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優雅な謀略

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第一章

                  優雅な謀略
 マリア=テレジアはこの時憂いていた、その憂いの対象は言うまでもなく自らが治めるオーストリアのことだ。
 プロイセンが他国を糾合して仕掛けてきたオーストリア継承戦争は終わった、その結果オーストリアはシュレージェンを失った。
 このことについてだ、女帝は側近達を集めコーヒー、甘いクリームをたっぷりと入れたそれを飲みつつ彼等に問うた。
「プロイセンについてどうするかですが」
「はい、ここはやはりです」
 ついこの前抜擢した男がすぐに応えてきた、細い顔に強い光を放つ目を持っている。オーストリアの今の外交責任者であるカウニッツ侯爵だ。
 カウニッツは女帝にだ、こう答えたのである。
「プロイセンに戦争を挑みましょう」
「私もそう考えています」
 女帝はコーヒーを右手に持ちつつ述べる。
「プロイセンにシュレージェンを渡したままには出来ません」
「その通りです、ですが」
「プロイセンは強いです」
 女帝はこうも言った、ここでだ。
「国力はオーストリアに劣ります、ですが」
「はい、その兵は強いです」
「プロイセン王の采配も見事です」
 そのプロイセンの主であるフリードリヒ二世のそれもだというのだ。
「プロイセン王は自ら戦場に立ち采配を振るいます」
「その采配はまさに名将ですね」
「そうです、ですから我が国としましては」
 オーストリアとしてはどうすべきか、カウニッツは淡々とであるが的確な調子で女帝に対してこう述べたのだった。
「国内の改革を進め兵を強くすることです」
「プロイセン軍と戦えるまでにですね」
「国力は我が国の方が上です」
 オーストリアは欧州における大国だ、広大な領土を持ち軍の規模も大きい。国力だけを見ればプロイセンより上だ。
 しかしだ、その先進性はというと。
「しかし老巧化が目立ちますので」
「それを立て直して」
「そのうえでプロイセンに向かいましょう」
「わかりました、では国内の改革をですね」
「そうです、そして」
 カウニッツは女帝にさらに言う、今言うことはというと。
「プロイセンに単独で向かうべきではありません」
「先の戦争の様にですか」
「先の戦争ではイギリスと手を組みましたが」
 しかしだというのだ。
「イギリスはあまり積極的ではありませんでした」
「我が国を助けてくれるよりもでしたね」
「フランスに向かっていました」
 イギリスとフランスは世界各地の植民地を巡って争っていた、イギリスはそちらの方に力を注いでいたのだ。
「そしてプロイセンに接近を計ってもいます」
「では」
「イギリスとは次の戦いでは手を結ぶべきではありません」
 然るべきプロイセンとの戦争では、というのだ。
「他の国と手を結びましょう」
「ではその相手は」
「まずはロシアです」
 カウニッツが最初に挙げた国はこの国だった。
「あの国にすべきです」
「ロシアですね」
「ロシアはプロイセンと東方で対立しておりしかもロシアの女帝であるエリザベータ女帝はプロイセン王を嫌い抜いています」
 これは多分に個人的な感情による、フリードリヒ二世は女性蔑視思想の持ち主でありエリザベータ女帝としては到底好きになれなかったのだ、尚それはマリア=テレジアも同じだ。この女帝の場合は信仰心が篤いのでプロイセン王が無神論者であることも嫌う材料になっている。つまりプロイセン王は二人の女帝に徹底して嫌われているのだ。
ですからまずは」
「ロシアですね」
「そしてスウェーデンです」
 カウニッツが次に挙げたのは北の雄だった。
「あの国です」
「バルト海を挟んで利害が衝突しようとしていますね」
「スウェーデンにとってプロイセンは目の上のたん瘤になろうとしています」
「その為何とかしたいところですね」
「はい、ですから」
 今度はこの国だというのだ。 
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