路地裏の魔法少年
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プロローグその4:知らない所で世界は回るんじゃね?
前書き
今更ですが、主人公達の名前の由来は国内自動車メーカー2社から。
ディーゼルエンジンを乗っけたデッカい車に男のロマンを感じたから。
あと、ガテンとか運送とか自衛隊とかそういった男臭い世界とトラックは切っても切れない縁ですしおすし…。
「…つまり、お前達は起動に必要な魔力とやらを俺達からこっそりと拝借しつつ、俺達の発生させていた魔力そのものをバリアみたいなもんで塞ぎ込んで他の魔導師とやらから見えないようにしていたと…そういう事か?」
築50年木造モルタル2階建てボロアパートの一室。
ここは今ちょっとした拷問部屋へと変化していた。
つーか変化させた。
俺の目の前、天井からタコ糸を使って亀甲縛りで吊下げたキーホルダー。
その周りには親父の私物である電動工具一式がすぐにでも使用できる状態でスタンバっている。
グラインダとか、ストレートシャンクドリルとか、鋼材用ジグソーとか…。
ヤツが本当に鉄で出来ているなら余裕で解体できる面子を取り揃えております。
≪ふぁい…しょーでふ≫
縛った箇所が悪いのかそれともノリが良いだけなのかは分からんが、急に滑舌が悪くなったアイアン・ウィルは俺の質問に対して素直且つ情けない声でもって答えた。
「……だそうだが、どうするユーノ?」
「とりあえずその理由も聞いておこう……そういえばここに来る前、物置でプラズマカッターを見たんだけれどアレも置いたら?」
≪ヒイイイイイイーーーーおたしゅけぇーーー≫
「嫌ならさっさと吐いてもらおうか?」
結構ノリノリだなユーノ……。
つーか助け呼んでたのにコイツの所為で事実上見殺しにされそうになったんだもな。
しかも助けてもらった高町さんを『こっちの世界』に引きずり込んでしまった訳でもあるし……。
「こりゃお前マジで腹くくった方が良いんじゃね?アイアン・ウィル」
≪どぼじでー!どぼじでわだじがこんな目に遭わなきゃいかんのよーーー≫
「自分の胸に手を当てて考えてみるんだ……さあ、早く吐いてもらおうか?」
邪悪な笑みを浮かべるフェレットって奴を俺は今産まれて初めて目撃している訳なのだが、想像以上にシュールな絵面だなコレ…。
≪ヴォエーーーッ!!ヴォ……ヴォエーーーーーー≫
しかも、お前はお前でそっちの吐くか……。
良い根性していやがる。
「よぉし分かった……グラインダの電源を入れよう」
フェレットの小さい前足がグラインダのスイッチに触れた。
≪やめてぇーーー、ジョークだから!!、ほんのヴェルカンジョークだから!!≫
「ベルカにそんなジョークは無いよ!!」
ベルカってどこなんだろう…。
そんな俺の疑問は「ギュイイイイン」と回転を始めるグラインダの騒音によってかき消された。
≪やめてとめてやめてとめてやめてとめて!!やとめ……あぁ駄目、ゲシュタルト崩壊……≫
余裕なのか素なのか分からんヤツだなお前…。
とりあえず俺達はジョーズのテーマを口ずさみながらアイアン・ウィルにじわりじわりとグラインダを近づけて行くことにした。
≪いやああーーーーー!!!≫
そんな時だった。
――ドンドンドン
「五月蠅いよ!」と、お隣さんから苦情が来た。
「「チィッ!!!」」
俺達は多分物凄い形相で舌打ちをしていたに違いない……。
と、まぁそんな事があった所で今までの出来事をおさらいしておこう。
数日前、俺の家に兄貴からアイアン・ウィルとスティールスピリットが送られた。
ほんでもって、丁度その日ユーノは念話を使って助けを求めていたそうである。
本当ならばその時、リンカーコアを持つ俺達にもその声が届けられた筈なのだが、そうならなかった原因はまさにコイツらのせいであったという事だ。
アイアン・ウィルが言うには、届けられた時点でコイツらは魔力切れ一歩手前であり休眠モードに移行していたそうだ。
で、その解除条件が外部からの魔力供給だったらしく、コイツらは手に取った瞬間俺達の魔力に反応して休眠モードを解除、魔力を蓄えつつ「自分達が不完全な状態である事を隠す為」に、所有者ごと普通の人間にしか見えないように偽装を行ったという訳である。
でもって、ある程度魔力が溜まり、いよいよ活動可能となったので偽装を解除したのがまさに今日。
そこにめちゃんこタイミング良く『ジュエルシード』によって凶暴化したチワワことブラック・モロが現れ、所有者の身を守る為に本来の姿を現したと言う訳である。
なるほど、だいたい何となく分かった。
問題は、何でそんな面倒くさい事をしたのかだ。
「それで?訳を話す気になった?」
≪ぶっちゃけて言うとなぁ…訳って程のものじゃぁ無ぇんだ……ただ前の所有者から「そうするようにプリセットされた」だけなんだよ≫
未だ亀甲縛りでぶら下げられるアイアン・ウィルはブラブラと振り子のように揺れながらそう答える。
つまり何だ?前の持ち主の命令でそうなったってか?
