久遠の神話
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第七十七話 百億の富その十四
「巨人といえどその身体には急所があるもの」
「それも攻撃を受ければすぐに倒れる場所が」
「ええ、あるわ」
「そしてそのうちの一つが」
「脳天よ」
まさにそこだというのだ。
「そこを攻めればね」
「例えそれがどれだけ強大な存在であろうとも」
「私達であろうとも」
神である彼女達もだというのだ。
「そこを打たれればね」
「神々は死なないですが」
「倒れるわ」
このことは避けられないというのだ。
「ましてやそれがこの世で最も硬く強いオリハルコンなら」
「神であるサイクロプスにしても」
その彼でもだというのだ。
「倒されますね」
「ええ、間違いなく」
まさにだ、そうなるというのだ。そして実際に。
王は今は斬らなかった、突いた。それも全体重をかけて巨人の脳天に向かい急降下してであった。
剣を下に向けていた、巨人はまだ王の素早い跳躍に気づかず頭上を見てはいない。しかしそれも間もなくだった。
巨人の単眼が上を向いた、しかしその瞬間に。
王はその剣を巨人の脳天に突き入れた、すると。
その攻撃は巨人の脳天とその中にある脳を直撃したのである。
それを受けてだ、さしもの巨人もだった。
動きを止めそうしてゆっくりと前に崩れ落ちる、王はその巨体の頭を踏み台にしてまた跳び後ろに着地した。
着地の際の衝撃は膝を折ってそれで殺した、そうしてから立ち上がり。
後ろを振り返ると今丁度巨人の巨体が完全に倒れ込んだところだ、そして。
巨体がゆっくりと消えていった、その後に残ったのは。
これ以上はないまでの多さの金塊、それに宝石もあった。それを見て言う王だった。
「百億はあるかな」
「はい、用意しておきました」
豊香が答えてきた。
「それだけあります」
「そう、じゃあね」
「貴方は得たいものを得られましたね」
「百億だね」
「そうです」
日本の価値でそれだけだというのだ。
「貴方の祖国の価値では」
「さらに多いね」
「それこそ一生暮らせますね」
「一生どころかね」
それどころではないとだ、王は豊香に笑顔で答える。
「私が言っている様にね」
「見事な家に車にですか」
「そう、死ぬまで贅沢にね」
暮らせるというのだ。
「よかったよ、自分の店も持てるよ」
「おめでとうございます」
「しかも誰も手にかけずに済んだ」
剣士同士の戦い、それによってである。
「本当によかったよ」
「何よりです、私達にとっても」
「正直迷ったんだよ」
その日本円にして百億の価値がある富を見ながらだ、王は言う。彼の今の顔は過去の逡巡をそのまま出していた。
「どうすべきかね」
「戦われるかどうかですか」
「私にも倫理観があるからね」
だからだというのだ。
「いや、倫理観のない人間はね」
「滅多にいませんね」
「そうだよ、だから私もね」
王にしても良心、倫理観はある。人間が人間である為の条件は持っているというのだ。だがそれでもだったのである。
だからだ、こう言うのだ。
「富は欲しいけれどね」
「戦いで人を殺めることはですか」
「それも自分のエゴによってね」
「それは悪だと思われていたのですね」
「うん、ずっとね」
本当にだ、迷ってきたというのだ。
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