魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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A's編 その想いを力に変えて
A's~オリジナル 日常編
51話:七夕にかける願い
時期は再び過ぎ、夏直前の七月七日。
この時期になると、高町家では毎年夏の予定を考え始める頃なのだが、今回はそれは関係ない。
七月七日。そう、今日は七夕だ。
年に一度、織姫星(こと座のベガ)とひこ星(わし座のアルタイル)が、天の川を渡って会うことを許された特別な一日。
日本では皆さんも知る通り、笹の葉に願い事を書いた短冊を引っかけて願い事をするのが習慣だ。
「……それで?なんで俺までここにいるんだ?」
「まぁまぁ、そう言わずに」
ため息を吐きながら嫌々そうに言うのは、例のごとく駆紋だ。その横から、これまたいつものごとくカオルがなだめるように言う。
毎年翠屋では、七夕には店前に笹の葉を数本立てて、お客さんに願い事を書いた短冊をつけてもらう、というキャンペーンをやっている。
これによってお客さんがこの日だけ、イチャイチャしているカップルや、子供連れのご家族が急増したりするのだ。
そして高町家では翠屋で使われた笹を一本持ってきて、俺達も短冊をつける、という事を毎年行っている。アリサ達と知り合ってからは、四人で短冊を書いたりもしていた。
今日は去年参加できなかったフェイトやはやても一緒にやろう、という事で、俺からカオルと駆紋を誘ったのだ。因みに、今は翠屋からもらった笹を高町家に運んでいるところだ。
「カオルの言う通りだぞ?お前はもう少し世渡りを上手くした方がいい。これから先大変になるぞ?」
「ふん、それこそ俺の問題だ。別にお前達に心配されるような事じゃない」
「ほらまた素直じゃない」
カオルがそういうと、駆紋はぷいっとそっぽを向いてしまう。
「というか、だからと言ってお前らに付き合う必要性はないと思うが」
「ま、手始めに友達からって感じだな」
「………」
いつもなら、友人など必要ない、というところの筈だが、今回はそっぽを向いたままだんまりとしていた。こいつも変わってきている、ということなのだろう。
そんな会話をしていると、いつの間にか高町家に到着した。
「あ、士君。お疲れ様」
「おう。これ何処置こうか?」
玄関前で出迎えてくれたのは、なのはだった。俺は肩に担いでいた笹を指差しながら尋ねる。
「うん、中庭の方に皆いるから、そこにお願い。私もすぐ行くから」
と言いながら、なのはは中庭の方向を指差した。丁度俺から見て左側だ。
それに合わせて、右隣に並んでいたカオルと駆紋は顔を向けた。そういえばこの二人、この家に来るのは初めてだったか。
「わかった。すぐ来いよ」
俺はそう言って中庭の方向へ向き直す。
この時、笹は俺の右肩に担がれていた。そして俺の右隣にはカオルと駆紋がいる。
そして、この状態で俺が中庭の方向―――左へ向くとどうなるか?皆さんはわかるだろうか?
「「ぶべらっ?!」」
「あっ…」
左を向いた瞬間、鈍い二つの音と共に、背後で変な声となのはの短い言葉が聞こえた。
俺が振り向くと、左の側頭部を抑えているカオルと駆紋がいた。
「ん?どうかしたか?」
「………いや…」
「……なんでも、ない…」
……そうか。
「じゃ、行くか」
そう言って再び中庭に向かう為に、その方向へ振り向く。状況は当然、先程と同じだ。
「ふっ!」
「ぐべらっ?!」
再び鈍い音と、今度はカオルの声だけが後ろから聞こえてきた。
「おい、さっきからどうし―――」
「貴様わざとだろ。絶対にわざとだろ」
「ん~?なんのことかな~?」
駆紋に胸倉を掴まれ、ものすごい形相で凄まれる。その憎悪に満ちた雰囲気に、思わず顔をそらす。
その後ろでは後頭部に大きなたんこぶを作り上げ、そこから煙立たせながら倒れているカオルの姿が。……まぁ…わざとなんですが。
「ちっ……俺が持っていく、代われ」
「はいはい」
面白っかったのにな~。
そう思っていると、駆紋は笹を俺の手から奪い取るように受け取り、中庭へ向かう。俺はそれに伴い、倒れているカオルに肩を貸して連れていく。
「まったく…お前という奴は―――」
「……あのさ、士君…」
「…なんだ?」
「笹の葉でこちょこちょってできるかな?」
「どうだろうな」
「……試してみる?」
「…価値はあるな。丁度ここには笹の葉と被験者(駆紋)がいる」
「そうだね、じゃあ…」
「―――ってお前ら人の話を聞け!」
おぉ、怒った怒った。
「聞いてるだろ?俺はカオルの話を聞いている」
「お・れ・の・は・な・し・を・聞けっ!」
「五分だけでもい~い~」
「ふざけるな!」
