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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  心意

 キリトの二刀と、ヒースクリフの魔剣が激突する。それは激しいエフェクトフラッシュと共に、弾かれあう。

 はず、だった。

 しかし、結果は大きく異なった。ヒースクリフの魔剣と激突したキリトの黒い剣――――《エリュシデータ》、その刀身の上半分が、まるで最初から何もなかったかのようにごっそりと消滅してしまったのだ。

「なっ!?」
「どうしたんだねキリト君。こんなものかい?」

 ヒースクリフの追撃が続く。剣で防御することができないキリトは、後ろにバックステップで回避するしかない。しかし、ヒースクリフの剣は自由な剣閃でキリトを追う。キリトに剣がかする。傷を受けたところが、ごっそりと消滅し、キリトの体を構成しているポリゴンの内部構造が見え隠れする。

「ぐあっ……」

 キリトの体を、本来なら感じないはずの痛覚が走る。どうやら心意の力には、あらゆる防御手段・システム制限が効かないらしい。

 退くキリトに、ヒースクリフは薄く笑いかける。

「システムの加護を過信してはいけないよ、キリト君」
「ふ……それを言うならあんたも自分の力を過信しない方がいいぜ」
「……何?」
「せあっ!」

 ヒースクリフの後ろから、コクライが切り込む。至近距離で抜刀。本来の斬撃の威力に加え、《魔剱(まじん)》の濃縮された威力が加わり、たとえ格上のプレイヤーであれと言えども、普通なら容易に切り裂くことができた。そう。普通ならば。

「ふむ。いいねらいだな……だが、惜しいな」

 今のヒースクリフは普通ではない。ヒースクリフの体を真紅のエフェクトが蓋う。ぶれた様に高速で移動したヒースクリフの左手が、装備していた十字盾を構える。そして、その表面には闇色の過剰光(オーバーレイ)……

「《心意》か!?」
「正解だ――――返すぞ」

 ヒースクリフの盾に阻まれた刀は、あっさりと弾かれてしまった。それだけではない。

「がはっ!?」

 コクライの体に衝撃。HPが大きく削れる。コクライの刀の威力が、そのまま弾かれてきたのだ。

「くぅ……っ」
「大丈夫か、コクライ!」
「お前こそな」

 口々に言い合うキリトとコクライ。ヒースクリフは自然体をとる。

「どうかね、その身で《心意技》を受けた感想は」
「どうしても聞きたいって言うなら答えてやるよ」

 コクライの皮肉に、苦笑するヒースクリフ。再び険しい表情をとり、剣を構える。ヒースクリフの魔剣が、悲鳴を上げる闇のオーラを纏う。

「さぁ、もう一度行こうか」

 
 ***


「《マキシマイズマジック・ジャッジメントライツ》!!」

 ドレイクの杖が、白い光を発する。限界まで強化された詠唱ショートカットにより、一瞬で魔法術式(マジックスキル)が放たれる。

 すでに《ホロウ・アバター》の内半分のHPをかなり削っている。が、勝負はなかなかつかない。両者ともに厄介なのが、お互いを守ろうとする行動、驚異的な自己再生、そして、《無属性》というモンスターカテゴリだった。

「黒龍王!!」
『任せろ!!』

 黒い巨龍が、がらんどうの巨人を引き裂く。鮮血の様に赤いエフェクトをまき散らして、ホロウ・アバターが姿を薄れさせる。しかし、それは撃破ではない。鮮血をまき散らしながらも、別の場所に再び姿を現すローブ姿。HPは大きく減っているが、決して倒しきれてはいない。

『グルがぁッ!!』

 黒龍王が吠え、咢を開く。あふれ出た真紅の炎ががらんどうのローブを焼いていく。しかし、ホロウ・アバターもその何もない右腕を振り上げ、そこから闇色の波動をとばす。

「――――《マキシマイズマジック・ダイヤモンドストライク》!!」

 氷でできた槍が、数百を超える数ローブ姿に迫る。HPを大きく減らし、レッドゾーンまで陥れることに成功するが、傷ついた仲間をかばうかのようにもう一体のホロウが姿を現す。傷ついたホロウ・アバターはその姿を薄れさせ、消えた。再び奴が姿を現した時には、そのHPは全回復しているだろう。

 すでにこのような循環を二回ほど繰り返している。これではじり貧だし、延々と戦っていればドレイクの《魔法》に限界が来てしまう。

 ドレイクの放つ《魔法術式(マジックスキル)》は、はたから見ると代償の無い便利な遠距離攻撃にしか見えない。だが、実はそれは違う。ドレイクの《魔法》は、ある多大な代償を支払って起動されているのだ。

