ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三十九話:月夜に光る草原で
「ドーラ。そろそろ、起きろ」
「……ん……」
ルラムーン草が探せる夜になるまで休むつもりで、木陰で毛布に包まって、いつの間にか眠っていて。
日が落ち切る前の夕暮れ時、ヘンリーに起こされました。
空も辺りも夕焼けに染まって、昼とはまた違った美しい景色が目に入ります。
……のは、いいんだけど。
なぜかヘンリーに抱き付いて、頭を撫でられてるんですが。
「……えーと。……どういう状況?」
「……お前が、抱き付いて来たんだからな?」
「……そうでしょうね」
どう考えても、そうとしか見えませんからね。
……モモの代わりの抱き枕を、求めていたんだろうか。
毛布越しだから、モフモフと言えないことも無い……なんてことはやっぱり無いが。
しかし、毛布を蹴飛ばすでもなく抱き付きにいけるほど、近くに寝てただろうか。
事実としてこうなってるわけだから、そうだったか毛布ごと転がるとかしたんだろうけど。
そんなことより。
「……ヘンリー。……眠れた?」
まさか私のせいで眠れなくて、ずっと起きて頭を撫でてくれてたとか。
「まあな。殆どうとうとしてるようなもんだったが、ちゃんと休めた」
「そっか。なら、いいんだけど。……ごめんね?」
たぶん私がくっついてないほうが、ちゃんと休めただろうし。
そう思って、謝ると。
「謝らなくていい。……それより、その」
ヘンリーが、なんか言いにくそうにしてます。
「なに?」
「……目、腫れてるから。ホイミでもかけとけよ」
「あれ?ほんとだ。……半端に寝たからかな?そうする、ありがとう」
「ああ。……それじゃ、俺は先に行ってるから」
「うん。私も、すぐ行く」
起き上がって毛布をたたみ、ヘンリーが私から離れて、かまどでお湯を沸かすピエールたちのほうに歩いて行きます。
『あっ、ヘンリーさん!ドーラちゃん、起きたんだ?』
「ああ。お茶だよな、今やるから」
『よかった!ピエールさんが淹れようとするの止めるの、大変だったんだから!』
「モモ殿。拙者は何も、そのような。只、主と先輩たるドーラ様とヘンリー殿を漫然と待つよりも、至らずとも茶の一つも淹れておくべきかと、検討しておった迄で」
「……ピエール。お湯を、沸かしといてくれるだけでいいから。次からも、余計なことはしないで待っててくれ」
「……承知」
誰も訳して無いのに、またなんか会話が成り立ってるんですが。
とりあえずモモ、ありがとう。
私が顔を治してみんなのところに行く頃には、まだうとうとしていたらしいスラリンとコドランもしっかり目を覚まし、ヘンリーが淹れてくれたお茶を、夕焼けを眺めながらみんなで飲みます。
「腹が減ってたら、さっきの残りもまだあるが」
「私は、いいや。さっきも結構食べたし、まだお腹空いてない」
「そうか。みんなも大丈夫か?……なら、あれは朝食にでもするか」
なんという、保護者。
ピエールさんは料理全般ダメだと判明したので、ピエールがお父さんでヘンリーがお母さんか。
役割的に。
本来そのポジションは私が担当するべきのような気がするが、保護対象筆頭が私である以上、これは仕方ない。
うっかりお母さんとか呼ばないようにだけは、気を付けよう。
お茶を飲み終えて日が落ち切るのを待ち、いよいよルラムーン草の捜索を開始します。
……って、いうか。
『うわー!あたり一面、光ってキレイ!これが、ルラムーン草なんだ!』
日が落ちて暗くなると共に、辺りの草原がぼんやりと光り始めて。
先ほどモモが感嘆の声を上げた通り、今や辺り一面が光を放っています。
前世で見たイルミネーションよりもずっと自然で柔らかく、幻想的な光景です。
……これなら、探すまでもなく必要分が集まりそうですね!
