久遠の神話
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第七十四話 実った愛その八
「フルーツもあればいいな」
「三段セットか」
「飲むのなら本格的であるべきだ」
それが広瀬のこだわりだった。
「だからだ」
「それがいいか」
「俺としてはな」
「俺もだけれどな、あれで酒を飲むのもいいよな」
「飲む酒はなんだ」
「ワインだけれどな」
中田は楽しげな笑みを浮かべて広瀬に述べた。
「それかシャンパンだな」
「そうか、ワインか」
「あんたはティーセットで飲むかい?」
「その時もある」
ミルクティーではなく酒の時もあるというのだ。
「俺は白ワインだ」
「そうか、俺は赤だけれどな」
「そこは違うな」
「甘いものには赤なんだよ」
中田の好みではそうなるのだった、赤だというのだ。
「出来れば甘い赤ワインがいいな」
「あんたも中々こだわってるな」
「酒も好きだしな、じゃあ今度一緒に飲みかい?」
「ティーセットでだな」
「そうするかい?」
「今度な。実は前からあんたは嫌いじゃない」
表情は変えなかった、しかし声は微笑まさせて中田に答えた。
「だからな」
「そうか、じゃあ今度な」
「友人として飲むか」
「あんたはもう剣士じゃない」
それならだった、広瀬がもう剣士でないのなら。
「それならな」
「敵同士ではないからな」
「ああ、友達としてな」
中田もそうして飲もうと話した。そうした話をしながらだった。
二人は今はそれぞれクリープをかなり入れたコーヒーとレモンティーを楽しんだ。広瀬はその日曜に両親と共に由乃の家である牧場に向かった。
両親は牧場の広さと家畜の数に驚いた、そのうえで我が子に言うのだった。
「これはまたな」
「凄い場所ね」
「牧場や家畜の手入れが大変だぞ」
「あんた大丈夫なの?」
「別に俺達だけじゃないからな」
働き手はとだ、広瀬は自分の隣で目を丸くさせて牧場を見回す自身の両親に答えた。
「働いているのは」
「ああ、従業員の人がか」
「ちゃんといるのね」
「そうだ、会社だからな」
牧場だがそうなっているというのだ。
「それで経営しているからな」
「そういえば最近農家もな」
「そうよね」
二人も息子のその言葉に頷く。
「会社だからな」
「経営しているのね」
「だからだ」
それでだというのだ。
「会社になっている」
「そう言うと牧場も安穏じゃないな」
「うかうかしていられないわね」
両親は会社経営と認識してこうも言ったのだった。
「御前も将来はな」
「頑張りなさいよ」
「わかっている、しかしだ」
「しかし?」
「何かあるの?」
「中に入るぞ」
そうしようというのだ。
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