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Meet again my…

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Ⅳ バースデイ・アゲイン (3)


「っ!!」

 ()()()()は放った矢を乱杙歯であっさりと銜え、その矢を噛み砕いて吐き捨てた。

 飛び道具は保留だ。
 ウエストポーチから水晶プルパを出した。

 以津真天の動きから予備動作が消えたことで、回避率はぐっと下がる。攻撃を読めたとしても、身体が速さに着いて行けない。
 それでも以津真天に隙がないわけではない。その隙を狙ってプルパで斬りつけるも、擦り傷程度しか負わせられない。

 ……仕方ない。予定より早いが。


 一度、瞼を閉じて、三秒とない集中を終えて再び開く。
 それだけで世界の全てがスローモーションと化す。


 以津真天の攻撃を全て数センチの移動で捌く。右へ左へ、踊るように。
 そして、たった一撃、プルパで以津真天の乱杙歯を砕いた。

 ギャアアアァァァァァー!!

 以津真天は勝てぬと悟ってか、僕に向かわず、上空へと一直線に飛翔していった。逃げた――のではない。上からの攻勢を仕掛けるつもりだ。『太平記』に語る61メートルの空を飛んだように。

 天へと遠のく以津真天から目を外す。

 矢筒から一本の矢を出す。鏃を抜いた、殺傷力のない矢。故事で隠岐広有が狩俣を抜いて同じ妖怪を射たことに則って用意した物だ。

 矢を番え、上空に向けて弓を引き絞る。

 イツマデェェェェェェェェェェ!!!!

 視界の両端に広がってゆく、鬼哭。
 啼かれても、手は止められない。これが紛れもない僕の望みだから。

「――…さんの仇だ」

 矢羽から指を離す。
 矢はあらかじめ軌道が定まっていたかのように、以津真天の喉を射貫いた。

 ギャアアアァァァァァー!!

 高い悲鳴を上げて、以津真天が屋敷の影に潜った。

 日高がいない。主人の所に戻ったか。だとすれば先に行った麻衣が危険だ。

 彼女だけは喪いたくない――もう二度と()()()()()に喪うのは……
 僕は屋敷へ飛び込んだ。





[麻衣side]

 あたしの勘は敵を嗅ぎ分ける(と、ナルが前に言った。かなりイヤな言い方だよね)。だから、「行きたくない」と思う方向に確実に外敵がいるんだと、最近分かってきた。

 一番イヤな感じのする方向に、あえて進む。
 今、あたしが一番行きたくない所。それは――――居間だ!

 懐剣を握る手が汗ばむ。こくっ、と息を呑んで、慎重にドアを開けた。

 居間は埃がフローリングに積もって、ところどころ蜘蛛の巣が張ってた。家具は全部片付けられて、井戸の跡の穴はそのままだ。
 経験上、あの手の穴からは絶対何かが出てくるんだよね。

「あ!」

 部屋の奥に、布をかけた棺に似た台座。薄暗くてすぐには気づかなかったけど、台座を中心に床に円陣が書いてある。――あやしい。

 穴を横切らないと行けない。あたしは深呼吸して、台座に向かって歩き出した。

 …カサ…

「うひゃあっ!!」

 こ、こら、怖がってどうするっ。
 懐剣をいつでも抜けるよう握り締めて、さあ、どっからでも来い!

 穴を仇みたく睨みつけると、何か黒いモノが穴から出てくるのが見えた。

 ――土蜘蛛!
 懐剣を鞘から抜く。薄暗い居間の中で、刀身が鈍く輝いて。
 その向こうでは、初めて見た日の倍の土蜘蛛が、カサカサギチギチと蠢いていた。

「ひっ…」

 ごめん、麻衣ちゃん、嘘をつきました。怖い、というか、気持ち悪いです!

 確実に百匹単位でいる。この剣、土蜘蛛除けだってナルは言ったけど、持ってても土蜘蛛は確実にこっちに近づいてくる。
 やっぱり、応戦用、なのよね? あたしが使ったことのある刃物なんて、包丁とカッターナイフくらいなのに。

 悩む間にも迫る、土蜘蛛の群れ。噛まれたら麻痺、ってナルは言った。

 ええい、ままよ! どの道、ここを突破できなきゃ、式符の奪還なんてできやしない。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!!」

 懐剣を握ったまま九字を切る。

「ぇ……ありゃ……」

 何匹かどころじゃない。群れの一角がまるまる焼け焦げた。しゅうしゅうと煙が上がって、タンパク質の焼ける臭い。残ったのは焦げた紙だけ。

 早九字だけで、この威力。一体どんなに強い霊具を取り寄せたのよ。ナルってばこれだけ入念に準備して。

 10年間もずっと。
 彼はずっと今日のために頑張ってきたんだ。

「じゃあ、あたしも負けてらんないね。――臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!」

 懐剣を刀印代わりにしてもう一度九字を切ると、また土蜘蛛が焼けて札に戻った。



 一体どれだけ、そんなことをくり返しただろう。
 フローリングが焦げるくらいに何度も、何度も懐剣で九字を切って、何とか全部の土蜘蛛を札に戻せた。 
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