魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
54話:現実となる悪夢
前書き
日曜に上げるとか言っておきながら、結局水曜投稿。もう少し書くペースを上げたいです……
A`sの空白期にオリジナルの話をぶっこみました。オリジナルの話なんで、独自の解釈やご合主義などがあります。ご了承ください。(_ _)
いつもの放課後の筈だった。
学校公認のカバンを担ぎながら、いつもの通りの帰路を歩き、高町家へ向かっていた。
「士く~ん!」
後ろから呼びかけられ、振り返ると、小さなツインテールを揺らしながら走ってくるなのはがいた。
いつものように無邪気な笑顔を振りまいて、こちらにやってくる。
その光景に、思わず笑みをこぼし、俺は立ち止まる。
そう…いつも通りの―――筈だった。
次の瞬間、なのはの背後が黒く染まった。そしてそこから、無機質な刃と機械的な腕が飛び出す。
その光景に目を見開き、なのはの名前を叫んだ。
俺の視線を追って振り返ったなのは。だがもう時すでに遅く―――
刃はなのはを襲った。
「―――だぁっ…はぁ…はぁ…」
夢。
それは夢だと、起きてすぐにわかった。なんて質の悪い…ものすごく嫌な夢だ。
俺の頭はどうかしてしまったのだろうか、と思うぐらいグラグラと揺れ、視界は周る。寝間着には自分の汗がびっしょりと染みついていた。
「……夢、か…」
俺はそう呟いて、起こした体を再び寝かせた。ようやく視界が安定して、いつもの天井がしっかりと映る。
ただの夢にしては、やけにリアルだった。感覚でも麻痺したか?頭が揺れるぐらいの夢ではないだろうに。まったく……朝から気分悪くなるとは。
「最悪だ……くそっ…!」
投げやりに言い放って、俺は拳をベットに打ち付けた。
「士君?起きてるの?」
「あ、あぁ…なのはか」
扉の向こうからかけられた声は、俺の部屋の隣で寝るなのはのものだった。
「悪い、起こしたか?」
「ううん?でももう、学校に行かなきゃ遅刻しちゃう時間だよ?」
へ?とマヌケな声を上げて時計を確認すると、確かにそんな時間だった。
「ま、まずっ!なのは悪い、先行っててくれ!」
「う、うん…!」
俺はなのはを先に行かせ、慌てて制服に着替えた。
「お、おはようございます、桃子さん!」
「あら、今日は珍しくお寝坊なのね?」
下のリビングに着いてすぐに用意された朝食を頬張る。行儀悪いのは百も承知だが、今は少しでも急ぎたい。
「ほひほうはまでひた(ごちそうさまでした)!」
「大丈夫、士君?」
「んっ…(ゴクン)ぷはっ…大丈夫です。それじゃあ行ってきます!」
「気をつけてね~」
桃子さんに見送られ、俺は家を出た。この時間だと、もうバスだと間に合わないし、走った方がいいか。
「だぁらっしゃぁぁぁぁぁ!!」
猛ダッシュ!間に合えぇぇぇぇぇ!
