蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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助けを求める声がする
「うおおおおおおッ!」
雄たけびを上げた宏助の拳が思い切り空を切る。
空気との摩擦でうなりをあげ、大きな音がする。
そして・・・・・
『うわああああッ!!!』
唐突に、本当に唐突に、5mほど先にいたSP数人が吹き飛ばされる。
そのまま後ろの壁に激突し、のされてしまった。
「ふぅ~。これぞ、遠距離攻撃!」
「黙れ。ただの一発芸だろ」
「何をっぉ!テメェのそれ(聖気)だって一発芸だろうがぁ!」
「空気を拳の勢いで押し出して相手をその力で吹き飛ばすことを一発芸と言わなくて何と言う。
そもそもお前の思い切り空ぶったみたいな空気への拳がブラフだと分かれば、難なく避けられる。
つまり、一回使ったらもう使えない、すなわち一発芸」
「テメェ・・・黙って聞いていりゃ好き勝手いいやがって・・・・」
「事実だろ。それに俺のこれ(聖気)は応用が利く。
一発芸じゃねぇぞ。ほら、こんな風に」
まだ残っていた敵ーすなわち神条総帥専属の死神化されたSPたちに指先を向ける。
相手方は宏助の攻撃に驚いてしばらくフリーズしていたが、真が動き出したのを見て、再び身構える。
「聖弾・・・・・」
指先から幾つか直径5cm程度の聖気の弾が光を放ちながら身構えた数名の敵に真っ直ぐに飛んでいく。
だから、当然かもしれないが、そのあまりにも真っ直ぐな攻撃はあっさりと避けられた。
相手は至極あっさりとした動きでその攻撃を避け、こちらに向かってくる。
「おおい!何が応用が利くだよッ!思いっきり正直な攻撃で避けられたじゃねぇか!?
こっちに向かってくんぞ!アイツら!」
「その心配はねぇぞ・・・・・回帰!!!」
既に相手が残り数メートルと言う所まで詰め寄ってきたのだが、真は至極冷静だ。
自分の指を内側に折り曲げると、
『ぐおおおおッ!』
「・・・・・!!!」
向こう側に飛んでいってしまったハズの聖気の弾がなんとこちらに向かって飛んできていた。
そして、その聖気の弾はこちらに向かってきていて背後は完全に無防備だった相手数名の脊髄にヒットする。
「聖弾・・・その回帰verだ。
一度避けたと思わせておいて無防備になった背後を突く。
脊髄に当てたのは聖気が貴様らの脊髄に付属する魂を浄化するからだ。
そのことで脊髄そのもののはたらきを『無効化』する」
「自慢気に解説ど~もありがと・・・。
でもな解説役ってのは、普通、ほとんど戦闘しない奴らがするんだぜ。
やった本人がドヤ顔しながらするもんじゃない。
ジョジョのスピード・ワ●ン然り、
ドラゴ●ボールの、ヤム●ャ、天●飯、チャ●ズect然りだ」
「テメェは筆者の身を脅かさねぇと気がすまねぇのか、ジャン●大好き野郎!」
「おふざけはさておき、コイツら大丈夫なのか?」
宏助は床に突っ伏している数名の敵SPを見やりながら聞く。
いくら敵とは言え、死んでもらっては後味が悪い。
そもそもコイツは脊髄を攻撃したとか言っていたが、植物人間になったりしないのだろうか。
前にTVで脊髄損傷でそうなったと言う人のニュースを見たぞ。
そんなことを考えていたのだがどうやら心配無用だったらしい。
たいしたことじゃない、という風に真は首を横に振って答える。
「別にしばらくすれば回復するさ。
今は一時、意識はあっても動けなくしているだけだ」
とりあえず良かったと安堵の溜め息を漏らしている・・・・・暇もないようだ。
「おい、見つけたぞ!」
「あいつらだ!間違いない!」
「増援だ!増援を頼む!」
「チッ!また厄介なのが・・・・」
「増援も来るみたいだぞ・・・・」
宏助と真が身構えると、後ろでカチッと最早聞きな慣れてしまった金属音が多く聞こえる。
「全員構え・・・・・撃てぇッ!」
そして、これも聞きなれた声。
麗の号令で、放たれた無数の弾丸はそのまま新しく入ってきた敵に向かって当たる。
だが、敵ももう訓練済みなのだろう。
反射的に避けたものもいるが、大体が自分の力に酔いしれて飛んでくる銃弾を蹴落としたり、掴んだり、殴ったりする奴ばかり
だった。
だからだろう、この攻撃は有効だった。
「・・・・・ッ!」
「えええっ!」
「力が入らない・・・・」
弾丸に触れた相手は次々に力を失っていく。
「なんで・・・・だ・・?」
「それは侵食性を持つ聖気を纏った弾丸です。
弾丸に触れたら最後、触れた部分から聖気が伝わって体全体を無力化しますよ」
「お前・・・・そんなことやってたのか・・?」
「ちまちまと細かい技やってんじゃねぇよ、みたいな顔で見んなよ!
