蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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九対一
ザワザワザワザワ
「・・・・・すげぇ人だな・・・・」
「・・・・もう突っ込まんぞ・・・・」
いつもの宏助と真の同じやりとりをしながらこの屋敷で一番広いとされる集会場に向かう。
集会場入り口から百メートル以上離れたここからでも人の熱気と騒がしさが間近で感じられるようだ。
世界遺産登録されるレベルのこの本邸で、一番広い集会場さえも埋め尽くす人口があそこに集中しているということだ。
今回は各屋敷に散らばるSPも全員集まっているらしいので、いつもよりも人数が多い。
その熱気と人口の多さは集会所に入った瞬間、当社比五倍に跳ね上がった。
集会場の大きい扉から敷かれた絨毯とカーペット。
ところどころに軽食や飲み物を載せたテーブルがちらばっている。
更に奥の方には限られた数の椅子があり、SPは立って、お偉いさん方は座る、とまぁ当然のことなのだろう。
その絨毯の上の雑踏。食器やグラスのぶつかる音、食べる音、飲む音、話声。
「ここは音のショーウインドウかぁ?頭が割れそうだ・・・」
「うるさい・・・・」
聴覚が人一倍敏感な宏助と真には、こんな騒音は耐え難い苦痛だ。
たまらず聴覚をあまり使わないことを意識する。
そこに見慣れた顔ぶれがやってきた。
「あ!宏助さん!いましたか・・・・」
「二人とも苦しそうね?耳栓する?」
明の言葉を適当に返しながら麗が用意よく所持していた耳栓をありがたくもらう。
騒音であまり聞こえなかった明と麗の声がよく聞こえるようになってきた。
「それにしても凄い数の人ですね」
「ええまぁ・・・・。毎年こんな感じですけど、やはり今年は一際多いですね・・・・」
顔をしかめる宏助に、もう明は慣れっこという顔つきだ。
「おい、麗。今回も明様は重要会議には参加しなきゃなんないのか?」
「そうみたいね。ま、なんだかんだ言って総帥の一人娘よ?当たり前じゃない」
麗と明が話している内容がよく分からないので明に聞いてみる。
「重要会議ってなんですか?」
宏助の突然の質問にも明は律儀に答えてくれる。
「う~ん、えっと。簡単に言うと、『神条家の重鎮たちの会議』ってことですね。
毎年、その年の一家にとって重要だと総帥に思われた人は、その会議に参加するんです。
十人が基本の上限で、大体はどの人もそれなりに業界では名が売れている人ばかりです」
たしかに奥にある席はぴったり十個。どれも椅子と呼ぶにはおこがましい品ばかりだ。
「それに明さんも参加するんですね」
「まぁ・・・・参加しなきゃいけないんですよね・・・・。
一家にとって大きな議題を解決する、という名目で開かれているこの集会ですから。
毎日のように開かれる舞踏会で意見交換がなされ、最終的に重要会議に参加する十人の話合いによって結果が出ます。
つまり自分の意見を通したければこの十人にかけあっておく必要があります。
私も五年ほど前から参加させられているので、かけ合われることも多いです・・・・」
なかなかお嬢様らしい大変な悩みだ。
ここまで人が集まって話し合われる議題を最終的に取りまとめる十人。
その内のひとりに入っていることはきっと明にとってとても憂鬱なことだろう。
明の身をふと案じていると、いつの間にか集会場が段々静かになっていくのがわかった。
話していても流石は名門、ものの二十秒で集会場は沈黙のものとなった。
そこで集会場の奥にあるステージのような場所の幕から五十代前後の日焼けした男性が出てくる。
「さぁて。20××年度の集会を始めますよぉ~。
みなさんあーゆーおーけぃ~?」
この雰囲気に似合わないダルさとふざけさ。そしてカタカナ英語。
この男は一体なんなんだと思っていると、
「では、集会を開催しま~す!かんぱ~い!」
勝手に集会を始めやがった。