―――だがその時は、まだ思いもしなかった。
この夢が…まさかあんな形で、俺の目の前にやってくるなんて。
それが起きたのは、その数日後だった。
その日は管理局の仕事で、なのはとヴィータの所属する武装隊と、俺の所属する武装隊の合同調査任務をすることになった。
調査先はとある辺境世界で最近見つかった遺跡で、そこで時々妙な反応が出たり消えたりを繰り返している、とのことだった。可能性として、ロストロギアが関係しているかもしれない、との見解もあった。
なので管理局としては、しっかりとした調査をする必要があるという結論に至り、最初は時間のあったなのはの部隊に。そして怪人達…“大ショッカー”の可能性も考慮され、俺のいる部隊にも調査の指示が出たのだ。
「サーチャーは撒いたが…なんだ、物寂しい雰囲気の場所だな」
「まぁ、辺境の世界だからな。そう思えるのも仕方ないんじゃないか?」
そんなもんか?と少し眉を寄せて、ヴィータはさらに周りを見渡す。
ところどころに石でできた柱が、斜めだったり途中で折れてたり、様々な状態で建っているこの遺跡は、周りを見るだけでは何者かの気配はない。ここで反応があったとは、思えない程に静かだった。
空は今にも雪か雨は降りそうな黒い雲で覆われ、太陽の光があまり見られなかった。
「しっかし、ヴィータと一緒の仕事ってのは、あんま無かったな」
「…なんだよ?」
「んにゃ、別に」
「こっちとしてはなのはと同じだし、さらにお前と一緒になるなんて、思いもしなかったけどな」
はっはっは、酷い言い様だな。
心の中ではそう笑いながらも、俺はふと視線を後ろに向けた。そこにいるのは、ゆっくりとした足取りで浅く積もった雪を踏みしめるなのはがいた。彼女の顔は前を見ておらず、さっきからずっと下を向いたままだった。
「…どうした、なのは?大丈夫か?」
「え!?あ、うん…大丈夫…」
俺の質問で顔を上げるが、弱々しい返事と共に再び視線を落としてしまった。
その様子に、ヴィータはさらに眉を中央に引き寄せた。お前それ以上やったらシワになるぞ?
最近、なのはの様子がおかしいことに気づいたのは、ここ数日のことだった。
まず見るからに元気がない。俺達に見せる笑顔に、何処となく違和感のようなものを感じていた。
さらに、何もないところで時々つまずくようになった。酷い時には完全にコケてしまう事すらあった程だ。
「……はぁ…」
「…なのはの事か?」
「あぁ…なんか最近様子おかしい気がしてならないんだよ…」
「そうか?ドジでコケそうになるのは、前にもあったと思うぞ?」
「まぁ、そこは否定しない」
ヴィータの言葉に、頭を掻きながら答えた。
なんでだろうな…何処か棒の先で突っつかれるような……
その時、数日前に見たあの夢が頭を過った。いきなりの事で、思わず表情を変えてしまう。
「なんでこんな時に…」
「ん?どうした士?」
「…いや、なんでもない」
こちらをチラ見していたヴィータが、俺の異変に気づいて声をかけてきた。俺はそれに対して、ヴィータから目を反らしながら答えた。
やっぱ俺の気のせいか?でも変な感覚は抜けないし……
「にしても、なんの反応もないな」
「そうだな。隊の他の奴らからの連絡もねぇし…」
「ま、周囲に反応がなければ今度は遺跡の中に行くだけのこと―――」
〈マスター!周囲から未確認反応を確認!〉
「「「っ!?」」」
ヴィータと会話をしていると、突如トリスが警告をしてきた。
それを受けてすぐに周囲を見渡す。そこにはどこかの光を反射させている、銀色のボディーの何かだった。足は六本あり、ボディーと同じ銀色の二枚羽を持つ、まるで虫のような姿だった。
「なんじゃありゃ?」
「それがわかれば“未確認”なんて言わねぇだろ」
「それもそうだな」
ヴィータは俺の疑問に答え、自らの相棒を手にし構えた。俺も手首にあるトリスに触れ、ディケイドライバーへ変える。
