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路地裏の魔法少年

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プロローグその2:それは不思議な出会いなんじゃね?

 
前書き
デバイスのコンセプトは「こんなデバイスは嫌だ」以上一点 

 

 ≪自己紹介がまだだったな、私は『形式番号MCCS-X101LS』『試作型近接戦闘魔術支援システム101号機』……≫
 「しさく……いちまるいち……?」
 ピカピカ光りながら何処に付いているのか分からない口でそう言ったのは俺のキーホルダー。
 ちなみに若本ヴォイス。
 何だか色々凄い事を言っているのは何となく分かるんだが、何を言っているのか殆ど分からん俺は首を傾げざるを得なかった。

 ≪…………と言っても、お前さん達のミニマム脳みそじゃぁ俺の事を理解する事は出来んだろう≫
 俺はこのキーホルダーを今すぐ地面に叩き付けたい衝動に駆られた。
 図星だが、その分余計に腹が立つ。

 ≪だーから俺の事はこう覚えておけ、俺の名前は『アイアン・ウィル』人呼んで鋼の意志≫
 「ル」をやたら巻き舌で強調しながらキーホルダーは名乗った。
 重ね重ね思うが、こいつの何処に口とか舌とか付いてるんだろう?

 「あいあん・うぃる?」
 ≪そぉーだ坊ちゃんッ!絶対にぶっ壊れない、タフでスパルタンな私のソウルにぴぃったりの名前だとは思わんかねぇ?≫
 そんなん知らんがな。
 とりあえずコイツはアイアン・ウィルという名前の喋るキーホルダーらしい。
 本当ならばもっと驚くべき所なんだろうケド、何でだろう、このキャラとこのヴォイスのせいで緊迫感が台無しだ。
 「あ、うん……で?」

 ≪意外と淡白なのね今の子って…………まぁいいだろう、話はとりあえずそこのデカくて黒くて毛むくじゃらなエキセントリックアニマルをメタメタにぬっころがしてぇからにしよう≫

 そう言えば、ブラック・モロがまだ居たな。
 アンタの存在感が色々とアレ過ぎてすっかり忘れかけていたよ……。
 でも、どうやってぬっころがすの?

 「ちょちょちょ!ちょい待ち!話が一方的過ぎて分からん!」
 俺達を代表して啓太がそう言った。
 普段アホな事しか考えて無いようなコイツにしては余りにも切羽詰ったシリアスな表情に、俺は「こいつもこんな顔するんだなぁ」と別の所で関心していたが、言うと怒られそうなので言わないでおく。
 「つーか、何なんだお前、『形式番号MCCS-X101LS』試作型近接戦闘魔術支援システム101号機つったけどそんな物見た事も聞いた事も無いぞ!?」
 無駄にスペック高ぇな啓太、つーかあの長い言葉よく覚えれたな……。

 ≪ゴチャゴチャ言うのは後だっつーの、とりあえず、お前も目ぇ覚ませってんだこのポンコツ≫
 ≪…………ポンコツ呼ばわりするのは止めて貰いたい、鋼の意志よ≫
 アイアン・ウィルがそう言うと、突然啓太のポケットからも突然声がした。
 その声は野太く凛々しく、まるでどっかの国の元特殊部隊の筋肉モリモリマッチョマンの変態みたいな声だ。
 もちろん吹き替え版(CV玄田)の。

 「俺のも!?」
 予想通りのリアクションありがとう啓太。
 だが、こっちはお前も同じで少し安心したヨ。

 ≪始めまして司令官、自分は『形式番号MLLS-X201HZ』『試作型長距離魔術投射システム201号機、通称『スティールスピリット』鋼鉄の魂と申します、以後お見知りおきを≫
 どっちかって言うとお前の方が声的に司令官なんじゃね?という突っ込みはこの際置いといて、スティールスピリットと称する緑色の啓太のキーホルダーはどうやらよく出来た人(?)のようだ。
 羨ましいな啓太、俺のなんか濃ゆ~いオッサンだぞ……。

 「あ、ああ、宜しく…………じゃなくて!一体何が!どうなって!俺達は!どうなるんだ!?」
 乗り突っ込みから、一語ずつ激し目なジェスチャーをしながら啓太は叫んだ。
 何か凄ぇ動きだなぁとその時俺は思った。

