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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第十六話

 ハクアの手に出現した弓は、非常に大型だった。《コニラヤ》と言うのは確か何処かの伝承に登場する月の神の名前だった気がするが……。

「ハクアさん、それは……?」
「私が保有する通常装備の中で、二番目に強力な武器です。最上位の物はハクガに貸してしまいましたから。……《マーキュリウス》を此処に持ち出すわけには、さすがにいけませんからね」

 ハクアが微笑む。しかしその中には、明確な戦闘意識があることを、セモンは直感的に悟った。《師匠クラス》は、もしかしたら片っ端から心の何処かでは戦闘狂なのかもしれない。

 セモンは刀を抜き放ち、構える。現在の所《六門魔術》が使えないセモンは、この武器を使用するしかない。

「あなたが戦闘中にまき散らす《気》とでもいう物で、なんとなく能力の方向性が分かります。私に備えられたアビリティはそう言った《気配》―――《本質》を感知するモノですから」

 アビリティ、と言うのは、確か六門神がレベルアップした時に得られるポイントを、ある分野につぎ込むことによって階梯強化のときに授けられる能力のことだ。ハクガがかつて説明してくれたことによると、コクトやカズはそれらいわば『レベルアップ・ボーナス』を《ギア》の強化につぎ込む方向のビルド、リーリュウは自身のアビリティの獲得、そしてハクガはアビリティとはまた違った補助能力、《スキル》を強化する方向にふっているらしい。

 この世界では、SAOにあった《スキル熟練度》と言ったものは無い。ソードスキルはシステム(?)に組み込まれているが、あれはあくまでも《特殊攻撃》とでも言うべき立ち位置である。恐らく、ソードスキルを使わなくても個人の戦闘力でカバー出来たり、六門魔術、そして《ギア》の存在が、ソードスキルが存在する意味をかなり薄めているのだろう。

 ハクアの《アビリティ》は、相手の《六門魔術》能力を決定づける《本質》という物を感じ取るモノらしい。

「では、はじめましょうか」
「……分かりました」

 セモンは刀を既定の位置に構えなおす。刀用突進系ソードスキル、《猛閃》が発動し、ハクアとの間に開いていた距離は、一瞬で縮まる。ちょっと驚いたようなハクアの表情。

「なるほど。遠距離を取らせないつもりですか――――《コニラヤ》、《モード:ブレード》」

 その言葉に反応し、《コニラヤ》が姿を変える。横に長かった弓身(リム)の部分が、ガシャン、と音を立てて縦に動く。その表面を、鋼質の輝きが蓋う――――ハクガの《セレーネ》も持つ能力、《剣化(ブレードモード)》だ。

 《ジ・アリス・レプリカ》には、本来SAOでは存在しないはずの《弓》にかかわるソードスキルが存在している。SAO時代、第七十五層までに通常スキル内では《弓》は存在しておらず、ユニークスキルにはケイロンの保持する《三日月弓》があるのみであった。セモンは《トライツイスト》のもつスキルの専用ソードスキルを良く知らないが、少なくともALOで新規作成された弓ソードスキル(アロースキル?)の中には該当するものが無かったため、恐らくは《三日月弓》のスキルはオリジナルのスキルだったのだろう。

 小波はALOにユニークスキルを植え付けるにも一枚かんでいるようなので、この世界には《弓》に関わるソードスキルもあると思われる。しかし《剣化》状態では、弓用のソードスキルが放てない。

 だが――――代わりに、片手剣用のソードスキルが使用可能になる。剣と化した《コニラヤ》の刀身が、淡い水色に光る。片手剣ソードスキル、《スラント》。SAO初期に広まった、片手剣の初期ソードスキル、《水平切り(ホリゾンタル)》、《垂直切り(バーチカル)》と並ぶ、《斜め切り》のソードスキル。本来は右上から左上に切り下げるモーションだが、実は左下から右上へ切り上げるモーションが用意されている。SAOではあまり見なかったが、左利きのプレイヤーのために、真逆のモーションも用意されていたらしい。