 それは、《エネマリア》のモンスターたちの命。彼らにはHPとは似て非なる《ライフ・ポイント》というゲージが用意されている。ドレイクは彼らからこのRPを貰い受けることによって魔法を放っている。当然、マジックスキルの威力が高ければその分彼らの魂も早く擦り切れていく。しかし、RP消費の少ない威力の低いマジックスキルでは、ホロウ・アバターのHPを減らせない。それでは本末転倒である。

 もちろん、RPを消費しないで起動できるマジックスキルは存在する。しかし、それらは《超位魔法》と呼ばれる最高位の魔法であり、打てる回数に制限がある。また、どれだけフルブーストしても、詠唱がかなり長く残ってしまう。

 だから。ドレイクは、心の中で泣きながら、《エネマリア》の魂を借り受けていく。できるだけ、できるだけ、彼らの魂を減らさないように、自らの《心意》で願いながら。

「――――《マキシマイズブーステッドマジック・グリームホープ》」

 黄金の光がドレイクの杖に宿る。次に放つマジックスキルの威力を最大まで引き上げる術式。これで、ホロウ・アバターの連携を引き裂く。

「黒龍王、今戦っているホロウを倒したら、次に出てくるホロウを五分間だけ押さえてください。《超位魔法》でカタを付けます」
『分かった。任せろ』
「お願いします」

 黒き巨龍は一度頷くと、咢をいっぱいに開いてホロウ・アバターに向かい黒いブレスを吐き出した。《ダークネス・ブレス》と呼ばれる、種族カテゴリ《奈落龍(アビス・ドラゴン)》専用のブレス技の一つ。黒龍王の他にも使用できるモンスターはいるが、その多くはフロアボスモンスター。つまり、実質ブレス攻撃の中では最強クラスということになる。

 ホロウ・アバターの体に焼け焦げた跡が生まれる。痛みに耐えるようにもだえるホロウに向けて、ドレイクは最強化されたマジックスキルをうつ。

「《マキシマイズマジック・サンシャインレイ》!!」

 放たれた輝きが、ホロウの体を焼いていく。さらに追い打ちをかけるように、もう一発。

「《マキシマイズマジック・ジャッジメントライツ》!!」

 エネマリアの勇士たちの魂の輝きが、邪悪なローブに裁きを下す。音無き悲鳴を立てて、ホロウ・アバターが一体、遂に消滅する。そして、仇を討つかのように出現したのは、もう一体のホロウ・アバター。レッドゾーンまで減らしたはずのHPは完全に回復し、グリーンゾーンまで戻っている。

『ゴォオオッッ!!』

 黒龍王が双腕を振りかざし、ホロウ・アバターを組み敷く。しかし、ホロウ・アバターもその実態を薄れさせ、黒龍王の両腕の攻撃をかわしていく。それを見ながら、ドレイクは詠唱を開始する。状況を一気に変えられるだけの力を秘めた、最強の魔法たちの一つを。

 ドレイクが現在使用できる《超位魔法》は全部で5つ。それらは一つに付き一日一回しか使えない。つまり、先ほど発動させた《滅びの大津波(ナピュシュテム)》はもう撃てない。

 だが、先述の通り《超位魔法》は一つだけではない。残り四つのうち、最も威力の高い魔法を起動させる。

「That day, in order to make a judgment on people instead of their own, the great sun god that no longer believe the person has created the goddess of destruction and slaughter.She destroyed the world in a week, a person was about to be dark by her.The sun god feared she sealed her, that were divided into two of God.Medjed. Bastet. The true name, is in the mission here of true ye――――」

 そして呼ぶ。その名を。かつて世界を滅ぼしかけた、殺戮の女神の名を。

「――――《死の大嵐(セクメト)》!!」

 次の瞬間。

 世界を壊すかと思えるほどの勢いの巨大な砂嵐が、ホロウ・アバターを襲った。砂は一粒一粒が非常に鋭くとがっており、内部に取り込まれたホロウのHPは恐ろしいスピードで減っていく。そして、それだけではない――――