「前の持ち主って?」
そう言った俺は嫌な予感がしていた。
コレを持っていた人間に心当たりというか、大体の目星は付いていたからである。
≪持ち主ってお前さんもよぉーく知ってんだろうが≫
あ、やつぱり。
「ちなみに…名前は?」
現実を認めたくない俺は、最後の悪あがきと言わんばかりにアイアン・ウィルに聞いてみた。
≪ったく仕方無ぇな、耳ぃかっぽじってよーく聞けよジャリどもぉ……この私と、ポンコツ野郎にお前達を守る様に命令し、小じんまるぃした段ボォーrrルにぶち込むという閉所恐怖症を恐怖のどん底に叩き込むようなサディスティックプルェイを要求しやがった前所有者のその名もなんと……『エーイ・ハッチロック』だ≫
どちらさん!?
ってか多分兄貴の事なんだろうけれど、なんでそんな変な偽名使ってんのあの人!?
一体兄貴に何があったんだろうか、心配というか嫌な予感しかしない。
「エーイ・ハッチロックだって!?」
そしてその名に反応して驚くユーノ。
おい、マジかよ、知人かよ、止してよ、ややこしいよ……。
≪知っているのか雷電?≫
雷電って誰だよ、もう止めてよ、面倒くさいよ、兄貴が関わるともう碌な事が無いよ……。
俺は直ちにこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「知っているとも、ハッチロックさんとはつい半年前まで一緒に仕事をしていた仲なんだ、部族には3か月くらい滞在していたかな?」
いよいよ兄貴は地球を出てたか…。
もう帰ってくんな、マジで…。
つーか、無数のフェレットに「キューキュー」と集られ毛玉と化す兄貴の姿を想像したら、シュールを通り過ごしもはや衝撃映像なんですが…。
考古学者じゃなくてムツゴロウさんにジョブチェンジでもすればいいよ、本当…。
≪えぇぇーーー!?つー事はお前が『ユー坊』だってのかい!?≫
「はは…懐かしいな、でもその呼び方は止めてくれないかな?」
何だろうこの疎外感…でもなんら羨ましくない…つーかこの事態をおれはどのように収拾すれば良いのでしょうか?
≪スゲェ偶然だなぁ、まさかお前さんがアイツの弟さんと出会うなんて、アイツもそこまでは想像していなかっただろうよ≫
シャラップ!!余計な言をぬかすなアイアン・ウィルッ。
「え?弟さんて…まさか」
≪何だ、お前さん知らなかったのか?アイツの弟コイツ≫
「馬鹿、余計な事言うな!!」
「えぇぇぇーーーー!!?じゃぁ君が『エフティ・ハッチロック』なのかい!?」
誰だソイツ!?俺か!?
つーか何で実弟にまで変な偽名を付与しやがったんだ!?
誰かここに来て説明してくれよマジで!!
