不老不死の暴君
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第八話 ビュエルバの領主
ビュエルバの侯爵邸にセア達が来たのは昼過ぎだったが既に日は暮れあたりは暗くなっている。
侯爵の執務が終わるまで待たされたからだ。
そして警備兵に呼ばれ侯爵の執務室へ案内された。
初老の侯爵が大きい机を挟んで反対側に座っていた。
「バッシュ・フォン・ローゼンバーグ卿。私は貴公が処刑されたと発表した立場なのだが?」
「だからこそ生かされておりました」
バッシュの言葉を聞き侯爵が手を組んで俯いた。
「つまり貴公は私の弱味か。ヴェインもおさおさ怠りない・・・で?」
「反乱軍を率いる者が帝国の手に落ちました。アマリアという女性です。・・・救出のため、閣下のお力を」
「貴公ほどの男が救出に乗り出すとは・・・よほどの要人か」
侯爵とバッシュの会話を聞き、セアは小声でヴァンに聞いた。
「アマリアって誰だ?」
「そういえばセアは知らないのか・・・王宮から逃げるときにガラムサイズ水路で会ったんだけど俺達と一緒に捕まっちゃて・・・」
「ちょっとまて、ガラムサイズ水路まで逃げれたなら何でお前は捕まったんだ?」
「え?」
「水路に飛び込んで東ダルマスカ砂漠の方に続く川まで泳げば逃げ切れただろう」
「無茶苦茶だぞ」
「まぁいいや」
そう言ってセアは侯爵とバッシュの方に視線を戻した。
「立場というものがあるのでな」
そう言って侯爵は席から立った。
立場というものがあるということは帝国と表向きは敵対したくないということだ。
当たり前といえば当たり前だ。
ビュエルバは都市国家で対するアルケイディア帝国はイヴァリースに覇を唱えんとする二大帝国のひとつだ。
軍事力も経済力も比べ物にならない。
要するにもし侯爵がバッシュに助力した場合、帝国がビュエルバに攻め込む大義名分が出来てしまう。
そしたらビュエルバは帝国に滅ぼされてしまうのだ。
バッシュの願いは叶わないだろうとセアは思い侯爵に話しかけた。
「ラーサー殿に会わせてはもらえませんか?俺の知り合いが一緒にいる筈なので」
すると侯爵はセアの方を向いて残念そうな声で
「・・・一足遅かったな。ラーサー殿の御一行はすでに帝国軍に合流された。今夜到着予定の艦隊に同行してラバナスタに向かわれる」
その台詞を聞いたヴァンが何かしそうな雰囲気だったなのでセアが羽交い絞めにした。
「放せ!放せってば!」
「落ち着け・・・」
セアがヴァンを宥めるように言った。
さっきの侯爵の台詞をそのまま受け取ると艦隊はラバナスタに行く。
ラーサーなら上手い事取り計らってラバナスタでパンネロをおろすだろう。
力ずくで助けるより余程安全だ。
しかしヴァンは解っていないようだ。
「早くしないと、パンネロが・・・!」
「やめろ!」
どうやらバルフレアも同意見のようだ。
当たり前かこれ以上面倒事に首を突っ込みたくないだろうし。
「ローゼンバーグ将軍」
外野の騒ぎなど知らないとでも言いたげに侯爵はバッシュに話しかけた。
「貴公は死中に活を見いだす勇将であったと聞く。あえて敵陣に飛び込めば、貴公は本懐を遂げるはずだ」
侯爵の台詞を聞いたセアとバルフレアはその本当の意味を素早く察し、バッシュの方に向く。
するとバッシュはセア達の方を向き真剣な顔で腰の剣を抜いた。
「悪いな、巻き込むぞ」
「侵入者を捕らえよ!」
侯爵のその言葉を待っていたとばかりに警備兵が執務室入ってきた。
そして侵入者一行(セア達)は警備兵に捕縛された。
「ジャッジ・ギースに引き渡せ!」
「放せよ! なにすんだよ!」
・・・どうやらヴァンはまったく理解できていないようだ。
そのヴァンを見てセアはヴァンに観察眼というものを育ててやろうかとも考えたがそれでは素直さが無くなってしまうとヴァンの観察眼を育てる事を諦めた。
セア達が捕縛されて数時間後。
アルケイディア帝国旧ダルマスカ王国領王都ラバナスタにて。