『コォアアアアッッ!!』

 黒龍王の口から、黄金のブレスが発射される。《ゴールド・ブレス》。ブレス系攻撃最強の威力をもつ、《全属性》攻撃。

『―――――――ォォォォ……』

 滅びの嵐と黄金の輝きを受けたがらんどうローブの巨人は、爆散し、その姿を消滅させた。

『……やったな』
「はい。後はキリトさん達の救援にいかないと」

 
 ***


 キリトの二刀が閃光を纏って走る。しかし、ソードスキルの起動は全てヒースクリフに読まれてしまう。コクライの《殺人刀》もそのスペックを最大限まで発揮しているが、ヒースクリフのHPを減らすには至らない。

 すでにキリト、コクライ、ヒースクリフともにHPを大きく減らしていた。《結晶無効化空間》は解放されているため、キリトとコクライは交代でスイッチし、回復結晶(ヒールクリスタル)でHPを回復させていく。

「コクライ、後どのくらい残ってる」
「ヒバナの分までつかっちまっうことになるが、あと三つだ」
「奇遇だな、こっちも一緒さ。アスナのまでつかっちまったよ」

 無駄口をたたいていないと、圧倒的な恐怖と、絶望と、プレッシャーに叩き潰されてしまいそうだった。すでにヒースクリフの表情に余裕はなく、本気で自分たちを殺しに来ているのだということが分かる。ヒースクリフは暗黒のオーラを全身に纏い、心意の力を最大限に振るっている。

 ヒースクリフのオーラが輝きをまし、彼のHPが回復していく。ヒースクリフは、心意の力でほぼ無制限にHPを回復させていってしまう。これでは、いくら減らしても倒せない。

 すでにキリトとコクライの体には、どれだけ回復しても治らない傷が大量にできている。キリトの黒い剣《エリュシデータ》は刀身が半分になってしまい、耐久値が尽きかけている。

 このままでは、負ける。

「どうする……」
「……いちかばちかだ。俺達も《心意技》を使うしかない」
「な……!?」

 コクライの言葉に、キリトは驚きを隠せない。確かにヒースクリフとの戦いで、なんとなく《心意技》の出し方やコツなどは分かってきた。しかし、一度も使ったことの無い技を此処で使うというのか。SAOでは、『手に入れたばかりの力はすぐに使わない』ことが鉄則だ。付け焼刃の攻撃で、ヒースクリフを倒せるだろうか……。

「キリト」
「――――何だ」
「もし俺が死んだらさ、ヒバナに謝っといてくれ」
「そんなこと言うなよ。生きて、この戦いに勝つんだ。次は現実世界で会おうぜ」
「――――おう!」

 コクライは、傷ついた刀を構えると、目を閉じ、意識を集中させる。

 《心意》。インカーネイト。それは、『願う事』だとヒースクリフは言った。ならば、コクライの望みはただひとつ。

「勝利だ!!」

 コクライの刀を、爆発的な光がつつむ。抜刀。時空を引き裂いて、輝きの衝撃波が飛ぶ。

「なに!?」

 それは、ヒースクリフの暗黒の波動をも切り裂き、彼の盾を真っ二つにスライスした。真紅の鎧に、亀裂が走る。

「――――やってくれるな。だが、甘い」


「ぐ――――!?」
「コクライ!?」

 コクライが、右手の刀を取り落す。

「あ、頭が……」
「おい、コクライ!?」

 頭を押さえてうめくコクライ。ヒースクリフは、解説するように言葉を紡ぐ。

「《心意》はいわば魂の解放だ。強靭な心、強靭な魂がなければそれは不可能。君たちの心意気は素晴らしかった。しかし、まだ甘い。ただの一度も心意技を使ったことの無いものが、全力で魂を開放すれば、その者の脳、そして肉体に与えられるダメージは莫大なものになるだろうね」

 ヒースクリフが剣を構え、ふり払う。

「さらばだ、コクライ君。君はこのSAOで最も強い刀使いだったよ」

 闇の波動が、放たれる。それは、かわすことのできない致死の刃となって、コクライを切り裂く―――――


 その寸前に、何者かによって阻まれた。インパクト。赤い髪が、細い四肢が宙を舞う。

「――――ヒバナ……!?」

 ヒバナだった。ヒバナが、消えるはずのない麻痺を振り払って、コクライを守った。それは、強い願いの力。小さな小さな、心意の力。

「コク、ライ……よかった……」
「おい、何でだよ!!何で俺をかばった!!」

 コクライが、ヒバナの手を取って叫ぶ。ヒバナの肩口から腰にかけて、真黒い傷が開いていた。ヒバナに与えられた痛覚は、今までキリト達が味わってきたもののどれよりも大きいだろう。
 
