少年と女神の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十五話
さて、件の山についたはいいが・・・
「本当に、遠吠えしか聞こえてこないな・・・」
「だね~。何か刺激でもあれば、完璧に顕現してきそうなものなんだけど・・・」
「刺激、か・・・」
この場合、狼に関わる力でもあればいけるんだろうけど・・・残念なことに、俺の権能にはそれに適しているものがない。
あ、でもヴォバンなら・・・
「よし、とりあえずこのまま待とう。うまいこと護堂とヴォバンがぶつかってくれれば」
「あ、そっか。貪る郡狼だっけ?」
「ああ。あれが発動してくれれば、たぶん・・・」
まあ、結構離れてるから怪しい気はしないでもないんだけど・・・きっと、なんとか・・・
「あれ?ソウ兄携帯なってるよ」
「あ、ホントだ」
言われて気づいたが、どうやらメールではなく電話らしい。こんな時間に電話とは・・・
電話の主の名前を見て、すぐに緊急の事態だと分かった。
アイツは、よっぽどのことでもない限りこんな常識はずれなことはしない。
「もしもし?どうした、護堂?」
『こんな時間に悪いな、武双。ちょっと面倒ごとになってな・・・手伝ってくれないか?』
「悪いけど、こっちも面倒ごとの真っ最中でな。ヴォバンや祐理のことは、オマエで何とかしろ」
『何で知ってるんだよ、こっちの面倒ごとの内容・・・』
ヴォバンから直接聞いたとはいえない。
言ったら、余計に面倒なことになる。
「まあ、そんなことを気にしてる余裕はあるのか?用事がないなら、作戦会議でもしたほうが得策だと思うんだが」
『じゃあ、もう一つだけ。あの爺さんが殺した神様がなんなのか教えてくれ。知ってるだろ?戦士の化身の発動条件は』
「何で俺が知ってると思ったんだ?」
『ほら、オマエって全知の権能を持ってるんだろ?』
ああ、そこを勘違いしてるのか。
「知に富む偉大なる者を頼りに言ってるんなら、残念だったな、としかいえない。アレは、人間が知ってることなら何でも知れる、って権能だから、ヴォバンみたいに誰も神の正体を知らないと、俺にも知ることは出来ない。何とか分かるのは・・・オシリスくらいだ」
『そうか・・・って、もう追ってきやがった』
「ヴォバンが?」
『いや、あの爺さんの権能で呼び出した狼だ。じゃあ、もうきるな』
護堂はそう言うと、すぐに電話を切った。
ってか、ヴォバン今、貪る郡狼使ってるのか・・・道理で、だんだんと遠吠えがはっきりと聞こえてくるわけだ・・・
「立夏、これ、俺の勘違い、とかじゃないよな?」
「多分、そうじゃないと思うよ。・・・あっちのほうから、足音みたいなのも聞こえてくるし」
立夏のさすほうからは、草むらの中を何かが駆けてくるような、ザッザッザッ、というような音が聞こえてくる。
とりあえず、槍を召喚して何があっても対策できるようにすると・・・
「ウガアアアアアアア!!!」
一頭の狼が、俺に向かって飛び込んできた。
「閃槍弾刃!」
とりあえず、槍で横殴りにして、立夏を抱えて自分も飛び、距離を置く。
「ソウ兄、あれが?」
「ああ、探してた神様だろうな。もんのすごく力が湧いてくる」
狼を睨みながら立夏をおろし、蚩尤の権能で盾を作って持たせる。
これなら、神様の攻撃にも少しくらいは耐えてくれるだろう。
「じゃあ、立夏はそこで、俺が危なくなったりしたら助けてくれ」
「了解!」
とりあえず、新しく槍を二振り召喚して、狼のほうをむく。
「ウウウ・・・ワオオオォォォォオオオン!!!」
「うるせえワン公だな!」
小手調べに槍を投げつけ、槍を追加で召喚し、狼に向かって突っ込む。
が、投げた槍も俺が振るった槍も、急成長した植物によって防がれた。
「そういや、豊穣神の可能性もあったな・・・にしても、邪魔だなこの植物!」
狼を守るようにして生えているので、蚩尤の権能で薙刀を作り、まとめて斬り裂く。
そして、そのままの勢いで狼に切りかかろうとするが・・・
「ウガァァア!」
「いっつ!」
爪で思いっきり、左肩を抉られた。
「ソウ兄、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ!避けれたと思ったんだけどな・・・何かの権能か?」
かといって、このまま何もしないわけにはいかない。
どうにも、植物がある限り攻撃が当たりそうにないし・・・いっそ、全部焼き払うか。
「この一撃は民への罰。裁き、消し去り、」
「野を駆け、植物を操る神。彼は善なるものに加護を与え、悪人には裁きをくだす。その神の名は・・・ソウ兄!それはダメ!!」
立夏が何か言っているが、もう止まらない。
このまま行こう。
「その罪の証を消滅させよ。この舞台に一時の消滅を!」
護堂戦でも放った、ゼウスの権能の最大火力。
これで、ここら一体の植物を全部焼き尽くせば・・・
「ガハッ・・・」
が、狼は雷を全て避け、牙で右肩を、爪で心臓と肝臓を貫かれた。
ページ上へ戻る