気合いを入れ直して、目の前の光景に見入る仲間たちに呼びかけます。
「みんな!この光ってるのがルラムーン草なんだけど、これが最低でも六十個は欲しいの!根っこはいらないし、根を残しておけばまた生えてくるから!根は残して、地上に出てる草だけを切り取るようにして集めてね!」
ゲーム中で仲間が使える呪文が全部で五十六種類(他に敵専用でアストロンとモシャスがあるけど、適性の身に付け方も魔法の仕組みも現時点でわからない)、そのうち主人公がそのままで覚えられる呪文が十三種類、ベネットじいさんに教えてもらえる(ルラムーン草が必要になる)のが二種類、ゲームで使えた以外で今の私が使える呪文がマホトラとラリホーの二種類で、もしかしたら他にも適性はあるかもしれないけど確認できないから、わからないのは念のため全部付けておきたいし。
だから私が適性を身に付けるだけなら、保険も込みで必要なのが、四十一個のルラムーン草なんだけど。
同じ処方で魔物が呪文を覚えることはできないし、魔物が覚えるための処方はわからないから、ピエールとスラリン(と、魔力自体が無いコドランとモモ)のことは仕方ないとしても。
私以外に、人間であるヘンリーも仲間内にいるわけなので。
一回の調合で複数の人間が適性を身に付けられるから、同じ呪文をヘンリーも身に付けたがっても、その分で別に材料を用意する必要は無いけど。
私が使えてヘンリーが使えない呪文の適性を身に付けるなら、それはやっぱり用意しないといけないから、私とヘンリーで使用可能呪文が被ってない以上、やっぱり五十六種類分の材料は確保しておくべき。
……と言っても、ヘンリーの意思は今のところ確認してないので。
あっちから言い出さなければそれはそれでいいし、私自身だって全部の呪文の適性を身に付ける必要は、別に無いわけだけど。
備えあれば憂い無しって言うし、材料が足りないなら最低限のところで妥協しようと思ってたけど、これだけルラムーン草が生い茂ってれば。
取り尽くす心配は無いし、万一失敗した時の予備も含めて、六十個も取っておけばまず間違いないでしょう!
というわけで、私の言葉に応じて仲間たちがそれぞれルラムーン草を摘みに、光る草原に散っていきます。
敵の魔物の姿は見えないので、またヘンリーがトヘロスをかけ直しておいてくれたようですが。
「モモは、私と一緒にいようね。一人じゃ摘めないだろうし、私が摘んだのを入れるカゴを見ててくれる?摘んでる間は、休んでていいから」
ずっと起きて見張っててくれたので、一人で休んでてもらってもいいんですけど。
なんだか離れたくなさそうだし、私も一人で置いておくのは心配だし。
ただ見てるだけというのも逆につまらないだろうから、申し訳程度に仕事をお願いしてみます。
『うん!そうする!ちゃんと着いてって、見てるから!カゴは、あたしにまかせて!』
嬉しそうに答えてカゴをくわえたモモを連れて、私も草原に足を踏み入れます。
そうしてしばらく黙々と、ルラムーン草を集めます。
ヘンリーとピエールはそれぞれ一人で、スラリンとコドランはペアを組んで。
ヘンリーとピエールは私同様、作業をこなすのに何の問題も無いので、ナイフを使って丁寧に切り取って集めてくれているようですが、スラリンとコドランが一人でこなすには難しい作業なので。
片方がルラムーン草を掴み、もう片方が切り取るという形で、上手くやってくれているようです。
スラリンはナイフも持てますがコドランはそれも難しいようなので、鋼のキバを上手く使って。
私もしばらく手元にルラムーン草を集めて束ねて持ってましたが、持ちきれないというか作業がしづらくなってきたので、一旦モモに預けたカゴに入れようと、そちらに戻ると。
「……モモ?……どうかした?」
モモがぼうっとして、こちらを見ていました。
呼びかけても、返事もありません。
「……モモ。疲れた?やっぱり、馬車で休んでる?」
まだ眠くなるような時間では無いけど、いつもならもう宿に入ってる頃ではあるし。
敵は出なかったとは言えずっと起きて気を張ってたなら、やっぱり疲れてるかもしれない。
心配しながらまた呼びかけると、モモがハッと気付いたように答えます。
『……あ、ううん!大丈夫!全然、大丈夫なの!ただ、ちょっとね!』
「ちょっと?どうしたの?」