 ≪お話は後です司令官、敵が行動を再開します≫
 「敵?アイツが!?」
 そう言って路地の一角へと頭を向ける啓太、それに続いて俺も頭を動かすとブラック・モロが復活していた。
 結構良い勢いで弾き飛ばされたブラック・モロは、のそりと起き上がると結構頭に来ているのかガルルと唸っていらっしゃった。
 どっちかっつーと逆恨みの様な気もしないでは無いが、そんな事より大チンピ再び、さて如何しましょう……。
 「お、おいおいおい、どうすんのコレ、ぬっ転がすって言ったけど何が出来んの!?」
 焦る俺、そんな状況の中でアイアン・ウィルはとっても余裕そうな態度でもっってとっても濃ゆい声でこう言った。

 ≪焦るな坊ちゃん達ッ!こんな時こそ『変身』だッ!!≫

 「「へ……変身!?」」
 「ら行」を必ず巻き舌にしながら何を訳の分からん事を言っているのだろうかこのキーホルダーは……。
 ≪いいから、ずべこべ言わず俺達を高々と掲げろっつってんだこのウスラトンカチ!!≫
 しかもこんな奴にウスラトンカチ呼ばわりされるとか……。
 俺は色んな意味でこの世界を呪ってやろうかと本気で思った。

 だが、悔しいことにコイツの言う通りにしないと本気でヤバそうなのも現実な訳で、俺達は渋々半分ヤケクソ半分と言った割合でキーホルダーを高々と掲げた。

 「…………何て言えばいいの?」
 ≪何がぁ?≫
 「いや、変身って掛け声とかあるじゃん」
 ≪知らんがな、でもそう言うルォマン(浪漫)っておじさん嫌いじゃないから特別にサンプルをば教えてあげちゃう……例えばそうだな……『蒸ちゃ…』≫
 「良い分かった!もう良い!」
 色々と問題有りそうな事をぬかしやがってくれそうだったので、俺は急いで止める。
 そもそもそれ俺達の生まれる前の作品だからね。

 「「変身ッ!!」」
 アイアン・ウィルの提案だと色々な所からお叱りを受けそうな掛け声だったので、俺達は一番シンプルにそう叫ぶことにした。
 掛け声はもし二回目があった時にでも考えておこう。


 ≪おーし行くぞ、スタンドバイ・ルゥェディ・セットアァップゥルァア!!≫
 ≪作戦開始!スタンドバイ・レディ・セットアップ!!≫


 ~回想終わり


 「…………それで、そんな格好になっちゃったの?」

 そう言ってとっても複雑そうな表情を浮かべる女の子の姿。
 名前は『高町なのは』さん、聖祥大付属小学校に通う俺達と同い年の女の子である。
 さっきから事の顛末を目の前に居る『黄色いイタチっぽいケダモノ』にじーっくり説明していた所、どうやらコイツの知り合いらしく一緒に話を聞く事になったのだ。

 「まぁ……そうなる」
 俺は複雑な心中をそのまま顔に表してそう答えた。
 見た目白と青のデーハーな君に言われたか無ぇやと思ったが、それ言ったら何か俺達の身が危ないような気がしたし、なにより俺の今の格好がそういったレベルの問題ではなく、ベクトルからしておかしかったので何も言えなかったという方が正しい。


 まず、それに至る経緯として簡単に説明しよう。

 俺達や高町さんが持っているのは『インテリジェントデバイス』という喋る事の出来る賢い魔法の杖なのだそうである。
 でもって、そのインテリジェントデバイスってのには、一緒に『バリアジャケット』という魔力で生成された何でもござれな機能を持つコスチュームが格納されており、デバイスの使用に合わせて使用者の姿を変える機能があるらしい。
 ようは、変身機能である。

 まぁ、ジャージ姿で魔法の杖を振り回す魔法使いとかリアルで居たら嫌だもんな、それなりの格好じゃないと色々示しも付かんのだろう。

 で、そのバリアジャケットってのは使用者のイメージそのまま反映する事が出来る機能があるのだが、めちゃんこ焦っていた上にそんな機能を知る筈も無い俺達は慌てて変身したモンだから、元々デバイスの中に入っていたバリアジャケットのデザインがそのまま反映された様である。

 ちなみに、啓太の方からどんなバリアジャケットだったのか先に説明すると、こいつのは割りと……てかかなりマトモで、濃緑色の軍服の上に同じくごっつい軍用コートを羽織り、肘と膝などの各部にプロテクターが取り付けられており、頭の上にはベレー帽。
 まるで魔法を使える軍人みたいな渋くてカッコいい姿である。
 デバイスも、一見すると工事現場で交通整理する人の持つピカピカ光る棒をグリーンに塗ったようにも見えるが、よく見るとやたらメカメカしくてまるで砲身のミニチュアを杖にしたようなそんなイメージだ。

