久遠の神話
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第七十四話 実った愛その六
「お父さんにだけは似ないで欲しかったのに」
「それがこうなるなんてな」
「お母さんに似ていたらね」
「しかしお義母さんもよく結婚したな」
「ええ、それが不思議よ」
「全くだな」
「俺は呪われた子か」
広瀬は両親の真剣なやり取りにも表情も声の調子も変えない、箸を動かしながら冷静に返すのだった。
「そうだったのか」
「まあそれはね」
母はその我が子に言う。
「あんな人だから」
「俺は祖父ちゃんが好きだが」
子供の頃からだ、理由は自分に似ているからだ。
「それでもか」
「あんた自分の父親が十三番目のスナイパーって言われてもいいのね」
「気にしない」
「本当にそっくりね、その辺り」
「そうか」
「まあそのあんたがね」
母はあらためて我が子に言った。
「結婚するんなら大歓迎よ」
「よくこんな無愛想なのを貰ってくれる」
「嘘みたいよ」
またそれぞれ言う両親だった。
「じゃあ絶対にね」
「お父さん達も行くからな」
こう話してそしてだった、広瀬の両親は由乃の両親に会うことを約束した、これで広瀬の願いはまた一段階進んだ。
そしてそれぞれの両親と二人の合わせて六人で日曜日に会うことも決まった、場所は由乃の家である牧場だ。
広瀬はこのことを大学の喫茶店で中田に話す、そしてこう言うのだった。
「まさにとんとん拍子だ」
「それで進んでるんだな」
「いいことにな」
「みたいだな、どうやら本当にな」
「願いが適ってるか」
「そうだ」
コーヒーを飲みながらだ、広瀬は中田に語った。
「無事にな」
「いいことだな、じゃあ俺もな」
「あんたもか」
「考えてみるか、願いが適うんならな」
それならというのだ。
「神様に協力してもらうか」
「あんたがそう思うんならそうすればいい」
広瀬は紅茶を飲む中田に彼の口調で返した。
「そうすればな」
「そうか、じゃあ考えておくな」
「何はともあれ俺は戦いを降りた」
剣を置いた、もう剣士ではないというのだ。
「それならだ」
「見るだけになったんだよな」
「それだけだ、あんたにも他の剣士にも元々恨みはないが」
「殺し合うこともなくなったな」
「二度と剣を持つことはない」
これは絶対だというのだ。
「あんたもそうなりたいのならな」
「そうだな、真剣に考えるか」
「あんたの好きな様にしろ」
「だよな、ところでな」
「話題を変えるか」
「ああ、あんた今コーヒーを飲んでるけれどな」
見ればクリープがたっぷり入っている、それこそ黒から白が勝っている感じにさえなっている程入れている。
そのコーヒーを見てだ、中田は飲んでいる広瀬にこう言ったのである。
「今日はやけにクリープを入れているな」
「元々好きだ」
これが広瀬の返事だった。
「だからよく入れるが」
「入れない時もなかったか?」
「機嫌がいいと多く入れる」
そのパラメーターにもなっているというのだ。
「そうしているからな」
「だからか」
「そうだ、今は自分でもわかるがな」
機嫌がいい、そうだというのだ。
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