少年と女神の物語
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第二十四話
どうも!久しぶりの一人称の立夏です!
今は、所属している茶道部の部室で先輩に入れてもらったお茶を飲んでいます。
「相変わらず美味しいですね、祐理先輩の入れるお茶」
「そんなことありません。この部には、私よりも上手に入れる方が何人もいますし」
こんなふうに謙遜してるけど、私は祐理先輩が一番上手いと思う。
やっぱり、育ってる家ってこういうところにもでるよね。
「で、お話ってなんですか?なんだか、あせってるみたいでしたけど」
「はい・・・こんなこと、話すべきではないと思うのですが・・・」
「気にせず話してくださいよ。本当に面倒な案件でしたら、家の兄に丸投げする、という手もありますし」
多分、少し頼めばやってくれると思う。
面倒ごとには早めに首を突っ込もう、とかこの間言ってたし。
「い、いえ!わざわざ王に手を焼いてもらうわけには!」
「気にしないでくださいよ、そんなこと。ソウ兄は必要なときには立場をフルに使いますけど、そうでなければ相談に乗ってくれますし」
「ですが・・・」
「それに、カンピオーネなんていってもまだ高校生ですからね。祐理先輩みたいな美人さんに頼まれたら断りませんって」
そんなことを言ったら、急に祐理先輩の表情が暗くなった。
「あの・・・呼び出したのとは別のことで、ひとついいですか?」
「別に構いませんよ?なんです?恋の悩みとかですか?」
そんな話だったら、かなり楽しい。
祐理先輩を弄りながら話を聞く・・・いい表情が見れそうです。
「い、いえ!そんな話ではありません!」
「まあまあ、そう慌てないでください。冗談ですから」
「そ、そうですか・・・」
「ええ、一割半は」
「ほとんど本気じゃないですか!」
もちろん、これも冗談です。実際には二割冗談でした。
「はあ・・・やはり、年頃の男性というのはそういったものなのでしょうか?」
「そういう、とは?」
「その・・・自分の欲に正直といいますか・・・」
・・・ああ、そういうこと。
「でしょうね~。誰でもそうなんじゃないですか?それこそ、カンピオーネであるソウ兄や護堂先輩もそんなもんでしょうし。違いがあるとすれば、それを抑えれる度合いくらいのものでしょう」
その辺りは、ソウ兄はかなりのものだ。
女姉弟(兄妹)十一人と同じ家に暮らしてるし自分の部屋の扉を閉めれないから、我慢するしかないなんて状況、抑える力は上がって当然だろう。
「でも、どうしてそんな話を?」
「いえ、その・・・すこし、委員会のほうで・・・」
まあ、立場上話しづらいこともあるんでしょう。
気にしたらダメですね。
「あと、ですね。武双さんのほうには委員会から何か接触はありますか?」
「特にありませんよ。一度馨さんが来ましたけど、ソウ兄がカンピオーネになったいきさつとどんな神を殺したのか、権能はどんなものなのかの情報を渡して、連絡先を交換して終わりです」
「その資料には目を通させていただきました。意外と友好的なんですね。二年も隠していたのですから、そういったことを断ると思ったのですが・・・」
「まあ、そうですね。委員会のほうにはあまり友好的とはいえませんよ。今から言うことはまだ隠してることなので誰にも言わないで欲しいんですけど、あの資料にあった権能の数は事実とは違いますし」
切り札だから隠しておくつもりだとは言ってたけど、祐理先輩は護堂先輩とも仲がいいみたいだし気にしなくてもい、と思う。
「そうなのですか?あれだけの神から権能を簒奪するだけで止まらないとは・・・」
「資料では六柱・・・ゼウス、蚩尤、オーディン、ザババ、ダグザ、ウィツィロポチトリを殺したことになってますけど、実際には後一柱、プロメテウスからも簒奪してます。一応、ソウ兄の切り札ですね。それと、委員会からの接触についてなんですけど・・・」