 では、俺の格好を見てみよう。
 工事現場の作業服に随所にプロテクタを貼り付け、黄色いヘルメットを被り、軍手をはめた手にはエンジン式削岩機と化したデバイス。
 以上、何だコレ、魔法もクソも無ぇ、ただの俺の親父の仕事中の格好だ。


 「よ……よく似合ってると……お……思うの」
 「気の使い所間違ってね?高町さん?」
 「あうぅ、ごめんなさい、そういうつもりは…」
 基本良い奴なんだろうな高町さん、だが、この場合はいっその事爆笑してくれた方が俺的には助かる。

 「ま…まぁ、良いんじゃ無いか?見た目はアレだが…」
 そう言って魔法軍人みたいな格好の啓太は肩をプルプルと震わせていた。
 「身を守る…防具と最高の武器が……ブフッ!ヤバいこれダメだ、ブフフフ!!」
 堪えきれず噴出しやがった。
 よーし、今から俺はこの削岩機でお前を粉微塵にしてやる、そこを動くなよ。
 

 「ちょっと待ってくれ!」
 俺が掘削機と化した魔法の杖(?)を掲げて啓太に襲い掛かろうとすると、『黄色いイタチっぽいナマモノ』がそう言った。
 「じゃぁ君達は何にも知らないままデバイスを起動させてしまい、『ジュエルシード』の影響を受けた生き物をあんな風にしたと言うのかい!?」
 そう言って『黄色いry』はブラック・モロだったそれの方に頭を向ける。
 大分やり過ぎたかな……仰向けになって泡を吹いていらしてた。


 どれくらいやったのか、話せば長くなるのでダイジェストで説明しよう。


 変身した俺達はまず、襲ってきたブラック・モロの攻撃をバリアみたいなモンで防ぐと、啓太の持っていた杖が「ランチャー・フォーム」と発して何だかヤバそうな得物に変化。
 啓太曰く「なんだか、カールさん家のグスタフ君みてぇだな」との事だがとりあえず生き物相手に使う武器じゃねぇだろうなという事は分かった。
 だが、啓太は順応が早いのかそれともただ単にドSなのかは知らんが、そいつを構えると引き金をカチン。
 その瞬間アホみたいに強烈な爆音と全身をビンタされたかのような衝撃波が発生して緑色の何かが飛んで行った。


 そして外した。
 家が一軒吹き飛んだ。
 俺知らね……。


 でもって、俺はアイアン・ウィルの説明に従って削岩機を構えると奴が「ぶるぁあああ!!」と喧しく雄叫びを上げながら先端のドリルビットを振動させ銀色のオーラみたいなのを纏わせた。
 言われるがままそれをブラック・モロ目掛けて思い切り叩き付けようかと思ったら回避されて……。


 二件目の家に大穴が開けられた。
 あ、ゴメン……。


 だもんで、これ以上被害を出さないように慎重にとかアイアン・ウィルとスティールスピリットに注意をされたが、トーシロの俺達にそんな戦い方が出来るわきゃ無ぇだろという訳で、その後街一帯は瓦礫の山と化し、それに足を取られたブラック・モロが動けなくなった所で二人して一気に畳み込んだ訳である。

 高町さんと『黄色いry』がここに来るまで…………。

 それまで啓太がドッカンドッカンぶっ放した後に俺が削岩機でガッツンガッツン刺したった。
 今までの恨みとか色々こめてやった、ざまーみろ。
 と、その時は興奮状態にあったからまだ良かったものの、今冷静になって考えてみたらこれって結構マズイんじゃないのかなぁ……。

 動物愛護団体とかにヤられるんで無いかな俺達。
 クレーターの中にいるブラック・モロを見ながら俺はそう思った。


 「今更だけれど……すごい事になったの」

 しっちゃかめっちゃかになった住宅街を見渡して高町さんが一言。
 うん、ぶっちゃけ動物愛護団体云々よりこっちの方が遥かにヤヴァイ、どうしよう。
 「これ、俺らヤバいパターンじゃね?」
 と、心配していた俺達に救いの言葉を掛けたのは『黄色ry』だった。
 「結界の中の事象は現実世界とは切り離されているから安心して」
 との事で、イマイチ何を言っているのかその時は分からんかったが、後々ここが所謂某青狸の道具にある『逆世界入り込み何とかの』世界みたいなモンである事が分かり、俺達は人生の中でもトップランクに入る「ほっ」を体感する事になった。
 齢9つにして前科持ちにならずに済んでマジで良かったぁ……。

