魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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A's編 その想いを力に変えて
A's~オリジナル 日常編
53話:翠屋好評営業中
前書き
予定通り日曜に投稿完了。
明日から試験なんで、次回は多分来週あたりになるかと。早くても次の日曜には。
かのPT事件から約二年が経ち、現在は六月。
春には俺達も五年生となった。そして再びこのジメジメした時期に入り、若干気分が憂鬱になっていく今日この頃。
学校が休みな今日も見事に雨がふり、外へ飛び出す気分もどん底に落とされた俺は、桃子さんと相談し、翠屋で疑似バイトをすることにした。
んで、どうせなら、と桃子さんは……
「いらっしゃいませ~!」
「い、いらっしゃいませ…」
「いらっしゃいませ~」
なのは達も誘ってしまった。
詳しく言うと、なのはとすずか、アリサの三人だ。フェイトとはやては、今日は管理局の仕事に出ていて朝からいない。なんか当の二人は凄く気を落としていたが……
そしてもっと詳しくいうのならば……三人の衣装は、なぜかメイド服だった。しかも猫耳付きの。
なぜ猫耳なのかと三人はツッコんだが、それは桃子さんのなんとも言えない話術で言いくるめられたみたいだ。もう少し抵抗すればいいものを。
因みに俺は執事服。あ、先に言うが頭には何も付けてないぞ?嘘じゃないからな?
ていうか男の猫耳とか需要ないだろ。誰得だよ。
しかし、三人の猫耳メイドが効いたのか、今日は雨だというのに人が結構入る。まぁバイト代が、ほんのちょっととは言え出るこちらとしては、うれしい限りだが……
「こちらミルクティーとカプチーノです」
最近ようやくテーブル席に物を置ける程の身長になってきていて、カップを置くのも楽になってきた。
少し前は大変だったな~。コーヒーとかを置くにもお客さんのお手を煩わせてしまうから、当時の俺にとっては恥ずかしいのなんの……
(しかしながら、今日は本当に人が多いな…)
そう思いながら、店内をぐるりと見渡してみる。
まず目に入ったのは、慣れない事をしている所為か、いつも以上に恥ずかしそうに動くすずか。まぁ接客業ははっきり言って慣れだからな~。慣れていないすずかはそれでもよくできている方だな。
次になのは。こっちは至っていつも通りだ。長年ここでお手伝いをしているだけある。何の問題もないだろう。でも猫耳には慣れてない様子だ。お客さんに指摘されたのか、猫耳を抑えて頬を赤らめながらお辞儀をしていた。
最後にアリサ。こちらもあまり慣れない事の筈なのだが…まぁ元々度胸があるからか、そこまで慌てている様子ではなかった。いい傾向ではあるな。
そして……よく見ると、小学生四人では少し回せていないのがわかった。注文待ち、注文したいけど忙しそう、という雰囲気がちらほら。まぁ注文なんていいって人もいるようだが……
あぁ、因みに恭也さんは今日は忍さんのところへ、美由希さんも何かと忙しいらしく、今日はこっちに来ていない。
その時ちょうど、来客を知らせるベルが鳴った。反射的に入口の方を見ていつもの如く―――
「いらっしゃいま…せ…」
「やっほ~、門寺君」
できなかった。やってきたのは去年からの付き合いの、カオルと駆紋。どうやら遊びに来たみたいだが……
すかさずチラリ、と横目でキッチンにいる桃子さんを視認する。あぁ…目が、目が輝いてる。なんか企んでる目だ。だから来るなと言っておいたのに……
「お前、今朝メールで来るなと言っておいただろう(ヒソヒソ)」
「えぇ~、つれないな~。いいじゃんよ~。ていうか来るなと言われて来ない方が、人間としてどうよ?」
執事服結構似合うね。と笑みを浮かべながら言うカオル。
そんな事思っているのは絶対お前だけだ。まぁ…来てしまったものはしょうがない。桃子さんもその気だし、今は手数も欲しかったところだ。丁度いい。
「桃子さん、執事服後何着ありますか?」
「ふふ…大丈夫。こんな事もあろうかと、前々から準備してたから♪」
それは何よりなこって。ていうか『こんな事もあろうかと』とか、やっぱ桃子さん怖いわ。
