検索失敗の異世界録
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YES!ウサギが呼びました! 前編
思いっきり叫ぶのって、結構気持ちいいですね~。ストレス発散になりました。それにしても、まさか箱庭に来るのに使う手紙の文章があんなふざけたものとは・・・つい、ミカさんの悪戯かと思ったじゃないですか・・・
先に落ちた人たちがなにやら話をしていますけど・・・とりあえず、髪とか拭くとしましょうか。
「で、そこの髪を拭いてる、大人しそうな貴女は?」
私のことでしょうか?
「私ですか?私は朱羽葵といいます。あなたが言ったような大人しい人間ではなく、問題行動ばかりを起こし続ける爆弾みたい、と友人に称される人間ですので、十分に気をつけて接してくださいね~?」
「そう、貴女もなのね。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、葵さん?」
「そうですか?ならどうぞ~」
私は空間に穴を開けて、『朱羽葵、取扱説明書』と書かれた分厚い本を渡します。
以前、友人が作ってくれたんですよね~。
「何でこんなものが既にあるのかしら?」
「ないと困る人がいると言って、友人が作ってくれましたぁ」
「そう、いいお友達ね、その人」
「ええ、自分の思ったことを包み話さず話してくれる、とても弄りやすい人でした~」
とても楽しかったですね~。自分の好きな人すら素直に言ってくれましたので、その辺りの相談には乗りやすかったですけど。
「さて・・・私は少し気になることがありますので、少しこの場を離れさせていただきますね~」
「ああ、後で何があったかは話すぜ」
「よろしくお願いしま~す」
さて、少し散歩でもしましょうか~。
△▼△▼
「こら!オマエ、どこのコミュニティの人間だ!」
「はい?なんでしょう~?」
少しフラフラと歩いていたら、後ろからそんな声が聞こえました。
そして振り向きますが、おかしなことに誰もいませんね~。
「あれ?空耳ですかね~?」
「空耳じゃねえ!ここにいるだろ!」
なんとなく、下のほうから声が聞こえているように思えますけど・・・
「あれ~?まだ聞こえますねぇ。どこからでしょうか?」
「こっちだって言ってんだろ!下だ下!バカにしてんのか!?」
そろそろ、ころあいでしょうか。
私は下を向きます。
「お、やっとこっちを見たか・・・オイオマエ!どこのコミュニティのもんだ!」
「どこのコミュニティ、ですか?スイマセンが、来たばっかりなので分からないんですよね~」
「今日召喚されたのかよ・・・なんでそんなヤツがこんなところに、って、頭撫でてんじゃねえ!」
しゃがんで頭を撫でていたら、手を払われてしまいました・・・悲しいです・・・
「別にいいじゃないですか、頭を撫でるくらい・・・」
「言い訳ねえだろ!何でアタシがんなことされなきゃなんねえんだ!」
可愛らしいロリっ娘がいたら、頭を撫でるくらいは当然だと思うんですけど・・・
「分かりました。じゃあ、抱きしめるくらいで我慢しますね~」
「もっとおかしいだろ!むしろおかしいだろ!」
より強い拒否をされてしまいました。
「この・・・これをみても、そんなことが言えるのか!」
ロリっ娘はそう言って・・・見た目が変わりました。
角が生えて、尻尾が生えて、翼が生えて・・・服装は露出の多いものに・・・
「悪魔娘ー!貴女、ロリの悪魔ですか!?」
「ちょ、わ!抱きつくな!」
その見た目に、つい抱きついてしまいましたが、放すつもりはありません。
むしろ、もっと力を入れます。
「わー、本物の悪魔です!始めてみましたよ、悪魔!へ~、尻尾とか翼とかこんな感じになってるんですね~!」
「ちょ、さわんな!変な感じするんだよ、そこ!」