『あのね、ドーラちゃんがね!すごく、キレイだったから!』
「……私が?」
ドーラちゃんが綺麗だったり可愛かったりするのはまあそうだろうけれども、改めて言われるほどなんかあっただろうか。
『うん!キレイな光る草原で、キレイに光ってる草を摘んでる、とってもキレイなドーラちゃん!すっごく、キレイなの!キレイな絵みたいで、絵なんかよりもずっとキレイなの!今も、その光る草を持ってるドーラちゃん!すっごく、キレイなの!』
すごく嬉しそうに、いかにドーラちゃんが綺麗であるかについて熱く語ってくれてるんですが。
なにこれ、可愛い。
美しく光る草原で、嬉しそうに喉を鳴らしながら、目を輝かせて熱く語るモフモフ。
しかもそんなに嬉しそうに語ってる内容が私のこととか、超可愛い。
ルラムーン草の束を丁寧にカゴの中に納め、モモに抱き付いて撫で回します。
「……モモ。……モモって、本当に、……可愛いねー……」
そしてモフモフで、とっても気持ちいい。
抱き付いてる体から伝わるゴロゴロという振動が、一段と強くなります。
『ありがとう、ドーラちゃん!ドーラちゃんにそう思ってもらえるなんて、あたしとっても嬉しい!あのね、あたしもドーラちゃんのこと、ほんとにキレイで、すっごく可愛いって思ってるからね!』
「そっかー!ありがとうね、モモー!」
そんな感じで、ルラムーン草を踏み荒らさないように気を配りながらも、一通りじゃれ合って。
そんなことばっかりしててあんまり遅くなるのもなんなので、気を取り直してルラムーン草の採集を再開します。
……こんなことしてても誰も怒らないで、黙々と作業を続けてくれてるとか。
いかんいかん、私のことなんだから、私が一番真面目にやらないと。
心を入れ替えたように真面目に作業に取り組むこと、しばし。
集中し過ぎて近くに寄っていたことにも気付かなかったようで、いつの間にか目の前にいたヘンリーが、こちらをじっと見ていました。
「ヘンリー。どうかした?そろそろ、集まったかな?」
私も結構採ったし、私よりも真面目に作業してくれてたヘンリーなら、もっと集まってそうだし。
そろそろ終わろうとか、そんなことが言いたいんだろうか。
そんなことを思いながら、声をかけてみますが。
「……」
これまたぼうっとしていて、返事がありません。
これはアレだろうか、先ほどのモモのように、幻想的な光景の中に佇む絵になる美少女ドーラちゃんに、見入っている感じだろうか。
そう言うモモも可愛くて大変に絵になっていたわけで、そう言えばヘンリーだってイケメンなんだからやっぱり絵になるわけで。
……うん、絵になるよね。
キレイな絵みたいで、絵なんかよりもずっとキレイか。
うん、そんな感じ。
絵だったらまたいつでも見られるけど、この光景が見られるのは今だけなのか。
ルラムーン草を取りにくることはきっともう無いし、ヘンリーとだっていつまでも一緒にいるわけではないし。
本当に、今、この時だけなのか。
……こんな時間は、もう二度と無いのか。
そんなことを考えて、私もなんだかぼうっとしていたようで。
気が付くと、目の前にヘンリーの顔がありました。
……あれ?
なんか、……近い?
っていうかまだ、近付いて……。
あれ?あれ?
ちょ、ちょっと??
近付き過ぎてもう触れ合いそうになったところで、遠くから声がかかります。
「ドーラ様!かなりの数を採り申しましたが、如何でござりましょう?そろそろ、終わりにされては?」
咄嗟に振り向いて、答えます。
「そうだね!!私も、二十個くらいは採ったから!!大丈夫だと思うけど、一旦集まろうか!!」
誤魔化すように声を張り上げたら張りすぎたような気もするが、気にせずずんずんと歩き出します。
……なんか後ろで、盛大な溜め息が聞こえた気がするけど!
ギリギリかすったような気もしないでも無いけど、気のせいだから!
全部、気のせいだから!!
そんなことを思いながらなおもずんずんと仲間たちのいるほうを目指して歩き、気のせいでは済まない顔の熱さが、月とルラムーン草の明かりくらいではわからないといいなあ、という希望も胸に抱きつつ。
超重要アイテム、ルラムーン草の採集を、なんとか無事に終えました。
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