まさにプンプンといった様子で、足早に先に行く駆紋。それを見た俺とカオルは顔を合わせ、二人同時に笑みを浮かべた。
高町家の中庭には、既になのはを覗いた四人と、美由希さんもいた。
最初に俺達を視認したのはフェイトだった。フェイトは俺達を見つけたと同時に、手を大きく振ってきた。
「士~、こっちこっち~!」
フェイトの行動で他の面々も俺達に気づき、各々違う反応を見せた。なのはも丁度その時中庭にやってきた。
「それじゃ、始めますか」
手洗いの為に席を外し、戻ってくると、皆は既に短冊に願い事を書き終えたらしく、それぞれ笹へ引っかけたり括り付けたりしていた。
俺も急いで短冊とペンを手に取り、さらさらと願い事を書き入れる。
「士君、書けた?」
「あぁ。はやては?」
「先に書いてなのはちゃんに引っかけてもろうたよ」
「ていうか後は士君だけだよ」
「まぁ見ればわかるんだけど」
はやてやすずかに急かされるように庭へと出て、笹へ向かう。それに入れ替わるように、フェイトやなのは達と入れ替わる。
「……短冊引っかけるのに、他人の願い事が見えちゃうのはよくある事だよな」
そう呟いて、俺は皆の短冊を確認していく。
「なになに…」
なのは→これから先、皆が幸せでありますように。
フェイト→皆といつまでも仲良くいられますように。
はやて→早くこの足が完治して、皆と楽しいことがいっぱいしたい。
アリサ→テストで士に勝ちたい。
すずか→皆が怪我なく過ごせますように。
なんかあいつららしいな……
そう思っていると、視界に美由希さんの短冊が見えた。
美由希→彼氏がほしい。
……せ、切実だな。なんか筆圧も強いように見えるし…
その奥の方には、駆紋とカオルの短冊が見えた。
駆紋→特になし。
ねぇなら書くなよ。
カオル→宇宙に行きたい。
普通そこは宇宙飛行士じゃねぇのか?と思いつつ、なんとなくあいつらしくもあるな、と思った。
その時、神の悪戯なのか、風が吹きカオルの短冊をめくる。そこには何か書いてあり、その上から線が引いてあった。どうやら何か書こうとして、途中で止めたようだ。
カオルの短冊の裏→ギャ○のパン○ィーを(ここで終わっている)
……あいつ、こういう奴だったか?
おそらくは最後まで書こうとして駆紋に阻止されたのだろうけど…うん、その光景が目に浮かぶ。
「士君?」
「うおっ!?」
突然背後から声をかけられて、俺は思わず声を上げて振り向いた。そこにいたのは、さっき皆の元に行った筈のなのはだった。
「…もしかして私達の短冊見てた?」
「ここまで来れば否が応でも目に入るだろう」
それを聞いたなのはは、表情をムッとさせた。
「それはなんか……」
「はいはい、すいませんね。見てしまってごめんなさい」
むぅ、と唸りながら口を尖らせるなのは。なんだよ、見たらあかんのでもあるんかい。
「…それで?士君は短冊かけたの?」
「ん?あぁ、そうだったな。今からかけるよ」
そう言って、短冊に付けられている輪っかを笹に引っかける為に手を伸ばす。
すると側にいたなのはが、俺の短冊を奪い取ろうと手を伸ばしてきた。
「な、なんだよおい!?」
「私達の短冊見たんだから見せてくれてもいいじゃん!」
「だぁあっ、近い近い!かけらんねぇだろうが!」
後でじっくり見ればいいだろ、というと、落ち着いた様子で手を引いた。
さてさて、ここはこいつの手の届かないところに……
「私の目線より高いところはかけないでね」
「……お、おう…」
くそ、さすがは高町家の一員だな。ちくしょうめ。
なのはに言われた通り、俺はなのは達の短冊とだいたい同じ位置に引っかける。
「……士君らしいお願いだね」
「そうかい」
どうやらなのはにはもう見えてしまったらしく、なんか納得した顔で頷いていた。
……やっぱこういうの見られるのって、意外と恥ずかしいんだな。
俺が笹に引っかけた短冊には、黒の油性ペンでこう書かれていた。
―――皆の願い事が叶いますように。
「士君、あっちがなんか大変そうなんだけど」
「ん?そうなの?」
なのはの言葉で振り返ってみると、何やらアリサと駆紋が言い争いをしていた。時々あるのだが、あの二人は何かと衝突している。その周りでは必至に止めようとするフェイトやすずか、はやて。それを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべて床に座るカオル。
なんともまぁ、見てるだけで笑みがこぼれる光景だった。
「はぁ~、止めるのいつも俺だぞ?」
ったく……こいつら…これだから飽きないんだ。
ため息交じりにそう言いながらも、内心では満更でもなさそうなことを思い、俺は皆の集まるところへ向かった。
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