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クラディールに憑依しました

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演奏が止まりました

「リズ、次の攻撃で終わりだ、後方へ下がれ」
「何でよッ!? まだ攻撃を続けられるわ!」
「死にたいのかッ!? お前は!」
「大丈夫よ、まだ行ける!」


 リズの攻撃がヒットする度に攻略組からの歓声が大きくなる。無責任に楽しみやがって。


「アスナ、リズを説得しろ! 攻撃パターンが変われば、絶対取り巻きが出現する、リズじゃ不利だッ!」


 耳を劈く歓声の中で、熱くなっているリズにも充分聞こえる様にワザと大声を出した。


「…………もう少し、リズに任せてみても良いんじゃないかしら? 取り巻きは他の攻略組に相手をさせましょう」


 ――――駄目だッ!
 アスナまで場の雰囲気に飲まれている――――リズを殺す気かアスナっ!!


 そして、ボスのHPバーが最終ゲージまで減り、攻撃パターンが変化した。


 ボスの腹が急激に膨らみ、雄叫びと共にボスの口から大量のブレスがリズに吹付けられた。
 同時にボス部屋の至る所で爆発――――いや、ボスの取り巻きが大量にポップした。
 取り巻きの大きさは一メートルちょいのアルマジロもどきで、その数は少なくとも四十匹以上、攻略組の隙間を埋め尽くす程だ。


「リズ、無事か!?」
「な、何よコレ!?」


 リズのHPバーが毒状態を表示して、HPがジリジリと減り始めている。
 この減り方は死にはしないが、HPの九十八パーセントを減らすタイプだ――――解毒結晶は――――


「あんた、前っ! 前を見なさいッ!!」


 リズに言われて視界の端を確認すれば、滅茶苦茶に腕を振り回すボスの攻撃が俺に迫っていた。
 手ごろなソードスキルにポーズを合わせて放つ――――当たりはしたが、直ぐに持ち直して攻撃を続けて来た。

 ボスが何か不自然な動きをしている感じがする。まるで俺を見ていないような?
 その予感は直に的中した、ボスは俺を無視してリズの前に躍り出る。


 ――――くそッ! リズの解毒が間に合わないッ!


「アスナ、リズを守れ!」
「ごめん、今は無理っ!」


 何馬鹿な事を――――アスナを確認すると、ボスの取り巻きが四体、いや、六体の攻撃をアスナが捌いていた。
 俺の所にも五体、奥のを含めると八体以上迫って来た。
 他の攻略組も大量にポップした取り巻きに大混乱になっている。


「リズっ! ボス部屋の外まで逃げろッ!! まだドアが開いている、急げ!!」
「判ってるわよッ!」


 だが、言葉とは裏腹に、リズはボスの攻撃を相殺するのに精一杯だ。
 新しい攻撃パターンも増えて、何回かモロに攻撃を食らい、リズのHPバーはイエローに落ちる寸前になった。


「アルゴっ! シリカっ! どこだッ!? リズを逃がせッ!!」


 ドアの近くに居た筈だ、応えてくれッ!


「取り巻きは任せロ、お前はリズを助けて離脱するんダ」
「――――はいッ!」


 攻略組と取り巻きの乱戦の中で、アルゴはシリカの分まで取り巻きのタゲを集め、シリカはボスの前に姿を現した。


「てえぇぇいッ!!」


 シリカのソードスキルがボスの攻撃を相殺していく、危なげだが、リズと違ってしっかりと対処できている。


「リズさん、今の内に!」
「ごめん、シリカ」


 出口に向かってリズが走り出す――――――ボスが少し足踏みをした!?
 よく観察すれば、ボスが足の向きを反転させている。


「シリカっ! 次の攻撃は避けろッ!! 吹き飛ばしが来るぞッ!!」
「――――――えッ!? きゃあああああ!?」


 シリカがボスの攻撃を相殺しようとソードスキルを交わした瞬間、
 システムが吹き飛ばしを判定し、ワイヤーアクションが発動してシリカは吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。
 直ぐにシリカのHPバーを確認するが、思ったより減っていない、ソードスキルで相殺した分はダメージを受けずに済んだ様だ。


「シリカっ!?」
「立ち止まるな、転倒が発動しただけだッ!」


 シリカの安否を確認しようとしてリズが立ち止まり、ドアまで後数歩と言う所で――――――ボスに追い付かれた。


「キリトはどこだッ!!」
「すまん、此処にいる、流石に無理だ!!」


 意外と近くで声がした。見れば俺とアスナの傍で取り巻きを狩っていた。
 ――――くそッ!! 何故ボスはリズばかりを狙う!?
 これだけ攻略組が居るのに、HPがリズより減っている奴だってかなり居る。


 あと考えられるとしたら――――――やるしかないか。



………………
…………
……


 ついに、あたしのHPバーがイエローに突入した。
 死。死があたしの目の前にチラつく。やだ、死にたくない――――死にたくないよ。
 何でこんな事になっちゃったんだろう? 何であたし、行けるって思っちゃったんだろう?
 あたしはアスナみたいな攻略組じゃないのに、マスターメイサーって言っても、ただの鍛冶屋なのに、何で…………。


 ボスの攻撃に合わせてソードスキルで相殺する。
 もうボスの攻撃パターンは全部覚えた、全部覚えたけど――――誰も手伝ってくれない。
 あたしのHPバーがレッドに変わる。やだ、やだよぉ。
 泣いちゃ駄目なのに、視界が悪くなって、相殺し切れなかったボスの攻撃が、またHPを削っていく。


「………………もう、駄目ね」


 次の攻撃で、あたしの人生終わる。
 ドアを前にして、あと一歩、あと半歩だけ後ろに下がれたら、あたしは生き残れたのに…………。
 もう間に合わない。
 終わりだ。



 ――――――けど、何時まで経っても、ボスが振り上げた腕は、あたしを攻撃しなかった。


「――――あ、れ…………?」


 ボスは何故か、あたしを見ていなかった。
 部屋の奥へ振り返って、真っ直ぐ戻って行った。


「………………何で?」


 視界が揺れる――――――違う、あたしが動いてるんだ。
 ゆっくりと後ろに倒れてる、尻餅を付いた所は――――ボス部屋の外だった。
 でも、あたしの膝から先は、まだボス部屋の中に入ったままで――――何故ボスはあそこで振り返ったの?


「リズさんッ!! 無事ですか!? しっかりしてください!!」


 状況が把握できないまま、シリカがあたしに解毒結晶を使って、ポーションを押し付けてくる。


「早く飲んでください、ボス部屋の外でも、他のモンスターがポップするかもしれないんですから!」
「…………シリカ、あたしどうして生きてるの?」


 あたしは、まだ生きていられる事が信じられなかった。 
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