「おい二人共、こっちこっち」
「ん?なんだ門寺」
「何々~?VIP席?」
そんなものは翠屋にはない。
「―――…これで、よしっと」
翠屋の奥、着替え室に二人を連れ込み、事情を軽く説明。途中帰ろうとした駆紋を二人がかりで止め、二人には執事服を来てもらった。
「Wao!意外といけてるもんだね、執事服ってのも」
「…なんで…俺が、こんな恰好を…」
さらにカオルには黒く細いフレームのメガネを、駆紋にはメガネをかけない状態で髪をポニーテールのように束ねてもらった。
「俺の忠告を無視して来た貴様らが悪い。というか駆紋、よく来る気になったな」
「フン…」
俺の言葉に対して、そっぽを向く駆紋。つれないね~。
「それよかさ、門寺君」
「ん?なんだ?」
カオルはというと、着替え室の扉を少しだけ開けた状態で、まるで覗き魔のような形で店内を見ていた。
部屋のテーブルの上にあったコップを手に取り、返事を返してみると、カオルは扉を閉めて何やら真剣な顔つきになってから、口を開いた。
「あの三人の中で誰が一番可愛いと思う?」
「ブゥーーッ!!」
「どわっ、きたなっ!?」
思わず、口に含んでいた水を噴いた。駆紋の顔がある方に。
「なっ、なんだいきなり!おまっ、いつになく真剣な顔してるなと思ったら…!」
「いんや~、結構重要だと思うよ、これ」
だからってお前、俺が水飲み込んでからでもよかっただろ。まさか、狙ってか?
「テヘッ!」
「だから男がやっても気持ち悪いだけだからな、それ」
その脇ではタオルで顔を拭く駆紋。まぁ悪いことはしたと思う……だが私は謝らない(笑)。
「それで?誰が一番可愛いと思う?」
「っ、それは……」
「僕は断然月村さん推しかな。なんかいつも以上にもじもじしているのが可愛い」
勝手に話を進めるんじゃない。
「駆紋君は?」
「どうでもいいし、興味もない」
相変わらず素っ気ない返答をしながら、タオルを畳む駆紋。使ったタオルをしっかり畳むとは、意外と几帳面なんだな。
その時、丁度良く入口の扉が開き、桃子さんが顔を出してきた。
「そろそろいいかしら?お昼近くなってきたし、これから少しお客さん増えると思うから」
「了解です」
桃子さんに言われて初めて気づいたが、確かにもう正午近くまで来ていた。
「じゃあ仕事の確認をしよう。カオルは注文を受けるのを、駆紋は注文の品を運ぶのを頼む」
「りょ~かいっ!」
「………」
この配置ははっきり言って駆紋の性格から決めた。こいつは接客に向かないと思うからだ。
まぁ、それに比べカオルの方は接客に向いている……というのはなんか違うような気もするが、それでもこっちの方が向いている。
「テーブルはあそこから数えて2、3、4―――…と、そういう感じで」
「はいよ~」
「じゃあカオルはすぐに行ってくれ。注文待ちの人達もいるから」
そういうとカオルは手を振りながら部屋を出ていった。
「それじゃ、俺達も…」
「…わかった。行こう」
なんか深いため息をついてから、俺についてくる形で駆紋も部屋を出た。
結論から言おう。カオル、駆紋が入って、翠屋はさらに繁盛した。
元より、小学生にしては美形…まぁイケメン寄りな二人だ。いつもは真っ白な制服だが、それ以上にしっかりした執事服が、二人をさらに目立たせた。
「コーヒーを二つとモンブラン、ショコラを一つずつでよろしいですか?」
女性に対する接客に、いつものヘラヘラスマイルではなく、意外にもキリッとした笑顔で対応していた。
「…こちら、カフェオレとコーヒーになります」
駆紋も方も、不愛想ながら接客に勤しんでくれていた。
そんな二人の行動が功を奏したのか、客足は昼を過ぎても減ることはなかった。
まぁこちらとしては忙しいのがずっと続くのは辛いが、それでも皆はそんなマイナス発言をすることなく、なんなくピークをこなした。
「だ~…」
「つ、疲れるわね…思ってた以上に…」
「う、うん…」
今店にいる最後のお客さんを見送り、俺となのは以外の四人は空きテーブルに座る。どうやら相当疲労していたらしく、四人は座った途端深いため息をついた。
「にゃはは…皆、お疲れ様~」
