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万華鏡

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第五十四話 音楽喫茶その五

「ただ、虎は強いことが正義だから」
「だから今年は阪神が正義ですね」
「それになりますね」
「なるわ、普段は冗談みたいに打たないけれど」
 阪神の持病である、補強してもその人材が夏になると打たない、阪神タイガースはそうしたチームなのである。一点差二点差での負けが異常に多い。
「今年は違うからね」
「ダイナマイト打線復活ですね」
「夢みたいに」
「だから今年の阪神は正義なのよ」
 虎は強くなくてはならない、阪神はこの世の邪悪の象徴である巨人を成敗すべき聖なる獣なのである。それでなのだ。
「絶対にね」
「ですよね、それにしても犬猫ですか」
 ここで彩夏がその犬猫達について部長に詳しく話した。
「確かそれ出すクラスか部活ありましたよ」
「動物研究会ね」
「何か犬猫喫茶とか」
「あれ犯罪よね」
 部長は腕を組んで憮然とした顔になってこう述べた。
「というか反則よね」
「それだけで皆来るからですよね」
「猫カフェは魔境よ」
 その域に至っているというのだ。
「そこに入ったら出られないのよ」
「可愛いからですね」
「何度も言うけれど可愛いことは正義よ」
「それで正義に囲まれるからですね」
「猫カフェは正義の魔境なのよ」
「じゃあ犬もいれば余計にですね」
「犬は心も天使よ」
 猫の心が悪魔であるのに対してだ、猫は悪戯好きで何かと悪さをするが犬は純粋で友情に篤い生きものである。
「いい生きものよ」
「ううん、部長さんって犬も猫も好きなんですね」
「どちらもなんですね」
「まあね、どっちも好きね」
 自分でもそれを認めて頷く部長だった。
「ワンちゃんもニャンちゃんも」
「それでどっちがより、ですか?」
「より好きですか?」
「それが難しいのよね」
 部長は彼女にしては珍しく判断がつきかねるといった顔で首を捻りながらプラネッツの面々に答えたのだった。
「私にしてもね」
「そうなんですか」
「どっちかって言われてもですか」
「どうにもなんですか」
「その辺りは」
「だってね、どっちも可愛いじゃない」
 可愛いことは正義でありどちらも正義だからだというのだ。
「日本酒とビールどっちがいいかっていうのと同じで」
「判断がつきかねるんですね」
「その辺りの」
「そう、しかも日本酒もビールもどちらも好きでしょ」
 酒に例えた話だった。
「だから犬と猫のどちらを好きでもね」
「それでもいいんですね」
「どっちを好きでも」
「そう、いいのよ」
 部長はこの言葉はいつも通りはっきりと答えることが出来た。
「だから犬と猫どっちかっていうと」
「それがですか」
「難しいんですか」
「どっちも同じ位かしらね」
 犬と猫どちらかはというとだというのだ。
「私は」
「そうですか、部長さんはですか」
「そっちはですか」
「どっちがどっちかっていうと言いきれないわ」
 部長は二人に難しい顔で述べていく、そうした話をしつつ。
 五人にだ、話を戻してこう告げた。 
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