メッチャ大変何だぞ!
密度の高い聖気を弾丸に込めまくるの!」
「ともかくコレで、俺ら全員かなりの戦力を持っている、ってことになるな」
「頼もしい・・・・のか?」
「勿論、頼もしいですよ!さあ、行きましょう!明様救出へ!」
「おおよ!」
死神化される予定の麗たちSPはとりあえず逃げることを選択。
元気だったハズの明が体調不良で寝かされている、という怪しい出来事も解決することにしたのだが、
「こりゃキリねぇよ・・・・」
既に逃亡者の可能性も鑑みて死神化された神条家本邸のSPが配置されていたらしく闘うことになってしまった。
しかし、こちらの数は三十かそこらに対して、相手は、数百。しかも、全員死神化されてる。
片っ端から倒していくものの、増援がいくらでも来るので、早く明のいる部屋へ向かおうとする。
(待っててくださいよ・・・・・明さん・・・)
心の中で宏助はその言葉が届くことを祈って呟き続ける。
安部清明。かつて日本一とまで呼ばれた政治とも密着だった霊能力者。
貴族、王族からも頼りにされ、一時代を築き上げた内の一人でもある。
知略にも長け、その明晰な頭脳で、時代の波を読み取り、生き残ってきた。
しかし、そんな彼にも二つの悩みごとがあった。
一つは、サポート役という地位に我慢ならなかったこと。
彼はこれほどまでの力を持ちながら自分よりも非力な人間に屈するのは耐えられなかったのだろう。
彼は、人々から崇められる一方で、気味悪がられてもいたのだ。
人々から崇められるだけでなく、支配していたかった。彼はそういう男だった。
二つ目は、死。
どんな人間もいつかは死ぬ。安部清明は、『死』をひたすらに恐れていた。
その『死』を克服する術、つまりは不老不死を求めて、研究を始めた。
当時、安部清明には神条家の初代である神条燐がサポートとしてついていた。
神条家はその時点ではまだ、霊能力者一家と呼ばれるほどではなく、燐が生まれたのは偶然だった。
燐は清明には遠く及ばなくとも、清明を除けば、日本一の霊能力者だった。
燐は清明の権力と不老不死に溺れていく姿を見て何度も止めようとするが、清明は止まらなかった。
そして、清明は不老不死の研究の過程で、人体の、『死神化』。つまり魂の出し入れ。
それによって寿命や、肉体を普通の人間のほぼ十倍以上の人体になることを発見する。
更には、魂の融合による無限エネルギーの生成、魂を保存する、魂を複数人体に入れる、魂に触れ、魂と話す。
その実験の為の魂は主に、成仏していない幽霊が使われることになった。
遂に見かねた燐が、清明を止めようとする。
しかし、彼はそんな燐に逆に、魂を出し入れした強化人間を大量に作り、魂で創り上げた無限エネルギーを使って、
この日本、ゆくゆくは外国までをも侵略し、支配する計画を打ち立てる。
燐はそのサポーターとして、清明は自分のものとした他人の魂を燐に入れ、操ろうとする。
しかし、燐もその溢れんばかりの霊能力を使って闘う。
そして、勝てないと分かっていた燐は、魂の核を燃焼する代わりに多大な力を手に入れるという術を使って、命をかけて
清明に致命傷を与える。
清明は、最早回復不可能とされるまでになったが、最後に清明自身が編み出していた術、『無限幽体離脱』で肉体を脱出。
魂だけの存在となって彷徨うことになる。
魂だけで、燐に与えられた傷は魂までに浸透しており、完全に力を取り戻すまで時間がかかると判断した清明は身を潜める。
