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女王の決断

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第三章

「わかりましたね」
「あの、サインをされてもそれでは」
「同じでは」
「メアリー女王はおられるままですから」
「それでは」
「しかしサインはしました」
 それはしたというのだ、女王はこう言うのだ。
「これでいいですね」
「では」
「このことについての解決は何時になりますか」
「さもないとまた何か起きますが」
「それでもですか」
「そうです」
 また陰謀が起こってもいい、その覚悟もあった。
 だからこそメアリー女王の処刑はしようとしなかった、サインはしてもだ。
 女王の躊躇は続いていた、しかし議会も国民も抑えられない状況であるのは確かだ。その声は日増しに強くなっていた。
 それでまただ、大臣達は言うのだった。
「どうにもなりません」
「国民も議会もです」
「メアリー女王の処刑を一刻も早くと主張しています」
「最早」
「急ぎ過ぎです」
 しかしだ、女王は今度はこう言うのだった。
「誰もが」
「急ぎ過ぎ、ですか」
「そうだというのですか」
「そうです」
 断固たるものさえ見せて言う女王だった。
「卿達もそうは思いませんが」
「いえ、申し訳ありませんが」
 大臣の一人が畏まり女王に述べた、彼女に古くから仕えている側近の一人だ。
「今回は」
「卿もそう言うのですか」
「はい」
 その通りだというのだ。
「陛下が死刑を好まれないことは承知していますが」
「人を死なせてそれで終わるものではありません」
 確かに女王は死刑を好まない、この辺り父であるヘンリー八世の反動であろうか。何しろ彼は女王の母であるアン=ブーリンさえ飽きて適当な口実を設けて処刑している。
 父の処刑好きとその父に処刑された母、そして自身も姉に処刑されかかった。このことから女王は処刑を好まないのだろうか、今は特に。
 メアリー女王は自身の縁戚でありしかも同じ女王だ、女王が処刑されるということは彼女にとって抵抗があったのか。それでだった。
 死刑にサインをした、だがその執行にはこう言うのだ。
「ですから急いでは」
「ではメアリー女王は一体」
「どうされるのですか」
「まだ待ってもいいのではないでしょうか」
 迷いも見せてだ、女王は言った。
「そう思いますが」
「では復位ですか?」
 別の大臣が言った。
「それでしょうか」
「スコットランドの、ですね」
「はい、それでしょうか」
「私は最初からそう考えていますが」
 この考えを収めるしかなかったのだ、国内外の様々な事情から。
「それはですね」
「メアリー女王はスコットランド内での支持を失っています」
「それにもうジェームス様が王になられています」
 他の大臣達も言ってきた。
「カトリックのメアリー様に対してジェームス様とスコットランド貴族の多くはプロテスタントになっております」
「そうしたことを考えますと」
「メアリー様の復位は」
 無理だというのだ。
「それにメアリー様はフランス王妃でもあられました」
「最初はそうでしたね」
 女王も言う、言うまでもなくフランスはスペインと並ぶイングランドの難敵だ。ただしフランスのヴァロワ家とスペインのハプスブルク家は仇敵関係にある。 
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