 「兎も角話は後にしよう…なのは、封印を!」
 「まかせて」
 


 その後、高町さんがジュエルシードとやらを封印する作業をし、『黄ry』が結界を解除すると周りの世界はいつもの住宅街に戻っていた。


 まるで白昼夢ってヤツだ…。
 あと、どうでも良いが高町さんの封印作業が今までの中で一番魔法っぽくて少し安心した。

 で、問題のブラック・モロはと言うと、それがまた俺達の予想を上回るってもんで、コイツの正体は小っさいチワワだった。
 ある意味一番驚いた。

 「「ハァ!?」」
 俺と啓太の声が揃った、ちなみに声質もだ。
 「何?俺達こんなヤツに追っかけまわされて挙句に喰われそうになったの?何それ、こんな小っさい奴が俺達を喰おうと思ってたの?バカなの?死ぬの?」
 という想いが「ハァ!?」の一言には込められていた、つーか込めた。

 「多分この犬は強くなりたいと願ったんだと思う、だからあんな姿に変化したんだろう」
 遠い目をして『黄色』がそう言った。

 「何?ドユコト?」
 イマイチ『ジュエルシード』についての知識が無かった俺が『黄色』に尋ねると、彼は『ジュエルシード』が願いを叶える魔法の宝石みたいなモンであると教えてくれた。
 するってーと何か?全部あの犬ッコロがいけねーんだな?

 「よーし、もっ回あの犬しばき回すぞ」

 俺が行動を起こす前に腕をブンブンと回し始めたのは啓太だった。
 よしやったれ!あのチワワにガツンと一発かましたれ!

 「だ、駄目なのーーーッ!!!」
 慌てて止めに入る高町さん、ちなみに変身を解いたこの子の恰好は聖祥大付属小の制服だ、高そうな制服ッ初めて近くで見たわ。

 「止めないでくれ、ナノっち、俺にはまだ殺らねばならん事があるのだ」
 「ナノっちって私の事!?……じゃ無くて、子犬さんが可愛そうだよーーー」
 「大丈夫大丈夫、ちょっと躾けるだけだから、もう二度と強くなろうなんて気を起こさんくらい、徹底的に」
 ニンマリと邪悪な微笑を浮かべてチワワに歩み寄る啓太、何かすげー悪人面だな……。
 つーかあだ名付けんの早くね?

 「徹底的じゃ尚の事駄目なの!!」
 「大丈夫大丈夫、ちょっとかけるだけだから、『アルゼンチン・バックブリーカー』を」
 「あるぜん…………ってなにそれ?」
 「大丈夫大丈夫、ちょっと曲げるだけだから、背骨を、逆方向に」
 「駄目ーーーーー!!」

 ダイジョブダイジョブと連呼する啓太の後に組み付いて必死に止めようとする高町さん。
 見方によってはイジメっ子から犬を庇う女の子のようにも見える。
 つーか傍から見たらそれ以外の何者でも無いだろう。

 だからでしょうか…………。


 「ゴルァアアアア!!!!!」

 と言う、くぎゅうな声と共に猛ダッシュして来る謎の人物。
 その姿は高町さんと同じ聖祥大付属小の制服で、金髪の長い髪は多分外人さんだからなんだろう・・・・。
 そんな外人さんの女の子はやたらと流暢な日本語で
 「なのはに何さらしとんじゃワレ!?」
 と、Vシネさながらの台詞と共に強烈な蹴りを啓太に浴びせた。



 股間に……。



 「バッハーーーーー!!!!!」
 響く絶叫、砕ける眼鏡。
 想像を絶する痛みが彼を襲ったのだろう、意味不明な断末魔を上げ崩れ落ちる啓太。
 つーか、股間の衝撃がどうすれば眼鏡のレンズの破壊に繋がるのか物理的検証を誰か頼む。

 「「ヒィッ!!!!」」
 あまりの衝撃的光景に俺と『黄色』は互いに己の『ω』に良く似た部分を抑えた。
 そして互いに顔を見合わせるのとゴトリと崩れ落ちた啓太の方に頭を向け直すのを2度3度。
 俺と『黄色』との間に妙な連帯感が生まれた。

 この痛みは同族にしか分からないだろう。
 つーか、そこをピンポイントで狙ってきた外人さんに俺と『黄色』はただただ恐怖するしか無かった。

 いやマジ…。
 ブラック・モロよか100倍怖ぇわ……。

 
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