少年と女神の物語
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第二十三話
「ただいまー」
「あ、お帰りなさい武双。どうでしたか?」
「まあ、そこまで気にしなくてもよさそうだ。最悪、俺がもう一回戦えば収まる感じ」
帰ってきたらアテがまだ起きていてそう聞いてきたので、俺は思ったことをそのまま答えた。
まあ、本当に最後には戦えばどうにかなると思う。無聊さえ慰めればいいみたいだし、俺にせよ護堂にせよカンピオーネなら問題ないだろう。
「まあ、わざわざ戦おうとは思わないから、いざとなったら護堂を押し付けるか」
「さらっとクラスメイトに押し付けようとしなくても・・・それとも、彼にも無関係とはいえない感じで?」
「まあ、少し情報を流せば自分から向かっていくくらいには」
あいつが戦う理由には、俺に似たところがある。
祐理が巻き込まれそうだと言えば、自分で話を付けに行くだろう。
「さて、もう皆風呂には入った?」
「少なくとも、姉さんたちと氷柱はもう入りましたよ」
「ならまあ、大丈夫か」
姉さんたちとブッキングするとかなり気まずいし、先に入ったと知ったら氷柱は本気でキレる。なんでも、入りづらいとか何とか、前に先に入ったときに顔を紅くしながら言ってた。本気で怒っていたんだと思う。ブッキングしたときなんて気を失うくらいだったし。
まあ、氷柱が入ったならもう他の妹達も入っただろうし、後は俺だけかな。
「じゃあ、さっさと入って寝るとするか。ずっと気を張ってたらかなり疲れた・・・」
こんなときは風呂に入ってリラックスするに限る。
俺は自分の部屋に戻り寝巻きを用意して、風呂場に向かった。
◇◆◇◆◇
「ふう・・・やっぱり、落ち着くな・・・」
俺は多分家族全員で入っても問題ないだろう、という広さの風呂でそうつぶやいた。
それだけでも、音は響く。この広さに一人ってのは、また贅沢なものだ・・・
「さて、護堂の問題はどうするか・・・後でメールで注意を入れれば、それで解決でいいのか?」
会長は形だけの注意でいいと言ってたし、護堂一人に注意するだけで問題ないと思う。
護堂なら否定するなり了承するなりするだろうし、注意を受け入れたことになる。
変にエリカに連絡したりして、反論されるほうが後々の対処が面倒になる。
「ついでにヴォバンのことを教える必要は・・・ないか。細かく聞かれても面倒なだけだし、何よりつまらん」
そんな展開は面白みがない。どうせなら、しっかりと面倒ごとになってもらわないと端から見てもつまらないのだ。
「つまらないって・・・普通、そんなことで重要案件を放置する?」
「ああするぞ。俺にとっては十分なりゆ、う・・・は!?」
一人で入っていたはずの風呂場で返事がしたことに、かなり驚きながら返事をする。
声が聞こえた後ろを振り返ると、そこには体にバスタオルを巻いたマリーがいた。
いや、なんで!?
「何でここにいるんだ、マリー?」
「なんでって・・・私まだお風呂に入ってなかったし」
「ああ、あれか。俺が入ってることに気付かなかったとか、そんな感じか」
まあ、それなら入ってきちゃったことは分かる。
よくよく考えてみればマリーは俺と同い年なんだし、別に氷柱たちと一緒に入ってなくてもおかしくはない。
そこまで考えがいたらなかった俺が悪いのだ、これは。
「ううん、違う。武双お兄様が入ってるのも分かってたし、むしろそのタイミングを狙ってた」
「なんでだよ!どんな意図があってだよ!?」
マリーは当然のように俺の想像の斜め上にいった。
まあ、なんだか俺の想像の上をいこうとするのは日々あるんだよな・・・
「何でって・・・前に言わなかった?私、武双お兄様のことが好きなんだけど」
「確かに聞いたな。でも、それって」
「で、家族としてか?って聞いてきた武双お兄様には異性として、って答えたと思うけど?」
「・・・はい。確かに覚えてます」
そのときには聞き間違いかと思ったのだが、どうやらそうではなかったらしい。
いや、だとしても・・・
「一応、兄妹だって事は分かってる?」
「もちろん。でも、お父様もお母様も別に禁止してるわけじゃないし、兄妹恋愛」
まあ、確かに禁止はしていない。
当然のことだからわざわざ言っていない、とかではなく、『別に血がつながってるわけじゃないし、そうなっても仕方ないよね?というわけで、兄妹恋愛も姉弟恋愛も姉妹恋愛も好きにしていいわよ!』と母さんが言って、父さんも別に反対しなかったのだ。
確か氷柱が家に来た辺りで言っていったんだけど・・・・なんであのタイミングだったんだろう?そして、何でマリーが知っているのだろう?