多分、祐理先輩はこれが一番聞きたいんだと思う。そんな感じが、なぜかした。
「多分、これから先にはそんなにないと思います。むしろ、そんな余裕があれば護堂先輩のほうに力を回すはずですし」
「何故でしょうか?」
「簡単なことですよ。護堂先輩は何の後ろ盾もないカンピオーネですけど、ソウ兄は違いますから」
「なるほど・・・神代家に所属していますから・・・」
「自分達のところに引き込むのは難しいです。それに、男子高校生に効果の高い色仕掛けの類は、ソウ兄には通用しませんし」
「皆さん、綺麗な方ばかりですから、そうなるのですか?」
「ええ、そんじょそこらの女にはやりませんよ!」
そんなことは、アー姉にマー姉、立夏ちゃんが許すはずもない。
是が非でもこちらに引き込んでくれることだろう。
ソウ兄を上げてもいいと思えるような人が来るまでは、絶対にあげません。
「さて、お互いに世間話も終わったところで、本題に戻しましょうか」
「あ、すいません・・・関係ない話をこんなに長々と・・・」
「いいですよ。面白い祐理先輩も見れましたし」
祐理先輩の表情は一気に真剣なものになって、私に視線が向けられました。
流石、姫巫女ですね。
「実は、昨日ある魔道書を手に取ったときに天啓が降りてきたんです」
「流石は祐理先輩ですね。で、どんな内容だったんですか?」
これを聞くことで私にも天啓が降りてこれば、より細かく知ることが出来るかもしれない。
淡い期待を抱きながら、祐理先輩の話を聞きます。
「・・・降りてきた天啓は二つです。一つは、自分でもよく分かっていないので話をすることは出来ません」
「天啓なんてそんなものですよ。じゃあ、二つ目は?」
「・・・野を駆ける狼。その遠吠えは緑から命を奪い、狼の駆けた後には豊かな緑が宿る。その緑を奪うことはかの狼にしか出来ず、奪おうとする悪には裁きが下る」
ふむ・・・豊穣神のようなものですかね?
天啓は降りてきませんが・・・いやな予感は、これでもか、というくらいにします。
「申し訳ないんですけど、天啓は降りてきませんでした。代わりに・・・これでもか、というくらいのいやな予感はするんですけど」
「私もそんな気がしています・・・」
「はあ・・・やっぱり、アー姉についてきてもらうべきだった・・・」
天啓は、近くに神がいるときにはかなり降りて来やすい。
まあ、アー姉は神性を封印してるから、少し降りにくいんだけど。その分はソウ兄にカバーしてもらえばいいし!
「・・・念のため、私はもう一度あの魔道書を見せてもらうことにします」
「何か追加で分かったら、電話してください。何か力になれるかもしれませんし。これ、私の携帯です」
「・・・すいません。登録のしかたを教えていただけますか?」
祐理先輩はそう言って、携帯を取り出しました。
「祐理先輩、携帯買ったんですか?」
「ええ、仕事の都合上買ったのですが・・・どうにも、使い方がいまいち分からなくて・・・」
「ほうほう・・・登録は、護堂先輩くらいですか」
祐理先輩に渡してもらい、電話帳を表示したら、プライベートらしき名前はそれだけが入っています。
「そうですね・・・使い方は、またあの先輩に直接聞いてください。私は説明が下手ですし、静花ちゃんの面白いところも見れそうですから」
「はあ・・・分かりました」
「とりあえず、私の番号と・・・神様クラスの問題が起こったときに護堂先輩に通じなかったときの緊急用として、ソウ兄のも登録しておきますね」
まず私の携帯宛にメールを送って、メアド獲得。ついでに電話番号も記しておいたので、後で登録しよう。
次に私の携帯からソウ兄のメアドを打ち込んだメールを送って、祐理先輩の携帯を少し弄って番号と一緒に登録。
「これで大丈夫です。フルネームで登録しましたから、カ行のところにあります」