「帝都の老人どもに足止めされている間に、この復興ぶりだ。まったく・・・この国はたくましいな」
ダルマスカ地方の執政官ヴェイン・カリダス・ソリドールは王宮から市街を見て呟いた。
机の反対側にいる人物・・・ジャッジマスター・ガブラスは報告を続ける。
「現在ラバナスタの反乱分子は孤立しておりますが・・・今後、外部勢力からの支援を受けると厄介です。特にビュエルバの反帝国組織は不自然なほど資源が豊富です」
反帝国組織の中でビュエルバの組織はそれ程大きい方ではない。
数ある反帝国組織の中で見れば精々中規模程度・・・先日壊滅寸前まで追い詰められた反乱軍より少し大きい程度である。
しかし大規模な反帝国組織は南のケルオン大陸の植民地に集中している。
宿敵の力を削ごうとロザリア帝国が支援しているからだ。
まぁアルケイディア帝国もケルオン大陸のロザリア帝国の植民地にある反抗組織を支援しているからお互い様である。
しかしビュエルバの反帝国組織は違う。
位置的な問題でロザリア帝国が支援できる筈がないのだ。
それなのにダルマスカ王国の敗残兵の殆どを吸収して結成された反乱軍と同程度の規模があるのはおかしい。
となると・・・ビュエルバの領主が反帝国組織を支援している可能性がある。
「オンドールを押さえるべきです」
ガブラスはヴェインに進言した。
将軍の生存を公表すれば反帝国組織のオンドール候への信頼も揺らぐだろう。
しかしヴェインは笑みを浮かべて書類を取り出した。
「ところが彼から連絡があってな。檻から逃げた犬を捕らえて、ギースに引き渡したそうだ」
表向きは罪人の将軍を帝国に引き渡したという侯爵の忠誠ともとれる内容だ。
しかし同時に侯爵は将軍の生存を知っているということの表明だ。
これでは将軍の生存を公表したとしても大した効果は無いと見るべきだ。
「奴を殺すのは私です」
しかしガブラスはそんなことはどうでもいいようだ。
「・・・見上げた弟だ」
ヴェインが感心したように言った。
恐らくかつて自分が兄2人を断罪した皮肉も混ざっているのだろうが。
「ああ、ギースがラーサーを連れ帰る。明朝ビュエルバを発つそうだ。卿に本国まで送ってほしい。ドクター・シドが来るのでな、外してくれ」
そう言ってヴェインはガブラスに退室を促し、ガブラスはそれに従い扉の方に向いた。
すると初老の眼鏡をかけた人物・・・ドクター・シドが独り言を言いながら入ってきた。
「現物を確認せねば話にならん。ナブディスの件もある。・・・ああ、偽装はしている。馬鹿どもには幻を追わせるさ」
ガブラスは無視して部屋から出ようとしたが
「そうだ、歴史を人間の手に取り戻すのだ!」
その言葉を聞きガブラスは少しシドの方を向いたが直ぐに退室した。
シドは今、ヴェインがそこにいるのが気がついたかのように話しかけた。
「おお、ヴェイン。執政官職を楽しんでいるようだな」
「二年も待たされたのでな。帝都はどうだ、元老院のお歴々は?」
「まめに励んどるよ、あんたの尻尾をつかもうとな」
シドは茶化すように言った。
するとヴェインは楽しげな笑みを浮かべた。
「フッ・・・やらせておくさ」
アルケイディア帝国の前身、アルケイディス共和国の頃は元老院が国を動かしていた。
しかし軍部出身の護民官が皇帝を名乗り国は軍部の独走を許す事になった。
そこで当時法務庁を統括していたソリドール家と元老院が協力し帝国を安定させた。
その後はソリドール家出身の皇帝が四代に渡り政治を行っている。
元老院は政治的決定権を持たないが皇帝の承認権と退任を要求する権利を持っている。
これはかつて軍部が暴走したときの反省のためだが今では皇帝と元老院の対立に利用されている。
「元老院がなにを企もうが同じ事だ」
そう言ってヴェインは再び窓から市街を見下ろした。
「・・・全てはソリドールの為に」
ヴェインは小さい声で呟いた。
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