
切り上げたバットは一筋の光と化した雷を切り裂く。しかし
「ぬおぉまじか!!」
ただの木造建築である社が耐えられず、足元が崩れ落ち、落ちる晋吾。
なんとか着地し、再び跳躍。社の屋根に登るも。
「おんろ?いねぇし。」
「ロアなら逃げていきましたよ。少し戦力差を見せ過ぎです」
同じく屋根の上に登ってきたシエルにそう告げられる。えー、なんやそれー
「・・・・まったくもって骨のない奴め。教授のほうがまだ良かったわ」
「貴方には遠慮というものがないのですか。」
「遠慮はするわ。けど自重を捨てた。」
そう告げたらため息をつかれた。
「そういやシッキーは?」
「そうでした。秋葉さん。遠野くんは大丈夫でしたか?」
「・・外傷はないけど、今車を呼んでいるわ」
「なら一安心です。遠野君ていつも無茶ばかりしそうなので」
「俺が一番焦ったのは、教授の獣に身投げし損ねた時です」
「・・・・そんなことがあったんですか?」
「兄さん・・・・」
ため息を吐く妹さん。苦労しとんなー。
「しかしおかしいですね。あの躰は魔術回路もマナの貯蔵料もそう多くないのに、なぜあれほどの大魔術を・・・・」
「ふーん。普通に考えれば別電源があるんやろうて。さすがは発電機ってところやな」
「あっ、そうでしたね」
キョロキョロと周囲を探し、屋根から降りていくシエル。それに続く俺と妹さん。
シエルが地面に手をかざすと、紫電が飛び散り魔方陣が地面に浮かぶ。
「それは?」
「『式』です。対広域の侵食結界術式。」
「ほーん。まじかー」
晋吾はコキコキと手首や首を回す。
「・・・・何をしているのですか?」
「おん?準備体操。」
「なにを―――――」
「せーの、せい!!」
ズガンッ!と言う衝撃と共に消滅する結界術式。なにをしたって?そらいつもの結界破壊よ
「これで安心やね!」
「いやいやいやいや。おかしいでしょ。おかしいですって絶対。」
Vサインを見せてくる晋吾に全力で手を振って否定するシエル。
「そう言えば、あの結界どんな術式だったん?」
「・・・・自由な人ですね貴方は。」
「おうさ。フリーダム晋吾と呼んでくんろ。」
「・・・・アレはここから魔力を吸い上げていたんです。」
シエルは純粋に驚いていた。アポストロスはもっと超越した存在だと思っていた。
それが何と人間臭いコト。
「マジか―。アレいくつか繋がってたぽいけど大丈夫なん?」
「・・そこまで分かるんですかっ?」
「おう。手応え的に」
まぁでも、十分に理不尽な存在であることも分かったが。
「恐らくあれと同種のものがこの町にあと十数か所あります。その集束点がロアの根城です。ですので一つ一つシラミつぶしに・・」
「その必要はあらへんわ」
「まさかっ!?」
「おう。だいだい検討ついたわ。悪いけど、早いもん勝ちやで?」
「・・いいでしょう。私としてもまだこの手で討つことを諦めきれません。」
「ええやろ。1日ぐらいは待ってやっても構わんよ」
「フフッ。余裕ですね。後で文句は言わないでくださいよ?」
「男に二言はなか」
なにやら楽しそうに笑うシエルに余裕の表情を見せる晋吾。
「秋葉さん。おそらく、この事件はもうすぐ綺麗さっぱり解決します。何せ、神の御使い様がついてらっしゃいますからね」
そういって晋吾に笑顔を見せるシエル。晋吾は『神の御使い』のセリフに露骨に嫌な顔を見せる。
「そう言うことで、遠野君をよろしく」
後ろ向きで跳躍するシエル。そして残された晋吾と秋葉。
「ところで妹さん。」
「・・・・なんでしょうか?」
「ケータイとか持ってへん?」