訳わかんねぇよ……。
さっきまで殺す勢いでいた奴が一瞬で共通の知人の話題で盛り上がっていらっしゃる。
本当……世界はこうじゃ無かった事ばっかりだ……。
その後、兄貴の話で盛り上がった二人は再びお隣さんから苦情を受けるまでお喋りを続けておりました。
そんでもって次の日。
「…………という事が昨日あってよぉ」
俺は机に顎を乗せながら前の席に座る啓太に昨日の出来事を話していた。
啓太の奴は昨日破損した黒縁眼鏡の代わりに青縁眼鏡をかけていた。
どうでも良い話だが、スペアって大事なんだなぁと思った。
フェレットのユーノと兄貴、オッサンデバイスのアイアン・ウィルと兄貴。
二人の共通点、兄貴。
マジこれから嫌な予感しかしないんだけれど……。
「やべぇな、マジで」
そう言って啓太は顔を引き攣らせていた。
そうだろうとも、俺達は兄貴に近い人間だから分かる。
これは何か途轍もない出来事へのプロローグに過ぎないと……。
「今回ばかりはかなりヤバいな、剣さんが関わってるってだけでもアレなのに、今度は魔法と来たもんだ……こりゃもうダメかも分からんね」
「俺達生きてられっかなぁ……」
兎に角まず俺達は自分達の身の安全を第一に考えた。
兄貴はヤバい。
どれくらいヤバいかと言うと、大学ノート一冊では足らんくらいのレヴェルになるので割愛するが、とにかく他人を巻き込んでトラブルを引き起こす能力に特化された人間である。
そのトラブルも、小さいものは犬のウ○コを踏んじまった程度のものから、大きい物は危うく刑事訴訟クラスのものまで多岐に分かれており、兄貴と行動を共にした大学院生や教授さん達からは『歩く災厄』とか『人間オーパーツ』とか『バグったスプリガン』とか不名誉な二つ名を欲しいままにしている文字通り究極のトラブルメーカーであるのだ。
更にタチが悪いのは本人にその自覚が一切無い所で、本人はあくまで「目的のために行った過程において発生した極めて小規模なトラブル」程度でしか思っていない。
まさに唯我独尊、学者バカここに極まれり……。
俺にこの人物と同じDNAが組み込まれていると思うと悲しくなってくる。
「これ高町さんとかにも言ったが良いんじゃね?」
「兄貴警報?ナノっちに?まだ出してないの?」
何だその兄貴警報って?人の兄貴を災害か何かと一緒にすんじゃねぇよ、ヒューマノイドタイフーンかっての、大体合ってるけど。
「そういやナノっちで思い出したが、あの子が『ブルーシード』とか言う石を集めてるんだろ?」
そう言って啓太は兄貴の話題から話を高町さんの話題へと切り替えた。
つーか、初っ端から石の名前間違ってね?
「『ジュエルシード』な、ユーノを不憫に感じたのか何なのかは知らんがそうらしいよ」
「へぇ…大変だぁね、何処に転がってるか分からないんだろ?『ジャミルニート』」
随分マニアックな間違い方だな…「月は出ているか」とか言った人だろそれ?
「『ジュ・エ・ル・シー・ド』だっつの、全部で21個だそうだぜ、この街近辺に…多いよな」
「だな……それでお前はナノっちのやってる『ガンダムシード』探しを手伝えないものかなぁと、そういう訳か?」
「おまえわざとやってんだろ!……まぁ、その方がいいのかなぁと思ってサ…」
少し歯切れが悪い様な感じで俺は答えた。
実際俺は少し悩んでる。
ユーノの話が本当だとすると『ジュエルシード』が散らばった原因はユーノじゃなく船を事故らせた方だろうし、アイツはそれを知っていても「自分で探す」と言ってたった一人で何の助けも無いまま『俺達の世界』にやって来た訳だ。
あんな小っさいフェレットのくせして……。
それに、高町さんは俺達と同じ9歳の小学3年生、しかも女子だ。
そんな彼女が凄い魔法の才能を持っているとは言え、たった一人でめちゃんこ危ないって言う『ジュエルシード』を回収する手伝いをしているって聞くと、どうも気になるっつーか、なんつーか…。
勝ち負けって話じゃ無いんだが、負けた時のモヤモヤ感みたいなのがハンパ無い。
だが、めちゃんこ危険な事には変わりないし、出来れば首を突っ込みたくない。
怖いのもあるし、もし俺達に何かあったら親父や啓太の婆ちゃんはすっげー悲しむと思う。
それに、啓太だってどう思っているのか分からない……。
けれど、せっかく魔法が使えるようになったんだから俺達も何か手伝ってやりたいと思うし、俺達は男子だ、怖いと言って全部女子の高町さんに危ない事を任せるのは何か違う気がする。
つーか、もうブラック・モロの時みたいにヘタレ認定を受けたくない。
あれは不幸な事故だったんだ……。
だから、俺は悩んでいた。
だからこそ、啓太に相談したんだが……。
「何だよ浮かない顔して、お前がそう言だろうと思って、手伝うって言っちまったぞ俺」
啓太は突然そんな事を言ってきやがった。
「はい?」
何それドユコト、つーかいつ?