ロリ悪魔は必死にもがいて、どうにか私の腕の中から脱出しました。もう少し、弄りたかったんですけど・・・
「悪魔を初めて見てその反応って・・・どうなってんだよ、オマエ!」
「どうなってる、と言われましても・・・私は朱羽葵、問題児ですよ~?」
「確かに問題児だな、オマエは!」
ここまではっきりと言われると、いっそもういいやって気になりますね~。
「で、あなたは誰ですか~?」
「ん、アタシか?アタシはリリム!リリム・サタンだ!」
なんともすごい名前が出てきましたね~。
「じゃあ、貴女が地獄で一番偉いんですか~?」
「いいや、それはアタシのパパだ!」
「じゃあ、貴女はお姫様みたいな感じですか~?」
すごい人に会いましたね~。
「まあ、そうだな。うん、そんな感じだ」
「じゃあ、プリムちゃんで~」
「いや誰だよそれ!?」
「貴女のことですよ~?」
「どうしてアタシがプリム!?」
「プリンセス+リリム=プリム」
「どう考えてもおかしいでしょ、それ!!」
まあ、私が呼べればそれでいいんですよね~あだ名なんて。
「あ、プリムちゃんも私のことは葵でもあだ名でもいいですよ~?」
「・・・じゃあ、葵」
「なんですか~?」
「アンタ、まだどこのコミュニティのも所属してないんだよな?」
「ええ、未所属、と言うことになりますね~」
まあ、箱庭と言うところのシステムについては散歩をしている間にあらかた聞いていますし、未所属、と言う形で間違いないはずです。
「じゃあ、そのペンダントはなんだよ?ギフトなのは間違いないだろうし・・・ってか、さっき撫で回されたときにちくちくとダメージ食らったんだけど・・・」
「これですか~?まあ、私を育ててくれた人の形見、と言ったところですかね~。破魔の効果を持つ銀で作られてるとか~」
「悪魔のアタシからしたら天敵じゃん・・・」
まあ、かなり霊験あらたかではありますね~、これについて、ちゃんと知れば分かることですけど。
「・・・アンタは、どうしてここに来たの?」
「そうですね~。少し散歩がしたかったから、でしょうか?」
「あ、いや。そっちじゃなくて」
どうして今ここにいるか、ではなかったみたいですね~。
まあ、ここにいる理由は話しづらいですし、助かりました~。
「では、どういった意味合いでしょう?」
「どうして、この箱庭に呼ばれたのかって事」
あ~確かに、私って見た目は違って見えるみたいですしね~。
「単純なことですよ~。私が強いギフトを持っているらしく、それを頼りに呼ばれたんです~」
彼によると、私はかなり規格外のギフトを持ってるみたいですしね~。
まあ、別になくてもそこそこに戦える自信はありますけど。ちょうど、整備の終わった銃にナイフもありますし、弾もあの古臭い方々がサブマガジンや弾そのままで結構持っていましたから~。
「強いギフト・・それ、どんなものかって分かるの?」
「全てを理解しているわけではありませんけど・・・なんとなく、なら出来てますね~」
「・・・じゃあ、ちょっとギフトゲームしない?」
プリムちゃんは少し考える仕草を見せ、そう提案してきました。
「内容は、どういったものにしましょう?」
「あ、ギフトゲームはやるんだ・・・ってか、アンタはその辺りの箱庭にルールは知ってんの?」
「ええ、知ってますよ~。貴女に会う前に、知り合いから聞きました~」
「来て間もないアンタが、何でそのあたりの事情を知ってんのよ・・・まあいいわ。話も早いし」
プリムちゃんがそう言うと、急に虚空から羊皮紙が落ちてきました。
なるほど~。これが、“契約書類”ですね~。
『ギフトゲーム名“姫からの試練”
・ルール説明
・ゲームの開始はお互いが参加に同意した瞬間
・姫は五つの試練を出し、乗り越えることが出来なければ勝利。
・聖職者は姫から出される五つの試練を乗り越えたら勝利。
