蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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安部清明
「くそったれ!いかれてやがる!」
「同感ね・・・・。いままでこんなこと、前例がないわ・・・・」
ガヤガヤざわざわ
重要会議が終わり、あの十人も既に自室へと帰っている。
今は、その重要会議の結果が発表され、集会場が大騒ぎになっている。
勿論、普通ならば集会場では総帥への苦情が多発していているところだ。
しかし、普通でない今の神条家では、集会場では可決を称えるドンチャン騒ぎが起きていた。
『乾杯!!!』
神条家の血筋を持つ人々から、SPまで、皆が皆、可決を称えている。
「しかし異常すぎやしねぇか?こんなになるなんて?
もう少し反応のしようがあるだろ!?」
真が憤慨するが、そんなことを言えば、総帥の最初の演説のときだって不自然だった。
勿論、そんなこと言っても今更だってことは真にも分かっていた。
しかし、それでも抑えきれない、この違和感。
何か背筋の毛がゾワゾワするような恐ろしさを湛えた違和感がこの空間を支配していた。
「それでも・・・ここはとりあえず今練れる最善の策を練った方が良さそうね」
この集会場の隅の方に集合したSPたち数十名は麗を中心に相談中だ。
現在決まっている方策としては総帥が今日中に早速SPたちを死神化し始める、とのことだ。
一時間後にはその『死神化』がはじまる。
「ま、つまり脚をつかうしか方法はないな」
真がぼそっと麗に呟く。
「そうね。とりあえず今はその策しかないわね」
「え?策って何ですか?」
一人のSPが興味深げに聞いてくる。
「何って・・・」
「そりゃあ・・・」
真と麗は目を見合わせてそれからSPに答えを告げる。
「「逃げるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」」
『やっぱりそれかぁああぁあああ!!!』
さて、こんなどうでもいい小ネタはともかくとして、
「じゃあとりあえず逃げる、ってことでいいな。準備しとけよ」
「逃げるって・・・いいんですか、それで?」
やっぱりSPが疑問符を浮かべているが、
「ここのSP総員数は一万よ!?そんなのが死神化したらヤバイに決まってるでしょ!?
ここは私達が死神化される前に逃げ出して、手っ取り早く他のSPを死神化させないようにしなきゃ」
「う~ん?まぁ・・・そりゃそうですけど・・・・」
まだ疑問符な部下はとりあえず納得したようなので、次のステップへ
「問題は、明様ね。
先ほど総帥から体調不良で・・・・とかなんとか言ってたけど120%あやしいわよ、コレ。
一人娘だし、殺しはしないと思うけど・・・・大丈夫かしら」
「大丈夫だ」
真の確信ある呟きに麗が真を見つめる。
「どうして?」
「宏助が向かった」
~十分後~
「・・・・・・・すみません」
「ねぇ、真?アナタ無駄に格好いい演出しておいて何コレ?宏助君ふつ~に帰ってきてますけど?」
「すまん。無駄に『普段は喧嘩してるけど緊急時は信頼出来る仲で、実は実力を認めている』みたいなありがちな
設定を無理やり作ろうとした俺が悪かった。
本当はただ相性がわるいだけなのにな・・・・」
「おいテメェ、何とんでもない事ぬかしてくれてんだ、コラァ!
さっきからお前ら俺がいないと地味に小ネタとかやりやがって!
挙句の果てに、設定までぶっちゃけてんじゃねぇ!」
「お前だってソウルササエティーとか言ってただろ」
「もう読者も忘れているような細かい描写出してくんな!
そもそもお前あんときとぼけていただろ!」
「さて、様子はどうだった?」
「・・・・いつまでも突っ込んでいても埒が空かないしな・・・・
明様は、今絶対安静で、面会を望んでいないからって理由で立ち入り禁止の総帥所有の部屋にいるらしい
SPがばっちりスタンバイしてやがる」
「だからノコノコ帰ってきやがったのか」
「全く男の風上にも置けないわね」
女性である麗さんがそう言うのもなんだと思う。
「とにかく、やるんならやるで、突撃してもいいが、お前らに迷惑かけないようにと我慢しながら戻ってきたんだよ・・・・
このアホカス!で、どうすんだ?」
「・・・・実際、明様は実力行使でも助けるしかないのよね・・・・」
「ま、そりゃそうだ・・・・。じゃ、どうするよ?」
「明様を助け出したそのノリで脱出!よしこれでいこう!」
「・・・やっぱりそれしかないよな・・・」
「仕方ありませんね」
SP数十名は、部屋の隅からひっそりと集会場を抜け、明の所在地を目指す。
「んん・・・ッ!」
うっすらと目を開けると微かに見覚えのある天井が見える。
この天井の模様は本邸統一だったはずだ。周りの壁もその通りである。
明は起き上がろうとするが、何やら縄で身体をしばられているようで上手く身体を動かせない。
結局拘束されているベットの上でもぞもぞすることしか出来なかった。
そう、今明はさっきまで着ていた服のままベットに拘束されている。
ベットが中心にある以外は何もない本邸にしては質素な部屋。
ドアはあるが、窓はない。完全な密室。
(なんで私はこんなところに・・・・・ハッ!)