おそらくこの少年は、いつか翡翠が言っていた兄の友人とやらだろうが、なんとも変わった子だ。神様の使いらしいし
「何に使うのですか?」
「おっ、あんがとさん。とりあえず待たせてるもんがおるんよ」
そういって借りた携帯で電話をかける。
『もっ・・も・・もしもし?』
「おお~アルー。ちゃんと出れたやないか。俺のケータイ壊してへんやろな。」
『も~。このぐらい出来るわよ!』
「若干緊張してたやろ?」
『してない!』
「してたやろ?」
『してないもん!』
あれ?なんで私の携帯でイチャイチャしてるんだろ?と秋葉は思った。
「おっ、そうやった。シッキー見つけたで。もうのびてるけど。」
『また?』
「おう。なんか一人で死者狩りしてたみたいや。」
『一人で!?危ないじゃない!?』
「ところがぎっちょん。危ないのは妹さんだったてオチよ。」
『妹?』
「まぁ、そこはおいといて」
なんか置いてかれたと秋葉は思った。
「ロアと戦いました。」
『また!?』
「んで逃げられました。」
『また!?・・・・・・なんか疲れてきたわ』
「ツッコミ疲れって奴やな」
『そうなの?』
「おうそうや。初体験やな。」
『え?エヘヘ。そうだねっ』
なぜか楽しそうな女の声。おかしいだろ!っと秋葉は思った。
「とりあえず今からそっち向かうわー」
『分かったわ。・・いつまでも待ってるから』
「ドアホ。俺がお前をいつまでも待たせるか」
『・・バカ。待ってるからね』
「おう。またな」
こうして電話を切る晋吾。
「妹さん。電話あんがとな」
「・・・・・・ええ」
貸すんじゃなかったと秋葉は思った。
妹さん、秋葉と別れて晋吾はいつもの公園に向かっていた。
「あっ晋吾!」
アルが飛びついてきた。なんだがぶんぶん尻尾を振っている犬みたいだ。
「お~よしよしよし。」
「あっ、やめてよ晋吾。恥ずかしいよぉ」
ついムツゴロウ撫でをしてやったら恥ずかしがっていやいやするアル。可愛すぎだろ常識的に考えて。
ハグしてアルの抱き心地を堪能する。今回はアルが腰を折っているいるから踵は浮いていない。
「晋吾ってあったかいね。」
「人間湯たんぽ晋吾です」
「湯たんぽ?」
「ぽかぽかするやつです」
「じゃ晋吾は湯たんぽだね。ぽかぽかする。」
「綾波かっ」
「綾波?」
ぽかぽかって言ったら綾波でしょう。
「んっ・・・・し・・晋吾」
「んーどうしたん」
アルも俺の肩を抱く。
「晋吾・・・・・・放して・・・・」
「自分で肩掴んどいて何言ってるんねん」
アルは俺の肩をしっかり掴んで放さない。むしろだんだん力が強くなっている。
「アルの抱擁が熱いです。晋吾です」
「・・・・」
ダンマリのアル。あれぇー?
「おーいアルー」
無反応。俺の骨がみしみしと悲鳴をあげてきた。
バキィッ
「ちょ・・マジか」
慌てて魔力を張る。痛くなくなった。
「アルー。おーいアルー。」
あむっ
・・・・噛まれた。
「アレ?もしかして我慢できなくなったん?」
返事をするかのようにあむあむと首筋に歯型を付けるアル。
・・・・これ、今魔力硬化やめるとスーパースプラッターな映像が見られるんやろなー
しばらくあむあむと歯型を付けられていたら、ふとやみ、どうしたかと思ったら。
ぺろぺろ。レロレロ
なんか舐められた。ペロペロ。俺、今ペロペロされてるお!シンゴクンペロペロ(^ω^)
ギリィィイイ!ギリギリギリッ
今度はめっちゃ強く噛まれてた。めっちゃ痛いぇええええ。魔力硬化してるのにめっちゃ痛い。
「くっ、されど今は耐える時!アルやって耐えてきたんや。今一時ぐらい耐えんか!」
しかし硬化を解除する勇気はない。せやかてしゃーないんや。めっちゃ痛いんやで?
