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路地裏の魔法少年

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プロローグその3:今日俺寝れなくね?

 
前書き
若本ヴォイス文章化の難しいこと難しいこと…… 

 
 啓太の黄金球を全盛期の沢村忠もビックリな足技でもって蹴り上げたのは『アリサ・バニングス』さんと言って、高町さんのクラスメイトにして親友らしい。

 何でもアメリカの実業家の娘さんとやらで、容姿端麗、成績優秀、品行方正の3つを兼ね備えた才女である。
 まぁ、一番最後のは絶対猫かぶりだろうなという事は遭遇して直ちに理解出来たが、それを正直に突っ込んでも蹴り上げられるのは俺の(たま)な訳なので言わないでおく。

 だがしかし、このバニングスさんとやらは言動は兎も角として忠義に厚いのか面倒見が良いのかは定かでは無いが、高町さんを助けるが為に啓太のゴールデンをトゥキックなされたようで、彼女もまた根本的に人は良いのだろう…。
 啓太には悪いがそういう事にしておく、つーか災難だな啓太……。

 「覚悟しなさいよアンタ達!ギッタンギッタンにしてやるんだから!!」

 そう言ってヒュンヒュンと欧米人がやりそうな勘違い空手の如く腕を振り回しているバニングスさん。
 ターゲットは俺である。
 大チンピ3たび、色んな意味で、って言うか主に多摩がヤヴァイ。

 「お…落ち着いてアリサちゃん」
 どうどうと宥めようとする高町さんは、天高く嘶く荒馬を鎮める女神のようだ。
 いやまじで、この人が今現在私の命の手綱を握っておられるのです、この人が手放した瞬間私のタマは(たま)と一緒に天へと還る事になるでしょう。
 わが生涯に万辺の悔いあり、だからマジで頑張って下さい高町さん。
 俺は「バッハーーーー!!!!」なんて叫びたくない。

 「あによ、なのは!?」
 「落ち着いてほしいの、啓太君も槍一君も別に何にも悪い事はしていないから」
 「ハァ!?どういう事よ」
 少し冷静さを取り戻したのだろう、バニングスさんはそう言うと高々と掲げた両腕を降ろす。
 ひとまず危機は去った。

 「なのは、説明してくれるんでようね?」
 「うん…え…えっとね……」
 ジトっとした目で高町さんを見つめるバニングスさん、そんな彼女に気圧されながら我らが守護神はチラチラと俺の方を見て言葉を詰まらせていらしてた。

 ≪お願い、お話を合わせて≫
 大丈夫かしらんと俺が少し心配になっていると、突然聞こえる高町さんの声。

 さっきから喋っているじゃん、と思うだろうがそうじゃ無い。
 何と言うか説明しずらいが、漫画とかで見るテレパシーみたいな感じで頭の中に直接声が響いている。
 後に知った事だが、これは念話と呼ばれる魔法の一つであるそうだ。
 凄ぇな魔法、なんでもござれだ……。

 でもって、高町さんはその便利な能力を使って俺に話を合わせろと言ってきたのだが、一体何をお考えなのだろう?
 そんな風に考えていると、天下の聖祥大付属小に通う聡明な頭脳をお持ちでいらっしゃる高町さんの口からをの場をなんとか誤魔化す為の壮絶なシナリオが語られたのであった。

 以下はその要約である。

 高町さんはペットのフェレット『ユーノ君』と一緒にお散歩をしていた所、突然どこかで叫び声が聞こえたので急いで現場に向かった。
 そこに居たのは俺と啓太の二人で、酷く怯えた俺と激昂する啓太を見た高町さんは「なんだろう?」と思って目を凝らすと、その先に居たのは一匹のチワワ。
 大の犬嫌いである俺が吼えまくるチワワにビビり腰を抜かしていた所、親友思いの啓太が俺に吼えるチワワに激怒し、一触即発の緊迫した状況となっていた。
 懇切公平慈愛心溢れる高町さんは、その場を鎮める為慌てて啓太を止めようとして背後から組み付いて彼を止めようとしていた所に同じく親友思いのアリサ・バニングスさんがそれを見て勘違いし、啓太の『The World of Golden Ball's』を蹴り上げてしまった訳である。

 以上、確かにそれっぽい内容だし全く嘘という訳でも無い。
 実際ブラック・モロ化したチワワに襲われたのは事実だし、啓太がチワワにアルゼンチン・バックブリーカーをかまそうとして高町さんに止められたのも本当の事だ。

 だけどさ…。
 何故だろう、大事なモノを守る為に何か大事なモノを失っている気がしてならんのだが。
 これが俗に言う等価交換というヤツなのかな…。
 目から何か熱い物が伝っている事にも気付かず、俺はそんな事を考えていた。

 「へぇ…あっそう、男の癖に犬が怖いとか情けないわね」
 俺も確かにそう思う、思うからそんな目で俺を見ないで下さい。
 俺そういう性癖無いから、普通に心が張り裂けそうになるから。

 「誰にだって苦手なものはあるよアリサちゃん、そんな言い方はどうかと思うの」
 ベクトルの違うフォローを有難う高町さん。
 元はと言うとあーたのカバーストーリーが原因だからね、そこはしっかりと覚えておけよこん畜生ーーー!

