少年と女神の物語
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第二十六話
目の前でソウ兄が貫かれてるけど・・・とりあえず、助けないと。
「この盾なら、少しくらいは・・・」
試しに狼に向かって投げつけると、こっちのことなど眼中になかったようで、簡単に当たってくれた。
恐らく、ソウ兄に止めを刺すことに集中しすぎたのだろう。
「よし、後はここから逃げれば・・・」
そして、ソウ兄を支えたまま、飛翔の術で逃げます。
山の反対側なら、少しくらいは時間、稼げるよね?
◇◆◇◆◇
よし、これなら・・・
「・・・追ってくる気配も無いよ、ソウ兄?」
「おお・・・サンキュー・・・」
心臓に穴が開いたソウ兄が、力なく返事をしてきます。
うん、分かってはいたけど、まだ生きてた。
「あー・・・やっぱり、この権能、不便なところが多い、な・・・」
「助けられておいて、よく言うよね~。いいじゃん、『沈まぬ太陽』」
ソウ兄がウィツィロポチトリから簒奪した権能、沈まぬ太陽。
その効果は、世界のどこかで太陽が昇ると同時に、死から復活する、というもの。
ただ、ソウ兄が言っていたように弱点も存在する。
その一つに、傷は治らない、というものがある。今ソウ兄がつらそうにしてるのはそれが原因だし、そのせいで、今は死んで生き返ってを繰り返している状態だ。
「治癒の霊薬は?」
「あー・・・さっき、あの狼に壊された・・・」
「そっか・・・私も、持ち合わせはないし・・・」
少しでも魔術的に治癒を出来れば、後は沈まぬ太陽が治してくれるんだけど・・・
「・・・・・・いや、手段は・・・」
あることには、ある。
けど、さすがにこれは・・・あれ?
「・・・そこまでいやでも、ない?」
「あのー・・・立夏、さん?なんだか、目が据わってきてますよ?」
そういえば・・・うちの家族で一番最初にソウ兄のことを好きになったのは私なのに、リズ姉にイー姉、アー姉ばっかりキスして、私はしてないし・・・
「あのー・・・へんなこと、考えてたりはしないですよね?」
「・・・行くよ、ソウ兄」
「ちょ、ま・・・ッ!!?」
そして、私はソウ兄の唇を自分のそれで塞いで、術をかけながら舌を入れたり、絡めたりしていました。
後から思い出して、アー姉はこんな感じになったんだ・・・、とソウ兄の近くにいづらくなったのは、言わなくてもいいですかね?
◇◆◇◆◇
「・・・じゃあ、とりあえず今回の件が片付くまでは気にしない方向で?」
「はい・・・お願いします・・・」
立夏のおかげで傷は治ったけど、すごく居づらい状況が出来上がっていた。
はあ・・・よし、切り替えよう。
「で、さっき、それはダメ、とか言ってたけど・・・あの神様の正体、分かったのか?」
「・・・うん。というか、少し考えればすぐに分かったことだった」
立夏は顔を上げて、説明を始めました。
「考えてみれば、ここの神社に奉られてるのってイザナギ、イザナミだけじゃないし」
「あー・・・他にもいるだろうな、そりゃ」
「で、その中に狼の神様もいたんだけど、覚えてる?」
「・・・・・・ 、か?」
「正解。天啓でも、そのあたりの名前が降りてきた」
そうか・・・あの神様か・・・
確かに、あの神様だってんなら、梅先輩から聞いた情報も納得できる。
「だからか・・・作物を守護するから、豊穣神の神格を持ち、植物が急に成長した」
「さらに、悪人を裁く属性から、その植物を傷つけると、無条件で一撃を入れてくる」
ただ・・・それだと、こんな山の中で戦うのは、不利どころの騒ぎじゃない気が・・・
「・・・仕方ない。攻撃は全部喰らうくらいのつもりで行こう」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。俺は死なないし、それしか手段もない。それに・・・」
俺は力がみなぎってくるのを感じながら、槍を召喚して背後を振り返る。
「もう、お出ましだ」
「ワオオォォォォォォォォン!!!」
遠吠えと共に、狼は牙をむいて跳んで来た。
とりあえず、先ほどもやったように槍で横殴りにする。
「ふう・・・ゼウスがないから止めに欠けるけど・・・」
槍では、植物を傷つけかねない。
持っていた槍をその場に突き刺し、代わりに小ぶりの刀を作る。
専門ではないけど、全く使えないわけじゃない。
「ウガァ!」
「またその植物か・・・けど、種が分かってりゃ!」
俺は目の前に生えてくる植物を避け、さらにはまだ少ししか成長していないものの上を飛び越え、一太刀入れる。
「グ・・・ガウ!」
「これでようやく一撃!」
そのまま、連激を開始する。
といっても、途中から牙やら爪やらで防がれたけど。
「ワオオオオオオオン!!」
「うおっと!」
足元で急成長した植物を避け、距離をとらされる。
やっぱり、得意な武器じゃないとムリか・・・よし、肉くらいは切らせよう。
「ふう・・・GO!」
「ウガアァァアァァァァァァ!」
狼は吼え、植物を成長させてくるが・・・俺は気にせず、斬り進む。
当然、向こうの攻撃が無条件で当たってくるけど・・・もうそれも気にしないで、狼に向かって走り・・・
「竜槍砕牙!」
今回の戦いで初めて、しっかりとした攻撃を加えることが出来た。
どうせ死なないんだから、槍が振れる怪我なら気にするに値しない。
「ふう・・・なあ、人語を理解できるんだから、こっちの言うことは分かってるんだろ?」
「・・・ガウ」
肯定、と受け取っていいと思う。
なら、話をするとしようか。
「じゃあ、俺は今からオマエについて明かしていってやる。どこまで冷静でいられるかな――――大口真神?」
では、挑発を始めましょう。
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