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八条学園怪異譚

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第五十一話 オペラ座の怪人その十五

「私達その時も焼酎飲んだりするから」
「ワインの時もあるわよね」
「その時の気分によるわ」
 飲む酒や食べるおつまみはというのだ。
「だから今もね」
「こだわらないのね」
「そういうこと、私達はね」
「その時に飲みたいものを飲めばそれでいいじゃない」 
 口裂け女はにこにことして言う、耳まで裂けている彼女の口で焼酎を飲んでいる。そして枝豆も食べている。
「こだわらずに」
「それでいいのね」
「だからロイヤルボックスでも」
「いいじゃない、美味しければ」
 こう二人に話すのだった。
「美味しいのがジャスティスだよ」
「わかりやすい正義ね」
「まさにその通りね」
 店の娘である二人にも実にわかりやすい言葉だった。
「美味い、安い、清潔」
「この三つは正義よね」
「それはね」
「もうね」
「そうよ、あんた達ならわかるって思ってたわ」
 口裂け女もこの辺りはわかっていた、読んでいて言ったのだ。
「そういうことなんだよ」
「うん、じゃあ」
「今も」
「観劇は楽しむものだ」
 怪人もここで言う。
「こだわらずにな」
「飲んで食べて」
「そうしてよね」
「そうだ、ではさらに楽しもう」
 怪人も焼酎を飲みつつ言う、だがその酒の器はというと。
 ワイングラスだ、怪人が使っているそれを観て首を捻る二人だった。
「焼酎にそれは」
「あまり」
「私はこれでないと駄目なのだ、ビール以外は」
「ああ、ビールはジョッキね」
「そっちになるのね」
「それも大ジョッキだ」
 ドイツ生まれに相応しい言葉だった。
「そうでなければ飲んだことにはならない」
「一緒に食べるのはソーセージよね」
「それかベーコンかハムか」
「バイエルンの郷土料理もまたいい」
 今度はバイエルンへの郷土愛を見せる。
「ジャガイモもな」
「何か怪人さんって本当にドイツ人ね」
「好きなお料理も」
「うむ、実際に好きだ」
 その通りだとだ、怪人も認める。
「それで今度ビールをご馳走したいのだが」
「ドイツのビールね」
「それよね」
「しかも黒ビールだ」
 ビールはビールでもそれだというのだ。
「あれは最高にいいからな」
「通ね、黒ビールなんて」
「そこでそう来るのは」
「ビールについても五月蝿いつもりだ」
「ドイツだからね」
「それでなのね」
「ドイツ人にとってビールは心だ」 
 そこまで至るものだというのだ。
「朝食欲がない時はその中に生卵を入れて飲み朝食代わりにする」
「あっ、それアウトだから」
 ビールの中に生卵を入れて飲むことについてはだ、愛実はその話を聞いて一瞬で駄目出しで応えた、全く迷っていない。
「絶対に駄目だから」
「駄目なのか」
「痛風になるわよ」
 それで駄目だというのだ。
「ビールはただでさえ痛風に悪いのに」
「そうなのよね、ビールはね」
 聖花も愛実の言葉に頷いて応える。 
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