「まぁ、慣れてないと知らず知らずの内に気を遣うからな…」
そんな四人を若干見下ろす形で見るのは、俺となのは。俺は勿論、なのはもこういう手伝いを何度もやってるから、そこまで気苦労はなくいられる。
「よく立っていられるな~…」
「まぁな」
カオルは疲労から出る苦笑いを向けてくるので、代わりに俺は嫌な笑みを返す。
―――その時だ。
「お邪魔しま~す」
「どうや?混んでは…いないようやな」
そこへやってきた新たな客は、なんとミッドに行っていた筈のフェイトとはやてだった。
「はやてちゃん!?」
「フェイトも!?どうして…!?」
「いやな、昨日のメール見てなんやうずうずしてもうてな?」
「二人でその話をしたら、なんか私達も…って感じになって…」
「速攻で仕事こなして戻ってきたって訳や!」
二人の登場に驚いたすずかとアリサは思わず声を上げてしまうが、それに対して二人は恥ずかしそうに照れながら答えた。
「大丈夫なのか?」
「一応こなさなきゃいけない仕事は終わらせたし…大丈夫だと、思うよ」
「そ~かい…」
俺の質問に少しはにかみながら答えるフェイト。少し顔が赤いのは、ここまで走ってきたのだろうか。
「つ、士…」
「ん~?あぁ、立ち話もなんか。皆あっちにいるし、仕事終わった後だしな」
「い、いや…違くって…」
お、おう。となんか雰囲気に気圧されてしまった。ど、どうしたんだ?
「…服」
「…ん?」
「執事服、カッコいい…似合ってるよ」
どうやら、俺の恰好の事を言ってくれたらしい。そういえば、他の奴らには言われてなかったな。
「…ははっ、ありがとな!嬉しいよ」
「う、うん…!」
フェイトは嬉しそうに笑って、皆のところへ駆け寄っていく。
あぁ…なんか嬉しいな。他の奴らから言われなかったのもあってか、意外にこの感情が大きく感じる。
そんな俺の気持ちも知る由もなしと言いたげに、はやては皆の服を称賛していた。
「皆え~なぁ、私もメイド服着てみたい」
「はやても着てみたら?」
「う~ん…そうしたいんやけど…」
「着替えぐらいなら私達だって手伝うし」
「フェイトちゃんもどう?」
「え?いいの?」
「結局いつもの五人が集まっちまったか…」
「いいじゃんいいじゃん。別に悪いことじゃないんだから」
「…ただ騒がしいだけだろ」
はは、手厳しい一言だな。
そうこうしている内に、なのは達五人は着替え室へ。その後ろには桃子さんの姿が。……あの人も一緒?
「二人とも、お疲れ様」
「士郎さん」
「あ、ありがとうございます」
「いただきます」
そこへやってきたのは、翠屋のオーナーの士郎さん。二つのコーヒー入りのカップを持ってきて、テーブル席に座っていたカオルと駆紋の前に置く。
「今日は桃子の無理に付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ、それを言うならなのは達に言ってあげてくださいよ。主にターゲットになったの、あの三人ですし」
「桃子さんも面白いことしますね~」
そう言いながら、カオルは渡されたコーヒーを一口飲む。
「…うまっ!?」
「そう言ってくれると、こっちとしてもうれしいよ」
そういえば二人とも、翠屋のコーヒー飲むの初か。何故か士郎さんが淹れると、格別おいしくなるんだよな~。
「因みに、ミルクや砂糖入れても?」
「あはは、別に止めやしないよ」
それを聞いたら、カオルは側にあったミルクを手に取り、少量入れて混ぜる。そして再び一口。
「やっぱりおいしい…下手な喫茶店やスタ○なんかのより、断然おいしい」
「………」
士郎さんのコーヒーを絶賛するカオル。そしてその横で、無言のままコーヒーをすする駆紋。駆紋の方もどうやらお気に召したらしい。
そうこうしていると、着替え室から五人がわらわらとやってきた。
「士君、どうや?」
「ど、どう…かな?」
なのは達と同じメイド服を着たはやて、フェイトの姿があった。しっかり猫耳付き。
そんな慣れない姿が恥ずかしいのか、モジモジしながら俺の返答を待つフェイト。堂々とした態度で笑顔を見せるはやて。
「二人とも似合ってる」
「あ、ありがとう」
「おうきにな」
……ん?なんだ?なんかカオルが俺の肩を叩いてくるぞ?
