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クラディールに憑依しました

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ちょっとした勝負にでました

 リズの姿がボスの身体でHPバーごと隠れた、ボスの振り下ろしは続けられている。
 現状――――――近くに居るのはキリトとアスナ、ボスの取り巻きが見渡す限りで三十以上、攻略組は乱戦中。

 ――――リズはまだ持ち堪えているな。やるなら今しかない。


「キリト、二十秒で良い、取り巻きを俺に近づけさせるな」
「わかった、何をするつもりだ?」
「黙って見てろ」


 ――――落ち着け、落ち着けよ、俺。

 メニューを開き、一番攻撃力の高い片手剣を取り出し、地面に刺す。
 続けてメニューから全防具解除を選んで実行する。
 全ての防具が解除され、俺の防御力はほぼゼロに近くなった。

 アイテムから強力な劇薬を二つ、いや、三つ目まで行けるか?
 ――――――毒薬の瓶から栓を外し、一気に三本とも飲み干す。
 これでリズと同じ毒状態になった、防御力を落とす毒も混ぜたから更に状況は酷い事になってるが、まぁ、行けるだろう。



 ――――――――バトルヒーリングスキルのカウントを合わせろ、3、2、1――――今っ!!
 地面に刺した片手剣を逆手で抜き取り、自分の腹に突き刺した。しっかり根元までねじ込む。
 毒の強烈な不快感と腹への自傷で勝手に膝が曲がり、前のめりに倒れた。

 俺のHPバーはまだイエロー、まだだ、まだ足りない。
 一度腹から片手剣を抜いて、左腕を切り落とした。
 部位欠損ダメージで左腕が一時的に消滅する。

 やっとHPバーがレッドに突入し、残り三パーセントまで削れた。
 毒の効果から言って、このままHPの残りが二パーセントになったらボスが必殺の一撃を繰り出してくる可能性が高い。
 更にHPが削れそうになった瞬間、バトルヒーリングスキルがHPを四パーセントまで回復させた。
 ――――良し、これでボスの必殺技は発動しない筈だ。


 思惑通り、ボスがこっちに向かって歩いてくる。


「正気かクラディールっ!? お前何やってるんだッ!? 早くポーションをッ!」
「ギャアギャア騒ぐな、キリトっ!! ボスが戻ってくるぞ、準備しろ、迎え撃て!」
「リズはッ!? リズはどうなったの!? 生きてるのッ!?」
「少なくとも此処から消滅エフェクトは見えなかった――――――シリカも騒いでない、今はボスに集中しろッ!」


 片手剣を再び地面に刺して、メニューから全防具装備を選んで実行する。
 左腕が部位欠損で装備できないと警告が出たが無視をする。
 左腕の回復まで少し時間が掛かるが――――大丈夫だ、俺は一人じゃない。


「クラディール、一度壁まで下がれ、HPと部位欠損ダメージが回復するまで前に出るのは危険だ」
「そいつは無理だな、あいつをご指名したのは俺だし、此処で迎え撃った方がマシだ」
「――――やれるのか?」
「――――やるしかないだろ?」


 ボスが攻略組と取り巻きを押しのけて、俺達の前まで姿を現した。


「よう、落とし前をつけさせて貰おうか」


………………

…………

……


 キリトとアスナ、そしてヒースクリフ、途中から左腕が復元した俺、ついでにゴドフリーの前に、ボスはあっけなく消滅した。
 遠目にリズとシリカの無事も確認した、アスナはリズに抱き付いてに謝っている様だ。
 ボス戦終了後の話し合いはアスナに任せて、俺はキリトとアルゴの三人で先に第四十七層へ向かう事にする。


「――――ちょっと待ってよ」
「ん? どうかしたのかリズ?」
「ねえ、あの時、何であんな事したの?」
「何の話だ?」


 はて? 何か問い詰められるようなセクハラをしたっけな?


「…………アスナとシリカから聞いたわよ、あたしを助ける為に毒を飲んだり腕を切り落としたりして、ボスのタゲを変えたんでしょ?」


 あー、そっちか、アスナは近くにいたし、シリカにまで見られていたか。
 リズはボスや取り巻きの影に隠れてたし、直に問い詰められるとは思っていなかった。


「もしかしたらお前からタゲを外せるかもしれないと思ってな」
「――――それだったら、もっと他に方法はあった筈でしょ!?」


 結構食いついてくるな、宥めるのは骨が折れそうだ。


「あの状況で他に試せそうな案が浮かばなくてな、お前も俺も生き残ったんだし、
 今は良いじゃないか、ピナの復活を優先させたい。反省会は帰ってからやろう」
「あたしも一緒に行く! 手伝わせてよ!」
「落ち着けって、これから上の階層に行くんだぞ? 未知のモンスターが出てくるだろ、じっくりやってる時間は無いんだ」
「…………わかったわよ、足手纏いは要らないって事ね…………」


 今度は拗ね始めた、リズ自身も感情のコントロールが出来てないな。


「リズ、今は実感が無いだろうが、俺達は死に掛けたんだ、此処で無理をして心を削る時じゃない」
「あんたが何を言ってるのか解らない――――あたしは連れて行けないんでしょ? 良いわよ、大人しくしてるわ」


 八つ当たりと落ち込みか、このまま放置は無いな。


「リズ」
「…………何よ」


 無視はされなかった、まだ余裕はある。


「消耗した武器を交換してくれ――――持って来てるんだろ? 研磨を頼んでた武器」


 リズがメニューを開き、預けていた片手剣や両手剣を渡してくる。


「…………あんたってズルい」
「そうでもないぞ? 他の連中が何かするならもっと上手くやるだろうな」
「…………そうじゃなくて…………もういいわよ」


 張り詰めていた雰囲気が少し柔らかくなったか?


「それじゃ、行って来る。シリカの事、頼んだぞ」
「まって、先にシリカちゃんを第四十七層の街に連れて行って」


 振り返るとアスナがシリカの手を引いて近付いて来た。


「ギルドの雑用はどうするんだ? 色々と話を詰めるのはこれからだろ?」
「わたしは血盟騎士団副団長の立場があるから最後まで抜けられないし、今回はシリカちゃんまで付き合わせる訳には行かないわ。
 ――――――外はもう夜明けよ、今日の昼ごろがタイムリミットなんでしょ?」
「………………一応な」


 シリカの前で触れて欲しくなかったが…………まぁ、そこがウチの副団長様ってところだろうな。


「だから、血盟騎士団副団長として命じます。クラディール、リズとシリカちゃんを上の宿まで送った後、必ずピナを復活させなさい」
「……――――わかりました。必ず」
「時間が無いゾ、街を散策するなり補給する時間は四十分以内にしてくレ、それまでに街の南門に集合で良いナ?」
「了解」


 ボス部屋の奥から螺旋階段を上ると、一面の花畑に暫く目を奪われた。
 此処が第四十七層か。


「綺麗な所ですね」
「足を止めて悪かったな、街へ急ごうか」
「いえ、時間ができたらこう言う所でのんびりしてみるのも良いなと思って」
「…………時間ができたらな」


 俺達は第四十七層の街を目指した。 
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