 「まぁ良いわ…あ~あ、勘違いした私が馬鹿みたい」
 やれやれと首を振ったバニングスさんは「行こう、なのは」と言って高町さんの手を掴むとそのまま何処へと消えてしまった。

 ……これから重要な話するんでなかったっけ?あれ?
 つーか、啓太にあれだけの仕打ちをしておいてそのままスルーとかあのお嬢さん只者じゃ無ぇな。


 そうして住宅街は静かになった……。
 まぁ環境音は普通に聞こえるから完全無音じゃないが、さっきの一連の騒ぎに比べればと言う意味だ。


 「……生きてるか啓太?」
 俺は股間を抑えて蹲ったまま機能停止している啓太に声を掛けてみた。
 マジで死んでんじゃねぇだろうな?股間を蹴られてショック死とかシャレにならんぞ……。

 「…や」
 「何だって?」
 「ヤバい…俺ニューハーフになったかも、したら名前『啓子(けいこ)』になんのかな…」
 「は?」
 「でもって、将来カマバーとかやんなきゃ駄目なのかな?店の名前は『ドリーム』で営業時間は夜9時から…これが本当の」
 「『啓子の夢は夜ひらく』ってか?…うっせーバカ」
 字違ぇし、ネタ古ぃし、つーか股間押さえて静かにしている間にお前はよくもまぁ下らんネタを考えるな。
 通常営業で安心したぞ……。



 ―――とまぁ、今日一日でそんな事があった。


 ブラック・モロに襲われて、キーホルダーが不思議なマジックアイテムで、ガテン系魔法使いに変身して、啓太が股間を蹴られて…。
 思い返すと碌な事がねぇな畜生。
 兎も角、俺はそんな現実では到底あり得ないような事の連続体験で身も心もヘトヘトに疲れ果てていた。

 今日は早く寝よう…。
 俺達はそう思って其々の家に帰る事にした。
 だが、やっぱり神様はドSな訳で、俺の「早く寝て疲れを取ろう」という細やかなる願いは叶えられる事は無かった。
 9歳児の睡眠時間まで削り取ろうとする神様は殴ってやっても良いよね、マジで……。


 時は夕暮れ。

 家に帰った俺は、クソ狭い風呂で汗を洗い流すと適当に晩飯済ませ、布団を敷こうと自分の部屋に向かった所だった。
 父子家庭である俺の家は築50年のボロアパートと言えどそれなりに快適に過ごせる程度に広く、俺にもちゃんと部屋があった。
 まぁ、兄貴が送ってきやがった奇妙な骨董品のお蔭で駅前のドンキホーテ並みにカオスっているが…。
 つーか、キーホルダーの一件からここにある骨董品の中にもとんでもないマジックアイテムが有るんじゃ無ぇかと思えてきて、段々と気味悪く思えてくるから嫌だ。
 そのうち処分するか骨董屋に売りつけてやっかなぁ……。

 そんな事を考えながら俺は煎餅布団を敷いていた所だった。

 「コンコン」と小さな物音がして俺が振り返ると『ヤツ』と目が合った。
 2階の角部屋に位置する俺の部屋の窓ガラスの向こう側、狭ーいサッシの出っ張りにチョコンと座っているのは今日出会った『黄色いイタチっぽいケダモノ』ことフェレットのユーノ君。
 恐らく今日の出来事について色々話に来たのだろう、何の話も無いままあのバニング大尉さんに連れてかれちゃってたし…。
 間違えた、バニングスさんだった。

 俺は窓を開けるとユーノ君を部屋の中に入れてやる事にした。

 「夜分遅くにゴメン」
 とユーノはまず最初に俺に頭を下げた。
 「いや気にしないで良いよ、それより何かあったのか?」
 慣れって怖いな、絶対に有り得ない光景を見ている筈なのに俺普通に順応してるよ…。

 「君達にどうしても伝えておかなくちゃいけない事があるんだ」
 「魔法の事?」
 「そう、良く分かったね」
 「だってそれしか無いじゃん…」
 案の定、フェレットのユーノ君は俺に今日の出来事について話をしに来たようだ。