年に合わない言葉遣いとはつらつとした表情。その変化、声、身体。そんな元気な司会がまた何かを言っている。
「え~と今回の議題は・・・・・・『神条家の軍備拡張』・・・でよろしいでしょうか?」
自身なさげに周りの人に確認するのもこれまたウザい。
「では、今回の議題について一言、神条総帥にもらいたいと思います」
わあああああああ
ここで拍手が巻き起こり、幕から人影が現れる。
俺的にはなんというか拍子抜けだった。
今まで、とてつもなく凄い人だと聞いていたので、イメージが少し違っていた。
スーツと靴と金時計をし、髪を丁寧にまとめていて、今この状況でかなり多くの人がしている格好だ。
表情は温和そうで、ニッコリと微笑んでいる。血筋だろうか、顔も美形だ。
そんな総帥が司会からマイクを受け取り、皆に向かって語りかける。
「今回の議題についての発言を、と言われているので簡潔に言わせてもらいますね。
まず、今回の議題の必要性についてですが、これは我々霊能力者の一家として、二つの組織から狙われているからです。
一つは、日本政府及び外国政府。
前からご存知の通り、政府は私達をけむたがってます。
次に、死神。
我々の部下の掴んだ情報によると私の娘の住む別邸も襲撃されたようです。
そこで、この二つの組織に対抗するための軍事力を得なければいけないと私は判断しました。
このたび、この議題に関しての解決策が存在します。
だから実際、今回の議題では最早、その解決策を許可するか否か、ということです。
しかし人道を逸れている、との意見もあるので集会にて取り扱うことにした次第です。
さて、その解決策ですが、それは、
『SPの霊能力による強化』です。
具体的には死神と同じことを行おうと思っています。
人間の身体に宿る魂を、一度外気に触れさせただけで、その人間はとてつもない力を得れます。
今回既に私の専属のSP全員はそれを行っています。
二日後、そのことをここにいるSP全員に行うかどうかを決めたいと思います。
主にはそのことを中心とした話し合いにしたいと思っています。
確かに人道を外れた行為かもしれません。
しかしこれを行えば、一国家レベルの軍事力を手に入れることが出来る
もう、二大組織に反抗出来ることは必至です。
政府はもともと政略的に我々を潰そうとしています。
軍備の増強は念のためと言ったところです。
問題は死神ですが、こちらは数で補います。
たとえ相手がいくら多くともここにいるSPは計一万!
その全員が人外の力を得ているのならば勝利は必然です。
この案が成立することを私は望みます。
それでは二日後。重要議会で」
そう締めくくって長い総帥の演説とも言えるものは終わった。
わあああああ
一斉に集会場全体を完成が包み込む。
温厚そうに見えた総帥の強気な発言に宏一行は顔を強張らせる。
SP全員の死神化。
果たしてそれは勝手に行っていいことなのか?
宏助は妹に今それが一番聞きたかった。
「畜生なんだ、あの案は!」
「落ち着け、宏助」
「だってよぉ!」
宏助が憤る中真がそれを宥める。
しかし、部屋中の皆が皆、憤っていたり、憤慨しているのが分かる。
真や麗さえもだ。
「問題は、あの案に私達はともかく、誰も反対した様子がないことです」
「いや、単純に皆が皆、総帥に媚売ってるだけじゃないんですか?」
冷静に分析する明に、宏助は少し雑な返事をする。
「それも有り得ます。しかし、皆の前で、総帥とは言えかなりの暴言を吐いたのですよ?
少しくらい反応があってもよさそうなものです。
しかし、実際は皆歓喜に酔いしれているというか、総帥の案を褒め称えているようでした・・・・」
「・・・・・」
明のやはり冷静な分析に宏助も今度こそ黙りこむ。
確かに言われてみれば総帥の演説が終わった後は問答無用で拍手喝さいだった。
しかも、演説中も誰も反対している様子はなかった。
神条家の一家は基本、霊能力に精通はしているが、呑み込むのはともかく、褒め称えるまではするだろうか?
