ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百四十話:夜の草原で二人の共同作業
「あれ?なんか……多くね?」
「……ピキー」
「……そうだね。ちょっと、頑張りすぎたかな?」
真面目に黙々と、ルラムーン草を採集する作業を続けた結果。
六十個を目標としていたはずが、百個以上のルラムーン草を採集していました。
「……どーすんの?これ?捨てるの?」
「まさか。乾燥させれば長く保存できるから、すぐ使わないのはそうやって、先生の研究に役立ててもらうよ」
私たち以外で、こんなもの採りにくる人もそういないし。
一時的に減ってもまた生えてくるし、ちょっとかさ張る以外は問題も無いでしょう!
「私はもうちょっと、これの整理するのに起きてるけど。スラリンとコドランとモモには無理だし、ピエールもあんまりそういうの得意そうじゃないし。一人で大丈夫だから、みんなはもう休んでいいよ」
キメラの翼で、町に戻ることもできるんですが。
宿に入るにももう遅いし、今日はこのままここで夜明かしするつもりなので。
ピエールがあんまり得意そうじゃないというのは、料理下手らしいことから勝手に予想しただけだけれども。
「……ふむ。なれば、拙者はひとまず休ませて頂きますが。ドーラ様がお休みになる時は見張りに就きますゆえ、お起こし願えますか」
「……そうだね。わかった、よろしく」
ピエールがちゃんと休めるほど、作業に時間がかかるかわからないけど。
敢えて時間をかけて、丁寧に作業すればいいか。
とか思ってると、ピエールがキラリと目を光らせてまた言います。
「ドーラ様。拙者は、先程十分に休みましたゆえ。お気遣い無く、作業が終わり次第お起こし願いたく」
「……わかった」
スライムナイトたるもの、あの程度の休息でも十分に気力体力を回復できるんですね、わかります。
『ドーラちゃん。それじゃ、あたしは馬車で寝てるね?おやすみー』
「うん、おやすみ、モモ」
もう普段寝る時間よりも遅いので、さすがに眠そうな様子でモモが馬車に入っていきます。
ピエール、スラリン、コドランは、料理中にピエールさんが張ってたらしいテントの中で休む模様。
別に馬車の中でも全員寝られそうだが、まあいいか。
で、魔物のみなさんが休むために去っていって。
「……ヘンリーも、休んでいいよ?……色々してくれて、疲れたでしょ?」
当然のように居残って、隣で作業を始める男が一人。
「お前だってそれは同じだろ。やるよ、俺も」
「……」
それはまあそうだっていうか、他のみなさんと違ってこういう作業も得意なヘンリーの手伝いを、断る理由は無いっていうか。
……だけどさっきの今だから、二人きりとか物凄く気まずいんですけど!
なんかもう、顔が見られないんですけど!!
「十個ずつまとめればいいな。後は、汚れも落とせばいいのか?」
「……うん。魔法の研究に使うものだから、迂闊にキレイキレイとかできないから。ホコリとか虫とか土の汚れは丁寧に落として、紐で束ねて」
「わかった」
断る理由が見付けられないので仕方なくというか、断るために色々言うのもまた気まずいというか。
そんなわけで、目は合わせないままで作業のやり方を説明します。
ただの薬草とかなら別にキレイキレイしても問題無いと思うんですが、繊細な魔法の調合に使う、魔法の力を持つ薬草ですからね!
妙なことして、効果をわずかでも狂わせるわけにはいきません!
説明も無事に済ませたところで、私も作業を開始します。
……しかし、暗いからわからないだろうとは言え私の顔は絶対赤いし態度だってこんなにもぎこちないのに、仕掛けてきたコイツのほうは全く態度が変わらないってどういうことだ。
そもそも、何でいきなりあんなことしたんだ。
不意討ちでするつもりなら今までだっていくらも機会はあっただろうに、なぜ今、ここで。
悶々とそんなことを考えながらも藪を突付いてヘビを出す気は無いというか、本格的に口説かれはじめでもしようもんなら本格的に居たたまれないので。
あくまで黙々と、作業を続けます。
……いやでも、そこを問い詰めてはっきり告白でもさせれば、はっきり断るとかできるんじゃね?
ならここは敢えて、突付いてみたほうが……。
……いや、無理!
無理です、絶対!
今そんなことされたら、なんかもう流されてしまいそう!
色々とまずい方向に、進んでしまいそう!
進んだ結果、物凄い後悔しそう!!
思考をおかしな方向に暴走させながら、猛然と作業を続けていると。
「!」
「あ、悪い」
次のルラムーン草に手を伸ばしたところでヘンリーの手とぶつかって触れ合い、物凄い勢いで引っ込めるというベタ展開に。
「……」
また顔が真っ赤になるのを意識しながら、引っ込めた手を思わず押さえます。
……やってしまった。
多少のぎこちなさは流してもらえたが、これはイカン。
意識してます!!って全力で宣言したようなものじゃないか。
「……あのな、ドーラ」
「……」
ほら引っ掛かった。
流してもらえなかったじゃないか、どうすんだこれ。
「別に取って食ったりしないから。そんなに警戒するな。悪かったよ、さっきは」
「……」
悪かったってどういうことだ。
あそこでピエールの声がかからなければ完全にそうなってたわけだけれども、そんなつもりは無かったとでも言うのか。
後悔してるのか。
出来心だったのか。
その場の勢いだけだったのか。
「……お前が嫌がることを、する気は無いんだ。だけど、さっきは、その……」
「……」
…………嫌って言い切れないところが、困ってるところなんですけど!