「どうしたカオル」
「門寺君、カメラ貸してもらっていい?」
カメラだと?お前、俺の相棒を何に使おうというのだ?……まぁわかっているが。
「スカートの中など撮らせんぞ?」
「何を仰るか、門寺君。ギリギリ見えないからこそロマンがあるんだよ?」
こいつ……本当に小四か?
「でもまぁ、写真を撮るってのはいい案だな」
「え、まさか君も…!?」
「普通の集合写真だ。お前と一緒にするな」
そう言って俺は着替え室に置いているいつものカメラを取りに―――
「そう来ると思って、さっき取ってきておいたよ」
いこうとした途中で、はやてが何処からかカメラを取り出してきた。まったく、感がいいのか、読みが深いのか。
「んじゃまぁ、撮りますかね」
「士君も混ざったら?写真なら撮るわよ?」
「あ、じゃあお願いします桃子さん」
はやてから渡されたカメラを桃子さんへ渡し、俺も皆のところへ。既に皆集まりつつあり、ワイワイしていた。
「士君、こっちこっち」
なのは達に呼ばれ、俺は皆の元へ。空いている場所ははやてとカオルの間。しかも中央だった。
「俺中央かよ」
「いいじゃん。主役は中央を取るべきだよ」
なんの主役だよ。
他の皆もそこに座れという目線を向けてくるので、俺は渋々そこに陣取った。
「それじゃあ、撮るわよ~。ハイ、チー…―――」
『ズ』の瞬間、横にいたはやてに腕を組まれると同時に引っ張られ、反対側にいたカオルに肩を組まれ体勢が前のめりになる。さすがにこの行動には驚きを隠せなかった。
さらには後ろのなのは達四人も飛び込むように覆いかぶさってきた。正直言って四人は重い。
その状態で―――桃子さんはシャッターを押した。
そして次の瞬間には、俺が皆の下敷きになっていた。いくら小学生と言っても、自分も小学生なので…無茶苦茶重い……
「桃子さん、すいません。もう一枚撮ってもらってもいいですか?」
「えぇ~?結構よかったから、別にいいじゃない」
「俺だけ絶対マヌケな顔してるんで絶対嫌です!」
ふふ、と不敵な笑みを浮かべる桃子さん。もう嫌だこの人のこういうところ……
「後で複製できたら頂戴ね、士君」
「期待してるわよ」
「お願いね」
「まさかの全員グルとか…」
こいつらいつの間に桃子さんと?
「それ僕にも頂戴ね~」
「どわっ!?いい加減離れろお前は!」
「門寺、俺にもな」
「お前らもグルだったか」
なんて奴らだ。俺に内緒でそんな事を考えていたなんて…やってくれる。
「よし、現像してもお前らには渡さねぇ」
「「「「「えぇ~!?」」」」」
「この人でなし!」
「…意気地なし」
「最後の二人表に出ろ。相手になるぞ」
人でなしとか意気地なしはないだろ、てめぇら。ぜってぇこいつらには渡さねぇ!
そしてその光景の何が面白いのか、桃子さんと士郎さんは終始笑顔を見せていた。こっちとしては笑いものにされている気分で、釈然としなかったが。
そんなやり取りは、次のお客さんが来るまで続いた。
皆が笑顔でいて、なんも危険のない。そんな平和で和やかな日常が、いつまでも続くと思っていた。こいつらといれば、いつまでだって続くと…そう思っていた。
―――あの事件が起こる…その時までは。
後書き
下手な伏線でごめんなさい。(_ _)
次回からはオリジナルストーリーとなります。原作にない部分が多いので、時間がいつも以上にかかるかと思います。皆さんには申し訳ないですが、首を長くしてお待ちしていてください。
では、テスト頑張ってきます!
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