 跳ね上がってきた弓剣が、セモンの刀をはじく。この世界ではスキルディレイがかなり緩和されているため、即座にバックステップで距離を取る。そして、そこでハクアの罠にはまったことに気がついた。

「しまっ――――」
「ふふっ、気が付きましたか?……《コニラヤ》、《モード:ボウガン》」

 剣が、再び紺碧色の弓の姿に戻る。ハクアがそのハンドル部分に手のひらを当て、何かを引き絞るモーション。すると、いつの間にか発光する半透明の矢が出現していた。ハクガも持っていた、《光の矢作成(メイク・オブ・アロー)》――――

「―――――シッ!」

 短い気合いと共に、矢が放たれる。恐ろしいスピードで迫る光の矢を、セモンは必至で回避。再びハクアの方を見て戦慄する。

 いつの間にか、《コニラヤ》には新たな矢が装てんされていた。それも、同時に三本。現実世界でできるのかどうか怪しい無茶ぶりだ。

「マジかよ……!!」

 同時に放たれてきた矢を回避。さらに間髪入れず次弾が飛来。くそっ、と毒づき、ソードスキルを使用。この世界の大抵のソードスキルには、ALOと同じく属性効果が付与されているため、恐らく弾けると見込んでのことだ。

 果たして、セモンの放った刀ソードスキル《結月》の、弧を描く起動は、ハクアの放った光の矢を撃ち落とすことに成功した。

「よしっ!」

 そのまま刀を肩に担ぐようにして構え、ソードスキル《猛閃》を再発動。再び距離を詰める。ハクアもそれに合わせて、武器(コニラヤ)を剣へと変化させる。

 セモンの刀ソードスキルと、ハクアの片手剣ソードスキルがぶつかり合う。色とりどりのエフェクトライトが、あたり一面に飛び散る。

 セモンは刀ソードスキルを発動させようとし、ハクアの方を見る。このまま攻撃を続けていけば、押し切れる――――

 しかし、ハクアの左手がひらめいたとき、戦況が動く。そこに握られていたのは、光の矢―――ではなく、槍だった。

「なに!?」
「驚きましたか?《光の矢作成(メイク・オブ・アロー)》は、こんなこともできるんですよ」

 ふふっ、とほほ笑み、ハクアが槍を突き出してくる。その表面に宿る、淡い光――――ソードスキル。さらにそれは、逆巻く波の様な波動を纏っていた。

「嘘だろ……」

 思わずつぶやいてしまう。光の矢改め光の槍は、ソードスキルを使用できる。しかもそれは、通常のソードスキル……いわば《SAO版》ではなく、ベンチャー企業《ユーミル》のリメイクした、《ALO版》ソードスキルなのだ。そして、ALO版ソードスキルには、《属性攻撃》という追加効果が付与されている――――

 そして概して、そう言った攻撃は同じ属性攻撃でないと防御できない。現在、セモンの刀はどのソードスキルのモーションにもつなげることができない持ち方――――剣の腹を相手側に見せた形で握られている。先ほど発動させようとしたソードスキルは、自分の方に刀身を向ける必要がある。その技の途中で、発動を中止したため、こんな中途半端な持ち方となってしまった――――

「かはっ……」

 ALO専用槍ソードスキル、《オーシャンサイクロン》が、セモンを穿つ。吹き飛ばされたセモンを、さらにハクアの矢――――やはり弓矢用ALOソードスキル、《エクスプロード・アロー》が、爆炎を纏いながら襲う。ボールの様にバウンドしながら、セモンは地面に転がった。

「もう終わりですか?」

 ハクアが失望した様に言う。いや、とセモンは心の中で呟く。まだあきらめない。諦めたら終わりだ。いつしか、これが模擬戦であるなどと言うことは、きれいさっぱりセモンの頭から抜け落ちていた。

 戦況は最悪だ。相手には遠中近共用の攻撃方法がある。対するこちらには、刀だけ。《神話剣》は無い。今使えるのは、SAO時代、そしてALOで培った、曲刀カテゴリ、加えて刀用ソードスキルだけ――――