「…なのは」
「?何、士君?」
俺はディケイドライバーを腹に当て、腰にベルトを装着ながら、後ろにいるなのはに声をかけた。
「…無理は、するなよ」
「……うん、わかった」
なのはもレイジングハートを手に取り、構える。その表情は、しっかり引き締まっていた。
「…行くぞ、トリス」
〈 All right. 〉
〈 KAMEN RIDE・BLADE 〉
俺がベルトにカードを装填し発動するのとほぼ同時に、奴らがこちらに向けて動き出した。
それを見たなのはとヴィータは空へ飛び、俺は前に出現したオリハルコンエレメントに向けて走り出す。それをくぐり、ブレイドへと変身した後、ライドブッカーをソードモードへ切り替えて、向かってくる機械昆虫(仮名)を斬りつけた。
「はぁああっ!」
剣を使った技を中心として、途中で蹴りや裏拳などを織り交ぜながら蹴りらしていく。
「(にしても、数が多い…三人でならやれるが、他の隊員の方は大丈夫なのか?)トリス、他の奴らとの連絡は?」
〈やっていますが、何処も応答がなく…〉
「他の皆も奴らと交戦中と考えた方が妥当だな」
となると、さっさとここらの奴らを蹴散らして、他のフォローに行かなければ…
「ぐっ、であぁっ!」
目の前にいる機械昆虫が振り上げた鎌をライドブッカーで受け止め、弾き返してから斬りつける。
さらに周りに集まってきた二、三体を斬ったり刺したりして後退する。四体はそれぞれ火花を散らして、爆発した。
だがそれでも新たな機械昆虫がやってきて、正直キリがない。
「ちぃっ!」
近づいてきた一体をすれ違いざまに斬りつけ、その後カードを取り出す。
〈 ATACK RIDE・KICK 〉
「だぁああっ!」
カードの発動と同時に飛び上り、別の機械昆虫に跳び蹴りを当てる。蹴りを受けた昆虫は吹き飛び、数体を巻き込みながら爆ぜた。
ふぅ、と息を吐き、一旦周りを見渡す。
ヴィータは…相変わらず豪快だな。鉄球飛ばして、さらに近づいてきた奴には相棒を振りぬき、どんどんと蹴散らしてく。あっちは大丈夫だな。
逆になのはは…見た目変わったところはない。だが、何処か反応が悪い。いつもの速度より、ワンテンポ遅れて行動しているように見えた。
(あいつ…本当に大丈夫なのか?)
だがそんな思考もさせる暇を与えないと言わんばかりに、機械昆虫がまた寄ってくる。
「ほんと、しつけぇ!」
また寄ってきた奴を斬って、蹴り飛ばして倒していく。
その時、周りにいる機械昆虫の間から、バスターモードのレイジングハートを構えるなのはの姿が見えた。
砲撃魔法を放ち、ピンク色が機械昆虫を飲み込む。一安心した様子のなのはの頬から、汗がしたたり落ちる。
―――その瞬間、なのはの背後で『何か』が揺らめいた。
「っ!?なのは!」
〈マスター、後ろです!〉
「―――っ!?」
俺の声とレイジングハートの声に反応して、なのはは後ろに振り向いた。
だが振り向いた瞬間、なのはは何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
「なのはっ!!」
「っ!?」
吹き飛ばされたなのはは地面に何度かバウンドし、転がりながら止まる。その光景に俺は叫び、それを聞いたヴィータもこちらに振り向いた。
先程なのはのいた場所には、一体の機械昆虫が。なのはが吹き飛ばされた時にはいなかった筈だ。高速移動の類だろうか。
「なの―――ぐぁあっ!」
すぐになのはの元へ行こうとするが、背後から攻撃されてしまった。
この!と思い振り向きながら斬りつけて、再び走ろうとするが、それを阻むように機械昆虫が現れた。その奥では、立ち上がろうとしているなのはに向かっていく奴らの姿が。
「こんのぉ…!」
〈 ATACK RIDE・THENDER
ATACK RIDE・MACH
ATACK RIDE・TACKLE 〉
「邪魔ぁ、するなぁぁぁぁぁぁっ!!」