 それでいて、ヒバナは気丈に微笑む。

「ばか……決まってるでしょ……!コクライが……光紀のことが、大好きだから、だよ……」
「なら……なら、逝くなよ!!俺を置いて逝くな!!ヒバナ……火花!!」

 ヒバナのHPゲージは、ゆっくりと、0に向かっていく。後三十秒ほどでその肉体は消滅し、それから十秒後、彼女の意識はこの世から永遠に消滅する。

「……させない」

 キリトが、絞り出すようにつぶやく。

「させない!!」

 ヒースクリフの方を睨み付けたキリトが叫ぶ。

「させない!お前を倒して、この世界を終わらせる!!」

 キリトの剣に、真黒いオーラが宿っていく。それは、過剰光(オーバーレイ)。ただの一度も使ったことの無い心意の炎を、キリトは宿している。

「なるほど……君も心意を使うか。よかろう。来るがいい」

 ヒースクリフもまた、暗黒の過剰光を自らの剣にまとわせる。キリトが憎しみのこもった目でヒースクリフをにらみ、飛び掛かろうとしたその時――――

「だめです、キリトさん!!」
「――――!?」

 突然後ろからかかってきた声に、キリトは止まった。

 シェリーナが、キリトを呼び止め、叫ぶ。

「憎しみや怒りじゃ、ヒースクリフさんは倒せません!!」
「……シェリーナ……」
「キリトさん」

 すぐ近くで聞こえた声に振り向くと、ドレイクが立っていた。ドレイクの魔導服(ウィザードローブ)はぼろぼろになっていたが、それでもまだ、ドレイクの纏う強者の雰囲気は失われてはいなかった。

「私たちの希望を、かき集めてください。《希望》の心意なら、《絶望》の……破壊の心意を乗り越えられるはずです」

 ドレイクの言葉を受けて、キリトは目を閉じる。意識を、自分の脳の奥深く……魂の領域へと向ける。

「キリトさん!!」
「キリト!!」
「負けるんじゃねぇぞ!」
「いけぇ《黒の剣士》!!」
「リア充爆発しろ!!」

「キリト君――――――!!」

「お、お、オオオオオオオ!!」

 カッ、と目を見開く。キリトの右手、真っ二つに折れてしまった《エリュシデータ》を包み込むかのように、純白の光が集まっていく。それだけではない。左手の白い剣、《ダークリパルサー》が、とくん、とくん、とほのかな温かさと共に光を放っている。

「キリトさん。あなたが一人ではないことを、決して忘れないでください。《怒り》《絶望》はたった一人でも行える(ネガティヴ)。だけど、《希望》は、誰かの助けを借りなければ、誰かと手を取り合わなければ発揮できない(ポジティヴ)。たった一人で戦っている茅場卿に、それを教えてあげてください」
 
 ドレイクの声が、耳に入ってくる。キリトは、全身に集まってきた暖かい光をかき集めて、剣にのせる。

「うぉおおお!!」

 地面を蹴る。激しい光と共に、キリトの姿が粒となって消える。そして、ヒースクリフの目の前で実体化した。

「――――来たか」
「おぁあああ!!」

 キリトの二刀が、ヒースクリフに迫る。

「来るがいいキリト君!この世界の勇者よ!!」

 ヒースクリフが、漆黒の魔剣を掲げ、攻撃を防御しようとする。しかし――――

「――――っ」

 キリトの剣の軌道が、曲がった。そして、狙うのはコクライがつけた鎧の傷跡――――

「何!?」
「りゃぁぁっ!!」

 キリトの左手の剣が、右手の剣が、それぞれつきこまれる。

 しかし、ヒースクリフも負けてはいない。漆黒のオーラを纏って、キリトの攻撃を迎え撃とうとする。

 だが。その時。

『おぉおぉぉ……』
『いやぁぁあああ……』
『うわぁああああ……』

「な……!?」

 ヒースクリフの表情が驚愕に歪められる。ヒースクリフの纏っていた闇が、彼を覆い隠していく。

「馬鹿な!何だこれは!やめろ!!やめろ――――!!」

 どぷん、という音と共に、ヒースクリフが闇に飲み込まれる。彼を飲み込んだ闇がぐにぐにと姿を変えていく。

 そして。

 闇が爆発する。漆黒の翼が広げられ、渦巻く憎悪で染められた眼が開く。闇しか見えない咢をいっぱいに開き、《ソレ》は吠える。

『ルォオオオオオオ――――――――――』

「なんだ、あれは……」

 誰かが呟くのが、聞こえた。 
 

 
後書き
 本日は豪華二本立て。一時間後に後編を更新いたします! 
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