・備考
・このゲームは“主催者権限”によって行われるが、参加者に参加への拒否権を与えるものとする。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“ヘル・サタン”印』
聖職者は私のことでしょうけど・・・十字架を持ってて教会に住んでただけで、聖職者でも何でもないんですけどね~。
「アタシはこのゲームに同意する。アンタはどうするの?」
「もちろん、同意しますよ~」
私がそう言った瞬間、プリムちゃんが青い炎を放ってきました。
「ふう・・・悪いけど、卑怯だとは言わせないよ?ルールはちゃんと、」
「ええ、ちゃんと、同意したら開始、とありましたから何も言いませんよ?」
私はそう言って右腕を炎に向け・・・当たった瞬間、全て消えます。
「な、地獄の炎が、消えた・・・?」
「さて、どうでしょ~う?」
まあ、私も初めて使ったときには少し驚きましたけど・・・もう大して驚きはないですね~。
「へえ・・・だったら、こんな感じはどう!?」
プリムちゃんは私のこれが右腕によるものと考えたのか、両サイドから青い炎を放ってきました。
そうやってすぐに発想を生み出せるのは大きいですけど・・・
「残念ながら、ハズレで~す」
私は両腕を広げて青い炎に触れて、全て取り込みます。
「・・・消す、じゃなくて・・・取り込んだ!?」
「はい、せいか~い!よくできました~!」
私はそう言いながら袖をめくって、真っ白な腕を見せます。
「・・・?何で急に袖なんてめくってるのよ?」
「まあまあ、少しみてれば分かりますから~」
そして腕に意識を向けて・・・そこに、炎の中に立つ少女の刻印を出します。
「それ、一体・・・」
「これですかぁ?多分、見てもらったほうがいいと思いますので・・・」
そして、腕をプリムちゃんに向けて・・・青い炎を放ちます。
「わ、これって・・・」
「理解できました~?これが私のギフトです~」
私はそう言いながら、箱庭に来る前の一悶着の際に貰ったライトピンクのギフトカードを取り出し、プリムちゃんに見せます。
朱羽葵・ギフトネーム“検索失敗”“空間倉庫”“天使長のロザリオ”
「な・・・全知であるギフトカード、ラプラスの紙片がエラーを出すなんて・・・」
「さあ?ただ検索に失敗しただけ、かも知れませんよ~」
まあ、こちらの方が都合はいいんですけどね~。他人に値札張られたくないですし、名前が出てるのは物置と十字架だけで、これなら判断できそうにもないですから~。
「というか、何で箱庭に来たばっかりのアンタがギフトカードを持ってるのよ・・・」
「知り合いに貰いました~。それより、後二回の試練はいいんですか~?」
「あ・・・よ、よくないわよ!」
そんなこと忘れていたらしいプリムちゃんは顔を真っ赤にしながら、私から離れました。
あの顔、もう一回みたいですね~。
「でも、地獄の炎は効かないみたいだし・・・これなら!?」
プリムちゃんはなにやら黒いもやもや・・・瘴気でしょうか?を放ってきましたけど、それも私の腕に触れた瞬間に、全て取り込まれました。
「無駄ですよ~?別に、青い炎だから取り込めたわけじゃないですし~」
「う~・・・だったら、これ!」
プリムちゃんは自分のギフトカードを取り出し、そこから大きな鎌を取り出しました。
少しふらつきながらもどうにかそれを保持して、私に向かって走ってきます。
「あら、気付きました?」
「やっぱり、物理攻撃なら取り込めないのね!」
さて、まだ距離はありますし・・・対抗して武器をとるとしましょうか。
私は首からさげていた十字架を取り出し、人差し指、中指、親指に紐をかけて、逆の手で十字架を持ち、紐を弓、十字架を矢に見立てて弓矢っぽい形を作って・・・あら不思議。その瞬間、十字架は弓矢になりました~!