 「それだったら話は早い……」
 俺の机の上に座ったフェレットのユーノ君は神妙な面持ちでそう言うと、語り始めた。



 まず初めに、フェレットのユーノ君は本名を『ユーノ・スクライア』と言うそうだ。

 俺達とは違う世界に住む『スクライア』という部族の一員で、何でも遺跡発掘を生業としているとか何とか…。
 兄貴と似たような事をしているんだな、このフェレット。
 俺は遺跡の中で、キューキュー鳴きながらせっせと発掘作業をするフェレット集団を想像して吹き出しそうになった。

 えんれぇファンシーな光景だなおい。

 でもってこのフェレット、どうやらとんでもないモノを発掘したらしく、それを然るべき場所に輸送するよう手配したそうなのだが、それを輸送していた船が事故ってしまい、とんでもないモノとやらを海鳴市にぶちまけてしまったそうである。
 それは『ジュエルシード』とか言う宝石みたいな魔力の結晶体だか何だか良く分からん物で、一個だけでも次元震とかいう災害を引き起こす恐れのある危険物だそうだ。
 次元震がどんな災害なのかは分からんが、下手すりゃ街一つが消し飛ぶレベルどころの騒ぎじゃ無いらしい。

 石ころ一つで海鳴がヤバい、てな感じである。

 で、責任を感じたユーノは自力でジュエルシードを回収しようとしたが、ジュエルシードが変異した化け物に返り討ちに遭い負傷していた所を高町さんに助けられたそうである。
 そんでもってその夜、化け物がユーノにリベンジをかましに動物病院にまでカチコミに来たらしく、焦ったユーノはとにかく魔法を使える人が居る事を祈って念話というのを飛ばしまくったそうだ。

 つーか、動物病院が半壊したアレってダンプでなくてそんなのが原因だったんだ…。

 そしたら高町さんが駆け付け、何たる偶然か高町さんは途轍もない魔法の才能の持ち主だったらしく、その後成り行きで魔法少女になってもらったそうである。
 その後、ユーノを手伝う事を決めた高町さんはジュエルシードとやらを探す為に魔法少女に変身して海鳴市の彼方此方を飛び回っていたそうなのだが、そこで見つけたのは俺達だったという事だ。

 本来普通の人間が入ることの出来ない結界の中に俺達が居た事にかなり驚いたそうだ。
 それだけならまだしも、俺達が『デバイス』を持っていた事が更にユーノを混乱に招いたらしく、コイツはあの時結構テンパっていたそうだ。
 そうは見えなかったけれどな。

 「……という訳なんだ…それで、これからが本題なんだけれど……」
 ユーノは自己紹介と現在俺達が暮らす海鳴市が置かれた状況をかいつまんで説明すると、続けて俺達の魔法についての話題へと話を変化させた。
 と言うか、今までのが序論でこれからが本論であるとの事だ、俺今日寝れるかなぁ?


 ユーノ曰く、俺達の存在は非常識であるようだ。

 そりゃ確かに俺達すっげー馬鹿だけれどそれを面と向かって言うか普通?
 と、思っていたらどうやらそう言う意味合いでは無く「魔法を使えない普通の人間が突然魔法を使えるだけの魔力を持つ事」が非常識というか学術的に有り得ないとか何とからしい。

 どういうことなの?
 と首を傾げるとユーノは馬鹿な俺にも分かるように簡単に説明してくれた。

 空気中に『魔力素』なる魔法の元が存在する→『リンカーコア』なる機関がそれを吸収する→魔力になる→魔法が使えるとの事だ。
 この『リンカーコア』ってのがミソで、持っている人と持っていない人が居るらしく、持ってない人は当然ながら魔法は使えないし、ある日突然これが生成されるって話も有り得ないらしい。
 それでだ、俺達はその『リンカーコア』ってのを持っている事は確実らしいのだが、その場合ある『矛盾』が発生するそうなのだ。

 「矛盾?」

 「地図はあるかな?」
 「へいへい」
 俺は急いで居間の電話が乗っかっている棚の下から海鳴市のタウンマップを持って来る。
 A3用紙程の大きさのマップを広げると、ユーノはとある場所を黒い前足でペタシと示すとこう言った。
 「ここは一回目に『念話』を送った場所なんだ」
 ユーノの示した場所は池のある自然公園の中だった。

