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フェアリーテイルの終わり方

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九章 湖畔のコントラスト
  7幕

 
前書き
 父親 の 望み 

 
 大人たちが皆出て行った。家の中に残されたのは、イスを立たなかったフェイと、ソファーで眠るエル、そしてルル。

「むにゃ…パパ…エル、けっこうがんばってるんだよ…やくそく…だから」

 姉の寝言はしあわせ色に染まっている。

 フェイはようやく椅子を立ち、リビングの中を歩いて回った。
 棚の上に写真立ては二つ。一つは赤ん坊の姉を抱えた母と、母に寄り添う父。もう一つはごく最近の物らしき、姉と父のツーショット。
 それだけだ。それだけ、だった。

 次いでフェイは斜陽の湖を臨むバルコニーに出た。風が色のない髪を吹き上げる。
 ウプサーラ湖。フェイの感覚では10年前、この世界の時間経過では数ヶ月前、フェイが死のうとした湖。
 〈あの人〉がフェイを〈妖精〉にした特別な場所。

(もう分かってるでしょう? フェイリオ・メル・マータ。〈あの人〉が、あそこにいたユーレイたちがダレなのか。〈あの人たち〉をあそこに沈めたのがダレなのか)

 家の中に戻り、テーブルまで行ってエルが座っていた席の前で止まる。エルのスープ皿に残ったスープを指でなぞって舐めた。

(ああ。やっぱり)

 そして、踵を返してソファーに向かった。

「ナァ~…」

 ルルが心配そうにフェイの足にすり寄った。

「わたし、こんなにバカだったんだね。言われなきゃぜんぜん分かんなかった。メガネのおじさんの時も、セルシウスの時も、ミラの時も。パパの、時、も」

 フェイは眠るエルの前に座り、エルに状態回復術(リカバー)をかけた。間を空けずエルは目を開けて起き上がった。

「あれ……パパは? みんなは?」
「外でルドガーたちとお話し中。わたしはここで、お姉ちゃんと一緒に待つようにパパに言われたの」
「ナイショ話?」
「多分」
「エルたち、のけもの!? ズルイ!」

 エルがフェイに詰め寄った。フェイは悪いことをした気分になり、つい謝っていた。するとエルも勢いを無くし、同じく謝ってきた。

 二人して気まずい空気の中、エルのほうが先に声を上げた。

「――エル、パパんとこ行ってくる。何の話か気になるし。フェイも行こ?」
「で、でもわたし、パパに来るなって言われてる……」
「ダイジョーブ! フェイをおこらないでってお姉ちゃんからパパに言ったげるから」
「ほんと?」
「うん!」
「……じゃあ、フェイも一緒に行こっかな」
「ん、よしっ」

 エルがソファーを降りて手を差し出した。フェイはその手を握り返した。姉妹は手を繋いでこっそり家の外へ出た。






 テラスに出たフェイたちは、柱の陰へ身を屈めて進んだ。柱に隠れてこっそり陸を覗くと、ヴィクトルと何か話しているルドガーたちが見えた。

 話をよく聞こうと耳を澄ました時、フェイにもエルにも衝撃的な言葉をヴィクトルが発した。


「本物のエルとの、暖かな暮らし」


 エルが目を見開いた。本物? と、気の抜けた炭酸のような声を上げた姉を、フェイは堪らず後ろからきつく抱いた。

「ねえ、フェイ、エルは……ニセモノ、なの?」

 分史世界の人間はニセモノ。かつて〈ミラ〉をいないもの扱いしたフェイが分史世界の人間だった。それはいい。因果応報だ。
 だが、エルはニセモノ呼ばわりされる筋合いはないはずだ。フェイは特殊な入り方だったからともかく、もしもエルが分史世界の存在なら、正史世界に居る〈エル〉が障害物になって入れるはずがない。

「ありえない」
「でも」
「ゼッタイ、ない。フェイはそう信じる。お姉ちゃんはホンモノだよ」

 エルは体を返し、フェイの胸に頭を埋めた。

「わたし、パパに訊いてくる。何で急にホンモノなんて言い出したか。お姉ちゃんがいないとこでお姉ちゃんのヒドイコト言うなんて、パパでも許せないもん」

 いざフェイが出ようとした時だった。ヴィクトルが吼え、ルドガーに双剣で斬りかかったのだ。

「パパ!? 何で」

 ルドガーも双剣を抜いて受け流そうとするが、ヴィクトルのほうが速い。

「まさかヴィクトルさんは!」
「分史世界のルドガーか!?」

 フェイとエルは互いに顔を見合わせた。 
 

 
後書き
 エルにリカバーをかける
 →ヴィクトルさんあなた娘の皿に何か盛りましたネ?
「フェイをおこらないでってお姉ちゃんからパパに言ったげるから」
 →無自覚愛され宣言。自分がヴィクトルの特別だと認識しているからこそ出た言葉。
 エルとラルとの写真「しか」ない
 →ここでヴィクトルからオリ主への感情を推して量るべし

 この家族誰も彼も末期だよ…… 
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