「ちょ、なによその洋弓!」
「浄化の力をた~っぷりと込めた、天使の一撃で~す!」
私が矢を引くと、腕に十対の羽を持つ天使の刻印が浮かび、白い光が腕から矢に流れていきます。
「では、いっきま~す!」
「ちょ、ちょっと待てーい!」
「い~やで~す!」
私が矢を放つと、プリムちゃんは必死になって鎌をたたきつけて・・・鎌を犠牲にして防ぎきりました。
ただ、形としてはプリムちゃんの攻撃を私が防いだことになったみたいで・・・私のゲームクリアが、契約書類から発せられました。
「うう・・・何よ、アンタ、天使の血でも引いてんの?」
「そんなはずないじゃないですか~。私は、純粋に人間ですよ~。ただ、青い炎みたいに取り込んであっただけです~」
「でも、これなら・・・もしかしたらもしかするかも・・・」
「どうかしたんですか、プリムちゃん?」
なにやら考え出したプリムちゃんを抱き上げながら、私は聞きました。
「ちょ、抱き上げんな!」
「い~や~で~す!」
「はっきり言い切りやがったよ、コイツ!」
プリムちゃんはウガー!と唸りながら、最後には諦めたように力を抜きました。
「・・・あのさ。一つ、本気で頼みたいことがあるから・・・これについてはちゃんとしたいから、さ。おろしてくれない?」
「・・・どうぞ~」
なんだか真剣な様子でしたので、私はプリムちゃんをその場に下ろしました。
「で、頼みってなんですか~?」
「その・・・アタシのコミュニティに入って、ベルゼブブを倒して欲しいの!」
またビッグネームが出てきましたね~。サタンに続いてベルゼブブですか~。
「そうですねぇ・・・いくつか、質問いいですか?」
「うん、もちろん」
「では、貴女の苗字にある“サタン”や今の話に出てきた“ベルゼブブ”というのは、かの有名なそれ、ということであっていますか?」
「ええ、あってるわ。この箱庭の世界には別のサタンやベルゼブブもいるけど、パパやベルゼブブも違う世界から来ただけで、同じ存在」
となると・・・
「じゃあ、そのベルゼブブや貴女は魔王、ということでいいですか?」
「・・・ううん、違う。確かにベルゼブブやパパは魔王だったけど、アタシは違う」
「と、いいますと?」
「アタシは、パパが殺されちゃったからコミュニティのリーダーの座と主催者権限を継承しただけで、まだ悪用はしてないから・・・」
なるほど~。
「では、何故あなたはベルゼブブを殺したいのですか~?」
「・・・アタシのコミュニティ、ベルゼブブに潰されて、アタシ以外、皆殺されちゃったから・・・」
プリムちゃんは途中で泣き出し、そのまま土下座の形に移行しました。
これ、私が犯罪者にしか見えない気が・・・
「だから、アタシはみんなの敵討ちがしたくて・・・それに、皆でやってきたこのコミュニティがなくなるのはいやだから・・・お願い!お礼は何でもする!このコミュニティを残してくれるなら隷属したっていいし、アタシの命を対価にしても構わない!だから・・・アイツを倒して・・・」
「ふむ・・・」
自分の親がやっていたコミュニティを残すために、プライドすら投げ捨てて人に頼む・・・
「分かりました。いいですよ、引き受けましょう」
「え・・・いいの?」
「そう言ったじゃないですか。そうですね・・・報酬は、プリムちゃんの隷属で~」
メンバーに隷属しているリーダー、中々に面白いと思いません?
「じゃ、じゃあベルゼブブのとこに行こう!私、場所知ってるから!」
「はい、行きましょうプリムちゃん」
そして、私達は蠅退治へと向かいました。
「ところで、どれくらい歩くんですか~?」
「え?大体・・・一日くらい?」
「・・・・・・」
確か、物置の中に寝袋とテントもあったはずですし、食料も十分にありましたね。何とかなるでしょう。
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