 どうする、どうする、と考える。この戦況を、どうすれば覆せる――――

「……いや」

 もう一度、心の中で呟き、首を振る。考えても仕方ない。そもそも、セモンは考えるのが苦手なのだ。

 自分には、ハザード/秋也の様に、莫大な知識や、計算力、冷静な判断力は無い。シャノン/陰斗の様な、奇想天外な発想は出来ないし、謀略も不得意だ。ゲイザーの様なテクニックも無い。コハク/琥珀の様な、強い精神力や高いセンスも持たない。

 代わりに、自分にはパワーがある。スピードがある。《神話剣》には、《二刀流》を超える連撃数のソードスキルが用意されていた。それは、このスキルが『押し切る戦法』を重視したスキルだからだ。《二刀流》や《舞刀》は、ヒット&アウェイを信条とするスキルだ。《二刀流》は、高威力・高速連撃のスキルを撃って、回避したのちにさらに攻撃を続ける。《舞刀》は、一撃一撃の攻撃力が低い代わりに、スキルディレイの短さや行動スピードは随一だ。

 《神話剣》は、《二刀流》や《舞刀》の様に回避することを前提としていない。斬って斬って斬りまくる。回避は無視する。実はそんなスキルなのだ。まるで、かつて神話の時代、荒ぶる武神と言われた、大蛇殺しの英雄の様に。

 すべてのユニークスキルホルダーを、同レベルにして比べた場合、実は最も攻撃力が高いのはセモンだ。最強だったのはシャノンの《帝王剣》の双巨剣の攻撃力だが、実はあの超攻撃力の半分ほどはシャノン自身の化け物のように高いレベルに依存しているきらいがある。
 
 細かい判断はできない。複雑な戦略も練れない。技術は無い。センスも無い。代わりに、攻撃力がある。脳みそ筋肉(ノーキン)だな、とつくづく思うが、それでも、戦局は変えられる。

 すなわち――――

「押し切るッ!!」

 その時、ガシャリ、と何かがはまった音がした……気がした。セモンは導かれるように、刀を肩に構える。片手剣用ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》のモーション。刀スキルではないので、使うことはできない。しかし……果たして、セモンの刀は、あの鮮血色のエフェクトライトを纏った。ギュォォォォ、と、ジェットエンジンめいたサウンドが響く。

 打ち出す。

「貫けぇ――――ッ!!」

 《奪命撃(ヴォーパル・ストライク)》が放たれる。本来ならばこの技の射程距離は、刀身の二倍程度。しかし、今、セモンの放った《ヴォーパル・ストライク》は、さらにその二倍ほどのスピードと射程距離を有していた。

「……!?」

 ハクアの顔に走る驚愕。

 それを見て、してやったり、とセモンが心の中で呟くと同時に、彼の意識の糸は切れた。


 ***


「……最後の攻撃は、素晴らしかったですね」

 精神を使い果たして気を失った、刀使いの少年を眺めて、ハクアは呟く。隣でコクトが頷く気配。

「土・光複合属性による、《効果の再編成》ですか……切って嗣ぐ、とはどう違うのでしょうか。成長が楽しみですね」

 《コニラヤ》のリムを撫で、お疲れ様でした、と呟く。同時に、その姿が消える。普段ハクアが武器などを置いている異空間、いわば《アイテムストレージ》たる、本来の居場所へと戻って行ったのだ。

 そろそろ部屋の片づけも終わっただろうか。ハクアは、コクトにセモンを任せて、家の中へと戻って行った。

「次は、どんな楽しいことがあるでしょうか」

 楽しみだ。 
 

 
後書き
 お久しぶりです、Askaです。『神話剣』最新話は、セモン君の六門能力の開眼でした~。次回からいよいよ《冥刀》獲得クエストへと出発の予定です。

 諸事情によりしばらく更新どころかログインが止まります。再開後はできるだけ高スピードでの更新を目指します!

刹「出来ないような気が……」

 う、うるさいやい! 
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