「何故そうなったかって?」
「……頼む」
俺がコクリと頷くと、啓太はドヤ顔で語り始めた。
ちょっとウザいと思ったが仕方ないので我慢した。
「俺昨日あれから婆ちゃんにおつかい頼まれてよ、ちょっと遠くのケーキ屋ってか喫茶店にまで行って来たんだ」
「おう」
「そしたら何と!そこがナノっちの親がやってる店でさ、居たんだよナノっちが」
「ふむん」
「で、アリサちゃんの事ごめんなの~と言われて、その後何故か携帯の番号交換と相成ってな」
「それでそれで」
「……い~だろ~」
俺は今すぐコイツに『フランケン・シュタイナー』を喰らわす必要があると思ってガタっと椅子から立ち上がった。
「ジョーク、ジョーク!本題はココからだから!」
「じゃすどぅーいっ!!」
「ナノっちはここじゃ言えない事があるから俺に携帯番号の交換をしたみたいでな、案の定おつかいが終わって家に帰ってから速攻電話が来たよ」
「で?」
「それが、お前がユーノ・スクラッチから聞いた事と殆ど一緒でな、その後、あまり魔法とは関わらない方がいいの~って言われたんだよ」
「……」
ユーノが何か宝くじみたいになっているのはこの際無視しておこう…。
それより何より高町さんのモノマネが非常に俺をイラっとさせる…。
「だからさ、その時俺は言ってやったね」
「何て言ったんだ?」
「俺達は男だ、ぶら下げてるモノは飾りじゃねぇ!!……ってよ」
「セクハラじゃねーーーか!!!!」
俺は思わず啓太の頭を思い切り叩いた。
「っ~~~……でな、高町さん何を言っているのかチンプンカンプンだったみたいでよ……チンだけに」
俺はもう一発叩いてやった、今度はグーで。
「~~~~~……今のは効いたわ」
「当然だ」
アイアン・ウィルを使われなかっただけありがたいと思え。
「どうした?早く続けたまえ」
頻りに頭部から出血していないか確認する啓太におれは冷たく言い放った。
「うぃ、その後俺は続けてこう言ったんだよ……」
「何て」
内容如何によっては得物が付加されるからその心算でな
と、思っていたら啓太の口から思いもしな言葉が吐き出された。
「…男って存外プライドが高い生き物なんだ、ナノっちの言いたい事は分かる、でもそれは人によってはその人のプライドを壊す言葉でもあるって事をまず考えて欲しい。……そもそも俺達は遊びで手伝おうとは思っていないし、ユーノを助けてやりたいって気持ちはナノっちと同じだ。それより何より、人を助けるのに危ないも何もあるかってんだ……って」
「お…おう」
コイツにしてはエラい熱く真面目な解答に俺は正直面を喰らった。
稀に、本当に稀にだが、コイツは急に熱血漢になる事がある。
普段は馬鹿をやるかアホをやるかどっちかの男だが、ここ一番って時にはやる気を出すと言うか、やる時はやる奴なんだコイツは…。
正直羨ましいと思う、そして同時に俺の目標でもある。
一応言っておくが『やる時はやる』って所だからな、それ以外はギネス級の悪い見本だ。
「そしてら、ナノっち黙り込んじゃってどうしたのかなぁと思ったら、何かお父さんとお兄ちゃんみたいなの~って言ってさぁ」
「ふーん」
熱血繋がりかなぁ…?
つーか高町さんの親御さんってどんな人なんだろう?
「ここまで行ったら俺の勝ちよ、父兄を引合いに出して、なら俺達の気持ちも分かるよな?って言って後は俺の巧みな話術でもって上手く丸め込んでやった」
それを言わなきゃお前「辛うじてカッコいいヤツ」で止まったのに……。
やっぱこいつ残念な奴だ。
兎も角、俺達はユーノと高町さんの『ジュエルシード』探しを手伝う運びとなった訳だ。
本当コイツ、それならそうと早く言えば良いのによ。
悩んでた俺がアホみたいじゃね?
……そういえば。
「所でよ、何でお前は俺にカマ賭けて来たんだ?」
俺はふと疑問に思って啓太に尋ねてみる事にした。
何故コイツはあんな茶番をしてきたんだろうか?
「何が?」
「何がじゃねぇよ、お前最初他人事のように高町さんの話題を持ち出してきただろ」
「あぁそれ?」
どうやら啓太はその事すらすっかり忘れていたようであった。
返答如何によってコイツの評価が上下する訳だが、さて…どう出るか?
「実はな……ぶっちゃけると、槍一が乗り気じゃなかったらどうしようと思ってたんだ、勢いで言っちまった所が殆どだからさぁ……これでお前が嫌だって言ったらナノっちに俺何て言やいいのか正直ヒヤヒヤもんだったぞ……」
とりあえず俺はコイツにコブラツイストをかましてやる事にした。
お前の功績は今の一言で全ておじゃんだ、この馬鹿野郎。
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