他の男性だったら、例えばアランさんとかカールさんとかその他の有象無象だったら完全に嫌って言い切ってるところを、コイツに限ってそうじゃないとかそれじゃまるで、…………いやいやそんなこと無いから!!
慣れてて安心するだけだから、単に!!
「……お前があんまり、綺麗だったから。なのに寂しそうで、なんていうか、……そのまま、消えそうだとか思ったら。……そこに居るって確かめて、引き留めたくなったっていうか」
「……」
綺麗だった件はモモの証言もあることだし、まあそうなんだろうとして。
……寂しそうだった?
ぼうっとしててあんまり覚えてないが、あの時なに考えてただろうか。
「……とにかく!二度と、あんな真似はしないから!する時は、ちゃんと確認してからにするから!だから、許してくれ!」
「……」
許してって、別に怒ってはないんですけど。
ただ、なんていうか……妙な思考展開に嵌まって、困ってるだけで。
それより、確認してからするってどういうことだ。
キスしていいかとか、聞かれるの?
そんなの断るに決まってるけど、それってどうなの?
聞かれること自体もそうだし、また流されて、いいとか言ってしまいそうで逆に困るっていうか。
……って、それは無い!!
そんなの聞かれていいって答えるとか、無いから!!
絶対!!
「……ドーラ。妙な真似はしないから。……抱き締めても、いいか?」
「……」
今そんなことされたら妙なことを口走りそうで、かなりまずい気がするんですけど。
でも今までの経験上、そうしたら意外と落ち着くかもしれない。
「……ドーラ」
「……うん。いいよ」
口を閉じてれば大丈夫。
何も喋らなければ、妙なことだって言わないんだから大丈夫。
……妙なこと言う前に、落ち着いてしまえば!
だから、早く来い!
早く落ち着かせて、私を!!
そう思って待ちますが、遠慮してるのかなんなのか、やけに慎重に時間をかけて、ヘンリーがこちらに近付いてきます。
……やめて、ここで焦らさないで!
待たされれば待たされた分、耐えきれなくなって妙なことを口走る危険性が上がるから!
ジリジリと距離を詰められる今この瞬間も、なんかやたらドキドキしてるから!!
見てることに耐えきれなくなったので目を閉じてじっと待っていると、ようやくヘンリーの腕の中に抱き締められます。
……その、抱き締め方も!
前もあった気がするが、壊れ物に触れるようなその感じはやめてください!
消えないし、壊れないから!!
とか思いながらもヘンリーの胸に体を預けて、なんとなく落ち着きはじめていると。
「……お前。この状況で目を閉じるとか、それは無い。誘われてるかと思う」
「……さそッ!?」
溜め息交じりに妙なことを言われて、思わず上げた声が裏返ります。
私が、ヘンリーを、誘うとか!!
他の男ならするとかそんな話でも無いが、無いから、それは!!
「そ!!そんなの!!無いから!!しないから、そんなの!!」
「……わかってるよ。お前にそんな気が無いのはわかってるから、勘違いはしねえけど。でも、気を付けろよ。俺だからまだいいが、他の男はそういう訳にいかないからな」
「……他の!!男とか!!」
ヘンリーだから気を許して、こんなこともするけれども!
他の男性相手なら、そもそもそんな機会自体が無いから!
何の心配だ、それは!!
「……まあ、他の男にこんな真似。絶対にさせねえけど」
「……」
自分で振って自分で否定するって、それもどうなの。
動揺しただけ、私がバカみたいじゃないか。
「……他の男が無いとしても。女でもヤバい時はあるんだから、本当に気を付けろよ」
「……うん」
女性相手にこうなる状況というのもそれはそれで想像がつかないが、気を抜くと酷い目に遭うのは経験済みだし。
どう気を付ければいいのか今一つわからないけど、とりあえず気を付けることにしよう。
抱き締められて頭を撫でられて、気持ちを落ち着かせながらそんなことを考えて。
「……落ち着いたか?」
「うん」
「……許してくれるか?」
「許すもなにも。怒ってないし、はじめから」
「……そうなのか?」
「……だからって、していいわけじゃないからね?」
「わかってる。もう、しない」
「なら、いいよ。早く済ませて、私たちも寝よう」
「ああ。そうだな」
しっかりと気持ちを落ち着かせて、またルラムーン草をまとめる作業を再開します。
抱き締めていた腕が離されるのが、なんだか寂しいような気もしたけど。
月とルラムーン草でそれなりに明るいとは言え、いる場所が人里離れた夜の草原なんだから、多少心細くなるのも当たり前だと、それらしい理由も見付けておいて。
大切な薬草だからと念入りに作業を進めても、二人でやればそれほど時間がかかり過ぎることも無く、なんとか次の日に支障が出ない程度の時刻に作業を終えて、ピエールを起こして見張りを頼み、ヘンリーがまたトヘロスをかけ直して、テントと馬車に別れてその日は休みます。
これで、明日はベネット先生にルーラを復活させてもらえるはずだから!
その後は各種魔法の適性を身に付けさせてもらって、目標に向かって大きく前進できますね!
まだまだ先は長いけど、絶対に助けるから待っててね、パパン!
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