不老不死の暴君
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第九話 亡国の王女
バッシュのせいで侯爵邸に侵入という冤罪を着せられたセア達は翌日の朝に帝国に引き渡され戦艦リヴァイアサンに移送された。
セアはてっきり独房に連れていかれると思ったが戦艦リヴァイアサンのメインコントロール室に連れて行かれた。
そこには相変わらず派手な金色の鎧を身に纏ったギースと見た事無い女性がいた。
女性はバッシュを見ると顔に怒りを浮かべてこっちに来た。
「殿下・・・」
バッシュが小さい声で呟いたが女性は構わず全力でバッシュにビンタする。
「なぜ生きている、バッシュ! ・・・よくも私の前に!」
まったく状況が理解できずセアがヴァンに問いかけた。
「おい、バッシュにビンタしたの誰だか知ってるか?」
「昨日話したアマリアだけど・・・」
ヴァンの表情を見る限りアマリアのことを知っているヴァンも困惑しているようだ。
バルフレアやフランも同様である。
するとギースがからかうような声で
「君たち、いささか頭が高いのではないかな。旧ダルマスカの王女・・・アーシェ・バナルガン・ダルマスカ殿下の御前であるぞ?」
「こいつが!?」
ヴァンが驚いて声を上げたが他も同じである。
セアはそのことに驚き、そしてアマリア・・・いやアーシェを睨みつけた。
覇王の次男のバナルガンが興したダルマスカ王国の王女・・・つまりはあの覇王の血族。
2年前の戦争であの忌々しい血は途絶えたと思っていたのに!
だがセアはアーシェに気づかれる前に睨むのをやめ俯いて誤魔化した。
「もっとも身分を証明するものはないのでね、今は反乱軍の一員にすぎない」
「解放軍です」
「執政官閣下はダルマスカ安定のため、旧王族の協力を望んでおられる。だが証拠もなく王家の名を掲げ、いたずらに治安と人心を乱す者には・・・例外なく処刑台があてがわれましょう」
「誰がヴェインの手先になど!」
アーシェがそう言ってギースを睨みつけた。
するとバッシュがそこに横槍を入れる。
「亡きラミナス陛下から預かったものがある。万一の時には私からアーシェ殿下に渡せと命じられた。ダルマスカ王家の証【黄昏の破片】・・・殿下の正統性を保障するものだ。私だけが在処を知っている」
「待て!父を殺しておきながらなぜ私を!生き恥をさらせというのか!」
「それが王家の義務であるなら」
その言葉を聞きアーシェは屈辱に歪んだ顔で手に力を入れた。
そして空気を読まないヴァンがアーシェに叫んだ。
「いい加減にしろよ。お前と一緒に処刑なんてイヤだからな」
「黙れ!」
アーシェが叫んだ直後ヴァンのポケットが光った。
ヴァンはその光っている魔石を出した。
「ヴァン、それは!」
「王宮の、宝物庫で・・・」
「おいおい・・・」
バッシュがヴァンの持っている光っている魔石を見て驚き、ヴァンは恐る恐る何処で手に入れたかを言い、そのことにバルフレアは言葉にならないが声に出さずにはいられなかった。
ヴァンが持っている魔石・・・【黄昏の破片】をみたギースが笑い声をあげた。
「はっはっはっはっは!けっこう!もう用意してありましたか。手回しのよいことだ」
「やめなさい!」
アーシェはギースの手を止めるように塞いだ。
ヴァンはどうしていいかわからず後ろに振り返った。
するとバルフレアが頷いたのでヴァンはギースに【黄昏の破片】を渡した。
「約束しろよ、処刑はなしだ」
ギースはヴァンから渡された【黄昏の破片】を眺めながら言った。
「ジャッジは法の番人だ。連行しろ。アーシェ殿下だけは別の部屋へ」
どうやらギースはヴァンが【黄昏の破片】を渡したにも関わらず処刑する気のようだ。
後でこの世に生を受けたことを後悔させてやるとセアは強く決意し帝国兵に連行された。
ギースは【黄昏の破片】を見ながら呟いた。
「ヴェイン・ソリドール・・・なぜこんなもののために・・・」
ダルマスカ王家の証・・・確かに重要な品だがアルケイディア帝国次期皇帝確実と呼ばれる人物が欲する品とは思えない。
そういうものに興味があるならまだわかるがヴェインは先日発見された隠し宝物庫にあった品々に何の興味も示さなかった。
なぜかヴェインは2年前の戦争終結直後からダルマスカの執政官になることを希望していた。
ヴェインの才覚を恐れる元老院に覇王の血筋を断絶させた事を理由に足止めされたがそれでもダルマスカ行きを希望した。
政民達の間ではヴェインは本国に対抗できる程の戦力を手に入れるつもりではという噂もあった。
確かにヴェインの才覚を持ってすれば本国に対抗・・・下手すれば本国を滅ぼせるくらいの戦力を整えることができるとはギースも思う。
しかし執政官に就任してからのヴェインの行動にそのような物騒なことは欠片も感じない。
ただダルマスカの支配と今回のような王家の証の入手等のよくわからない任務しか受けていない。
「私や本国が見抜けない価値があるとでもいうのか? ダルマスカに・・・」
ギースはヴェインがなにを考えているのかわからずにいた。
一方そのころセア達はリヴァイアサンの廊下で話し合っていた。
バッシュはヴァンに向かって
「きみが持っていたとはな。これも縁だろう」
「俺を巻き込んだのも縁かよ」
バルフレアが不機嫌そうな声でバッシュに言った。
バッシュが余計な真似をしなかったら今頃空賊家業に戻れている筈なのだから当然だ。
「あの場では手はなかった。仕方あるまい」
「任務が優先か、さすが将軍閣下。それにしてもあれが王女とはねぇ・・・」
「同感だ」
バルフレアの台詞にセアも同意した。
するとバッシュが少し顔を顰めた。
「貴様ら、さっきから静かにしろと・・・」
「うるさい!」
セアを殴ろうとしてきた帝国兵をの攻撃をよけ手枷の角で帝国兵の後頭部を殴った。
他の奴等も経緯は違えど近くにいた帝国兵を倒したようだ。
残っている帝国兵は二人。
数ではこちらが有利だがこちらは丸腰の上に両手が繋がれている。
すると帝国兵の後ろからジャッジがきて帝国兵の胴をぶった切った。
ジャッジが兜を脱いでバッシュの方を向いた。
「ウォースラ!」
セアはその名前に聞き覚えがあった。
あれは・・・ダラン爺と談笑していた時の話だったか。
ダルマスカ王国軍の生き残りでラバナスタの反乱軍の実質的な指揮者。
ウォースラ・ヨーク・アズラス将軍の話が話題にのぼった。
セアがラバナスタに来た当時の反乱軍の活動の露出度に文句をいったところダラン爺がワシからアズラスに言っておこうというと言う形で。
最初は冗談だと思っていたが直後に反乱軍の活動が解りづらくなったので本当だったのかとセアは気づき、ダラン爺みたいに歳をとってたらこんな感じに自分はこんな爺さんになっていただろうとセアは感じた。
「侯爵の手引きか」
「初めて頭を下げた」
そう言ってウォースラは鍵を取り出しバッシュの手枷を外して、鍵をセアに渡した。
「いいか、ダルマスカが落ちて二年。俺はひとりで殿下を隠し通してきた。敵か味方かわからん奴を、今まで信じられなかったのだ」
「苦労させたな、俺の分まで」
「助け出す。手を貸してくれ」
「ああ」
そして捕まるときに押収された武器を取り戻すため押収品がある部屋へと5人は急いだ。
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