ドアノブがぐるりと回転し、二人ほど部屋に入ってくる。
その二人を見た瞬間、明の脳裏によぎるものがあった。
そうだ私は・・・・・・・
「お父様?明です。入りますよ!」
ドアをノックして返事がないが、それはいつもの事だったので何の警戒もせずに入った。
何より明は怒っていた。いくら父とは言え、あんな暴言を吐くなんて言語道断だ。
しかも明の予想が正しければ、集会場の人たちは・・・・・
「やあ、よくきたね」
「・・・・私は今、お父様に用があります」
部屋には背を向けた父と、微笑む暗の姿があった。
暗を振りほどき、父に話しかけようとする。
「お父様。アレは一体どういうことですかッ!答えてください!」
怒鳴りつけるがまるで振り向かない。
「お父様!」
いよいよ背中を向けている父の正面に回り込んだところで・・・・
「・・・・・あッ」
明は数歩、後ろによろめいてしまった。
くすくすくす、と暗が笑う声が聞こえる。
「何をしたの・・・・」
「ん?」
「何をしたの父に!」
「・・・・何って・・・それ、元からだよ?」
頭を金槌でガーンと殴られた様な気分だった。
父は、あんなにいつも厳しい父が、まるで魂が抜けたような虚ろな目で、そこに力なく立っていた。
そして実際、父の魂は、ほんの少ししか残っていなかった。
否、父の魂は、何かどす黒いオーラを放つ『別の魂』に侵食されていた。
「ふふふ・・・・君が今まで見ていた『神条総帥』は、ボクが操っていただけだ。
ボクが操らなきゃ総帥は、いつもこんな風に、自分の意識では動くことは出来ない。
そう、君の母が死んだ日からずっとこうさ」
「・・・・・・何を・・・・言っているの・・・」
明は更に数歩後ずさるが、背に壁の感触・・・・もう下がれない。
明は一つ誤解していたことを知る。
集会場の、明たち以外の人間は、皆、微かだが、別の人間の魂の感じがした。
その別の人間の魂は、父親のだった・・・・風に見えた。
実際は、違ったのだ。集会場の人間全員は、父を媒介として操られていた。
父に入っているこのどす黒い魂を、父は撒くだけだったのだ。
だから『父の魂』だと皆に入っている魂を誤解したが・・・・
張本人は暗だと、今目の前で言われている。
つまり暗は、霊能力者も多々いる集会場の人間を全員操り、しかも微かにしか感じさせないほど微量な魂を、他人に入れる、という
恐ろしい技を持っている。
魂の質も量も桁違いで、しかも十数年前からずっと父をその技で縛り付けてきた。
自分の魂を他人の魂に入れて、操る。理論上は出来るが、本当に行っている人間が今目の前にいる。
いや、それよりも・・・
「貴方・・・・誰なの・・・」
そんな霊能力も魂も持つはずのないごくごく普通の人間である暗が、どうしてそんな事が出来るのか、ということだ。
そう言われると暗はニヤリと口端を吊り上げ、
「・・・・・!」
次の瞬間、父から感じるどす黒い魂が暗の普通の人間の魂から放出した。
否、このどす黒い魂を隠すために、暗の魂を使っていただけだった。
つまり、今まで暗だと思っていた人間は、やはり十数年前から・・・・別の人間だった。
本物の暗の魂は、今までずっとカモフラージュに使われていただけだった。
「あなたは誰なのよ!」
思い切りそのどす黒い魂の中心にいる暗に向かって叫ぶ。
そのどす黒い魂は既に明の足元まで来ていた。
暗は・・・暗の形をした化け物は、その魂で明を捕らえようとしながら告げる。
「俺か?・・・・安部清明だ」
明が驚愕に目を見開いた瞬間、どす黒い魂が遂に明の視界を埋め尽くした。
「・・・・・はぁはぁはぁはぁ」
「思い出してくれたかな?ボクのこと?」
部屋に入ってきたのは、父と暗・・・・・安部清明だった。
父は先ほどのように虚ろで別の魂に侵食されきっている。
暗は、いつもの暗に戻っていた。
「・・・・平安時代に死んだはずじゃ・・・・・」
明がやっぱり驚きながら呟くと、すかさずそれを清明が拾う。
「確かに肉体は死んだかもしれない。
でもボクほどの霊能力者になると、こんなことも出来るようになるのさ」
そういって、清明は、少し何かを呟くと、
「・・・・!」
清明の魂・・・つまりあのどす黒い塊のようなものが、人を形作って肉体から抜け出した。
その魂は空中で除々に形を変えていき、そして安部清明になった。