清明は既に、『死神』を幾人か作っていた。『死神』という組織を設立し、ひっそりと時代を過ごすこととなる。
一方、清明の多くの弟子たちは、燐の意志を継ぎ、実は燐が身に宿していた子供が二代目となる。
以後、弟子達は姓を『神条』と改め、霊能力者のみの家系、『神条家』を創り上げる。
神条家は、清明の発見と死神の討伐にやっきになるが、死神は強く、清明も見つからない。
清明はちゃくちゃくと力を取り戻し、死神の数をも増やしていった。
死神全てを洗脳しているだけで、かなりの魂を消費する。
しかし、清明はさらなる計画のため、残り千三百年近くを、魂を溜めることに費やす。
魂を死神に集めさせ、蓄え、自分も力を十分に取り戻した時点。
それが遂最近・・・・つまり十年程前。
清明は未だ自分を追い求め続ける神条家を潰そうと、直接は神条家の血筋ではない、暗の肉体を乗っ取ることに成功する。
当時六、七歳だった暗の肉体を奪うのは容易く、また明の許婚だったため、屋敷への潜入も容易かった。
しかし、長年清明のことを追い続けてきた神条家が気付かないはずもなく、特に神条家の当時の当主、
ーつまり明の母が気付かないはずもなく、だからこそ暗をー安部清明を倒さんとしない訳がなかった。
しかし、清明とて並みの霊能力者ではない。魂だけになって千三百年も経ったのだ。
力も取り戻していたし、暗にその全ての力を注ぎ込んでいたから、負けるはずが無かった。
明の母もそれに気付いたのか、初代と同じく魂を燃焼することで強大な力を得て、倒そうとした。
つまり、命を賭けて安部清明を倒そうとした。
実力的には、明の母が初代と同じことをすれば、埋まる差だった。
絶対に清明を倒す。その意志だけが、明の母の中で渦巻いていた。
しかし、清明は周到な男だった。そもそも、よく考えて欲しい。
清明は千三百年間をこの計画の為に費やしてきたのだ。当主に発見され、初代と同じ方法で倒されるなど有り得なかったのだ。
具体的には、実は清明は既に明の父をも取り込んでいて、明の傍に配置しておいた。
当時まだ六、七歳だった明を父を操って殺すのはいとも簡単だった。
だから、明を人質に取られた母に、逃げ道はなく、あっさりと清明に取り込まれる以外道はなかった。
清明に取り込まれ、明の母は抵抗も何もせずに、『心臓発作』で死んだ、という事になった。
明の母を操り人形にする、という選択肢もあったが、明の母は現当主。
魂を燃焼すれば、清明と互角の力を持っていた。
危険だと判断した清明は明の母を殺したのだ。
そして、当主が死んだ神条家で清明に敵う者は誰もいなかった。
それからは、神条家を乗っ取る日々だった。
毎日、毎日、少しずつ気付かれない程度に少しずつ。神条家の人々に自分の魂を混入し、操り人形にしていく日々。
やがて、神条家は完全に清明の操り人形となった。
たった一つの誤算を除いて、清明の計画は完璧だった。
たった一つの誤算、それは明が予想外の霊能力を持っていたことだった。
彼女の力は、彼女の親しく思っている人間に作用し、その人間の霊能力そのものや魂を強化したのだ。
だから、神条家全体に魂を張り巡らしていた清明は、明とその周りのSP数十名を乗っ取ることが出来るほど余力は無かった。
しかしだからと言って清明の計画に支障を来たす訳でもなく。父を操って明に別居をさせるように重圧をかければいい話だった。
