クラディールに憑依しました
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
演奏が止まりました
「リズ、次の攻撃で終わりだ、後方へ下がれ」
「何でよッ!? まだ攻撃を続けられるわ!」
「死にたいのかッ!? お前は!」
「大丈夫よ、まだ行ける!」
リズの攻撃がヒットする度に攻略組からの歓声が大きくなる。無責任に楽しみやがって。
「アスナ、リズを説得しろ! 攻撃パターンが変われば、絶対取り巻きが出現する、リズじゃ不利だッ!」
耳を劈く歓声の中で、熱くなっているリズにも充分聞こえる様にワザと大声を出した。
「…………もう少し、リズに任せてみても良いんじゃないかしら? 取り巻きは他の攻略組に相手をさせましょう」
――――駄目だッ!
アスナまで場の雰囲気に飲まれている――――リズを殺す気かアスナっ!!
そして、ボスのHPバーが最終ゲージまで減り、攻撃パターンが変化した。
ボスの腹が急激に膨らみ、雄叫びと共にボスの口から大量のブレスがリズに吹付けられた。
同時にボス部屋の至る所で爆発――――いや、ボスの取り巻きが大量にポップした。
取り巻きの大きさは一メートルちょいのアルマジロもどきで、その数は少なくとも四十匹以上、攻略組の隙間を埋め尽くす程だ。
「リズ、無事か!?」
「な、何よコレ!?」
リズのHPバーが毒状態を表示して、HPがジリジリと減り始めている。
この減り方は死にはしないが、HPの九十八パーセントを減らすタイプだ――――解毒結晶は――――
「あんた、前っ! 前を見なさいッ!!」
リズに言われて視界の端を確認すれば、滅茶苦茶に腕を振り回すボスの攻撃が俺に迫っていた。
手ごろなソードスキルにポーズを合わせて放つ――――当たりはしたが、直ぐに持ち直して攻撃を続けて来た。
ボスが何か不自然な動きをしている感じがする。まるで俺を見ていないような?
その予感は直に的中した、ボスは俺を無視してリズの前に躍り出る。
――――くそッ! リズの解毒が間に合わないッ!
「アスナ、リズを守れ!」
「ごめん、今は無理っ!」
何馬鹿な事を――――アスナを確認すると、ボスの取り巻きが四体、いや、六体の攻撃をアスナが捌いていた。
俺の所にも五体、奥のを含めると八体以上迫って来た。
他の攻略組も大量にポップした取り巻きに大混乱になっている。
「リズっ! ボス部屋の外まで逃げろッ!! まだドアが開いている、急げ!!」
「判ってるわよッ!」
だが、言葉とは裏腹に、リズはボスの攻撃を相殺するのに精一杯だ。
新しい攻撃パターンも増えて、何回かモロに攻撃を食らい、リズのHPバーはイエローに落ちる寸前になった。
「アルゴっ! シリカっ! どこだッ!? リズを逃がせッ!!」
ドアの近くに居た筈だ、応えてくれッ!
「取り巻きは任せロ、お前はリズを助けて離脱するんダ」
「――――はいッ!」
攻略組と取り巻きの乱戦の中で、アルゴはシリカの分まで取り巻きのタゲを集め、シリカはボスの前に姿を現した。
「てえぇぇいッ!!」
シリカのソードスキルがボスの攻撃を相殺していく、危なげだが、リズと違ってしっかりと対処できている。
「リズさん、今の内に!」
「ごめん、シリカ」
出口に向かってリズが走り出す――――――ボスが少し足踏みをした!?
よく観察すれば、ボスが足の向きを反転させている。
「シリカっ! 次の攻撃は避けろッ!! 吹き飛ばしが来るぞッ!!」
「――――――えッ!? きゃあああああ!?」
シリカがボスの攻撃を相殺しようとソードスキルを交わした瞬間、
システムが吹き飛ばしを判定し、ワイヤーアクションが発動してシリカは吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。
直ぐにシリカのHPバーを確認するが、思ったより減っていない、ソードスキルで相殺した分はダメージを受けずに済んだ様だ。
「シリカっ!?」
「立ち止まるな、転倒が発動しただけだッ!」
シリカの安否を確認しようとしてリズが立ち止まり、ドアまで後数歩と言う所で――――――ボスに追い付かれた。
「キリトはどこだッ!!」
「すまん、此処にいる、流石に無理だ!!」
意外と近くで声がした。見れば俺とアスナの傍で取り巻きを狩っていた。
――――くそッ!! 何故ボスはリズばかりを狙う!?
これだけ攻略組が居るのに、HPがリズより減っている奴だってかなり居る。
あと考えられるとしたら――――――やるしかないか。
………………
…………
……
ついに、あたしのHPバーがイエローに突入した。
死。死があたしの目の前にチラつく。やだ、死にたくない――――死にたくないよ。
何でこんな事になっちゃったんだろう? 何であたし、行けるって思っちゃったんだろう?
あたしはアスナみたいな攻略組じゃないのに、マスターメイサーって言っても、ただの鍛冶屋なのに、何で…………。
ボスの攻撃に合わせてソードスキルで相殺する。
もうボスの攻撃パターンは全部覚えた、全部覚えたけど――――誰も手伝ってくれない。
あたしのHPバーがレッドに変わる。やだ、やだよぉ。
泣いちゃ駄目なのに、視界が悪くなって、相殺し切れなかったボスの攻撃が、またHPを削っていく。
「………………もう、駄目ね」
次の攻撃で、あたしの人生終わる。
ドアを前にして、あと一歩、あと半歩だけ後ろに下がれたら、あたしは生き残れたのに…………。
もう間に合わない。
終わりだ。
――――――けど、何時まで経っても、ボスが振り上げた腕は、あたしを攻撃しなかった。
「――――あ、れ…………?」
ボスは何故か、あたしを見ていなかった。
部屋の奥へ振り返って、真っ直ぐ戻って行った。
「………………何で?」
視界が揺れる――――――違う、あたしが動いてるんだ。
ゆっくりと後ろに倒れてる、尻餅を付いた所は――――ボス部屋の外だった。
でも、あたしの膝から先は、まだボス部屋の中に入ったままで――――何故ボスはあそこで振り返ったの?
「リズさんッ!! 無事ですか!? しっかりしてください!!」
状況が把握できないまま、シリカがあたしに解毒結晶を使って、ポーションを押し付けてくる。
「早く飲んでください、ボス部屋の外でも、他のモンスターがポップするかもしれないんですから!」
「…………シリカ、あたしどうして生きてるの?」
あたしは、まだ生きていられる事が信じられなかった。
ページ上へ戻る