いや、それ以前にそれはどうなんだ両親よ・・・
「というわけで、たまには好きな人と一緒にお風呂に入るのもいいかな、と思ったんだけど・・・なんでタオルを巻いてるの?」
「とっさの判断だな。手元にあってよかったよ、本当に」
「はあ、何で武双お兄様はそんなことに気を回すのか・・・もっと他のところに回さないと・・・」
そんなところとは、また失礼なものだな。
さすがに、同い年の妹の前で隠さないようなことはしない。
「はあ、氷柱やアテお姉様がかわいそうだよ・・・」
「何でその二人が出てくるんだ?」
「・・・確かにそうだね。あの二人に限ったことじゃなかった」
「?」
マリーの言っていることが理解できない。今この場と他の家族がどう関係あるのか・・・
「まあ、そんなことはどうでもいいや。行動に移さないのが悪いんだし、時間は無駄にしたくない。武双お兄様、もう体とか洗った?」
「いや、まだだが・・・もう出てってもいいか?」
「それは許可できない」
さっさとここから逃げたいんだけど、どうやら逃がしてくれる気はないみたいだ。
マリーは捕まえようと思えば簡単に俺を捕まえるだろうし、寝技で俺を身動き取れないくらいには出来る。
この状況で密着されるリスクを負うよりは、大人しくしてるほうが得策かもしれない。
「じゃあ、背中とか頭とか洗うから、こっちに来て座って?」
「・・・はあ、分かりましたよ。大人しくしましょう」
俺が大人しくマリーの指す椅子に座ると、マリーはこれまた予想外なことに普通に背中を洗い、頭も洗ってくれた。
まあ、私にもお願い、といわれたがそれくらいなら問題ないと考え、洗ってやった。
◇◆◇◆◇
「あ、お兄ちゃん!お邪魔してます!」
「ああ・・・帰ってきたらいるのはビアンカか。今日はどこに行っても誰かいる日なのか?」
風呂から上がって部屋に戻ると、そこにはビアンカがいた。
まあ、マリーとは違いビアンカがここにいることに驚きはない。
家に来る前にいた家で、自分が寝ている間に家族が皆、殺されてしまい、それ以来一人で寝ることが出来ず、起きた際に近くに誰もいないとパニックになるようになったのだ。
そして、それ以来幸運に恵まれるようになるという、なんとも皮肉なものである。
「まったく、もう中学生なんだから男兄妹と寝ることに抵抗とかないのか?」
「うーん・・・ない!」
「元気でよろしい・・・トイレとか行ってくるから、もう少し待ってくれるか?」
「あい!」
俺はさっさとすることを済まし、部屋に戻り、布団に入った。
自分の布団も一応準備されているのだから、持ってきてそれで寝ればいいのに、ビアンカはそうしようとはしない。
必ず、その部屋の主と同じ布団に入り、寝る。狭くて寝づらいと思うのだが、本人曰く、そっちのほうが安心するのだそうだ。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい。どこにも行かないでね?」
「いかないよ」
これを聞いて、ビアンカは安心したように眠る。
さて、俺ももう寝るとしよう。
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