「はい、ありがとうございます。では、私はまたあの魔道書を見せてもらいに行きます」
祐理先輩はそう言って、荷物を持って立ち上がりました。
「そういえば、今回のことって私に話しちゃってよかったんですか?」
「はい、大丈夫です。今回のことで新しい情報を得られそうならいいと、許可をいただきましたから」
なら、気にしないことにしましょう。
ついでに、何かあったときのためにソウ兄辺りに話しておくとしますか。
◇◆◇◆◇
「と、そんな感じみたいだよ?」
俺は、立夏からそんな話を聞いていた。
メンバーとしては、俺、立夏、リズ姉の三人でだ。
もう夕食も終わってるから、他の家族は自分の部屋で宿題をやっていたり、風呂に入ったりしている。
「へえ、狼か・・・ってことは、魔道書は狼に関わるものなのか?」
「そこまでは私にもわかんない。でも、その可能性が高いかな?やけに狼を強調してたし」
「ふ~ん・・・なら、その祐理とやらがよく分からないといっていたのは、公爵の姿でも見たのではないか?」
リズ姉の意見は、かなり可能性が高いように思えた。
狼つながりで近くにいる狼を連想するのはよくあることだし、ヴォバンは狼の権能も持ってる。
「まあ、もしそうだとしたら助かるな。祐理が関わってるって護堂が知ったら、面倒ごとも引き受けてくれるだろ。問題はもう一つのほうだ」
「まあ、天啓が降りてきたなら顕現してる可能性が高い」
「だな・・・少し情報を集めてみるか」
俺は携帯を取り出し、知り合いの番号を呼び出す。
こんなことをしなくてもダグザの権能を使えば調べられるのだが、こういったことは人から直接、その人の考えも含めて聞いたほうがいい。
『はい、朝倉です』
「あ、もしもし。会長ですか?夜分遅くにすいません」
電話の相手は、ウチの生徒会の会長、朝倉梅先輩だ。
この人、都市伝説とか噂話とか、そういった話に詳しすぎるくらいに詳しいので、何か異常がないかを知るにはもってこいなのだ。
『武双君ですか。何度も言っていますが、校外では職務は気にせずに名前で呼んでください。校内では気を引き締める意味も含めてそう呼んでもらっていますが、校外では緩めたいので』
「それは失礼。じゃあ梅先輩、最近狼に関わる噂が流れてたりしませんか?」
なんだかんだで、こういった噂話はかなり重要なことが含まれていることが多く、流れるのも早い。
日本では絶滅したはずの狼、もしそれを誰かが見ていたら、すぐにでも噂になって流れているだろう。
『狼・・・三峯神社のある山は分かりますか?』
「埼玉の三峰でしたか・・・そこが何かありましたか?」
『夜な夜な狼の遠吠えが聞こえるが肝心の狼の姿はない、近隣の家の住人が狼に見守られながら家まで送ってもらった、という噂なら』
うわー・・・当たりっぽいな。
「ありがとうございます。大変興味深い話でした」
『いえいえ、かの偉大なカンピオーネがそのように思ってくださるのなら、話したかいもあったというものです』
ついでに、この人は委員会の関係者だったりもする。
元々は、俺が入学した一月後に神代家の監視のために城楠学園に来て、二日目で俺たちに自分の正体を話すという、謎の行動をした人だ。
「当たりっぽい話は聞けた。場所は三峯神社の辺りだそうだ」
「三峯神社・・・確か、イザナミやイザナギが奉られていたな」
まあ、あの神社から連想する名前はその辺りだろう。なんか狼と関わりあったっけ・・
「まあ、その辺りについては行ってみれば分かるだろ。というわけで、俺は行って来る」
「あ、私もついてく!現地までの足も必要だろうし。リズ姉はどうするの?」
「私はパスだ。もうゆっくりと寝たい」
そんなこんなで、俺と立夏は現地まで向かった。
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