久遠の神話
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第七十四話 実った愛その五
「いきなり進んだわね」
「本当にな。これか」
「これって?」
「いや、何でもない」
戦いのことは言わなかった、ここでも。
「別にな」
「そうなのお」
「そうだ、しかしな」
「何時来てもらうかだけれど」
「その話はこれからか」
「多分広瀬君のご両親が来てくれるって言ってからね」
またそこから動く話だというのだ。
「どうなるかよね」
「そういう話だな」
「私もそれでいいから」
由乃は広瀬を見上げてそのうえで笑ってこう言って来た。
「一緒にね」
「話をするか」
「ええ、そうしよう」
話が進んだ、広瀬は実際にその日のうちに彼の両親にこのことを話した、無論場所は彼の家である。
両親はその話を聞いて最初は驚いた、そして。
次第に落ち着いてだ、こう我が子に言った。
「そうだな、じゃあな」
「是非お会いしてね」
「それからだな」
「あんた達のことを決めないとね」
「そうなるな、しかし」
ここで広瀬は自分の両親の顔を見た、話を出したのは夕食の時だ。特に緊張することも怯えることもなくいつもの態度で話を出したのだ。
自分の両親を見てだ、彼はこう言ったのだった。
「驚いたな」
「そりゃ驚くさ」
「あんたとは違うから」
両親は笑って相変わらず淡々としている我が子に言った。
「全く御前はお義父さんに似てな」
「無愛想なんだから」
彼は祖父似だというのだ、母方の。
「俺も最初お義父さんに会った時は怒ってるのかと思ったよ」
「あれがいつもなのよ」
母は笑って自分の夫にこう言った。
「もうずっとああなのよ」
「それを聞いてほっとしたけれどな」
「そうか、それでもな」
「最初はびっくりしたわよね」
こうした話をするのだった、そして。
また息子に顔を向けてこう言った。
「顔もそっくりだしな」
「凄い隔世遺伝よね」
「全く、産まれた時はびっくりしたよ」
「お父さんそっくりだったから」
「いつもそう言うな」
「だってな」
「本当のことだから」
両親はお互いに顔を見合わせてそれで話していく。
「いや、最初の時どれだけ怖かったか」
「わかるわ、それ」
夫婦で話していく、その過去のことを。
「私お家にお友達連れて来るでしょ」
「いつもお義父さんのこと言われたんだな」
「そうだったのよ、本当に」
「大変だったんだな」
「鉄仮面って言われたわ」
それが広瀬の祖父の通称だったというのだ。
「能面ならまだよくて」
「だろうな、あれじゃあな」
「それでね、この子も」
「何で俺に似なかったんだ?」
「私にもね」
今度は広瀬の顔を見て無念の顔で語る二人だった。
「どっちかに似ていたらよかったのに」
「それがお義父さんだからな」
「産まれた時どう思った?」
「呪いかって思ったわ」
実の母であり娘の言葉だ、これが。
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