カードを連続で発動して、肩を突き出すように飛び出す。体は電気を纏い、目の前の機械昆虫をも蹴散らし、一直線になのはの元へ向かった。
失敗してしまった。
冷たい地面で横になりながら、私はそんな事を思っていた。何が何だかわからない内に吹き飛ばされていた。体中は痛いし、頭から血が出ているようだ。口の中もあまり慣れない鉄の味がする。
「ぅぅ…」
左肩を抑えながら立ち上がると、目の前に虫のような姿をしたものが鎌のような手を振り上げてきた。
「っ!?」
〈 Protection 〉
思わずレイジングハートを構えて、防御魔法を発動する。振り下ろされた鎌を防壁で阻んで、方向を変えて反らす。
だけど、さらにそこへ逆の鎌を薙ぎ払われて、防壁に当たる。
「―――っあああっ!?」
防壁を打ち破り、鎌が私に当たった。そのまま私は吹き飛ばされて、さっきと同じように地面に倒れた。
力の入らない腕で、やっとのことで仰向けになる。周りの状況を知るために前を見ると、虫のような姿をしたものが、こちらに向かってやってきていた。
すぐに逃げようとするけど、体が上手く動かない。ならレイジングハートを、と思ったが、さっきの衝撃で遠くへ飛ばされていた。もう手を伸ばしても届かないところにあった。
そうやっている内に、目の前にやってきた一体が、鎌のような手を振り上げてきた。
(ダメだ、もう間に合わない…)
そう思った瞬間、目を閉じた。その日の光が銀色の鎌に、眩しく反射するのが…怖かったから。
「―――ぁぁああああっ!!」
だけどそこへ物凄い轟音が響いた。
思わず目を開けると、そこには銀色の背中が。でもその銀色は、襲い掛かるようなものじゃなかった。
紺のアンダースーツに銀のアーマー、赤い複眼と頭の上にある尖がり。見たことのない姿だけど、一つだけ共通しているもの―――そのベルトだけは、同じだった。
「…つかさ、くん……」
「なのは、だいじょう―――」
―――ズブリ、と。
その時、嫌な音と一緒に、士君の脇腹から血が噴き出した。
「―――っ!?」
「…ぐっ…ぅぁ…」
一瞬、何が起きたかわからなかった。ただ…士君が苦しんでいる事だけは、その声からわかった。
すると、士君の脇腹の先から、何かが色付いていく。それはさっき、私が怖いと思った銀色の鎌だった。ただ、所々に士君の血がこびり付いていた。
「…ま、さか…透明化…!?」
さらに士君の目の前の光景も色付き始め、あの銀色の虫が現れた。それを見た士君は、苦し紛れに呟いた。
「―――…んのぉぉぉ!!」
だけど士君はすぐに声を張り上げ、剣で虫の腕の部分を切り裂いた。
腕を斬られた衝撃で後退する虫に対し、士君は剣を突き立て、さらにその剣の柄の部分を蹴り、蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた虫は少し離れたところで爆発して、突き刺さっていた剣は空中で回転しながら落下して、少し離れた場所に突き刺さった。
「はぁ…はぁ…はぁ……くぅっ…!」
それを見届けた士君は、痛々しい声を上げて片膝をついた。
だけどそんなのお構いなしに、虫はどんどん寄ってくる。それに対処する力が士君にないのは、火を見るよりも明らかだった。
「はぁ…はぁ…くそっ…」
「―――だぁぁあああああっ!」
そこへやってきたのは、ヴィータちゃんだった。周りに寄ってきた虫を弾き飛ばし、地面に着地した。
「なのは!士!大丈夫か!?」
「この状況で…大丈夫だって、思えるんだったら…眼科行った方がいいぞ…」
地面に突き刺さる士君の剣を抜き取って、急いでやってくるヴィータちゃん。士君はヴィータちゃんから剣を受け取ると、すぐに剣を地面に突き刺して、自分に刺さる鎌に手をかけた。
「ば、バカッ!それあんま触んない方が…!」
「うっせぇ……くぅぅっ、うぁあっ!」
