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優雅な謀略

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第二章

「あの国も引き込みましょう」
「そうですね、あの国も」
「そしてザクセンやバイエルンもです」
 神聖ローマ帝国内の国々だ、神聖ローマ帝国の皇位は一時バイエルンのものになっていたがバイエルン王の急死から再びハプスブルク家、マリア=テレジアの家のものに戻っている。今の神聖ローマ帝国皇帝は彼女の夫であるフランツ=シュテファン=フォン=ロートリンゲンが務めている。彼女にとっては愛すべき夫だ。
「あの国々も」
「どの国も先の戦争では我が国に敵対しましたね」
 女帝はカウニッツにこのことをあえて言ってみせた。
「そうしてきましたが」
「はい、我が国を抑えたかったので」
 そうしてきたとだ、カウニッツは女帝に答える。
「そうしてきました」
「しかし今はですか」
「プロイセンの勢いはかなりのものです」
 そのシュレージェンを手に入れてまさに日の出の勢いだ。
「このままですと」
「あの国々が脅かされますね」
「はい、ですから」
「彼等と我が国の利害は一致しますね」
「その通りです」
 カウニッツは女帝に確かな声で答えた。
「ですからあの国々もです」
「抱き込みますか」
「プロイセンを帝国内で孤立させるのです」
 ロシアとスウェーデンに攻めさせるだけでなく、というのだ。
「そうすればあの国は窮地に陥ります」
「ではその様に動きますか」
「いえ」
 しかしだった、ここで。
 カウニッツはさらに言う、今度言う言葉はというと。
「もう一国、いえ家ですね」
「家ですか」
「引き込むべき家があります」
「家なのですね」
「そうです、陛下もよくご存知の家です」
 カウニッツは思わせぶりな笑みでコーヒーを飲みながら自身の話を聞いている女帝に対して言う、見れば女帝はカップを置いた。
 その女帝にだ、彼はこの家の名前を出した。
「ブルボン家です」
「フランス、そしてスペインですか」
「あの家も引き込むのです」
「馬鹿な、ブルボン家と手を結ぶとは」
 ここでその場にいた女帝の側近の一人が驚きの声を挙げて言った。
「それは有り得ません」
「出来ないというのですね」
「はい、ハプスブルク家とブルボン家といえば」
 もっと言えばブルボン家の本筋であり今はもう途絶えているヴァロワ家の時からだ。この両家即ちハプスブルク家とブルボン家といえば。
「数百年の仇敵同士です」
「まさにですね」
「何かある度に戦ってきました」
 まさに犬猿の仲だ、フランドルでもイタリアでも争ってきたし三十年戦争でもスペイン継承戦争でもだ、両家は先のオーストリア継承戦争以外でも常に戦ってきているのだ。
 その為だ、その側近はこう言うのだ。
「どう考えましても」
「手は結べませんか」
「はい」
 まさにその通りだというのだ。
「ブルボン家とは」
「しかしフランスにとってもプロイセンは無視出来ません」
 大きくなり過ぎている、フランスにとって厄介な相手になりつつあり今のうちに抑えておきたいところなのだ。
「しかもプロイセン王はフランスの宮廷からも嫌われています」
「ポンバドゥール夫人ですね」
 女帝は少し嫌そうにこの名前を出した。
「あの人ですね」
「はい、そうです」
「どうしても好きになれませんが」
 ポンバドゥール夫人はフランス王ルイ十五世の愛人である、カトリックの倫理観が強い女帝にとってそうした存在は許容出来るものではない。それでそうした顔になったのだ。 
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