| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

クラディールに憑依しました

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

思い出の丘に向かいました

「第四十七層の街はフローリアって名前なのか」
「俺達は先に宿を探してくる、補給は適当にやってくれ」
「オレっちは継続イベントを一回りだナ、他の攻略組に持っていかれるわけには行かなイ」
「んじゃ、南門でな」


 それぞれ、思い思いの場所に散っていく。


「さて、でかい風呂を完備した宿屋を探すぞ」
「はい」


 あれからリズは口数が少なくなったな、まぁ、ついさっき死に掛けたんだから仕方ないか。
 ふと振り返れば、リズがボーっとしたまま足を止めていた。


「――――どうした? リズ?」


 特に何かを見つけた訳でもなく、俺を見つめたまま何も言わない。


「シリカ、悪いがリズの手を引いて来い、向こうの世界に行っちまってる」


 シリカがリズに近付いて目の前で手を振るが反応が無い、手を引いたところで、やっとリズが正気に戻った。


「え? あ、ごめん、ボーっとしてた?」
「あぁ、かなり重症だったぞ、早く宿で休め」
「…………そうするわ」


 今度は顔を伏せて、明後日の方向にトボトボと歩き出した。
 ――――――シリカと顔を見合わせた後、リズをシリカに捕まえさせた。


 それから暫くして、目的の宿を見つけた。


「此処の宿なら大きなお風呂があるみたいです」
「やっぱり今まで泊まってきた宿と同じ様な外観や内装だな」
「チェーン店なんでしょうか?」
「全階層に展開してるってなると、かなり巨大な組織になっちまうぞ? CGの使い回しじゃないか?」

「夢を壊すような事を言わないで下さい」
「ファンタジーな世界にチェーン店を持ち込む時点でどうかと思うぞ?」
「クラディールさんが言い始めたんじゃないですか」
「アインクラッドの建築技術では宿屋ってのは全部こんな感じなのかと疑問に思っただけだ、
 ほれ、とりあえず部屋を見せて貰うぞ、鍵を借りて来い」


 リズをロビーに座らせて、シリカがNPCの店員から部屋の鍵を借りて直接部屋へ向かう。
 部屋の内装は問題無く、隣の風呂場も充分広かった。


「この部屋で問題ないな?」
「はい、大丈夫です」
「んじゃ、チェックインしてリズを連れて来てくれ」
「わかりました」


 シリカが鍵を持ってフロントへ向かった。
 俺は念の為、この部屋にコリドーの出口をセットしておく、転移結晶で戻れるのは転移門だし、
 そのタイムロスが原因でピナが復活できなかったら最悪だからな。
 暫くすると、シリカがリズの手を引いて部屋に戻ってきた。


「チェックインは済ませました」
「良し、俺は直に出る、昼過ぎには必ず戻るから、何時でも出られる準備をしておけよ?」
「はい――――ピナの事よろしくお願いします」


 シリカはリズを連れて、奥の椅子に座らせた。リズは相変わらず上の空だ。


「本人を連れて行かないと駄目っぽいからな、あんまり此処から離れるなよ?」
「はい」
「…………それと、リズが変な事しない様に、少し気にしてくれ」
「わかりました」


 部屋の奥を見れば、シリカに誘導されるがまま椅子に座らされたリズがボーっとこちらを見ている。
 間違いなく聞こえた声は右から左に抜けてるな。


「それじゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」



 宿から離れて南門へ向かうと、既にキリトとアルゴが待っていた。


「待たせたか?」
「少しだけナ」
「直に出発しよう、俺のせいでピナがやられたんだ、早くシリカの元へ帰してあげたい」
「補給は充分だナ? 行くゾ」


 俺達は思い出の丘に向けて走り出した。
 途中で触手を生やしたモンスターに何匹か出会ったが、かなり弱く、俺やキリトには大した障害にならなかった。
 紅一点のアルゴも、触手に怯む事無く、あっさりと倒していた。


「――――さっきから期待に満ちた目で見てくるガ、何が言いたイ?」
「気持ち悪くねーのかなと」
「問題なイ、経験値もそれなりに入ってるしナ」


 どうやら全く問題ない様だ、ちょっと拍子抜けだな。


「怖がって見せるべきだったカ?」
「何と言うか、時間の無駄だからまた今度にしてくれ」
「オレッちもそう思うゾ」

「ところで、クラディール、本当にこの道で合ってるのか? 南門から出て結構経つぞ?」
「心配無い、もし間違ってたとしても転移結晶もあるし、コリドーも街にセットして来た、
 何か問題が起きたら何時でも対処できる様にしてある」
「わかった、思い出の丘へ急ごう」


 それから、少し道を登った所に思い出の丘があった。


「此処で間違いなさそうだナ」
「あの岩がプネウマの花が咲く場所か、やっぱりシリカ本人を連れて来ないと咲かないみたいだな」
「オレっちは周辺のモンスターを駆除しておク、シリカの迎えは任せタ」
「ふむ、タイムリミットまで少し時間は残ってるが、早い事に越した事は無いか」


 メニューからシリカ宛にメッセージを入力する。


【思い出の丘は確保した、直に迎えに行くから宿で待ってろ】


 送信した瞬間、数秒で返信が帰ってきた――――何かメニュー開いて操作してる最中だったか?
 続けて一番近くに居るであろうリズに、アスナとサチはまだギルドの雑用に追われてるかもしれないが、一応送っておく。
 シリカからの返信を開いてみると【何時でも出れます】との事、んじゃコリドーで迎えに行くとするか。


「キリト」
「――――何だ?」
「ピナを失った責任に関してはコレでチャラだ、此処で解散するか? 最後まで見ていくか?」

「最後まで見て行くよ、シリカにもちゃんと謝りたい」
「ほう、ビーター様は律儀だな、それなら一緒について来い、これから宿に戻ってシリカを連れて来るぞ」
「了解」


 俺はコリドーを開き、キリトと共にフローリアの宿に戻った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