フェアリーテイルの終わり方
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九幕 湖畔のコントラスト
6幕
前書き
妖精 が 気づいてしまった コト
父の料理が出来るまで、ルドガーたちはテーブルで、フェイはエルと並んでソファーに座って待っていた。
手伝う、と姉妹共に申し出たのだが、断られた。その断りに、フェイは確かな寒暖の差を感じ取った。
「パパってばフェイのこと分かんないなんて、ハクジョーモノっ」
「しょうがないよ。髪も目も、どころか歳も違うんだもん。お姉ちゃん、あんまりパパを責めちゃだめだよ」
「なーんかナットクいかない」
ソファーでルルを抱いてふて腐れる姉が可愛すぎて、フェイはつい小さなエルの体に思い切りすり寄っていた。エルは満更でもないらしく、垂れたフェイの頭をよしよしした。
やがてヴィクトルから声がかかる。
「用意が出来たから席に着きなさい」
「はーいっ」
その優しい声はやはりエルにだけ向けられたものだと、習い性で思ってしまう。
うきうきとイスに向かうエルを追って、フェイも無言で席に着いた。エルはルドガーの隣、自分はジュードの隣に座った。
テーブルにはすでに人数分のスープが並べられている。
フェイは毒でも置かれた気分で、目の前のスープをゆっくりと掬って口に運んだ。
「ごちそうさま。結構なご馳走だったよ」
ミラがナプキンで口元を拭って賛辞を贈った。ヴィクトルは答えずただ微笑んだ。
「おいしかったでしょ、ルドガー!」
「……あー。そうだな。俺の負けだ」
「君もこれくらいはできるようになる。そう……10年も経てば」
意味深な確約にルドガーは眉根を寄せた。だが、ヴィクトルは気にした様子もない。
「ふふふ。こんなに楽しい食事は10年ぶりだ」
するとエルがとろんとした目で舟をこぎ始める。
「食べすぎ、ちゃった。パパがエルの好きなのばっか、作る、から」
ヴィクトルが席を立つ。エルが甘えて伸ばした両腕を、ヴィクトルは首に回させ、エルを大事に大事に抱き上げた。頑張ったごほうびだよ、と――睦言のように告げて。
食卓から離れたソファーにエルが横たえられたところで、ルドガーが口火を切った。
「あなたは――何者なんだ?」
「この子の父親だよ」
「けど、あなたは」
「分史世界の人間、だろう? だが私は正真正銘、このエルと……そこのフェイリオの父親だよ」
――鼓膜が、今の一言で、破裂したかと錯覚した。
(パパが、あのパパが、ついででも「フェイリオの父親だ」って人に言った。こんな奇跡が起きる日が来るなんて)
「では、エルさんとフェイさんも……」
ヴィクトルが立ち上がった。
「娘が起きてしまう。話は外でしよう」
ルドガーたちの返事を待たず、ヴィクトルは玄関へと歩き出した。
ドアに手をかけたところで、ヴィクトルが今日初めて、フェイを顧みた。
「お前は姉さんとここに残りなさい。パパたちの話が終わるまで、外には出てくるな」
「……はい」
ルドガーたちがぞろぞろと席を立って玄関へと向かう。途中ジュードがフェイの肩に手を置き、「大丈夫?」とフェイの顔色を覗き込んでくれた。
フェイは薄く笑んで肯いて見せた。
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