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久遠の神話

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第七十七話 百億の富その十五

「悩んだよ、けれどね」
「貴方の決断はですね」
「選んだよ」
 ここでは自嘲の笑みだった、そのうえでの言葉だ。
「戦うことをね」
「それでもですか」
「それだけね、私は富が欲しいんだよ」
 そう思ってだ、それでだというのだ。
「いや、欲しかったと言うべきか」
「富が」
「だから戦ってきた、けれどずっとね」
「エゴの為に戦われることは」
「そしてそれによって人を殺めることはね」
 罪への意識、そしてその罪を犯すことへの恐怖が常にあったというのだ。
「例え法に触れないものであっても」
「迷われていましたか」
「そうだったよ、けれどよかったよ」
「願いを適えられて」
「しかも誰も傷つけることはなかった」
「そのうえで戦いを終えられることが」
「本当によかったよ」
 心から安堵する顔でだ、王は言うのだった。
 そのうえでだ、女神達に対してこう言った。
「ではこれでね」
「戦いから去られますね」
「うん、明日からは普通にお店の料理人とお客さんとして会おうね」
「はい、ただ」
「ただ?」
 今度は聡美の言葉に応えた。
「まだ何かあるのかな」
「戦いを終えられる時ですが」
 その時のことをだ、聡美は王にも話したのである。
「剣をご自身の足元に置かれてそうして」
「それからだね」
「戦いから降りられることを宣言されて下さい」
「そうすればいいんだね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「そうされれば」
「そう、それじゃあね」
「そうされてくれますね」
「それで戦いから降りられるんだね」
 そのことをだ、聡美はまた問うた。
「それならね」
「そうされて下さい」
「わかったよ、じゃあね」
 王は聡美の言葉に頷いた、そうして。
 彼女の言うままその剣を下に、自分から水平に横たえさせた。それから戦いから降りることを宣言した。そうしてだった。
 彼も戦いから降りた、それからその宝の前に向かった。それはかなりの多さがあった。
 その宝を見てだ、彼はこう言った。
「私一人が持ち運ぶには辛いかな」
「それだけあればですね」
「黄金も一本や二本じゃない」
 かなりの量d、だからだというのだ。
「これを持ち運ぶのは大変かな」
「それでは」
 ここで言うのは智子だった。
「車を用意します」
「車?」
「はい、とはいっても乗用車ではありません」
 それではないというのだ、王はその話を聞いてすぐにこう智子に言った。
「リアカーかな」
「おわかりですか」
「うん、それだね」
「はい、そうです」
 その通りだとだ、こう答えた智子だった。
「それになります」
「いいね、あれならlこれだけあってもね」
「持ち運べますね」
「私の家までね。後はこれをね」
「お金に換えられて」
「うん、百億にして何処か信用出来る銀行に預けて」
 王はその銀行のことも話した。
「映画みたいにスイス銀行かな」
「スイス。あの山と谷の国ですね」
「知ってるかな」
「少しは」
 智子はこう王に答えた。
「ローマの時代に行ったこともあります」
「ローマ帝国の頃だね」
「あの頃あの国はローマの中にありました」
 今で言うイタリアだけではない、スペインやフランス、ドイツ、イングランドにオーストリア、バルカン半島全域ルーマニアに至る欧州の国々がローマ帝国の領土だった。エジプトや小アジアに北アフリカ沿岸もである。
 そのローマの中にだ、スイスもあったのだ。それでローマで信仰されていた智子も言うのだ。
「その頃の私の名はまた違いましたが」
「確かミネルヴァだったよな」
「はい、本来は違う女神の名でしたが」
 こうした説があり智子もこう主張する。
「ローマではその名で呼ばれていました」
「そうだったよな、その時にか」
「あの国、その頃は国ではなかったですが」
「行ったことがあるんだな」
「緑と青の世界でした」
 スイスはその頃からこの二色だったというのだ。
「そして白も」
「雪だね」
「そうした世界でした」
「今と変わらないかな、とにかく」
「はい、その国の銀行にですか」
「預けようかな、あそこは確かな銀行が多いしね」
「そうされますね」
「日本の銀行はよく知らないけれど」
 この前置きからだ、王は言う。
「中国の銀行はね」
「信頼出来ないですか」
「そうだよ、祖国の銀行だけれどね」
 それでも信頼出来ないというのだ、このことは残念そうな笑顔で言う王だった。
「どうもね」
「そうですか、だからですか」
「財産だからね、私の」
 それも望んでいたものである。
「信頼、完全にそれが出来る場所に置くよ」
「ではそのことは」
 ここで智子はそのスイスの銀行で何処がいいかも話した、王もそれを受けて答えた。
「わかったよ、それじゃあそこにするよ」
「はい、それでは」
「そこまで教えてくれてくれるなんてね」
「適えた願いは果たされなければなりません」
 この考えからだ、教えたというのだ。
「そうさせてもらいました」
「それではね」
「後はその適えた願いと共に生きて下さい」
「是非そうさせてもらうよ」
 王はその百億を受け取りだ、女神達が力で呼び寄せたリアカーに乗せてそのうえで自分の家に運んだ。そして次の日に早速現金に換えてスイスのその銀行に預金した。こうして彼の戦いは完全に終わったのだった。


第七十七話   完


                   2013・8・3 
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