ヴィータちゃんの忠告も聞かず、士君は鎌を抜いて放り棄てた。
苦痛で声を上げて、左手で脇腹を抑える。だけどすぐに剣に手をかけて、一枚のカードを取り出した。
〈 ATACK RIDE・RECOVER 〉
それをベルトへと入れてバックルを回すいつもの動作をすると、ベルトの宝石のところから、光の粒子が出てくる。それが士君の左脇腹と、私を包み込むように移動してきた。
その光は私の中に入ると、全身にあった痛みが引いていくのを感じた。なんか体が楽になっていくのがわかった。
「これは…」
「俺の唯一の…回復魔法、とでも…言おうか」
士君の傷も塞がっているようで、左脇を摩っていた。体には血が付いたままだったけど。
「でも俺となのはの傷口をふさぐので精一杯で…あくまでも応急処置程度だから、下手に動かすのは、あまりしない方がいい…」
「あ、あぁ…幸い、さっきの奴はだいぶ減ったし、少し待っててくれれば私が―――」
ヴィータちゃんがグラーフアイゼンを構えて、再び戦いに向かおうとした瞬間、視界の向こうに銀色のオーロラが見えた。あれはいつもの…怪人がやってくる時の…
「―――…なんて、タイミングの悪い…」
「マジ…かよ…」
そこからやってきたのは、何十体もの怪人達。それを見て士君もヴィータちゃんも、難しい声を上げていた。
「…ヴィータ、他の連中は?」
「あ、あぁ…―――…っ!?…他のところにも怪人が出たらしい。しかもあいつらの所為で怪我人もいる…その中には重症な奴も……。正直言って、状況はかなりヤバい…」
くそっ、と顔を歪めて嘆くヴィータちゃん。それを聞いた士君は、ゆっくりと立ち上がり、ヴィータちゃんより前に出た。
「……ヴィータ、お前はなのはと隊の奴らを連れて、一旦引け…」
「なっ!?何言ってんだよ!今の状況わかってんのか!?」
ヴィータちゃんは前に出てきた士君の肩を掴み、士君を止める。
「引くってことは、奴らの追撃戦になる!そうなると、怪我人が多いこっち側が、圧倒的に―――」
「だったら誰かが残って、奴らを足止めすればいい」
その言葉を聞いて、ヴィータちゃんは目を丸くした。
「まさか士…お前が残る気じゃ…」
「そのまさかだ。この状況にうってつけのライダーがいる。そいつでなんとか―――」
「バカ言え!ここであれだけの数だぞ!?ケータッチがない状態で、アレを抑えられるのか!?それにお前言ったよな?さっきの回復はあくまでも応急処置程度だって。だったらお前だって―――」
「ヴィータっ!!」
「―――っ!?」
士君のいきなりの怒声に、ヴィータちゃんも私も体を震わせた。
「…もう一度だけ言う。なのはと他の奴ら連れて…さっさと逃げろ」
「……で、でも…!」
「いいから早く行けっ!!」
「っ……!」
ヴィータちゃんは士君の言葉に、奥歯をギリッと鳴らした。そして振り返って、黙って私を抱えた。
「ヴィ、ヴィータ…ちゃん…」
「なのは、少しだけ我慢しててくれ」
ヴィータちゃんはそれだけ言って、また顔を士君に向けた。
「…必ず、戻っからな……」
「……あぁ、待ってる」
それだけの言葉を交わして、ヴィータちゃんは私を抱えたまま空を飛んだ。
「―――聞こえるか?総員、一時撤退!怪我人がいるところは、そいつらを助ける事を優先しろ!まだ動ける奴は、士が援護に来るまでなんとか堪えてくれ!」
段々と士君が離れていく。少しずつ朦朧としていく意識で、それだけはわかった。
だから私は、通話を終えたヴィータちゃんの服を掴んだ。
「ヴィータちゃん…ダメ……士、くんを残して、行くなんて…」
その時、服を掴んでいる手に、ポタリと水が落ちた。
ヴィータちゃんが、泣いていた。
「すまねぇ、なのは……今は、我慢してくれ…!必ず私が助けに行くから…!」
そう言ったヴィータちゃんの表情は、とても悔しそうだった。
そうしている内に、士君の姿はどんどん遠ざかっていく。思わずその背中に手を伸ばす。届かないとわかっていても、どうしても見ているだけじゃダメだった。