 そういえば、この前の日、深夜に…。

 「公園のスワンボートが壊されたのもまさか?」
 俺は気になった事をそのまま聞いてみた。
 「う…うん、僕が闘った時に」
 どうやらアタリだったようである。

 「なるほどな、それで」
 話を戻し再び俺達はマップに顔を向ける。
 ユーノは続けて住宅地のある一点に黒い前足を乗せた。
 「ここが僕の運ばれた動物病院」
 そう言うと更に続けて2か所
 「そしてこことここが…」
 「俺の家と、高町さんの家?」
 「そう、どう思う?」
 「意外と近ぇな…」
 俺は思った通りの感想を述べた。
 縮尺からして遠くても精々半径3キロ、ユーノが示した箇所は全てその円の中に収まっていた。

 「そう、近いよね……そこで問題」
 「うい」
 突然そう切り出したユーノに俺は思わず身構える。
 一体どんな問題が出て来るんだろうか……。

 「『念話』ってどれくらいまで届くと思う?」

 その瞬間、俺はハッとした。
 ユーノは魔法を使えそうな人間に届くよう無作為に念話を送っていたと言うではないか。
 それは多分こっちの世界で言う救難信号みたいなモンなんだろう。
 高町さんが念話を受信したのもそういうのが理由だ。

 つまりユーノはこう言いたいのだ。
 「魔法が使える(リンカーコアを持っている)のなら何故この時自分が発した念話を受信出来なかったのか?」と
 それが矛盾の正体である。
 魔法の事は全然知らんが、ユーノの説明が本当であるならかなり気味が悪い。

 つーか、俺達の身体はどうなっちゃってんだ?
 明日いきなりポックリとかマジで嫌だぞ……。

 「君達を疑うつもりは無いんだ、でもリンカーコアがある日突然生成されたなんて話は今まで聞いた事無いし……だからもう一度君に会って確認してみたかったんだけど…」
 そう言ってユーノは俺の方に顔を向ける。
 フェレットのくせに真面目な顔をしているソイツの翡翠色の目に、青くなっている俺の顔が映っていた。
 「その様子だと、本当に何も知らないみたいだね……ゴメン」
 俺の心情を察したのか、ユーノは申し訳なさそうな顔をさせ最後にそう言った。

 コイツはやっぱり人が良すぎる、もう少し無神経だったら良いのにこれじゃ俺は誰に怒りの矛先を向けてやれば良いんだよ。
 訳の分からない事態に巻き込まれて、それでもって訳の分からない世界の住人にまで不安がられて……。
 俺は普通の小学3年生の男子だった筈なのに、兄貴のキーホルダーのおかげでとんでもない事になっているではないか。

 あの忌々しいアイアン・ウィルとか言う槍と盾のエンブレムのせいで……。

 「ん?」
 あ、そうだった…。

 「どうしたんだい?」
 「そうだよ、コイツに聞いてみりゃ良いんだ」
 俺は机の引き出し中に放り込んでいたソイツを急いで引っ張り出すと、目の前にぶら下げた。

 「おい、聞きたい事があるんだが」
 俺がそう言うとキーホルダーは最初の時と全く変わらない、ネットりしたオッサンヴォイスでもって俺にこう答えた。

 ≪うおぉい、よぉーうやく私の出番と言うわけだな、待ぁちくたびれたぞぉ≫

 超絶濃ゆいなこん畜生……。
 夜に聞くもんじゃ無ぇ。

 ≪とぉるぃあえず(とりあえず)そこのちぃっこいの≫

 「ぼ…僕?」
 いきなり指名を受けたユーノがビクっと身体を硬直させる。
 そうだよな、こんな濃ゆいのにいきなり呼ばれたらビツクリするよな。

 ≪そうそう、そこのファンシー・プルィティ(プリティ)・ロングボッディーのアーニマル…お前さん一つ間違ってる事があるぞ≫

 最後の「お前さん一つ間違ってる事があるぞ」って台詞だけで十分じゃね?
 なに?ファンシー・プリティ・ロングボディー・のアニマルって、ねぇ何?

 「間違っている事?」

 ≪イ゛エスオフコース!!この坊ちゃん普通にルィンカーコアを持ってますすぃ、いきなりニョォキニョォキとルィンカー・コアが生えてきた訳でもぉー…ございますぇん…≫
 冒頭「あ行」に濁点入れ、時折「さ行」をやたらウザくし、「ら行」を巻き舌で話されると何言ってるか分かりずれぇよ…。
 文字で書くと尚の事分かりずれぇんだよ畜生。

 「それじゃぁ…一体…」

 ≪答えは簡単ッ!!私達がぁ、ドバドバ湯水の如くぅ、お溢れになられているぅ、ジャリボーイの魔力をぉ、見えないように隠したからにぃ、他なりませぇん≫

 「「ハァ!?何してくれてんのアンタ!?」」

 俺とユーノは思わず声をハモらせて若本ヴォイスのキーホルダーにそう叫んだ。

 
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