皆が悶々とする中、やはり明は既に先に手を打っている。
「このことについては、二日後決定すると言っていました。
今日は舞踏会、明日はそれぞれの話し合いとしての自由時間が持たれています。
休むもよし、対談するもよし、遊ぶもよし、やはり舞踏会もよし。
その自由な行為の中で、互いの腹を探り合うのです。
その中で、重要会議が開かれます。
あの議題は中止すべきなのですから、味方は多い方がいい。
その重要議会に参加する十人に掛け合うべきですね
総帥と暗には私が掛け合います。
他は皆さんで分担して取り掛かってください。
用心してくださいよ?相手はかりにも大物たちです。ただのぼんぼんではありません。
議会はこれから二ヶ月の内に決定すればよい。
つまり引き伸ばせば、状況も変化しうる。
だから、とりあえず二日後に決定しなければいいのです」
そうして、宏助たちの、大掛かりな仕事がはじまった。
~本日~
SP男性部隊副長とその部下数人の証言
男副長「いや、ホントもう取り入る隙もなかったですよ」
部下A「そもそもアレ、政治家でしょ?TVで何回か見たこと有ります」
部下B「堅実に自分の意見を通すことで有名ですからね。
強硬派でも有名ですよ。着々と地位を築き上げてきた実力派です」
副長「総帥以外で、一番発言力ありそうだったんだけどな~・・・・
完全に総帥の理論に賛成派だったな」
SP女性部隊副長とその部下数人の証言
女副長「会話が成立しなかったわね」
部下C「あれでも有名な小説家らしいですよ」
部下D「有名でも幾つ賞取っててもあれじゃあ話にならないわよ」
女副長「こっちが何言ってもボーっとして、突然、滅茶苦茶にしゃべり始めるのだもの。
そもそもこっちの話を聞いていないわ」
部下C「結局賛成・反対どっちか分かりませんよ」
部下D「賛成じゃないかしら?」
真と宏助の証言
宏「あの豚、丸焼きにしてやろうかと思ったぞ」
真「太ってて傲慢で威張りくさってたな・・・。
四六時中白いタオルで脂汗拭いて」
宏「何が大手食品企業社長だよ!」
真「そのクセこっちの意見もロクに聞かずに『賛成、賛成』ってうるせえんだよな」
宏「いっそのこと脅して賛成派に傾かせるか?」
その次の日~
麗とその部下数名の証言
麗「・・・・・・・」
部下E「・・・・麗さん・・・?」
麗「うわああああああああ」
部下F「麗さ~ん!!!!」
部下E「どうどうどうどう」
麗「製薬会社の社長なんかに掛けあうんじゃなかった・・・・。
少し話しただけで変な薬打ち込もうとしてくるし・・・・・」
部下E「そのうえ、実験台にならなかったら『絶対賛成派になってやる!』ですもんね」
部下F「よく耐えましたよ・・・・」
男性SP数名の証言
男性SP(以後省略)1「気弱過ぎだろあのオッサン!」
2「あんなんで外資系会社の社長だもんな」
1「ぺこぺこ総帥に頭下げてて・・・・総帥の腰巾着ってとこだな」
2「総帥の言うことに反するなんて有り得ない!って、感じだったな」
1「思い出しただけでも腹が立つ!」
女性SP数名の証言
女性SP(以後省略)1「マシンガントークで何言ってんのか全然分かんなかったわ」
2「熱血!闘牛の絵!を書いたらああなるわよ・・・」
1「報道会社の社長のクセして流されすぎなのよ・・・・
死神は許すまじ!神条家こそこの世の真理!って何の宗教よ・・・・」
2「賛成派ってことだけしか分からないわよ」
SP夫婦の証言
夫「声が小さすぎて全く分からん・・・」
妻「そもそも洋服会社って社長と言えども接客業でしょ?
あんなんじゃ口の半径5mm以内でも声なんか聞こえやしないわよ・・・・・」
夫「とりあえず聞き取った言葉がひとつだけ・・・・」
妻「『賛成』・・・ね。その言葉だけはっきり聞こえたわ」
「結局私が掛け合うしかないみたいですね・・・・」
「すみません明さん・・・・」
宏助としては本当に申し訳ないばかりである。
二日間かけて七名全員賛成派(微妙)から鞍替えしそうにないのだから。
「まぁ、なんとなく分かってたんですけどね・・・・・。
それだけ父の影響力が凄いと言うことでしょう・・・・。
つまり裏を返せば父を説得すれば結果は変わります・・・・」
「お願いします」
こうなったら明が最後の頼みの綱だ。
「暗もいますし・・・こんなとき位味方してくれるでしょう・・・・。
十時から重要会議で、明日の八時から父と対談できます、今日はもう寝ましょう」
「そうですね」
そして明に希望を託した全員。
しかし、明日の八時に対談した後、十時に明は重要会議に出席できなかった。
総帥が「明は体調を崩して出席出来なかった」と言ったからだ。
そして、明のいない重要会議がはじまり、
明の父に託した反対の一票以外は全て賛成に票を投じた残り九人。
つまり。総帥の語った案は可決した。
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