こうして、明は別居したために、神条家で清明が操れない人間はいなくなり、清明は自分の計画に着手した。
神条家の元から戦闘能力が高いSPたちを『死神化』し、一国家としての軍事力を手に入れ、支配者となる。
その計画はつまり、現在進行中のことであった。
ー時は現在に戻る
「・・・・・ハッ!」
「とまぁ、そういう訳何だが、理解してくれたかな」
明の意識が現在へと引き戻される。
明は今まで、清明のどす黒い魂に飲まれ、清明の思考や記憶の一部を見させられていた。
そんなことが出来るか、出来ないか。そんなのはどうでも良い。
どす黒い魂は再び一点に戻り安部清明の形を作っている。
それを見た瞬間で、先ほどから募っていた怒りが爆発した。
「貴方だったんですか・・・・・ッ!母を殺したのはッ!」
死んだと思っていた母は・・・・殺されていた。しかも神条家の宿敵によって。
清明の話は知っていた。神条家の当主として生まれたのだから当然と言えば当然だった。
しかし、明には清明を倒そうなどとは毛頭思わなかったし、母の死を疑ったことも無かった。
父すらも全て目の前にいるこの男に操られていたのだ。
暗などは最初から操られていたのだ。
そして、今ここにいる全ての人間は清明の操り人形なのだ。
こんな清明のどうでもいい計画のために、皆、狂わされている。
「・・・・ッ!」
怒りで手が震える。言葉が出ない。頭が真っ白になる。
「おやおや。随分お怒りの様子だな。こりゃまいった。
別に君に自分の計画や過去を明かしたのはこうさせるためじゃなかったのにな・・・・
本当の目的は・・・こうなんだ」
清明が怪しげな笑みを浮かべたところでようやく気付く。
まだ残っていた。明の体にあのどす黒い魂が付着したままだったのだ。
それは服をすりぬけ、皮膚をすり抜け、体内潜り込んでいる。
と、そこで、
「・・・・ううんッ・・!」
突然体内で何かが暴れ始めた。
体の中が荒れ狂い、意識が一瞬で飛びそうになる。
「今、君の魂とボクの魂が君の体内で争っている。
でももう無理さ。君が魂に飲まれた時点で、ボクの魂は少しずつ君の体内に侵入していた。
そして意識をそらすために記憶や思考を見せている間に、君の中のボクの魂の比率は増していく。
そして、今、多量のボクの魂が君の体内にある。
もがいたところで、既に自分の体内にあるボクの魂は出せない。
逆に君の意識が持ちそうに無い。まぁ、無理も無いが・・・・
体内で二つの魂が争っているんだ。その衝撃は並みじゃない。
だが、その苦しみもやがては治まる。ボクの勝利で。
ボクは君が欲しいんだよ。あの初代の代わりに。
君はあの初代に匹敵する霊能力を持っている。
操り人形にして、使役すれば、どれだけ有能なことだろう。
喜べば?君も支配者になれるんだよ?」
そんなの絶対・・・苦しいでも苦しい駄目もう無理いやでも絶対に諦められないでだってもう無理助けて宏助君ッ!
意識が苦しみで飛びかけ、悔しさと痛みで涙が出てきたとき、ふとある人の顔が思い浮かぶ。
そして・・・・
「オラァァアアアアッ!明さぁんッッ!!!」
「・・・・・・・なッ!お前は・・・・・!」
壁を壊して、その人が部屋に入ってくる。
「テメェは・・・・・・何やってんだぁああ!!!」
「・・・・うぐッ!!!」
そして問答無用で安部清明を蹴り飛ばした。
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