着物姿に、烏帽子、袴の古風な美青年といったところだろうか。
もし、それらをこのどす黒い魂が形作っていなければだが。
「いわゆる幽体離脱って奴かな。
稀に寝ている間だけ、とか無意識に出来る人はたくさんいるらしいけど、ボクのは違う。
ボクのは自分の魂の全て・・・・と言ってもこれは一部だけどね。
それらを全て肉体から離し、永遠に現世に留まることが出来る。
つまり、肉体は朽ち果てていてもボクは魂そのものは不死身なんだよ」
「・・・・・人の魂が・・・そんな醜悪な色を放っているわけがない・・・」
明はやっとのことでその言葉を搾り出した。
すると少し清明は顔をしかめてそれを返す。
「別にボクも好きでこうなった訳じゃない。
知っているだろう?魂は感情の余波を肉体がない分受けやすいんだよ。
様々な人間の感情を蓄積してきたボクはいつの間にかこんな魂になったのさ。
人の感情が清ければこうはならないけど・・・・大体は負の感情を受けてきたからね。
平安時代からだよ?そりゃこうもなるさ。
おかげで、人を操るなんてことも出来るようになったけどね」
清明はさらっと世間話をするような口調だが、明は理解出来ない。
幽体離脱?平安時代から魂だけの存在としてずっと生きてきたというのか?
そんな明の様子を見て、また清明は勝手に話し出す。
「ああ・・・・この魂の質は人の感情が凝縮されているから、人を操るなんてことが出来るのだよ。
人の感情が様々に折り重なったボクの魂を少量でも体内に入れれば、その感情に、人は耐えられず、ボクの魂が、その人の
魂を侵食しはじめ、遂には操ることが出来る。
ここにいる人間は君たち以外みんな操り人形だ。
ただこの一人分じゃない魂の量については、ボクが死神の総督だからってこともあるね」
「死神の総督・・・・!?」
またまた驚きの言葉に脳みそが破裂してしまいそうだ。
「そうさ、真から聞いていなかったか?まぁ無理も無いか・・・・。
死神には更に微量のボクの魂を全員に仕込んであるからな。
意識はあるし、自分で身体を動かせるけど、意志はボクの自由に変えられる。
真も宏助との一戦でボクの魂の呪縛から解除されてしまったみたいだけど。
真にはだから死神になったときの記憶やボクについての記憶は一切残っていない。
ボクの魂が抜けた時点でそれらもなくなるようになっている。
知っていたかい?死神は平安時代からある組織なんだよ
神条財閥がひっきりなしに潰そうとしていたけどね」
確かに真が平安時代から明以上の霊能力を持つものが運営しているとは聞いていたが、
(まさかそれが安部清明だったなんて・・・・)
安部清明は、神条家がサポートしていた平安時代の当時、実力ナンバーワンの霊能力者だった。
それが今まで生きていて、しかも死神の総督をやっていたなんて。
とてもじゃないが信じられる話ではない。
そもそも自分や他人の魂をいとも簡単に操るその術自体が有り得ない。
「まだ、信じられないって顔してるね」
この明の目の前に浮かぶ人の形をとったどす黒い塊こそが、先祖がサポートしていた安部清明だなんて、信じられる訳がない。
「・・・・・ひとつ質問があるわ・・・」
「ん?」
しかし、この話が真実でも真実ではなくても、聞かなければならないことがある。
「何が貴方は目的なの!?何で今更動き始めたの!?」
すると清明は少し考える素振りを見せる。
「目的・・・は簡単に言えるものではないにしても・・・今更・・か?
それは聞き捨てなら無いな・・・・。今更・・・じゃない・・・やっと・・だ」
「・・・???」
「今更動き始めたんじゃない・・・やっと動き始めたんだ!
今までずっと耐え忍んできた。目的自体はずっと昔から、生前からあった。
簡単なことだ!この安部清明が、一国家としての富や権力を備えること!
いつまでも国家の介助役じゃあ、つまらないんだよ!」
そういうと、突然清明を形づくっていた黒い塊が広がり、明を飲み込もうとする。
「な、なにをするの!?」
「・・・今から見せるのは・・ボクの目的・・そして・・『過去』さ・・・」
そう清明が呟いた瞬間黒い塊が明を呑み込む。
視界は真っ暗になった。
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