士君がいなくなってしまうのではないか、という不安が、何故かその時私の中にあって、それが私をさらに焦らせる。士君の背中を見ていると、そんな嫌な予感がしたから。
そんな彼の背中が動いたのを最後に、意識が薄れていった。
「―――…行ったか…」
ヴィータがなのはを抱えて飛び去ったのを、士は振り返りもしなかった。
ただ視線の先にいる怪人達を、じっと見据えたまま、佇んでいた。
〈マスター…〉
「あぁ、わかってる。魔力に余裕がない分、こいつを使ったら結構マズいことぐらいはな」
士はライドブッカーから一枚のカードを取り出し、それを眺める。
「…まさか、こいつを使う日が来るなんて、考えもしなかったな」
〈何故です?結構強力な能力の筈ですが…〉
「使った代償が結構でかいからな、あまり使わない…っていうか個人的に使いたくなかった」
ま、今はそんなこと言ってられないけどな、と肩を落として言う。
〈万が一、ダメージがでかくてあなたが倒れたら、どうするんですか!?〉
「そうならないように祈るさ」
〈しかし…!〉
「死なねぇよ…そんなつもりは、毛頭ねぇ」
士の言葉に、トリスは押し黙る。これ以上説得しようとしても、考えを変えることはないと悟ったからだ。
「悪いな、こんなバカな主人でよ」
〈…いえ、そんなことは〉
「そう言ってくれると、ありがてぇ」
それじゃあ、と士はさらに続けた。
「俺と、地獄へ相乗りする覚悟は…あるか?」
少し笑っているのだろうか、少し声のトーンを上げて、士はトリスに尋ねた。
〈―――…もちろん、何処までだってついていきます。私は、あなたの相棒なのですから〉
「ほぅ、そう言ってくれるか…」
トリスの返事を聞いた士は、少し嬉しそうな声でそう言った。
「そんじゃ…行くぜ!」
〈 Yes, master 〉
そして士は、怪人達の群れに向かって走り出した。その途中で、持っていたカードをバックルへ挿入する。
〈 FORM RIDE・OOO GATAKIRIBA !! 〉
〈ガータガタガタキリッバッ、ガタキリバ!〉
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
士の目の前に、三枚のメダル型のホログラムが現れた。それらが一つとなり、俺の体へ張り付く。
士の体はブレイドから、オーズ・ガタキリバコンボへと変わる。さらにガタキリバの能力で、分身体を作り出す。
五十体程の分身体が、一斉に怪人達へと飛びかかった。
『合同調査任務における報告』
今回の合同調査にて、未確認の反応の正体を確認。
調査メンバーはこれとの戦闘に至り、撃退。その戦闘の中で負傷者が複数名出た。
また、調査の途中で怪人と遭遇。調査に当たっていた門寺二尉がこれの対処に当たった。
隊員を連れて一時撤退したヴィータ曹長の報告により、急遽隊を再編成し、怪人の対処へ当たった門寺二尉の救援へ向かったが、そこでは門寺二尉の姿は見受けられなかった。
今回の任務での負傷者、行方不明者は以下の通りである。
重症者:高町 なのは准尉、他数名。
軽症者:隊員約二十人。
行方不明者:門寺 士二尉。
未確認の正体の詳細、また現在行方不明の門寺二尉に対する対処など、詳しいことは後日改めて報告書をまとめる事とする。
後書き
こうなりました。色々と原作と違うところがあったり、なのはの怪我が少しだけ緩和されたりしてます。
最後の報告書の部分は、正直自身がありません。何か不備などがあったら、教えていただけると助かります。
作者は明日から修学旅行で、また小説を書ける日がなくなってしまい、次回がいつ投稿できるかわかりません。皆さん心広く待っていただけると、うれしいです。
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