「フッ。フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
「な、なんやこの地獄のそこから聞こえてくるような声は」
きょろきょろと周囲を見渡すと、シエルが電灯の上で不気味な笑い声を上げていた。
「なっ、シエルなにしとるんや。」
「何をしているかですって?それは・・・・こっちのセリフですッッ!!」
憤怒の表情を浮かべ、狂気の目を宿すシエル。
ヒィィイイイイ。
まさお君みたいな悲鳴をあげたくなるけど心の中で我慢。
「うちの御使い様にィイイイイイ!何しとんじゃコノボケェエエエエエエエエエエ!!」
「それって俺のマネっすか?」
カミカミしているアルに渾身の右ストレートを食らわすシエル。
吹っ飛ぶアル。俺の首筋にも激痛が走る。
「ぐぉおおお。イタリア以来だぞ痛みを感じるの。」
「ふぅふぅふぅ、アポストロスの血を啜ろうですって?穢らわしい下衆が!醜い吸血鬼が!!」
「アルは十分綺麗だと思うんだ俺。」
「お黙りなさい!」
「アイマム!!」
信者に黙れと言われる俺って何さ?
いや、別に神になったつもりはないけどさ。宗教はじめようなんて思ってないけどさ
「ゼロ!トロワ!セット!!」
黒鍵を投げているだけなのにクレーターを作るシエル。また吹っ飛ばされるアル。
「ちょ・・おま・・・・アル死んでしまうやろ!!」
「吸血鬼には等しき死を!」
そのうち第七聖典すら持ち出しそうな雰囲気である。
「アルー!落ち着くんや!今血を吸おうとしてもシエルさんが危ないわ!いろんな意味で!!」
「失礼な!」
事実やないか!
「う・・ぅう晋吾。大丈夫?」
ボロボロの状態で俺の心配をするアル。やばいなんか泣ける。
「アル!」
「行かせません!」
俺の前に立ちふさがるシエル。
「どくんやシエル。他人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に落ちるんやで?」
「どきません。第一、真祖との恋愛なんて認めません。たとえ主が認めても」
睨み合う二人。だんだんアルに対する仕打ちに怒りを抱いてきた晋吾。
「晋吾・・ごめんね。ごめんね。晋吾・・・・晋吾。晋吾・・・・怖いよぉ晋吾ぉ」
頭の中でナニカが切れた音が聞こえた。
「速い!?ぐっ」
シエルの後ろに周りこみ、手刀を打ち込み気絶させる。
「アル!もう心配ないぞ!」
「晋吾ぉ。晋吾ぉ」
泣きそうなアル。いや、もう泣いているのか。
「ダメなの。もう我慢できないの。」
「我慢せんでええ。いっぱい我慢したろ?もう楽になり」
「でも、でも、血をのんだらどうなるの?今まで通りに一緒にいられるの?またデートに行けるの?」
「ああ。行けるとも。いられるとも」
アルは、あぁあ、あぁああ、と感嘆をあげ、首筋に近づいてくる。
カリィ
恐らく、絶妙な手加減。肉をちぎることなく、ただ、皮を切り、血を出す。
その行為にアルの愛を感じた。
痛みなく済ませてあげたい。
そんなアルの愛情が、奇跡を産み、魔力硬化を薄皮一枚で破り一滴の血を流す。
そして・・・・
「ゴクリ」
喉をうるわす。舌で舐めとり、喉をうるわす。
「あぁ、あぁああ。真祖が使徒の血を・・・・」
「あぁあ、あぁあああ。晋吾が、晋吾が入ってくる・・・・」
嘆きの声を上げるシエル。晋吾の血の味に溺れるアルクェイド。
「晋吾・・晋吾・・・・」
そして真祖の姫は愛しき人の名を呼びながら、眠りについた。
後書き
シッキーの退魔衝動が強まった理由の後付とすれば、ロアに会ったことも一因ですが、根源に繋がった超能力者同士の交配を続けて人間としての純度を極限まで高めた七夜の者なので、『人間以外のモノ』に過剰反応してしまうのですが、根源に近い存在であるアポストロスである晋吾との交流で、さらに過剰になってしまったことも原因です。
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